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第六章
第263話『窮奇討伐完了』
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ガルルル!と吠える窮奇を他所に、私はアラクネさんの元まで全力疾走する。
敵前逃亡と取られてもおかしくない行動に、奴は『待て!』とでも言うように追いかけて来た。
よし、誘導成功!と言いたいところだけど、ちょっと追い付かれそうで怖い……。アラクネさんの元まで走り切れるかな……?
翼の推進力も借りて、どんどん距離を詰めてくる窮奇に、私は危機感を抱く。
でも、ここまで来たら、気合いと根性で走り抜けるしかなかった。
『死にたくないなら、足を動かせ!』と自分に言い聞かせ、私は何とかアラクネさんの近くまで駆け寄る。
そして、ゴールまで約五メートルとなった時────いきなり、アラクネさんが両手を広げた。
「ラミエルさん、飛んでください!」
「えっ……?と、飛ん……!?」
「いいから、早く!」
鬼気迫る勢いで叱咤され、私は急かされるまま地面を蹴り上げた。
一切勢いを殺さずに飛んだせいか、思ったより高く飛んでしまい……今更になって焦る。
でも、空中で何か出来る訳もなく……そのままアラクネさんに抱きついた。が、勢い余って彼女を押し倒してしまう。
どこぞの少女漫画でよく見た展開だな……まあ、残念ながら私は漫画に出てくるようなイケメン男子ではないけど。というか、私の下敷きになってしまったアラクネさんは大丈夫だろうか?仲間同士なので、ダメージを負うことはないと思うけど、ちょっと心配……。
ゆっくりと体を起こした私は床に手を付き、アラクネさんの顔を覗き込んだ。
「あの、大丈夫ですか?痛むところとか……」
「は、はわわわわわわ……!!ら、ラミエルさんに押し倒され……!?ふわぁぁぁぁあああ!!」
「えっ?あ、アラクネさん……?」
口元に手を当てるおさげの少女は茹でたこのように顔を真っ赤にした。
潤んだ瞳でこちらを見上げ、『きゃわわわわわ』とよく分からない奇声を上げている。
『頭を打って、おかしくなったのかな?』と結構本気で心配していれば────真後ろから突然猛獣の唸り声がした。
「「!!」」
窮奇の存在を完全に忘れていた私達は慌てて後ろを振り返った。
すると、そこには────発動した罠に引っ掛かる窮奇の姿があった。蜘蛛糸で作られた檻に閉じ込められる窮奇はグルルルと低く唸っている。触れるだけで切れてしまう危険な糸に、驚きを隠せない様子だった。
何とか抜け出せないかと足掻く窮奇は天井から雷を落とし、檻を壊そうとする。だが、しかし……最強の蜘蛛糸には全く効果なしだった。
さすがは妖刀マサムネと並ぶアイテムと言うべきか、かなり頑丈だ。アラクネさんに蜘蛛糸の罠を頼んでおいて、本当に良かった。
「アラクネさん、強力な罠を作って頂き、ありがとうございました。これでようやく、窮奇を倒すことが出来ます。さあ、ボス戦を終わらせましょう」
スクッと立ち上がった私は衣服の埃を払い、アラクネさんに手を差し伸べる。
安堵のあまり表情を和らげる私に、アラクネさんは照れ臭そうに微笑んだ。『はい!』と元気よく頷く彼女は私の手を掴んで立ち上がる。
「そ、そそそそそそ、それでは!最後の仕上げに取り掛かりますね!」
「はい、よろしくお願いします」
勝利を確信した私達は互いに頷き合い、檻の中に閉じ込められた窮奇に目を向ける。
『嗚呼、やっとこの悪夢が終わるのか』と胸を撫で下ろす中、アラクネさんは手に巻き付く蜘蛛糸をグイッと引っ張った。
刹那────蜘蛛糸で作られた檻は伸縮を始め、内側へどんどん縮まっていく。逃げることすら出来ない窮奇は迫り来る蜘蛛糸を前に、どうすることも出来ず……そのまま切り刻まれた。
「────ぴぎゃっ!?」
突然真横から動物の鳴き声のような悲鳴が上がり、私は反射的にそちらへ目を向ける。
すると、そこには────蜘蛛糸と繋がった右手を押さえるアラクネさんの姿があった。
ビクビクと小さく痙攣する彼女は『あばばばばばば!』と、よく分からない言葉を発している。
えっ……?えっ!?何事!?何でこんなに痙攣しているの!?アラクネさんの身に一体何が……!?まさか、窮奇が何かして……!?いや、でも窮奇は蜘蛛糸で完全にバラバラにされた筈……って、蜘蛛糸?
ピタッと身動きを止めた私は『蜘蛛糸』というワードから、ある一つの仮説を生み出す。
『もしや……』と思いつつ、アラクネさんの指に巻きついた蜘蛛糸の先を辿った。
ワイヤーのように細長いそれは私の仮説通り、罠に使用された蜘蛛糸と繋がっている。
「なるほど……アラクネさんを襲った痛みの正体は────静電気でしたか」
確信を滲ませた声色でそう呟いた私は彼女に状態異常回復と普通の治癒魔法を施した。
体の痺れや痛みが取れたアラクネさんはホッとしたように胸を撫で下ろす。礼を言う彼女に頷きながら、私は肉の破片となった窮奇を見下ろした。
まさか、蜘蛛糸越しでも窮奇の静電気が流れ込んでくるとは……ある意味、一番厄介な能力かもしれない。まあ、窮奇の突進と雷もかなり厄介だったけど……。でも────アラクネさんのおかげで何とか倒すことが出来た。私一人だったら、確実に負けていたよ。
ジリジリ削られて惨敗する自分の姿を思い浮かべ、私は苦笑する。
────と、ここで蜘蛛糸の見事な切れ味に為す術なく敗北した窮奇が光の粒子に変化した。だが、そう簡単に負けを認められないのか、グルルルと低く唸っている。バラバラ死体に成り果てようと、変わらぬ殺意に私は身を固くした。
死ぬ寸前だっていうのに戦意喪失どころか、命乞いすらしないなんて……物凄い執念だなぁ。一矢報いる気満々じゃん。まあ、その状態じゃ何も出来ないだろうけど。
あちこちに転がる肉片は既に半分以上消えており、武器になりそうな爪や牙は欠けている。たとえ、気合いと根性で反撃出来たとしても、大したダメージにはならないだろう────と油断したのがいけなかったのかもしれない。
安心するあまり警戒を怠ってしまった私は、窮奇に最後の悪足掻きを許してしまった。
殺意に満ちた瞳でこちらを見上げる窮奇はギリギリ潰れなかった喉を使い、ガウッ!と力強く吠える。
すると、その声に呼応するかのようにボスフロアの天井はピカッと光り────私達の頭上へ雷が落ちてきた。
「「!!」」
迫り来る電気の塊を前に、私はグッと膝を折り曲げ、アラクネさんは頭を抱えて蹲る。
飛び退けようとする私とは違い、アラクネさんはパニックのあまり、動けないようだった。
不味い……!このままじゃ、アラクネさんが……!生産職であるアラクネさんでは確実にこの攻撃に耐えられない……!でも、私だってこの攻撃は……!いや、違う!そうじゃない!皆の思い描くラミエルはそんなこと気にしない!何より────私はもう大切な仲間を死なせたくない!目の前で……手の届く場所で亡くなるのは嫌……!
キュッと唇を引き結んだ私は折り曲げた膝を伸ばし、覚悟を決めた。
『もう二度とあんな悲劇は起こさせない』と自分に誓い、アラクネさんの体を思い切り突き飛ばす。
後ろへ勢いよく飛んでいく彼女はカッと目を見開き、私を凝視した。
「ラミエルさん……!!」
悲鳴のような声で私の名前を呼ぶアラクネさんは必死にこちらに手を伸ばす────だが、しかし……もう遅かった。
ピカッと煌めく雷は完全に私を捉え、凄まじい破壊音と共に体を貫く。
破壊力満点の雷をまともに食らってしまった私は痛みよりも先に時が止まったような感覚が走った。あまりの衝撃に上手く情報を処理出来ないのか、痛みが遅れてやって来る。
「っ……!!」
言葉に出来ないほどの痛みと体の痺れ、焼け爛れた肌……視界は霞み、一瞬意識を失いそうになった。
『痛い!』なんて言葉じゃ収まりきらない苦痛に悶絶する中、窮奇は完全に光の粒子となって消える。
少し離れた場所で尻もちをつくアラクネさんはただ呆然とこちらを見上げた。
「ぁ……あ……な、なんで……怪我が……」
掠れた声でそう呟く彼女は口元に手を当てて、震え上がる。
でも、ハッと正気を取り戻すと、慌ててこちらへ駆け寄ってきた。
「ら、ラミエルさん!す、直ぐに手当てを……!ぽ、ポーションで治るかな……!?嗚呼、どうしよう……!?」
オロオロした様子でアイテムボックスの中を漁るアラクネさんはかなりテンパっている。
全身に大火傷を負った私に、どんな処置を施せばいいのか分からない様子だった。
今にも泣きそうな顔でポーションを取り出すアラクネさんの姿は見ていて、痛々しい。
何とか生き残ったものの、一瞬でも気を抜いたら気絶しそう。さっさと治療して、下の階層へ行かなきゃいけないのに……体が痺れて、上手く舌を動かせない。これは回復するまで、かなり時間が掛かるな。意識も朦朧としているし、今回ばかりは本気でヤバい……かも。
自分の足で立つこともままならない私はバランスを崩し、そのまま後ろへ倒れそうになる。
『踏ん張らなきゃ』と思うのに、体に全く力が入らなかった。
「────ラミエルさん!!そっちには蜘蛛糸が……!!」
焦ったように声を荒らげるアラクネさんは手に持つアイテムを全て投げ捨てて、こちらへ手を伸ばした。
だが、生産職の彼女のスピードでは間に合わず……伸ばされた手は空を切る。
私のHPは既に百を切っている……このまま、蜘蛛糸に切り刻まれれば、確実に死ぬだろう。でも、仲間を助けて死ねるなら……本望だった。
『こんな終わり方もありかもしれない』と微笑めば、突然────バンッと扉が開け放たれた。
刹那、台風並みの突風が吹き荒れ、誰かに強く抱き締められる。この体温を私はよく知っていた。
「────と、くまさ、さん……」
敵前逃亡と取られてもおかしくない行動に、奴は『待て!』とでも言うように追いかけて来た。
よし、誘導成功!と言いたいところだけど、ちょっと追い付かれそうで怖い……。アラクネさんの元まで走り切れるかな……?
翼の推進力も借りて、どんどん距離を詰めてくる窮奇に、私は危機感を抱く。
でも、ここまで来たら、気合いと根性で走り抜けるしかなかった。
『死にたくないなら、足を動かせ!』と自分に言い聞かせ、私は何とかアラクネさんの近くまで駆け寄る。
そして、ゴールまで約五メートルとなった時────いきなり、アラクネさんが両手を広げた。
「ラミエルさん、飛んでください!」
「えっ……?と、飛ん……!?」
「いいから、早く!」
鬼気迫る勢いで叱咤され、私は急かされるまま地面を蹴り上げた。
一切勢いを殺さずに飛んだせいか、思ったより高く飛んでしまい……今更になって焦る。
でも、空中で何か出来る訳もなく……そのままアラクネさんに抱きついた。が、勢い余って彼女を押し倒してしまう。
どこぞの少女漫画でよく見た展開だな……まあ、残念ながら私は漫画に出てくるようなイケメン男子ではないけど。というか、私の下敷きになってしまったアラクネさんは大丈夫だろうか?仲間同士なので、ダメージを負うことはないと思うけど、ちょっと心配……。
ゆっくりと体を起こした私は床に手を付き、アラクネさんの顔を覗き込んだ。
「あの、大丈夫ですか?痛むところとか……」
「は、はわわわわわわ……!!ら、ラミエルさんに押し倒され……!?ふわぁぁぁぁあああ!!」
「えっ?あ、アラクネさん……?」
口元に手を当てるおさげの少女は茹でたこのように顔を真っ赤にした。
潤んだ瞳でこちらを見上げ、『きゃわわわわわ』とよく分からない奇声を上げている。
『頭を打って、おかしくなったのかな?』と結構本気で心配していれば────真後ろから突然猛獣の唸り声がした。
「「!!」」
窮奇の存在を完全に忘れていた私達は慌てて後ろを振り返った。
すると、そこには────発動した罠に引っ掛かる窮奇の姿があった。蜘蛛糸で作られた檻に閉じ込められる窮奇はグルルルと低く唸っている。触れるだけで切れてしまう危険な糸に、驚きを隠せない様子だった。
何とか抜け出せないかと足掻く窮奇は天井から雷を落とし、檻を壊そうとする。だが、しかし……最強の蜘蛛糸には全く効果なしだった。
さすがは妖刀マサムネと並ぶアイテムと言うべきか、かなり頑丈だ。アラクネさんに蜘蛛糸の罠を頼んでおいて、本当に良かった。
「アラクネさん、強力な罠を作って頂き、ありがとうございました。これでようやく、窮奇を倒すことが出来ます。さあ、ボス戦を終わらせましょう」
スクッと立ち上がった私は衣服の埃を払い、アラクネさんに手を差し伸べる。
安堵のあまり表情を和らげる私に、アラクネさんは照れ臭そうに微笑んだ。『はい!』と元気よく頷く彼女は私の手を掴んで立ち上がる。
「そ、そそそそそそ、それでは!最後の仕上げに取り掛かりますね!」
「はい、よろしくお願いします」
勝利を確信した私達は互いに頷き合い、檻の中に閉じ込められた窮奇に目を向ける。
『嗚呼、やっとこの悪夢が終わるのか』と胸を撫で下ろす中、アラクネさんは手に巻き付く蜘蛛糸をグイッと引っ張った。
刹那────蜘蛛糸で作られた檻は伸縮を始め、内側へどんどん縮まっていく。逃げることすら出来ない窮奇は迫り来る蜘蛛糸を前に、どうすることも出来ず……そのまま切り刻まれた。
「────ぴぎゃっ!?」
突然真横から動物の鳴き声のような悲鳴が上がり、私は反射的にそちらへ目を向ける。
すると、そこには────蜘蛛糸と繋がった右手を押さえるアラクネさんの姿があった。
ビクビクと小さく痙攣する彼女は『あばばばばばば!』と、よく分からない言葉を発している。
えっ……?えっ!?何事!?何でこんなに痙攣しているの!?アラクネさんの身に一体何が……!?まさか、窮奇が何かして……!?いや、でも窮奇は蜘蛛糸で完全にバラバラにされた筈……って、蜘蛛糸?
ピタッと身動きを止めた私は『蜘蛛糸』というワードから、ある一つの仮説を生み出す。
『もしや……』と思いつつ、アラクネさんの指に巻きついた蜘蛛糸の先を辿った。
ワイヤーのように細長いそれは私の仮説通り、罠に使用された蜘蛛糸と繋がっている。
「なるほど……アラクネさんを襲った痛みの正体は────静電気でしたか」
確信を滲ませた声色でそう呟いた私は彼女に状態異常回復と普通の治癒魔法を施した。
体の痺れや痛みが取れたアラクネさんはホッとしたように胸を撫で下ろす。礼を言う彼女に頷きながら、私は肉の破片となった窮奇を見下ろした。
まさか、蜘蛛糸越しでも窮奇の静電気が流れ込んでくるとは……ある意味、一番厄介な能力かもしれない。まあ、窮奇の突進と雷もかなり厄介だったけど……。でも────アラクネさんのおかげで何とか倒すことが出来た。私一人だったら、確実に負けていたよ。
ジリジリ削られて惨敗する自分の姿を思い浮かべ、私は苦笑する。
────と、ここで蜘蛛糸の見事な切れ味に為す術なく敗北した窮奇が光の粒子に変化した。だが、そう簡単に負けを認められないのか、グルルルと低く唸っている。バラバラ死体に成り果てようと、変わらぬ殺意に私は身を固くした。
死ぬ寸前だっていうのに戦意喪失どころか、命乞いすらしないなんて……物凄い執念だなぁ。一矢報いる気満々じゃん。まあ、その状態じゃ何も出来ないだろうけど。
あちこちに転がる肉片は既に半分以上消えており、武器になりそうな爪や牙は欠けている。たとえ、気合いと根性で反撃出来たとしても、大したダメージにはならないだろう────と油断したのがいけなかったのかもしれない。
安心するあまり警戒を怠ってしまった私は、窮奇に最後の悪足掻きを許してしまった。
殺意に満ちた瞳でこちらを見上げる窮奇はギリギリ潰れなかった喉を使い、ガウッ!と力強く吠える。
すると、その声に呼応するかのようにボスフロアの天井はピカッと光り────私達の頭上へ雷が落ちてきた。
「「!!」」
迫り来る電気の塊を前に、私はグッと膝を折り曲げ、アラクネさんは頭を抱えて蹲る。
飛び退けようとする私とは違い、アラクネさんはパニックのあまり、動けないようだった。
不味い……!このままじゃ、アラクネさんが……!生産職であるアラクネさんでは確実にこの攻撃に耐えられない……!でも、私だってこの攻撃は……!いや、違う!そうじゃない!皆の思い描くラミエルはそんなこと気にしない!何より────私はもう大切な仲間を死なせたくない!目の前で……手の届く場所で亡くなるのは嫌……!
キュッと唇を引き結んだ私は折り曲げた膝を伸ばし、覚悟を決めた。
『もう二度とあんな悲劇は起こさせない』と自分に誓い、アラクネさんの体を思い切り突き飛ばす。
後ろへ勢いよく飛んでいく彼女はカッと目を見開き、私を凝視した。
「ラミエルさん……!!」
悲鳴のような声で私の名前を呼ぶアラクネさんは必死にこちらに手を伸ばす────だが、しかし……もう遅かった。
ピカッと煌めく雷は完全に私を捉え、凄まじい破壊音と共に体を貫く。
破壊力満点の雷をまともに食らってしまった私は痛みよりも先に時が止まったような感覚が走った。あまりの衝撃に上手く情報を処理出来ないのか、痛みが遅れてやって来る。
「っ……!!」
言葉に出来ないほどの痛みと体の痺れ、焼け爛れた肌……視界は霞み、一瞬意識を失いそうになった。
『痛い!』なんて言葉じゃ収まりきらない苦痛に悶絶する中、窮奇は完全に光の粒子となって消える。
少し離れた場所で尻もちをつくアラクネさんはただ呆然とこちらを見上げた。
「ぁ……あ……な、なんで……怪我が……」
掠れた声でそう呟く彼女は口元に手を当てて、震え上がる。
でも、ハッと正気を取り戻すと、慌ててこちらへ駆け寄ってきた。
「ら、ラミエルさん!す、直ぐに手当てを……!ぽ、ポーションで治るかな……!?嗚呼、どうしよう……!?」
オロオロした様子でアイテムボックスの中を漁るアラクネさんはかなりテンパっている。
全身に大火傷を負った私に、どんな処置を施せばいいのか分からない様子だった。
今にも泣きそうな顔でポーションを取り出すアラクネさんの姿は見ていて、痛々しい。
何とか生き残ったものの、一瞬でも気を抜いたら気絶しそう。さっさと治療して、下の階層へ行かなきゃいけないのに……体が痺れて、上手く舌を動かせない。これは回復するまで、かなり時間が掛かるな。意識も朦朧としているし、今回ばかりは本気でヤバい……かも。
自分の足で立つこともままならない私はバランスを崩し、そのまま後ろへ倒れそうになる。
『踏ん張らなきゃ』と思うのに、体に全く力が入らなかった。
「────ラミエルさん!!そっちには蜘蛛糸が……!!」
焦ったように声を荒らげるアラクネさんは手に持つアイテムを全て投げ捨てて、こちらへ手を伸ばした。
だが、生産職の彼女のスピードでは間に合わず……伸ばされた手は空を切る。
私のHPは既に百を切っている……このまま、蜘蛛糸に切り刻まれれば、確実に死ぬだろう。でも、仲間を助けて死ねるなら……本望だった。
『こんな終わり方もありかもしれない』と微笑めば、突然────バンッと扉が開け放たれた。
刹那、台風並みの突風が吹き荒れ、誰かに強く抱き締められる。この体温を私はよく知っていた。
「────と、くまさ、さん……」
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よろしくお願いします。
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