252 / 315
第六章
第251話『それぞれの気持ち』
しおりを挟む
「────ということがあり、アヤ達は命を落とした。守れなくて、本当に……本当にすまない」
一度席を立ち、深々と頭を下げたヘスティアさんは決して言い訳をしなかった。
自分の判断ミスと実力不足が招いた結果だと語り、責任の所在を明らかにする。
我々の罵声も嘆きも悲しみも甘んじて受け入れるつもりなんだろう。
辛いのはヘスティアさんだって、同じ筈なのに……決して弱音を吐こうとしない。自分の感情を押し殺して、矢面に立つ彼女は見ていて痛々しかった。
頭を下げたまま動こうとしないヘスティアさんに心を痛める中、同盟メンバーは勇者の暴挙に憤りと恐怖を覚える。
諸刃の剣同然のカインをどう扱えばいいのか、分からない様子だった。
「平気で人を殺す勇者と手を組むなんて、俺は絶対に嫌だぞ……!」
「でも、勇者が居ないとゲーム攻略が……サウスダンジョンで手に入った聖剣エクスカリバーって、勇者しか使えないんでしょう?」
「だからって、人殺しと一緒に行動なんて出来ないわよ!!」
「じゃあ、このまま一生ゲーム世界に閉じ込められてもいいのか!?」
勇者容認派と勇者排除派の二つに分かれて、同盟メンバーはギャーギャーと言い合いを繰り広げる。
押し問答に近いやり取りを繰り返す彼らは徐々にヒートアップしていった。
このままでは、ゲーム攻略同盟がパックリ二つに割れてしまうかもしれない……。
人手も物資も少ない状況で仲違いするのはかなり不味い……いや、分裂するのはまだいい。一番不味いのは────プレイヤー同士の抗争が始まること。今回は死者も出ているから、仇討ちだと言って戦争を吹っ掛けてくる可能性があった。
しかも、殺されたプレイヤーには『プタハのアトリエ』や『牙』のギルドマスターが居る。有名人だからという訳じゃないが、カインに激しい怒りを抱く者も少なくないだろう。
運命の歯車が狂っていく感覚に陥りながら、眉尻を下げる。
未来への不安でいっぱいになる私は『こんな時にアヤさんやアスタルテさんが居れば……』と考えてしまった。
希望を託してくれた彼らに失礼だと分かりつつも、縋らずにはいられない……。
彼らの死を惜しむ分だけ、カインへの憎しみは増していく一方だった。
『私まで冷静さを失う訳にはいかない』と拳を強く握り締めていると、不意に肩を抱き寄せられる。
「いきなり友人や元パーティーメンバーの訃報を聞いて、驚いたよね。辛いなら、このまま帰ろうか?俺っち達の役割はもう終わったようなもんだし」
無理をしてまで会議に参加する必要はないと言い、徳正さんは私の腕を摩ってくれる。
心配そうにこちらを見つめるセレンディバイトの瞳は優しげだった。
「いえ、大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます。確かにアスタルテさん達の訃報はショックですが、こういう時こそしっかりしませんと。彼らが託してくれた願いを叶えるためにも」
いつまでも落ち込んでいられないと言い切り、私は明るい笑みを浮かべる。
きっと徳正さんにはただの強がりだと見抜かれているだろうが、ここから逃げ出す気はなかった。
現実から目を逸らさないと宣言した私に、彼はどこか悲しそうに目を伏せる。
「……ラーちゃんはこんな時でも、強くあろうとするんだね。泣いて縋ってくれれば、幾らでも甘やかしてあげるのに……ラーちゃんって、本当に茨の道が大好きだね」
嫌味とも皮肉とも取れる言葉を言い放ち、黒衣の忍びは私の肩から手を離した。
寂しそうに笑う彼はちょっと不満そうで……いつもより、幼く見える。
「でも、ラーちゃんの選んだ道なら喜んでお供するよ。ラーちゃんは俺っちの全てで、俺っちの全てはラーちゃんのものだから。だから、遠慮なく俺っちを頼ってね」
ふわりと柔らかい笑みを浮かべる徳正さんは優しく私の頭を撫でてくれた。
胸焼けしそうなほど甘い雰囲気を漂わせる彼に、私はタジタジになってしまう。
溺愛と呼んで差し支えない対応に、私は頷くので精一杯だった。
と、徳正さんが甘すぎる……砂糖の塊をそのまま食べた時みたい。まあ、実際に砂糖の塊を食べたことはないけど。
ドッドッドッドッ!と心臓が激しく脈打つ中、進行役のニールさんがわざとらしく咳払いをした。未だに言い合いを続ける同盟メンバーと甘い雰囲気を放つ私達に抗議するかのように……。
「勇者カインの対応については、またおいおい考えるとしよう。それより、今はノースダンジョンの攻略について話し合うべきだ。ここまで来て振り出しに戻れば、それこそファルコ達に申し訳が立たない」
こんな事をしている場合ではないとニールさんに一喝され、同盟メンバーは口を噤んだ。
ようやく頭が冷えたのか、小さく頭を下げ、謝罪する。
シュンと肩を落とす彼らを前に、ニールさんはヘスティアさんに着席するよう促した。
おずおずといった様子で椅子に腰掛けるヘスティアさんは借りてきた猫のように大人しい。
何はともあれ、これでようやくノースダンジョン攻略の話が出来る────と安堵していれば、不意にレオンさんの声が聞こえた。
「なあ、ヘスティア────勇者は今、どこにいるんだ?」
普段の明るい声とは掛け離れた平坦な声に、私は妙な危機感を抱く。
焦燥感にも似た何かを感じながら、レオンさんに目を向ければ────別人のように無表情な彼が居た。
感情の起伏が感じられない彼はまるで人形のようで……心底恐ろしい。
「勇者なら、奥の部屋に閉じ込めてある。身柄もしっかり拘束しているから、逃げる心配もない。殺す訳にはいかないから、危害は加えていないが……」
軟禁状態だと語るヘスティアさんに、『まあ、それが妥当な判断だよな』と誰もが頷く中、レオンさんは不意に席を立った。
「そうか。それじゃあ────勇者を殺してくる」
至極当然のようにそう言ってのけたレオンさんは腰にぶら下げた剣を引き抜き、身を翻す。
一瞬冗談かと思ったが、彼の目は本気だった。明確な殺意と狂気がレモンイエローの瞳に宿っている。
それは身の毛もよだつほど恐ろしいものだった。
「ま、待て!レオン!早まるな!」
ヘスティアさんの悲鳴のような声が木霊し、同盟メンバーは騒然とする。
ギルドマスターの声にも耳を傾けないレオンさんはそのまま足を進めた。
────と、ここで真っ先に正気を取り戻したセトが慌てて彼の前に立ち塞がる。
両手を広げて、通せんぼするセトは今にも泣き出しそうだった。
「レオンさん!落ち着いてください!こんなことをしても、アヤさんは喜びません!」
「っ……!」
「一旦冷静になりましょう!?あのクズと同じレベルに成り下がるつもりですか!?」
たとえ、仇討ちであってもやっていることはカインと変わらないと、セトは必死に訴える。
思い止まるよう説得する彼の声に、レオンさんはクシャリと顔を歪めた。
「っ……!!お前には分かんないんだ!!最愛の女を失った俺の気持ちが……!!だから、そんなことが言えるんだ!!」
「確かにレオンさんの気持ちを完璧に理解することは出来ません!でも、俺だって……皆だってアヤさんの死は辛いんです!出来ることなら、夢であって欲しいと思っています!」
「ならっ!勇者を殺したい俺の気持ちだって、分かる筈だ!いいから、そこをどけ!」
「嫌です!!絶対にどきません!!」
平静を失ったレオンさんを目の当たりにしても、セトは一歩も引かなかった。本当は怖くてしょうがないくせに……。
産まれたての子鹿のようにガクガク震え上がる彼はお世辞にも格好いいとは言えない。でも、その心意気だけは実に男らしかった。
自己中で、自分勝手なセトはもう居ない。仲間のために反論出来るほど、大きく成長した。臆病なのは相変わらずだけど。
「アヤさんの仇を討ちたい気持ちは分かります!でも、そしたら────俺の気持ちはどうなんですか!?憧れの先輩が過ちを犯すところを黙って見ていろって言うんですか!?」
「っ……!!」
「俺はカインのクズっぷりをよく知っています!だからこそ、あいつと同じ過ちは犯して欲しくない!そう願うのはいけないことですか!?」
真っ直ぐに純粋な気持ちを伝えるセトに、レオンさんは唇を噛み締めた。
何かを堪えるように震える拳をグッと強く握り締める。
激しく揺れる彼の心が透けて見え、何か言おうかと思ったが……やめておいた。
アヤさんとそっくりの顔をしている私に慰められても辛いだけだろう。変に刺激して、殺意が高まっても困るし、ここは静かにしておいた方がいい。
黙ってレオンさんの動向を見守っていると、彼はドンッとセトの肩を押した。
踏ん張りきれずに尻もちをついたセトは呆然とした様子で、レオンさんを見上げる。
眉間に深い皺を刻む茶髪の美丈夫は明らかに不機嫌なのに……何故だか泣いているように見えた。
「……チッ!それじゃあ、俺はどうすればいいんだよ……!」
声色に苛立ちを滲ませるレオンさんは自身の髪の毛を掴み、顔を顰める。
そして、後ろに倒れたセトを跨いで歩みを進めた。この場を立ち去ろうとする彼に、ヘスティアさんはすかさず声を掛ける。
「お、おい!どこへ行く……!?」
「休憩室だ。ちょっと頭を冷やしてくる」
そう言って、会議室を出て行ったレオンさんは洞窟の出口の方へ足を向けた。
とりあえず、奥の部屋に監禁されているカインを殺しに行くつもりはないようだ。
ホッと胸を撫で下ろす私達は、レオンさんに勇敢に立ち向かったセトに『助かった』と口々にお礼を言う。
気恥しそうにポリポリと頬を掻く紺髪の美丈夫はもそもそと立ち上がった。
席に戻った彼を一瞥し、進行役のニールさんに目を向ける。
「はぁ……今日はもう解散して、明日の朝また集まろう。各自きちんと休養を取り、気持ちの整理をするように」
このまま話し合いをしても意味が無いと判断したのか、ニールさんは解散を宣言した。
喪にふくすという意味も込めた休養に、誰も反論しない。
「では、今日はここに泊まっていくといい。移動に時間のかかる奴らも居るだろうからな。部屋と食事は用意しよう」
気を利かせたヘスティアさんの申し出に、同盟メンバーは『ありがとう』と礼を言う。
部屋割について話し合う彼らを一瞥し、私はレオンさんの去っていった方向にチラリと目を向けた。
レオンさん、大丈夫かな……?かなり思い詰めていたようだけど……。
「セトの気持ちがきちんと届いていれば、いいけど……」
不安を拭い切れない私はフラグとも言えるセリフをボソッと呟くのだった。
一度席を立ち、深々と頭を下げたヘスティアさんは決して言い訳をしなかった。
自分の判断ミスと実力不足が招いた結果だと語り、責任の所在を明らかにする。
我々の罵声も嘆きも悲しみも甘んじて受け入れるつもりなんだろう。
辛いのはヘスティアさんだって、同じ筈なのに……決して弱音を吐こうとしない。自分の感情を押し殺して、矢面に立つ彼女は見ていて痛々しかった。
頭を下げたまま動こうとしないヘスティアさんに心を痛める中、同盟メンバーは勇者の暴挙に憤りと恐怖を覚える。
諸刃の剣同然のカインをどう扱えばいいのか、分からない様子だった。
「平気で人を殺す勇者と手を組むなんて、俺は絶対に嫌だぞ……!」
「でも、勇者が居ないとゲーム攻略が……サウスダンジョンで手に入った聖剣エクスカリバーって、勇者しか使えないんでしょう?」
「だからって、人殺しと一緒に行動なんて出来ないわよ!!」
「じゃあ、このまま一生ゲーム世界に閉じ込められてもいいのか!?」
勇者容認派と勇者排除派の二つに分かれて、同盟メンバーはギャーギャーと言い合いを繰り広げる。
押し問答に近いやり取りを繰り返す彼らは徐々にヒートアップしていった。
このままでは、ゲーム攻略同盟がパックリ二つに割れてしまうかもしれない……。
人手も物資も少ない状況で仲違いするのはかなり不味い……いや、分裂するのはまだいい。一番不味いのは────プレイヤー同士の抗争が始まること。今回は死者も出ているから、仇討ちだと言って戦争を吹っ掛けてくる可能性があった。
しかも、殺されたプレイヤーには『プタハのアトリエ』や『牙』のギルドマスターが居る。有名人だからという訳じゃないが、カインに激しい怒りを抱く者も少なくないだろう。
運命の歯車が狂っていく感覚に陥りながら、眉尻を下げる。
未来への不安でいっぱいになる私は『こんな時にアヤさんやアスタルテさんが居れば……』と考えてしまった。
希望を託してくれた彼らに失礼だと分かりつつも、縋らずにはいられない……。
彼らの死を惜しむ分だけ、カインへの憎しみは増していく一方だった。
『私まで冷静さを失う訳にはいかない』と拳を強く握り締めていると、不意に肩を抱き寄せられる。
「いきなり友人や元パーティーメンバーの訃報を聞いて、驚いたよね。辛いなら、このまま帰ろうか?俺っち達の役割はもう終わったようなもんだし」
無理をしてまで会議に参加する必要はないと言い、徳正さんは私の腕を摩ってくれる。
心配そうにこちらを見つめるセレンディバイトの瞳は優しげだった。
「いえ、大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます。確かにアスタルテさん達の訃報はショックですが、こういう時こそしっかりしませんと。彼らが託してくれた願いを叶えるためにも」
いつまでも落ち込んでいられないと言い切り、私は明るい笑みを浮かべる。
きっと徳正さんにはただの強がりだと見抜かれているだろうが、ここから逃げ出す気はなかった。
現実から目を逸らさないと宣言した私に、彼はどこか悲しそうに目を伏せる。
「……ラーちゃんはこんな時でも、強くあろうとするんだね。泣いて縋ってくれれば、幾らでも甘やかしてあげるのに……ラーちゃんって、本当に茨の道が大好きだね」
嫌味とも皮肉とも取れる言葉を言い放ち、黒衣の忍びは私の肩から手を離した。
寂しそうに笑う彼はちょっと不満そうで……いつもより、幼く見える。
「でも、ラーちゃんの選んだ道なら喜んでお供するよ。ラーちゃんは俺っちの全てで、俺っちの全てはラーちゃんのものだから。だから、遠慮なく俺っちを頼ってね」
ふわりと柔らかい笑みを浮かべる徳正さんは優しく私の頭を撫でてくれた。
胸焼けしそうなほど甘い雰囲気を漂わせる彼に、私はタジタジになってしまう。
溺愛と呼んで差し支えない対応に、私は頷くので精一杯だった。
と、徳正さんが甘すぎる……砂糖の塊をそのまま食べた時みたい。まあ、実際に砂糖の塊を食べたことはないけど。
ドッドッドッドッ!と心臓が激しく脈打つ中、進行役のニールさんがわざとらしく咳払いをした。未だに言い合いを続ける同盟メンバーと甘い雰囲気を放つ私達に抗議するかのように……。
「勇者カインの対応については、またおいおい考えるとしよう。それより、今はノースダンジョンの攻略について話し合うべきだ。ここまで来て振り出しに戻れば、それこそファルコ達に申し訳が立たない」
こんな事をしている場合ではないとニールさんに一喝され、同盟メンバーは口を噤んだ。
ようやく頭が冷えたのか、小さく頭を下げ、謝罪する。
シュンと肩を落とす彼らを前に、ニールさんはヘスティアさんに着席するよう促した。
おずおずといった様子で椅子に腰掛けるヘスティアさんは借りてきた猫のように大人しい。
何はともあれ、これでようやくノースダンジョン攻略の話が出来る────と安堵していれば、不意にレオンさんの声が聞こえた。
「なあ、ヘスティア────勇者は今、どこにいるんだ?」
普段の明るい声とは掛け離れた平坦な声に、私は妙な危機感を抱く。
焦燥感にも似た何かを感じながら、レオンさんに目を向ければ────別人のように無表情な彼が居た。
感情の起伏が感じられない彼はまるで人形のようで……心底恐ろしい。
「勇者なら、奥の部屋に閉じ込めてある。身柄もしっかり拘束しているから、逃げる心配もない。殺す訳にはいかないから、危害は加えていないが……」
軟禁状態だと語るヘスティアさんに、『まあ、それが妥当な判断だよな』と誰もが頷く中、レオンさんは不意に席を立った。
「そうか。それじゃあ────勇者を殺してくる」
至極当然のようにそう言ってのけたレオンさんは腰にぶら下げた剣を引き抜き、身を翻す。
一瞬冗談かと思ったが、彼の目は本気だった。明確な殺意と狂気がレモンイエローの瞳に宿っている。
それは身の毛もよだつほど恐ろしいものだった。
「ま、待て!レオン!早まるな!」
ヘスティアさんの悲鳴のような声が木霊し、同盟メンバーは騒然とする。
ギルドマスターの声にも耳を傾けないレオンさんはそのまま足を進めた。
────と、ここで真っ先に正気を取り戻したセトが慌てて彼の前に立ち塞がる。
両手を広げて、通せんぼするセトは今にも泣き出しそうだった。
「レオンさん!落ち着いてください!こんなことをしても、アヤさんは喜びません!」
「っ……!」
「一旦冷静になりましょう!?あのクズと同じレベルに成り下がるつもりですか!?」
たとえ、仇討ちであってもやっていることはカインと変わらないと、セトは必死に訴える。
思い止まるよう説得する彼の声に、レオンさんはクシャリと顔を歪めた。
「っ……!!お前には分かんないんだ!!最愛の女を失った俺の気持ちが……!!だから、そんなことが言えるんだ!!」
「確かにレオンさんの気持ちを完璧に理解することは出来ません!でも、俺だって……皆だってアヤさんの死は辛いんです!出来ることなら、夢であって欲しいと思っています!」
「ならっ!勇者を殺したい俺の気持ちだって、分かる筈だ!いいから、そこをどけ!」
「嫌です!!絶対にどきません!!」
平静を失ったレオンさんを目の当たりにしても、セトは一歩も引かなかった。本当は怖くてしょうがないくせに……。
産まれたての子鹿のようにガクガク震え上がる彼はお世辞にも格好いいとは言えない。でも、その心意気だけは実に男らしかった。
自己中で、自分勝手なセトはもう居ない。仲間のために反論出来るほど、大きく成長した。臆病なのは相変わらずだけど。
「アヤさんの仇を討ちたい気持ちは分かります!でも、そしたら────俺の気持ちはどうなんですか!?憧れの先輩が過ちを犯すところを黙って見ていろって言うんですか!?」
「っ……!!」
「俺はカインのクズっぷりをよく知っています!だからこそ、あいつと同じ過ちは犯して欲しくない!そう願うのはいけないことですか!?」
真っ直ぐに純粋な気持ちを伝えるセトに、レオンさんは唇を噛み締めた。
何かを堪えるように震える拳をグッと強く握り締める。
激しく揺れる彼の心が透けて見え、何か言おうかと思ったが……やめておいた。
アヤさんとそっくりの顔をしている私に慰められても辛いだけだろう。変に刺激して、殺意が高まっても困るし、ここは静かにしておいた方がいい。
黙ってレオンさんの動向を見守っていると、彼はドンッとセトの肩を押した。
踏ん張りきれずに尻もちをついたセトは呆然とした様子で、レオンさんを見上げる。
眉間に深い皺を刻む茶髪の美丈夫は明らかに不機嫌なのに……何故だか泣いているように見えた。
「……チッ!それじゃあ、俺はどうすればいいんだよ……!」
声色に苛立ちを滲ませるレオンさんは自身の髪の毛を掴み、顔を顰める。
そして、後ろに倒れたセトを跨いで歩みを進めた。この場を立ち去ろうとする彼に、ヘスティアさんはすかさず声を掛ける。
「お、おい!どこへ行く……!?」
「休憩室だ。ちょっと頭を冷やしてくる」
そう言って、会議室を出て行ったレオンさんは洞窟の出口の方へ足を向けた。
とりあえず、奥の部屋に監禁されているカインを殺しに行くつもりはないようだ。
ホッと胸を撫で下ろす私達は、レオンさんに勇敢に立ち向かったセトに『助かった』と口々にお礼を言う。
気恥しそうにポリポリと頬を掻く紺髪の美丈夫はもそもそと立ち上がった。
席に戻った彼を一瞥し、進行役のニールさんに目を向ける。
「はぁ……今日はもう解散して、明日の朝また集まろう。各自きちんと休養を取り、気持ちの整理をするように」
このまま話し合いをしても意味が無いと判断したのか、ニールさんは解散を宣言した。
喪にふくすという意味も込めた休養に、誰も反論しない。
「では、今日はここに泊まっていくといい。移動に時間のかかる奴らも居るだろうからな。部屋と食事は用意しよう」
気を利かせたヘスティアさんの申し出に、同盟メンバーは『ありがとう』と礼を言う。
部屋割について話し合う彼らを一瞥し、私はレオンさんの去っていった方向にチラリと目を向けた。
レオンさん、大丈夫かな……?かなり思い詰めていたようだけど……。
「セトの気持ちがきちんと届いていれば、いいけど……」
不安を拭い切れない私はフラグとも言えるセリフをボソッと呟くのだった。
2
お気に入りに追加
378
あなたにおすすめの小説
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる