『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
261 / 315
第六章

第260話『第十階層』

しおりを挟む
 もし、知らないのだとすれば、さっきの行動にも納得が行く。『誰か一人でも中に入れば、自動的に扉が閉まり、閉じ込められる』と知らないから、彼女は中へ入ったんだ。悪気はなかったと思う。

 このシステムはFROプレイヤーなら、知っていて当然のことだから、わざわざ説明しなかったけど、まさかこうなるとは……。アラクネさんがForest of trap罠の森に引きこもる変人だということを考慮しなかった私の落ち度だ。ちゃんと情報のすり合わせをしておけば良かった。

 後悔先に立たずと言うべきか、アラクネさんをきちんとサポート出来なかった自分に心底腹が立つ。彼女はダンジョン初心者なのだから、色々と面倒を見る必要があったのに……。

「すみません、アラクネさん。時間が無いので、詳しいことは後で説明します。とりあえず、早く武器を構えてください」

「ぶ、ぶぶぶぶぶぶ、武器ですか……!?」

「はい。もうすぐ────フロアボスが現れると思うので」

 懐から愛用の短剣を取り出した私はアラクネさんを庇うように前へ出る。
すると────私の言葉を裏付けるように、ボスフロアの中央に白い光が現れた。
顕現を始めたフロアボスに警戒心を強めながら、私は短剣を構える。

「アラクネさん、これから私達は二人でフロアボスを倒さなくてはなりません。なので、私の指示に従ってください」

「ふぇっ!?ふ、ふふふふふ、二人!?わ、分かりました!」

 『どうして?』という疑問を一旦呑み込んだアラクネさんはとりあえず、蜘蛛糸を構える。
不安しかないボス戦に思考を巡らせる中────白い光の中から、第十階層のフロアボスである窮奇きゅうきが現れた。
虎の体と鳥の翼を併せ持つ窮奇は長く鋭い牙を見せつける。こちらを睨みつける黄金の瞳は血に飢えた獣のように爛々としていた。

 四凶の一つと言われる、窮奇は非常に獰猛で、血の気が多いと言われている。言うまでもなく、奴はパワータイプだ。ある意味、私達とは一番相性が悪いかもしれない……。

「アラクネさん、気をつけてください!窮奇は雷を操る魔物モンスターです!その上、力も強く、空を飛ぶことも出来ます!常に静電気を身に纏っており、触れるだけで感電する恐れがあります!なので、奴の弱点が見つかるまでは攻撃よりも防御を優先してください!」

「わ、分かりました……!」

 素直にコクンと頷くアラクネさんは緊張した面持ちで前を見据える。
右手には細い糸のようなものが握られており、左手には結界符があった。
防御の準備を整えた彼女に安堵し、私はキュッと口元を引き締める。

 アラクネさんも私も明らかに前線向きのプレイヤーじゃない……でも、誰かが前に出ないと戦線は一気に崩壊する。なら────私が前線に出るしかない。だって、客観的に見ても、私の方が前線に向いているから。アラクネさんも決して弱い訳じゃないけど、戦闘経験の面ではどうしても私に劣る。

 そして、何より────仲間の傷付く姿はもう見たくなかった。

 カイン達の死を思い返す私はアイテムボックスの中に純白の杖を放り込む。
代わりに毒針を取り出し、指と指の間に挟んだ。
グルルルとこちらを威嚇する窮奇を前に、私は『ふぅ……』と一つ息を吐く。
私達の間に見えない火花が飛び散る中────窮奇は本能の赴くまま、勢いよく駆け出した。
一直線にこちらへ向かってくる奴を前に、私は指の間に差し込んだ毒針を投げつける。反射的にそれを避けた窮奇はガウッ!と大きな鳴き声を上げながら、突進してきた。
大きく口を開けて噛み付こうとする窮奇に短剣で応戦する。

「っ……!!思ったより、静電気が強いですね……!」

 クシャリと顔を歪める私は接触する度に流れ込んでくる静電気に、思わず弱音を吐いた。
短剣越しでも関係なく流れてくる電気に、思わず眉を顰める。

 ダメージ量は正直大したことないけど、地味に痛いな……。早めに決着をつけないと、やばいかもしれない。長期戦はあまりにも不利だ。

 剥き出しになった牙を短剣で受け止めた私は流れてくる静電気に、一瞬だけ動きを止める。
手足の痺れに苦しむ私は攻撃を受け流すタイミングを完全に失っていた。
力勝負となってはさすがに勝ち目がなく、私はそのままジリジリと押されていく。
『しまった!』と焦り始める中、ふと────視界の端におさげの女の子が映った。

 え?ちょっ!待って!?あれって、まさか……!!

「────ラミエルさん!一瞬だけ隙を作るので、その間に逃げてください!」

 柄にもなく大声を上げるアラクネさんは────肩にロケットランチャーを乗せると、そのまま発射する。
物凄いスピードで飛んでいくそれは真っ直ぐ窮奇の元へ向かい……見事直撃した。
ドカンッと大きな爆発が巻き起こる中、私は一先ずその場を離れる。ついでに治癒魔法で自身の傷も癒しておいた。

 マジか……ロケットランチャーなんて、持っていたんだ。イーストダンジョン攻略のときにシムナさんが使っていたロケットランチャーと似ているけど、これはその改良版かな?だとしたら、凄い進歩だよ。威力が桁違いだもん。

「ら、ラミエルさん!だ、だだだだだだ、大丈夫でしたか……!?」

「え?あっ、はい!全然平気です!逃げる隙を作って頂き、ありがとうございました!」

 心配そうにこちらを見つめるアラクネさんに笑い掛け、大丈夫だとアピールする。
ホッと胸を撫で下ろす彼女は『それなら、良かったです』と柔らかく微笑んだ。
僅かにこの場の空気が和む中────ロケットランチャーに直撃した窮奇が黒煙から姿を現す。
バサッと翼を広げ、煙を吹き飛ばす奴はグルルルと低く唸った。
致命傷とまでは行かなかったものの、さっきの攻撃は大分効いたらしい。

 まあ、予想はしていたけど、やっぱりまだ倒れてくれないか……中層魔物モンスターなら、今ので倒せていたのになぁ。やっぱり、フロアボスは格が違うって訳か。

 『厄介な相手だ』と苦笑いする私は再び短剣を構え、一歩前へ出た。
肉の焼ける臭いに眉を顰めつつ、アイテムボックスから毒針を取り出す。

 さっきはちょっと危なかったけど、短時間であれば、私でも窮奇の相手が出来る。奴の攻撃は単純で読みやすいから。ただ一つ不安要素があるとすれば、まだ一度も見せていない雷を操る能力についてだけど……まあ、何とかなるでしょう。だから────。

「────アラクネさんは窮奇を倒すために罠を張ってください。罠の種類はそうですね……Forest of trap罠の森にあった蜘蛛糸のやつが理想です」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

処理中です...