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第六章
第259話『第九階層』
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多少トラブルがあったものの、私達は順調に攻略を進めていき……ノースダンジョンの第九階層まで来ていた。
『もうすぐ一回目のボス戦か』なんて思いながら、純白の杖をギュッと握り締める。
それにしても、早いなぁ……今までとは比べ物にならないほど、攻略スピードが上がっている。少数精鋭だから、移動に時間が掛からないって言うのもあるけど、単純にうちのメンバーが強すぎる。ふざけたりしなければ、討伐に五分も掛からないもん。
第九階層まで来て未だに出番なしの私は『もしかして、来る必要なかった?』と真剣に考え込む。
回復師の必要性を推し量る中、うちの戦闘メンバーは第九階層の魔物である、狛犬と対峙していた。
「わわわっ……!?ほ、炎を吹くなんて聞いてないですぅぅぅうううう!!」
前方から飛んできた流れ弾ならぬ流れブレスをギリギリのところで避けたアラクネさんは『ふぇぇぇええええ!』と奇声を上げる。
怖がりな彼女は目に涙を滲ませながら、ちょっと燃えてしまった髪の毛先を掴んだ。
「わ、わわわわわわわ、私のアイデンティティであるおさげが……!!」
「あらあら、ちょっと燃えちゃったわね。ポーションで治るかしら?」
パチンッと指を鳴らして周辺に結界を張ったヴィエラさんはアラクネさんの元へ歩み寄る。
そして、アイテムボックスから取り出したポーションを焦げてしまった毛先に少量垂らした。
髪に馴染ませるように櫛で梳くと、意外にも効果があったようで元のツヤツヤな髪に戻る。
『マジか……』と驚愕する女性陣を他所に、男性陣は狛犬の討伐に精を出していた。
「こいつの能力って、炎と物理だよねー?なら、楽勝じゃーん!」
『物理攻撃は防御力で相殺出来るから問題ないが、口から出る炎には気をつけた方がいいぞ』
「俺っち達は物理特化だから、魔法攻撃の耐性はあんまり付いてないもんね~」
今日も今日とて、緊張感皆無の三馬鹿は突風と共に狛犬の群れへ飛び込んでいく。
ゾウほどの大きさがある相手でも臆することなく、立ち向かった。
流れブレスがあちこちから飛んでくる中、狛犬の群れは次々と光の粒子へ変わっていく。
圧倒的強さを誇る三馬鹿を他所に、リーダーは飛んでくるブレスを淡々と処理していた。
完全にリーダーが徳正さん達の尻拭い役になっている……。
「あっちはもう片がつきそうね」
「私達はこのまま休んでいましょうか」
「そ、そそそそそ、そうですね!ボス戦に備えて、体力を温存しましょう!」
髪の毛チリチリ事件も落ち着いたので、私達女性陣はのんびりと過ごす。
それぞれ持ち寄ったお菓子を手に、女子会を開いていれば、最後の狛犬が討伐された。
淡い光となって消えていく狛犬を他所に、うちの三馬鹿は軽い足取りで戻ってくる。
「あー!ヴィエラ達だけ、ずるーい!僕もラミエルと一緒にオヤツ食べたーい!」
「こらこら、シムナ。女子会に男子が混ざるのはご法度だよ~ん」
『クマさんなら、セーフか?』
「アウトじゃない?クマの居る女子会なんて、聞いたことないわよ?」
パチンッと指を鳴らして結界を解除したヴィエラさんは『ラミエルちゃんは人気者ね』と苦笑する。
直ぐさま、こちらへ駆け寄ってくる三馬鹿は嬉しそうに私の周りを取り囲んだ。
まあ、確かに好かれてはいるけど……気分は子持ちの母なんだよね。『人気者!』って感じはあんまりしないかな……。
「ねぇーねぇー!ラミエルー!僕もそれ、食べたーい!」
「どうぞ」
「ラーちゃん、俺っちの勇姿見てくれた~?」
「見てな……いえ、早すぎて見えませんでした」
『ラミエル、クマさんクッキーはないのか?』
「残念ながら、ありませんね。あっ、でもクマさん型のチョコなら、ありますよ」
アイテムボックスから取り出したチョコをラルカさんに分け与え、『僕も!』と強請るシムナさんにも渡しておく。
猛獣に餌付けしている気分になりながら、私は『あんまり食べ過ぎないで下さいね』と注意した。
完全に三馬鹿の保護者と化す私の前で、リーダーは階段の方を振り返る。
「雑談はその辺にして、さっさと次へ行くぞ」
時間が勿体ないとでも言うように、リーダーは足早に階段へ向かう。
慌ててお菓子をアイテムボックスの中に仕舞った私達は彼の背中を追い掛けた。
リーダーを先頭に階段を降りていき、見覚えのある大きな扉へと辿り着く。観音開きのそれは相変わらず、真っ白だった。
「こ、こここここ、これがボスフロアへ繋がる入り口なんですね……!初めて見ました……!」
キラキラと瞳を輝かせるアラクネさんは『綺麗……』と小さく呟く。
物作りのプレイヤーとして、感じるものがあるのか、じっと扉を観察していた。
「とりあえず、扉を開けるぞ。ラルカ、手伝え」
『承知した』
デスサイズ片手に頷くクマの着ぐるみはリーダーと共に扉の持ち手へ手を伸ばす。
ギィーッと音を立てて扉を開ける彼らの前で、アラクネさんは更に目を輝かせた。
真っ白な空間を前に、彼女は感情の赴くままボスフロアへ歩み寄っていく。
あまりにも無防備なアラクネさんの姿に、私は何となく危機感を抱いた。
「アラクネさん、危ないのであまり近づかないでくださ……っ!?」
嫌な予感ほどよく当たると言うべきか、アラクネさんはボスフロアの中へ一歩踏み出す。
『足が着地する前に連れ戻さないと!』と焦る私は急いで彼女の元へ駆け寄った。
でも、ギリギリ間に合わなくて……アラクネさんと共に中へ飛び込む羽目になる。
「ラーちゃん……!」
後ろから悲鳴にも似た声が聞こえ、慌てて振り返れば、風に乗って走ってくる徳正さんの姿が見えた。
勢いよく扉が閉まっていく中、彼は必死の形相でこちらに手を伸ばす。
だが、ほんの0.1秒の差で扉の方が早く閉まってしまった。
目の前の光景をスローモーションのように眺めていた私はただただ呆然とする。
う、そ……?皆を置いて、中に入っちゃった……しかも────非戦闘要員だけで。
これはかなり不味い……シムナさんとヴィエラさんを抜きでやったケルベロス戦より、明らかに状況が悪い。
サァーッと青ざめる私は『こんなの無理ゲーだよ!』と嘆いた。
私もアラクネさんも一応戦えるが、技術や体力は戦闘要員より圧倒的に劣っている。優れた武器のおかげで戦えているに過ぎない。
中層魔物まではそれで通じるかもしれないが、フロアボスはさすがに難しい……時間稼ぎ程度は出来ても、決定打となる大技を私達は持ち合わせていなかった。
ど、どうしよう……!?私はどうすれば、いい……!?何か……何か策はないの!?
想定外の事態に冷静さを失う私はグシャリと前髪を掴んだ。
不安と焦りでどうにかなってしまいそうな私を他所に、アラクネさんはオロオロしている。
純白の扉を押したり、引いたりする彼女は状況を上手く理解出来ていないようだった。
「え?あれ?ど、どうして開かないの……?ただ中へ入っただけなのに……」
「!!」
困惑気味に呟いたアラクネさんの独り言に、私は大きく目を見開いた。
扉の前をウロウロする彼女の後ろで、私は一人考え込む。
もしかして、アラクネさんは────ボスフロアのシステムについて、何も知らないんじゃないだろうか?
『もうすぐ一回目のボス戦か』なんて思いながら、純白の杖をギュッと握り締める。
それにしても、早いなぁ……今までとは比べ物にならないほど、攻略スピードが上がっている。少数精鋭だから、移動に時間が掛からないって言うのもあるけど、単純にうちのメンバーが強すぎる。ふざけたりしなければ、討伐に五分も掛からないもん。
第九階層まで来て未だに出番なしの私は『もしかして、来る必要なかった?』と真剣に考え込む。
回復師の必要性を推し量る中、うちの戦闘メンバーは第九階層の魔物である、狛犬と対峙していた。
「わわわっ……!?ほ、炎を吹くなんて聞いてないですぅぅぅうううう!!」
前方から飛んできた流れ弾ならぬ流れブレスをギリギリのところで避けたアラクネさんは『ふぇぇぇええええ!』と奇声を上げる。
怖がりな彼女は目に涙を滲ませながら、ちょっと燃えてしまった髪の毛先を掴んだ。
「わ、わわわわわわわ、私のアイデンティティであるおさげが……!!」
「あらあら、ちょっと燃えちゃったわね。ポーションで治るかしら?」
パチンッと指を鳴らして周辺に結界を張ったヴィエラさんはアラクネさんの元へ歩み寄る。
そして、アイテムボックスから取り出したポーションを焦げてしまった毛先に少量垂らした。
髪に馴染ませるように櫛で梳くと、意外にも効果があったようで元のツヤツヤな髪に戻る。
『マジか……』と驚愕する女性陣を他所に、男性陣は狛犬の討伐に精を出していた。
「こいつの能力って、炎と物理だよねー?なら、楽勝じゃーん!」
『物理攻撃は防御力で相殺出来るから問題ないが、口から出る炎には気をつけた方がいいぞ』
「俺っち達は物理特化だから、魔法攻撃の耐性はあんまり付いてないもんね~」
今日も今日とて、緊張感皆無の三馬鹿は突風と共に狛犬の群れへ飛び込んでいく。
ゾウほどの大きさがある相手でも臆することなく、立ち向かった。
流れブレスがあちこちから飛んでくる中、狛犬の群れは次々と光の粒子へ変わっていく。
圧倒的強さを誇る三馬鹿を他所に、リーダーは飛んでくるブレスを淡々と処理していた。
完全にリーダーが徳正さん達の尻拭い役になっている……。
「あっちはもう片がつきそうね」
「私達はこのまま休んでいましょうか」
「そ、そそそそそ、そうですね!ボス戦に備えて、体力を温存しましょう!」
髪の毛チリチリ事件も落ち着いたので、私達女性陣はのんびりと過ごす。
それぞれ持ち寄ったお菓子を手に、女子会を開いていれば、最後の狛犬が討伐された。
淡い光となって消えていく狛犬を他所に、うちの三馬鹿は軽い足取りで戻ってくる。
「あー!ヴィエラ達だけ、ずるーい!僕もラミエルと一緒にオヤツ食べたーい!」
「こらこら、シムナ。女子会に男子が混ざるのはご法度だよ~ん」
『クマさんなら、セーフか?』
「アウトじゃない?クマの居る女子会なんて、聞いたことないわよ?」
パチンッと指を鳴らして結界を解除したヴィエラさんは『ラミエルちゃんは人気者ね』と苦笑する。
直ぐさま、こちらへ駆け寄ってくる三馬鹿は嬉しそうに私の周りを取り囲んだ。
まあ、確かに好かれてはいるけど……気分は子持ちの母なんだよね。『人気者!』って感じはあんまりしないかな……。
「ねぇーねぇー!ラミエルー!僕もそれ、食べたーい!」
「どうぞ」
「ラーちゃん、俺っちの勇姿見てくれた~?」
「見てな……いえ、早すぎて見えませんでした」
『ラミエル、クマさんクッキーはないのか?』
「残念ながら、ありませんね。あっ、でもクマさん型のチョコなら、ありますよ」
アイテムボックスから取り出したチョコをラルカさんに分け与え、『僕も!』と強請るシムナさんにも渡しておく。
猛獣に餌付けしている気分になりながら、私は『あんまり食べ過ぎないで下さいね』と注意した。
完全に三馬鹿の保護者と化す私の前で、リーダーは階段の方を振り返る。
「雑談はその辺にして、さっさと次へ行くぞ」
時間が勿体ないとでも言うように、リーダーは足早に階段へ向かう。
慌ててお菓子をアイテムボックスの中に仕舞った私達は彼の背中を追い掛けた。
リーダーを先頭に階段を降りていき、見覚えのある大きな扉へと辿り着く。観音開きのそれは相変わらず、真っ白だった。
「こ、こここここ、これがボスフロアへ繋がる入り口なんですね……!初めて見ました……!」
キラキラと瞳を輝かせるアラクネさんは『綺麗……』と小さく呟く。
物作りのプレイヤーとして、感じるものがあるのか、じっと扉を観察していた。
「とりあえず、扉を開けるぞ。ラルカ、手伝え」
『承知した』
デスサイズ片手に頷くクマの着ぐるみはリーダーと共に扉の持ち手へ手を伸ばす。
ギィーッと音を立てて扉を開ける彼らの前で、アラクネさんは更に目を輝かせた。
真っ白な空間を前に、彼女は感情の赴くままボスフロアへ歩み寄っていく。
あまりにも無防備なアラクネさんの姿に、私は何となく危機感を抱いた。
「アラクネさん、危ないのであまり近づかないでくださ……っ!?」
嫌な予感ほどよく当たると言うべきか、アラクネさんはボスフロアの中へ一歩踏み出す。
『足が着地する前に連れ戻さないと!』と焦る私は急いで彼女の元へ駆け寄った。
でも、ギリギリ間に合わなくて……アラクネさんと共に中へ飛び込む羽目になる。
「ラーちゃん……!」
後ろから悲鳴にも似た声が聞こえ、慌てて振り返れば、風に乗って走ってくる徳正さんの姿が見えた。
勢いよく扉が閉まっていく中、彼は必死の形相でこちらに手を伸ばす。
だが、ほんの0.1秒の差で扉の方が早く閉まってしまった。
目の前の光景をスローモーションのように眺めていた私はただただ呆然とする。
う、そ……?皆を置いて、中に入っちゃった……しかも────非戦闘要員だけで。
これはかなり不味い……シムナさんとヴィエラさんを抜きでやったケルベロス戦より、明らかに状況が悪い。
サァーッと青ざめる私は『こんなの無理ゲーだよ!』と嘆いた。
私もアラクネさんも一応戦えるが、技術や体力は戦闘要員より圧倒的に劣っている。優れた武器のおかげで戦えているに過ぎない。
中層魔物まではそれで通じるかもしれないが、フロアボスはさすがに難しい……時間稼ぎ程度は出来ても、決定打となる大技を私達は持ち合わせていなかった。
ど、どうしよう……!?私はどうすれば、いい……!?何か……何か策はないの!?
想定外の事態に冷静さを失う私はグシャリと前髪を掴んだ。
不安と焦りでどうにかなってしまいそうな私を他所に、アラクネさんはオロオロしている。
純白の扉を押したり、引いたりする彼女は状況を上手く理解出来ていないようだった。
「え?あれ?ど、どうして開かないの……?ただ中へ入っただけなのに……」
「!!」
困惑気味に呟いたアラクネさんの独り言に、私は大きく目を見開いた。
扉の前をウロウロする彼女の後ろで、私は一人考え込む。
もしかして、アラクネさんは────ボスフロアのシステムについて、何も知らないんじゃないだろうか?
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