『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第六章

第254話『認めたくない』

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「い、いやぁぁぁぁぁあああああ!!!!」

 鉄の扉が開いていたおかげか、甲高い悲鳴は洞窟全体に響き渡った。
不安と恐怖でいっぱいになる中、覚束無い足取りでレオンさんの元へ歩み寄る。
真っ赤な血を垂れ流し、光の粒子へと変化していく彼の体はもう崩壊寸前だった。
目の前に広がる光景があまりにも衝撃的すぎて、ガクッとその場に膝を着くと────見知った人物が部屋へ飛び込んでくる。

「────ラーちゃん……!!」

 ブォンッと突風を吹かせて、現れたその人物はパーティーメンバーである徳正さんだった。
急いで駆け付けてくれたのか、彼の衣服は少し乱れている。
『はぁはぁ』と肩で息をする彼は私の無事な姿を見て、安心したように息を吐き出した。

「無事で良かった……!ラーちゃんの悲鳴が聞こえた時は凄く焦ったよ。それで一体何が……っ!?」

 僅かに表情を和らげる徳正さんは私を抱き上げようと、手を伸ばすが……突然目を見開いて、固まった。
私の膝元で光の粒子と化すレオンさんを見つけ、驚いたのだろう。
女性一人の背中で隠せてしまうほど、小さくなった彼の体は既に下半身が無くなっていた。

「レ、オンくん……?一体何がどうなって……?」

 肉体の崩壊が始まったレオンさんと泣きじゃくる私を交互に見つめ、徳正さんは困惑する。
ダンジョンボスと対峙した時でさえ、冷静さを失わなかったのに今は戸惑いを隠し切れずにいた。
僅かな沈黙がこの場に流れる中────ふとレオンさんが目を開ける。
何かを探すように視線をさまよわせる彼はレモンイエローの瞳に私を映すなり、微笑んだ。

アヤ・・……守ってやれなくて、ごめんな。直ぐにそっちに行くから……だから、もう少しだけ待っていてくれ」

 泣きたくなるほど優しい声でそう告げるレオンさんは最後の力を振り絞って、私の頬に触れた。
刹那────彼の体が完全に光の粒子と化し、跡形もなく消え去る。
蛍のように綺麗な光は幻想的なのに……胸がギュッと締め付けられた。
ぼんやりした意識の中でも想い人を求めるその執念には、感服するしかない……でも────。

「────どうして、自殺なんて……!!」

 深い悲しみが苛立ちに変わり、私はボロボロと大粒の涙を零す。
『巨大ゴーレム討伐イベント』のときから、仲良くしていた友人の死は私の心に深い傷跡を残した。

 何で……どうして、こんなことに……!!続けざまに……それも、私の目の前で仲間や友人が死んでいくだなんて!!

 アスタルテさん達の訃報で、ただでさえ憔悴し切っていた私の心は悲鳴を上げる。
受け入れ難い現実を前に、私は床に出来た血溜まりに手を伸ばした。鉄の香りがする真っ赤な液体はまだ少し温かい……。

「こんな展開……認められる訳がありません!!絶対に間違ってます!!だから、戻って来て下さい!!────|《パーフェクトヒール》!!」

 現実から目を背けるように治癒魔法を展開した私は何も無いところに魔法を掛ける。
無駄なのも無意味なのも分かっているが、それでもやっぱり……友人の死は受け入れられなかった。

 アスタルテさん達の死は事後報告で知っただけだから、まだ受け入れられた。でも、自分の目の前で……手の届く範囲で仲間が死んでしまった事実に向き合うことなど出来ない。だって、私は周囲に飛び散る鮮やかな血も、肉体の崩壊もこの目で見ているのだから。

 アスタルテさん達の死を目の当たりにしたヘスティアさんもこんな気持ちだったのだろうか?と、ぼんやり考えながら私は何度も何度も治癒魔法を行使した。

「《パーフェクトヒール》《パーフェクトヒール》《パーフェクトヒール》……」

 まるで狂ったように最上位の治癒魔法を掛け続ける私は傍から見れば異常者だろう。
でも、治療をやめたらレオンさんの死を認めてしまうような気がして……やめられなかった。いや、認めたくなかった……頼りになるお兄さん的存在である彼の死を。

「もしかして、魔法の種類が悪いのかな?普通の治癒魔法なら、どうにかなるかも……|《ハイヒール》」

「……ラーちゃん」

「あれ?おかしいな……全然効かない。魔法の効力が強過ぎるってことかな……?」

「ラーちゃんってば……!」

 どうにかして、レオンさんを生き返らせようとする私は徳正さんの声に全く反応しなかった。
まるで、何かに取り憑かれたみたいに魔法を行使し続ける。

「じゃあ、次は一番弱い治癒魔法を使っ……」

「────ラーちゃん、目を覚まして!レオンくんはもう死んだんだ!」

 血溜まりに浸かる私の手を引き抜き、ズイッと顔を近づける徳正さんはそう叫んだ。
空いている方の手で私の頬を包み込み、コツンッと額をくっつける。
苦痛に歪む彼の顔は今にも泣き出しそうで……目を逸らすことが出来なかった。

「レオンくんはもう死んだんだよ、ラーちゃん……」

 再度告げられた事実に、私はクシャリと顔を歪める。
喉に何か張り付いたように声を出せずにいると、ギュッと抱き締められた。
暖かな体温と優しい香りに包まれ、私の涙腺は更に崩壊する。
悲しくて、苦しくて、辛くて……胸が張り裂けるほど痛くて、涙が止まらない。

「徳正さ、ん……!」

「うん、ここにいるよ」

「離れな、いでくださ、い……!」

「うん、ずっと傍にいる。はラーちゃんのものだから、絶対に離れないよ」

 耳に残る甘いセリフはそよ風のように優しくて……自然と肩の力が抜ける。
甘えることを許してくれる彼の優しさに絆されたのか、レオンさんの死をもう否定することはなかった。だからと言って、完全に受け入れられた訳じゃないが……。
相次ぐ仲間の死は確実に私の精神をすり減らしていった。

 ────私はどうすれば、良かったんだろう?

 そんな漠然とした疑問が脳裏に浮かび上がり、私はそっと目を伏せる。
『止めないでくれ』と懇願してきたレオンさんを思い出し、複雑な心境に陥っていると────ドタバタと複数人の足音が聞こえてきた。

「おい!一体何があったんだ……!?」

 そう言って、部屋に駆け込んできたのはワンピース姿のヘスティアさんだった。
その後ろにはリーダーやニールさんの姿もある。『賊でも入ってきたのか?』と警戒する彼らはそれぞれ手に武器を持っていた。

「この部屋、妙に血の匂いが濃いな……」

「おい!あそこに血溜まりがあるぞ!」

「そもそも、ここは何の部屋なんだ?」

 思わず鼻を押さえるリーダーに、ヘスティアさんは興奮しながら赤く染まった床を指さす。
その隣でニールさんは『拷問部屋でも作ったのか?』と呟き、室内を見回した。

「ここは元々物置き部屋で、今は勇者を閉じ込めている部屋だ……っと、勇者の姿が見当たらないな?」

 『言っておくが、拷問は一切してないぞ』と断言するヘスティアさんに、ニールさんは肩を竦める。
一体何が起きたんだ?と頭を捻る面々を前に、私は一つ息を吐いた。

 この中で何が起きたのか説明出来る人間は私しか居ない……正直まだ心の整理が出来ていないけど、ここはきちんと説明するべきだろう。たとえ、それがどんなに残酷な現実であったとしても……。

 ポロポロと零れる涙をそのままに、私は徳正さんの胸に埋めた顔を上げる。
ざわめく周囲は涙でぐちゃぐちゃになった私の顔を見て、大きく目を見開いた。

「ご報告申し上げます。軟禁中のカインは────『紅蓮の夜叉』の幹部であるレオンさんに殺されました。また、実行犯である彼も自害し、先程死亡が確認されました」
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