『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第六章

第273話『第四十階層』

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 三馬鹿への説教が終わり、アラクネさんのメンタルも無事回復したところで────私達は第四十階層に降りていた。
上下左右どこを見ても白しかない空間で、フロアボスの顕現を待つ。
更新された情報をチェックする中、部屋の中央に白い光が現れた。
純白に輝く光の塊は数十秒ほどして、消え去り────第四十階層のフロアボス 檮杌とうごつを顕現させる。
虎に似た体と人の頭を持つ檮杌は、猪のような牙を我々に見せつけた。長い尻尾をゆらゆらと揺らし、グルルルと低く唸る。

 あれが中国神話に登場する怪物の一つであり、四凶の一つとされている檮杌か……。フロアボスに君臨するだけあって、物々しいオーラを放っているな……。

 檮杌の殺気と敵意をヒシヒシと感じる私は、『普通の魔物モンスターより、遥かに好戦的だな』と苦笑する。
威嚇してくる檮杌を前に、私はゲーム内ディスプレイにチラリと視線を落とした。

「第四十階層のフロアボスは檮杌です!土魔法と物理攻撃に特化している魔物モンスターで、自分の作った土なら自由自在に操れるようです!なので、檮杌の土魔法には充分気をつけてください!」

 『警戒対象はボスだけじゃない』と語り、私はパーティーメンバーに注意を呼び掛けた。
と言っても、うちのメンバーに限って殺られることはないと思うので、大して心配していないが……。
『了解!』と元気よく返事する徳正さん達を他所に、私は檮杌の出方を窺う。
鋭い目付きでこちらを睨み付ける檮杌は、もう一度低く唸ると────前足で床を蹴った。
それを合図に、奴の足元からドバッと大量の土が溢れ出し、白い空間を汚していく。雪崩のような勢いで広がる土は、私達の足元まで迫ってきた。

 早速、土魔法を仕掛けてきたか……!檮杌の土魔法は不確定要素が多過ぎるし、このまま土に接触するのは危険かもしれない……!ここは一旦、下がった方がいいだろう!

「────ヴィエラさん、魔法で足場を作ってください!空中へ退避します!」

 最悪の事態を想定し、私は魔法使いのヴィエラさんに強力を仰いだ。
察しのいい彼女は『分かったわ』と二つ返事で了承すると、結界魔法を複数展開する。
半透明の足場を空中に作った彼女は、非戦闘要員であるアラクネさんを連れて、飛び上がった。
他のメンバーも地面を蹴って、足場となる結界に飛び乗る。
回復師ヒーラーの私は徳正さんに抱っこしてもらい、危機を脱した。
それぞれ、別の足場から下を見下ろす私達は部屋中に広がった土に、目を細める。

「土だらけになっているねー!ウケるー!」

『白い床がすっかり、隠れてしまっているな』

「これで、地上はあいつの陣地になっちゃったね~」

 相変わらずマイペースな三馬鹿は、旅行気分で眼下の景色を眺める。
危機感など微塵も感じさせない態度に呆れつつ、私は檮杌の攻略方法について、思考を巡らせた。

 公式情報には、『土を自由自在に操れる』って書いてあったけど、どこをどういう風に操れるんだろう?土の硬さ?動き?それとも、大きさ?
魔法の詳細によっては、こちらも戦法を変えなきゃいけないし、なるべく早く実力を見せて欲しいな。私達には、あまり時間が無いから。

 『上から一方的に攻撃を仕掛けようか』と考える私は、檮杌の動向を見守る。
土魔法の詳細を探るように神経を尖らせる中、檮杌はグァッ!と吠えた────と同時に、地上から土の塊が登ってくる。
上に吸い上げられるように真っ直ぐ伸びていく土は、まるで鯉の滝登りのようだった。

「えっ?土を自由自在に操るって、そういう事だったの……!?」

 思ったより自由度の高い土魔法に、私は思わず本音を漏らす。
『空中戦に持っていけば、有利』なんて言葉はあっという間に消え去り、ただただ驚くしかなかった。
チートとも言える能力に目を剥く中、うちの三馬鹿は楽しそうに頬を緩める。

「これなら、少しは遊べそうだねー!」

『まあ、所詮は雑魚だがな』

「本人の前で本当のことを言っちゃ、ダメだよ~。傷ついちゃうじゃ~ん」

 随分と余裕そうな三人は、それぞれ武器に手を掛ける。
殺る気満々の彼らを前に、地上から伸びてきた土の塊はラルカさんとシムナさんの居る結界に激突した────が、しかし……ヴィエラさんの結界は強固なので、ビクともしない。
火を見るより明らかな実力差に、ラルカさんとシムナさんは詰まらなさそうに息を吐いた。

「ねぇー、ヴィエラー。結界これ、解いてよー」

『このままでは、戦いにならない』

 コツコツと半透明の結界を蹴る二人は、『正面から殺り合いたい』と強請る。
玩具をせがむ子供のような彼らに、ヴィエラさんは溜め息を零した。
チラリとこちらに視線を送ってくる彼女に一つ頷き、『お好きなようにどうぞ』と苦笑いする。
司令塔である私から許可を得たヴィエラさんは、おもむろに指を鳴らした。

「全く……仕方のない子達ね。くれぐれも怪我はしないように気をつけるのよ」

 『虐殺の紅月』の姉貴分として、二人の身を案じつつ、ヴィエラさんは結界を解く。
足場を失ったラルカさんとシムナさんはそのまま土の塊に着地し、ニヤリと笑った。

「おっけー!怪我はしないようにするー!ラミエルの仕事を増やす訳には、いかないもーん!」

『無傷で勝利を収める故、少しだけ待っていて欲しい』

 『絶対に怪我をしない』と誓うシムナさんとラルカさんは、自信に満ち溢れている。
負ける可能性など一ミリも考えない彼らに、ヴィエラさんは呆れたように肩を竦めた。
苦笑いする彼女を他所に、シムナさんとラルカさんはおもむろに足を振り上げる。そして────足元にある土の塊に、勢いよく踵を落とした。
攻撃力ATKだけは異様に高い二人の踵落としにより、土の塊は一瞬にして崩壊する。その様子は土砂崩れにちょっと似ていた。

 たったの一撃で、檮杌の土魔法を打ち破るなんて、凄いな……。毎度のことながら、シムナさんとラルカさんの強さは未知数だ。味方で良かったと常々思うよ……。

 『もしも、二人が敵だったら』と考える私は、思わず身震いする。
と同時に、あの化け物たちを相手にしなきゃいけない檮杌にちょっとだけ同情してしまった。

 『楽には死ねないだろうな』と苦笑する中、ラルカさんとシムナさんは華麗に着地する。
魔法で作られた地面をしっかりと踏み締める彼らは、警戒する素振りも見せずに微笑んだ。
『同じ土俵に来てやったぞ』とでも言うように地面を蹴り上げ、土埃を巻い上げる。
舐めたプレイ舐めプと呼ぶべき二人の態度に、檮杌はグルルルと唸り声を上げた。
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