『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
257 / 315
第六章

第256話『出発』

しおりを挟む
 ノースダンジョン攻略に参加することを決めた私は一度服を着替え、部屋から出る。
そして、廊下で待機していた徳正さん達と共に洞窟の出口へと向かった。

 アイテム製造班の一員であるアラクネさんや旅館で待機しているシムナさん達とは現地集合する手筈になっている。物資についても、アラクネさんが持って来てくれる予定なので、問題なかった。私達はこのままノースダンジョンへ直行すればいい。

「出発する前にヘスティアさんに挨拶をしておきたいんですが……様子はどうでしたか?」

 薄暗い洞窟を進む私は先頭を歩くリーダーに質問を投げ掛けた。
この中でヘスティアさんと一番付き合いの長い彼はふとこちらを振り返り、言い淀む。そして、迷った末にこう答えた。

「挨拶はしなくていい。今は一人にしてやってくれ。どうしてもと言うなら、ニールあたりに伝言を頼むといい」

 あまり良い状態とは言えないのか、リーダーは物憂げに溜め息を零した。
表情は相変わらず無表情だが、ピーターサイトの瞳から憂いが垣間見える。
相次ぐ仲間の死に泣き崩れるヘスティアさんを思い出し、私は『分かりました』と素直に頷いた。

 私もまだレオンさんやアスタルテさんの死を克服出来た訳じゃないから、気持ちは痛いほどよく分かる……。でも、自棄を起こして自殺したりしないか、ちょっと心配かも……。

 情緒不安定なヘスティアさんの身を案じ、胸を痛めていると……向こうから眩い太陽の光が見えた。
出口までもう少しだと意気込み、暗い気持ちを払拭するかのように『ふぅ……』と息を吐き出す。
そして、光の射す方へ歩みを進めれば────見覚えのある人物が三名ほど目に入った。

「見送りは不要だと言ってあった筈だぞ────ニール、セト、リアム」

 『はぁ……』と溜め息を零すリーダーは目の前に立つ三人のプレイヤーに冷ややかな眼差しを送った。
ノースダンジョン攻略を子供のおつかいと同列視する彼は『どうせ、直ぐに帰って来るんだから』と呆れ返る。
でも、アスタルテさん達の事件があったせいか、無理やり帰らせるようなことはしなかった。

「友人の見送りくらい、別にいいだろう。大目に見てくれ」

 『同盟メンバーとして来た訳では無い』と主張するニールさんに、リーダーは肩を竦めた。
『好きにしろ』とぶっきらぼうに言い放つ彼を前に、ニールさんはゆるりと口角を上げる。
リーダーから見送りの許可を得た彼らは嬉々として、私達の前に躍り出た。

「ラミエル、ノースダンジョンは不明な点が多いから、気をつけろよ!そんで、無事に帰ってこい!もちろん、パーティーメンバーと一緒にな!」

 全員生還を願うセトは『地上の守りは俺達に任せてくれ!』と胸を張った。
無理やりテンションを上げている気がしてならないが……そうでもしないと、やって行けないのだろう。
セトはこの短期間で元パーティーメンバーと上官を亡くしているのだから。
『お前まで消えないでくれ』というセトの本音が透けて見え、私は眉尻を下げた。

「安心して、セト。私達は全プレイヤーから恐れられる『虐殺の紅月』なんだから。誰一人欠けることなく帰ってくるよ」

 自信満々に微笑む私は『セトはその身をもって知っているでしょ?私達の実力を』と冗談交じりに付け足す。
黒歴史を掘り返されたセトは恥ずかしさのあまり、カァッと顔を真っ赤にした。

「あははっ!セトくん、茹で蛸みた~い!」

『あのときはうちのシムナが悪かったな』

「うぅ……その話はもうやめてくださいよ!」

 耳まで真っ赤にして叫ぶセトを前に、徳正さんとラルカさんはニマニマ笑う。
遊びがいのある玩具としてロックオンされたセトは早くも涙目になった。
ギャーギャーと騒ぐ三人を尻目に、私はニコニコと笑うリアムさんに歩み寄る。

「騒がしくて申し訳ありません、リアムさん。それから、見送りに来てくれてありがとうございます」

「賑やかなのは嫌いじゃないから、別に構わないよ☆あと、見送りに来たのは僕の意思だから気にしないでおくれ」

 そう言って、ニッコリ微笑む白髪アシメの美男子は身近な人を亡くしても一切笑みを絶やさない。
普段と全く変わらない態度で接してくる彼に、『凄いな』と素直に感心した。

 色々面倒を見てくれたレオンさんが亡くなって辛い筈なのに、それを一切表に出さないなんて……リアムさんは強いな。でも────。

「────辛い時はちゃんと辛いって言ってくださいね。溜め込むのが一番よくありませんから」

 『ずっと笑顔でいる必要はありません』と語り、私はリアムさんの手をギュッと包み込んだ。
無理は禁物だと言い聞かせる私に、彼はコテリと首を傾げる。何を言われているのか、さっぱり分からないとでも言うように……。

「ラミエルはさっきから、何を言っているんだい?僕は無理なんてしていないよ」

「えっ?でも、『紅蓮の夜叉』を支えるレオンさんやアヤさんが亡くなって、辛いんじゃ……?」

 噛み合わない会話に終止符を打ったリアムさんは私の主張に、首を傾げる。
パチパチと瞬きを繰り返す彼はしばらく押し黙り……ようやく私の考えを理解したのか、『ああ、なるほどね』と頷いた。
雪のように真っ白な髪をサラリと揺らし、口元に緩やかな弧を描く。

「僕は別に辛くないよ。だって────レオンさんとアヤさんは天使になって、神様の元へ還っただけだから。これは決して悲しいことじゃないよ」

 形のいい唇から飛び出た言葉に、私は思わず目を見開いた。
整った彼の顔を覗き込み、まじまじと見つめる。

 まさか、リアムさんの口から宗教関連の話が出てくるとは……パッと見、宗教とは無縁そうなのに。天使とか神様とか信じるタイプには見えない。

 『常識は知らないのに宗教は知っているのか』と失礼な考えが過る中────不意に体を持ち上げられた。

「ちょっと、ラーちゃん!俺っちというものがありながら、浮気~!?距離近過ぎなんだけど~!」

 苛立ちを滲ませた声に釣られるまま、後ろを振り向けば、徳正さんのふくれっ面が目に入る。
不満げにこちらを見上げる彼は手馴れた様子で、私を抱き直した。
大人しくお姫様抱っこされる私は『浮気以前に誰とも付き合っていないんだけどな』と心の中で抗議する。

「ねぇ、もう行こう~!?出立の挨拶はこれで充分でしょ~!?ねぇ~!主君ってば~!」

 駄々っ子のように振る舞う徳正さんは『早く早く~!』と急かしてくる。
『お前は遊園地に来た小学生か!』と、あちこちからツッコミが入る中、リーダーは溜め息を漏らした。

「そうだな。もうそろそろ、出発するか。長居は無用だ」

「やった~!主君なら、分かってくれると思っていたよ~!」

 ひゃっほーい!と大はしゃぎする黒衣の忍びは嬉々として、洞窟の淵に立つ。
わざわざ見送りに来てくれたリアムさん達にかなり失礼な態度だが……彼らは特に気にしていないようだった。
いつもの事だと割り切っている御三方に小さく頭を下げ、苦笑いする。

「それでは、行って参ります。見送り、ありがとうございまし……きゃぁぁぁあああ!?」

 挨拶の途中であろうとお構いなく、徳正さんは洞窟から飛び出し、一気に急降下する。
予告無しの紐なしバンジーに、私は驚きのあまり大きな悲鳴を上げた。
────このあと、徳正さんをキツく叱りつけたのは言うまでもないだろう。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...