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第六章
第249話『ウエストダンジョン攻略の闇』
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「……ウエストダンジョン攻略の結果報告を始める。まず、ダンジョンの攻略には成功した。そして、クリア報酬は────即死回避のマジックアイテムだった」
暗い面持ちで話を切り出した赤髪の美女はアイテムボックスの中から、細長い笛を取り出した。
独特の模様が描かれたそれは片手で持てる程度の大きさだ。
即死回避のマジックアイテムか……魔王討伐クエストでは、かなり活躍しそう。少なくとも、今までのように一発KOされることはないだろう。まあ、詳しい説明を聞いてみないと分からないけど……。
「これは消耗系のアイテムで、十分間に一度だけどんなに強力な攻撃を受けても耐えることが出来るらしい。ただし、HPは1になるから直ぐに治癒魔法を掛けないと駄目みたいだ。使用方法は笛を思い切り吹くだけ。効果範囲は広く、笛の音を聞いた全てのプレイヤーに作用されるらしい」
何も無い空中を眺めるヘスティアさんは手に持つアイテムをおもむろにテーブルの上に置く。
思いのほか凡庸性の高い即死回避のマジックアイテムに、私は目を輝かせた。
今までは魔王討伐クエストに何度挑んでも、魔王の一撃に敗れてきた。先制攻撃を仕掛けても火力が足りず、結界符とセトのスキルで防御体制を整えても無駄だった。『あの一撃さえ、どうにか出来れば……』と考えてきたけど、まさかこんなマジックアイテムがあったなんて……予想外もいいところだ。
もし、これが魔王討伐クエストの必須アイテムなら、私達は十分な備えもなしに戦いを挑んでいたことになる……そりゃあ、負けて当然だ。魔王を倒すための準備が全然できていないのだから。
全ダンジョン攻略クエストは勇者を育てる修行であると同時に、魔王討伐クエストに必要なアイテムを集めるものなのかもしれない。
全ダンジョン攻略クエストからやって良かったと安堵していれば、何食わぬ顔でヘスティアさんが椅子に座った。まだクリア報酬の話しかしていないのに、だ。
明らかにおかしい行動に首を傾げていれば、この場を代表してニールさんが口を開く。
「ヘスティア、被害報告はどうした?まだクリア報酬の報告しか受けていないぞ」
報告の途中だと咎めるニールさんの声に、ヘスティアさんはクシャリと顔を歪めた。
その表情は怒っていると言うより、悲しんでいるように見える。
どこまでもアンバランスで、不安定な彼女は現実から目を背けるように俯いた。
いつも明るくて、元気なヘスティアさんがこんなに落ち込むなんて珍しい……何かあったんだろうか?もしかして────ウエストダンジョン攻略に参加した仲間が死んじゃった……とか?
そう考えたとき、ひやりとした何かが頬を撫でた。ダンジョンへ行く前に感じた嫌な予感が増大していき、冷や汗が溢れ出る。
『そんな事ない!』と思いたいのに、ヘスティアさんの顔を見ていると完全に否定することは出来なかった。
「ヘスティア、黙っていては何も分からないぞ」
黙りを決め込む彼女に痺れを切らし、ニールさんかそう言い放った。
トントンと一定のリズムでテーブルを叩く彼に、徳正さんは苦笑を浮かべる。
「まあまあ、そうカリカリしないでよ~。何か言いづらい事情があるんだと思うよ~。もう少し待ってあげよう~?」
「これでも充分待ったつもりだ。正直これ以上は待てない」
「も~!せっかちな男は嫌われるよ~?」
ヘスティアさんを庇う徳正さんに、ニールさんは眉を顰めた。
だが、サウスダンジョン攻略で大活躍した彼には強く出れないのか、仕方なく口を噤む。
ピリピリした空気がこの場に流れる中、私は恐る恐る口を開いた。
「……ヘスティアさん、一つだけ聞かせてください。ウエストダンジョンの攻略で────死者は出ましたか?」
「「「!?」」」
ヘスティアさんがある程度落ち着いてから……と思っていたが、我慢できず質問を投げ掛ける。
すると、この場に居る誰もが大きく目を見開いて固まった。
長い赤髪に隠れてヘスティアさんの顔は見えないが、きっと酷い顔をしていることだろう。
直ぐに否定しないってことは……死者が出てしまったんですね。もし、全員無事なら『縁起でもないこと言うな!』と怒っていたでしょうから。
怒鳴られるのを覚悟して言ったというのに、叱られないのが凄く悲しかった。
この場に何とも言えない空気が広がる中、ヘスティアさんは覚悟を決めたように顔を上げる。
ペリドットの瞳を潤ませる彼女は今にも泣き出しそうな表情で語り出した。
「ウエストダンジョン攻略で……五名ほど死者が出た。死亡したプレイヤーは────選抜メンバーのファルコ・アスタルテ・アヤ・アキラ・マヤだ……!」
聞き覚えのある名前ばかりが話題に上がり、私は目の前が真っ暗になった。
と同時に、何故ウエストダンジョン攻略チームのメンバーがこんなにも少ないのか理解する。
そりゃあ、死んじゃったら会議に出席出来ないよね……幽霊じゃないんだから。
でも、それにしたってこれは……酷すぎる。友人と元パーティーメンバーを一度に失うなんて……耐えられない!
じわりと目に涙が滲み、ギシッと奥歯を噛み締める。
改めて、ここはもう私達の知っているFROじゃないのだと……残忍で冷酷なデスゲームなのだと理解した。
理不尽な現状を恨むように自身の手元を睨みつけ、強く拳を握り締める。
「っ……!!なん、で……?どうして……!?こんな……!!」
言葉にならない怒りと悲しみが湧き起こり、上手く話せない。
そして、激情を持て余すようにガンッと勢いよくテーブルに拳を叩きつけた。
「どうして、ファルコさん達は死んだんですか……!?」
悲鳴に近い声色でそう叫び、私はポロリと一粒の涙を零す。
脳裏に思い浮かぶのは彼らと過した思い出の数々だった。
方言混じりの話し方が魅力のファルコさんは頼り甲斐のある人だった。
誰にでも分け隔てなく接してくれて、悪い噂の絶えない我々『虐殺の紅月』にも普通に話し掛けてくれた。公平性を重んじる良いリーダーだったと思う。
幼女姿のアスタルテさんは見た目に反して、頭のキレる人だった。
でも、困ったら直ぐに助けてくれて、頼りになる。おまけに凄く気が合うため、プライベートでのやり取りも多かった。
ヘスティアさんの右腕を務めるアヤさんは凄く真面目な人だ。
規則とルールを重んじる人で、暴走しがちなヘスティアさんをよく諌めている。交流はそこまで多くなかったけど、同じ見た目のせいか親近感が湧いた。
『サムヒーロー』のメンバーとして活動するマヤは優秀な魔法使いだ。
魔法のレパートリーが多く、マイペースなカインをいつもフォローしている。今は疎遠になってしまったけど、それなりに仲が良かった。
暗殺者のアキラは剣の扱いに長けており、周りをよく見ている。
カインの討ち漏らしをいつも処分しているため、カインの尻拭い役だとよく揶揄われていた。
口数はあまり多くないけど、私の話をきちんと聞いてくれる人だ。
懐かしい記憶を振り返り、私はただただ涙を流す。
死んでしまった友人と元パーティーメンバーのことを思い、唇を噛み締めた。
やるせない感情に支配される私を、隣に座る徳正さんは静かに抱き寄せる。
気休めにもならない慰めの言葉は決して言わなかった。
「……ヘスティア、辛いかもしれないが、彼らの死因を教えてくれ。それから────この場に勇者が居ない理由も」
神妙な面持ちでヘスティアさんを見つめるニールさんはそう問い掛けた。
ビクリと肩を揺らした赤髪の美女は何かを堪えるようにギュッと拳を握り締める。
重々しい雰囲気を放つ彼女は意を決したように口を開いた。
「アヤ達が死んだ原因は勇者カインが────『仲間の絆』というスキルを使ったせいだ」
暗い面持ちで話を切り出した赤髪の美女はアイテムボックスの中から、細長い笛を取り出した。
独特の模様が描かれたそれは片手で持てる程度の大きさだ。
即死回避のマジックアイテムか……魔王討伐クエストでは、かなり活躍しそう。少なくとも、今までのように一発KOされることはないだろう。まあ、詳しい説明を聞いてみないと分からないけど……。
「これは消耗系のアイテムで、十分間に一度だけどんなに強力な攻撃を受けても耐えることが出来るらしい。ただし、HPは1になるから直ぐに治癒魔法を掛けないと駄目みたいだ。使用方法は笛を思い切り吹くだけ。効果範囲は広く、笛の音を聞いた全てのプレイヤーに作用されるらしい」
何も無い空中を眺めるヘスティアさんは手に持つアイテムをおもむろにテーブルの上に置く。
思いのほか凡庸性の高い即死回避のマジックアイテムに、私は目を輝かせた。
今までは魔王討伐クエストに何度挑んでも、魔王の一撃に敗れてきた。先制攻撃を仕掛けても火力が足りず、結界符とセトのスキルで防御体制を整えても無駄だった。『あの一撃さえ、どうにか出来れば……』と考えてきたけど、まさかこんなマジックアイテムがあったなんて……予想外もいいところだ。
もし、これが魔王討伐クエストの必須アイテムなら、私達は十分な備えもなしに戦いを挑んでいたことになる……そりゃあ、負けて当然だ。魔王を倒すための準備が全然できていないのだから。
全ダンジョン攻略クエストは勇者を育てる修行であると同時に、魔王討伐クエストに必要なアイテムを集めるものなのかもしれない。
全ダンジョン攻略クエストからやって良かったと安堵していれば、何食わぬ顔でヘスティアさんが椅子に座った。まだクリア報酬の話しかしていないのに、だ。
明らかにおかしい行動に首を傾げていれば、この場を代表してニールさんが口を開く。
「ヘスティア、被害報告はどうした?まだクリア報酬の報告しか受けていないぞ」
報告の途中だと咎めるニールさんの声に、ヘスティアさんはクシャリと顔を歪めた。
その表情は怒っていると言うより、悲しんでいるように見える。
どこまでもアンバランスで、不安定な彼女は現実から目を背けるように俯いた。
いつも明るくて、元気なヘスティアさんがこんなに落ち込むなんて珍しい……何かあったんだろうか?もしかして────ウエストダンジョン攻略に参加した仲間が死んじゃった……とか?
そう考えたとき、ひやりとした何かが頬を撫でた。ダンジョンへ行く前に感じた嫌な予感が増大していき、冷や汗が溢れ出る。
『そんな事ない!』と思いたいのに、ヘスティアさんの顔を見ていると完全に否定することは出来なかった。
「ヘスティア、黙っていては何も分からないぞ」
黙りを決め込む彼女に痺れを切らし、ニールさんかそう言い放った。
トントンと一定のリズムでテーブルを叩く彼に、徳正さんは苦笑を浮かべる。
「まあまあ、そうカリカリしないでよ~。何か言いづらい事情があるんだと思うよ~。もう少し待ってあげよう~?」
「これでも充分待ったつもりだ。正直これ以上は待てない」
「も~!せっかちな男は嫌われるよ~?」
ヘスティアさんを庇う徳正さんに、ニールさんは眉を顰めた。
だが、サウスダンジョン攻略で大活躍した彼には強く出れないのか、仕方なく口を噤む。
ピリピリした空気がこの場に流れる中、私は恐る恐る口を開いた。
「……ヘスティアさん、一つだけ聞かせてください。ウエストダンジョンの攻略で────死者は出ましたか?」
「「「!?」」」
ヘスティアさんがある程度落ち着いてから……と思っていたが、我慢できず質問を投げ掛ける。
すると、この場に居る誰もが大きく目を見開いて固まった。
長い赤髪に隠れてヘスティアさんの顔は見えないが、きっと酷い顔をしていることだろう。
直ぐに否定しないってことは……死者が出てしまったんですね。もし、全員無事なら『縁起でもないこと言うな!』と怒っていたでしょうから。
怒鳴られるのを覚悟して言ったというのに、叱られないのが凄く悲しかった。
この場に何とも言えない空気が広がる中、ヘスティアさんは覚悟を決めたように顔を上げる。
ペリドットの瞳を潤ませる彼女は今にも泣き出しそうな表情で語り出した。
「ウエストダンジョン攻略で……五名ほど死者が出た。死亡したプレイヤーは────選抜メンバーのファルコ・アスタルテ・アヤ・アキラ・マヤだ……!」
聞き覚えのある名前ばかりが話題に上がり、私は目の前が真っ暗になった。
と同時に、何故ウエストダンジョン攻略チームのメンバーがこんなにも少ないのか理解する。
そりゃあ、死んじゃったら会議に出席出来ないよね……幽霊じゃないんだから。
でも、それにしたってこれは……酷すぎる。友人と元パーティーメンバーを一度に失うなんて……耐えられない!
じわりと目に涙が滲み、ギシッと奥歯を噛み締める。
改めて、ここはもう私達の知っているFROじゃないのだと……残忍で冷酷なデスゲームなのだと理解した。
理不尽な現状を恨むように自身の手元を睨みつけ、強く拳を握り締める。
「っ……!!なん、で……?どうして……!?こんな……!!」
言葉にならない怒りと悲しみが湧き起こり、上手く話せない。
そして、激情を持て余すようにガンッと勢いよくテーブルに拳を叩きつけた。
「どうして、ファルコさん達は死んだんですか……!?」
悲鳴に近い声色でそう叫び、私はポロリと一粒の涙を零す。
脳裏に思い浮かぶのは彼らと過した思い出の数々だった。
方言混じりの話し方が魅力のファルコさんは頼り甲斐のある人だった。
誰にでも分け隔てなく接してくれて、悪い噂の絶えない我々『虐殺の紅月』にも普通に話し掛けてくれた。公平性を重んじる良いリーダーだったと思う。
幼女姿のアスタルテさんは見た目に反して、頭のキレる人だった。
でも、困ったら直ぐに助けてくれて、頼りになる。おまけに凄く気が合うため、プライベートでのやり取りも多かった。
ヘスティアさんの右腕を務めるアヤさんは凄く真面目な人だ。
規則とルールを重んじる人で、暴走しがちなヘスティアさんをよく諌めている。交流はそこまで多くなかったけど、同じ見た目のせいか親近感が湧いた。
『サムヒーロー』のメンバーとして活動するマヤは優秀な魔法使いだ。
魔法のレパートリーが多く、マイペースなカインをいつもフォローしている。今は疎遠になってしまったけど、それなりに仲が良かった。
暗殺者のアキラは剣の扱いに長けており、周りをよく見ている。
カインの討ち漏らしをいつも処分しているため、カインの尻拭い役だとよく揶揄われていた。
口数はあまり多くないけど、私の話をきちんと聞いてくれる人だ。
懐かしい記憶を振り返り、私はただただ涙を流す。
死んでしまった友人と元パーティーメンバーのことを思い、唇を噛み締めた。
やるせない感情に支配される私を、隣に座る徳正さんは静かに抱き寄せる。
気休めにもならない慰めの言葉は決して言わなかった。
「……ヘスティア、辛いかもしれないが、彼らの死因を教えてくれ。それから────この場に勇者が居ない理由も」
神妙な面持ちでヘスティアさんを見つめるニールさんはそう問い掛けた。
ビクリと肩を揺らした赤髪の美女は何かを堪えるようにギュッと拳を握り締める。
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