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第五章
第247話『サウスダンジョン攻略完了』
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「ファフニールの討伐は────リーダー、ラルカさん、徳正さんの三人にやって頂きます。彼らが全力で切り掛かれば、恐らく直ぐに倒れるでしょう」
確信を滲ませた声色でそう答えれば、セトとニールさんは『あれが全力じゃなかったのか!?』と絶句した。
逆に三人の実力を知るリアムさんとレオンさんは『まあ、それが妥当な判断だろうな』と納得する。特に反対意見など出なかった────その四人からは。
「え~!俺っちも行くの~?ラルカと主君だけでいいじゃ~ん!俺っちはラーちゃんの傍にいる~!」
やだやだと駄々を捏ねる黒衣の忍びは抱っこした私をギュッと抱き締めた。
『離さないもん!』と言い張る徳正さんに苦笑を漏らしつつ、彼の胸板を押す。
イーストダンジョンでの出来事がよっぽど印象に残っているのか、彼は決して私の傍から離れようとしなかった。
「分かりました。では、こうしましょう────セト、レオンさん」
こうなることは事前に分かっていたので、私は優秀なタンクとアタッカーを呼び寄せた。
素直に近づいてきた二人の手を引き、私の前に立たせる。タンクのセトに関してはきちんと盾を構えさせた。
「徳正さんが戻って来るまで、私はセトとレオンさんの後ろから動きません。これなら、ファフニールの攻撃が飛んで来ても安全です。お二人の防御力なら、一撃くらい受けても大丈夫でしょうから。どうですか?これでもまだ不安ですか?」
遠回しにセトとレオンさんを肉壁にすると宣言すれば、彼らはギョッとした顔でこちらを振り返った。
でも、私には色々と借りがあるので文句は言わない。
心配しなくても、大丈夫ですよ。ファフニールにはもう抵抗する気力も体力も残っていませんから。仮に攻撃を仕掛けて来たとしても、徳正さん達が何とかしてくれる筈です。お二人を肉壁に使う可能性は0に等しいので、安心してください。
これはあくまで徳正さんを説得するための口実ですから。
「う~ん……完全に安心は出来ないけど、分かったよ。そこまで言うなら、ラーちゃんの指示に従う」
思い悩んだ末に結論を出した徳正さんはまだ不安そうだが、とりあえず納得してくれたらしい。
とことん私に甘い徳正さんは一旦私を下ろすと、『絶対にここから動かないでね』と釘を刺した。
心配性な彼に苦笑を漏らしつつ、『はい』と頷く。
「周りを気遣う必要はないので、思いっきりやっちゃってください。それから、出来るだけ急所を狙ってください。少しでも多くのダメージを与えたいので。最後に、リーダーへの伝達についてですが……それは問題なさそうですね」
ファフニールの皮膚に剣を滑らせる銀髪の美丈夫は『ちゃんと聞いている』とでも言うようにこちらに手を振る。
それに頷きながら、私は黒衣の忍びとクマの着ぐるみを見上げた。
「それでは────早速作戦を開始してください」
「『承知した|(りょーかーい)』」
作戦開始の宣言に応じた二人はそれぞれ愛用の武器を手に持ち、瞬きの間に姿を消した。
ブォンッと強風が吹き荒れる中、私はスカートを押さえて前を見据える。
セト達の間からひょっこり顔を出せば、ファフニールの頭上を舞う徳正さんとラルカさんの姿が目に入った。
「一秒でも早くラーちゃんのところに帰りたいから、サクッと終わらせちゃうね~ん────|《常闇の眠り》」
暗殺系のスキルを発動した徳正さんは妖刀マサムネを構え────落下の衝撃と共にファフニールの脳を突き刺した。
刀を先に着地させた影響で逆立ちのような格好になった徳正さんは更に奥へと刃を進める。
これには、気絶寸前のファフニールも絶叫した。
『どけ、徳正』
と書かれたホワイトボードを徳正さんの頭に投げつけたラルカさんはデスサイズをギュッと握り締める。
見事後頭部にホワイトボードが直撃した徳正さんは『あでっ!?』と声を漏らしつつ、直ぐに撤退した。
きちんとホワイトボードを回収して戻ってきた彼を労いつつ、ラルカさんの動向を見守る。
攻撃系のスキルは所持していないのか、クマの着ぐるみはそのまま攻撃を仕掛けた。
愛用の大鎌を下から上に振り上げるように動かし、ブシャッと血飛沫を上げる。
赤黒い血に濡れるクマの着ぐるみはある意味ホラーだった。
子供には絶対に見せられないな……あんな姿見たら、泣いちゃうよ。
「残るはリーダーだけですね」
────このまま、決めてくれればいいのですが……。
という言葉を呑み込み、大トリを務める銀髪の美丈夫に視線を移した。
役目を終えたラルカさんが戦線から離脱する中、彼は大剣を横に構える。
ピーターサイトの瞳は静かなのに、気迫迫る何かを感じた。
「────狂戦士化50%」
小さいながらもハッキリと聞こえた声に、私は瞠目した。
まさか、50%も力を引き出すつもりなのか?と動揺する中────ドクンッと心臓が大きく鳴る。
禍々しいオーラがこの場を満たし、本能的な恐怖を駆り立てた。
「っ……!!」
悲鳴すら上げられず、その場に蹲る私は『これがリーダーの実力なのか』と震え上がる。
自分に危害を加えることは無いと分かっていても、彼の力を恐れてしまった。
『紅蓮の夜叉』の幹部であるレオンさんですら、20%以上の力は引き出さないから、何となく分かってはいたけど……まさか、ここまでとは。
想像以上の力だわ。狂戦士化50%がこんなに強力なものだったなんて……。
何故、彼が『虐殺の紅月』の長なのか、よく分かった気がする。
徳正さんやシムナさんですら敵わなかったリーダーの実力が垣間見え、私は笑みを漏らした。
本能的な恐怖は変わらないが、それ以上にリーダーの仲間であることが誇らしい。
こんなにも凄い人が私を求め、守り、傍に置いてくれることがただただ嬉しかった。
「やっちゃってください、リーダー」
そういうが早いか、リーダーはまるで瞬間移動のようにファフニールの首元まで移動した。
その際に巻き起こった風が我々の髪や服を揺らす中、彼は『ふぅー』と一つ息を吐く。
「《狂剣斬撃》」
有り余る魔力を贅沢に使い、リーダーはスキルまで発動させる。
身体能力と大剣が更に強化され、攻撃力が跳ね上がる中────彼は剣を縦に振った。
鋭い刃はファフニールの皮膚に食い込み、リーダーの怪力でどんどん奥へ進んでいく。
力技と呼ぶべき光景が広がる中、彼は奴の首下を蹴り上げ────一気に首を切り落とした。
ガタンッと大きな音を立てて、ドラゴンの首が床に落ちる。
────ふと緊張の糸が切れたようにこの場に広がる禍々しいオーラが収まった。
極度の緊張下から解放された私は深呼吸しながら、周囲を見回す。
元の原型すら留めていないファフニールの死体は光の粒子と化し────儚く散った。
淡い光の粒がこの場を満たし、汚染された空気が浄化されていく。生ゴミの腐ったような臭いはもうしなかった。
「────俺達の勝利だ」
ファフニール討伐完了を宣言したリーダーは勝利を誇るかのように左手の拳を突き上げる。
長いようで短かった戦いにようやく終止符が打たれ、私達は手を取り合って喜んだ。
歓喜の声を上げる私達の元へ、ボスフロアの扉を開けた攻略メンバーが雪崩込んでくる。
選抜メンバーの無事を確認し、涙する彼らは良かったと安堵した。
「これでようやく、仲間の元へ帰れますね」
「だね~。さっさと帰って、休も~?俺っち、疲れちゃった~」
どんちゃん騒ぎする他のメンバーを他所に、徳正さんは肩をほぐす。
当たり前のように私の隣に立つ彼は拍子抜けするほど、いつも通りだった。
他のプレイヤーに讃えられるほどの偉業を成し遂げたんだから、もう少し喜んでもいいのに。まあ、そこが徳正さんらしいけど。
「休むのはまだ早いですよ。帰り道も大変なんですから。気を抜かいでくださいね」
「え~!?嘘でしょ~!?」
ゲッ!と顔を顰める徳正さんに、私はクスクスと笑みを漏らす。
────こうして、サウスダンジョン攻略は一人も欠けることなく終わりを迎えた。
確信を滲ませた声色でそう答えれば、セトとニールさんは『あれが全力じゃなかったのか!?』と絶句した。
逆に三人の実力を知るリアムさんとレオンさんは『まあ、それが妥当な判断だろうな』と納得する。特に反対意見など出なかった────その四人からは。
「え~!俺っちも行くの~?ラルカと主君だけでいいじゃ~ん!俺っちはラーちゃんの傍にいる~!」
やだやだと駄々を捏ねる黒衣の忍びは抱っこした私をギュッと抱き締めた。
『離さないもん!』と言い張る徳正さんに苦笑を漏らしつつ、彼の胸板を押す。
イーストダンジョンでの出来事がよっぽど印象に残っているのか、彼は決して私の傍から離れようとしなかった。
「分かりました。では、こうしましょう────セト、レオンさん」
こうなることは事前に分かっていたので、私は優秀なタンクとアタッカーを呼び寄せた。
素直に近づいてきた二人の手を引き、私の前に立たせる。タンクのセトに関してはきちんと盾を構えさせた。
「徳正さんが戻って来るまで、私はセトとレオンさんの後ろから動きません。これなら、ファフニールの攻撃が飛んで来ても安全です。お二人の防御力なら、一撃くらい受けても大丈夫でしょうから。どうですか?これでもまだ不安ですか?」
遠回しにセトとレオンさんを肉壁にすると宣言すれば、彼らはギョッとした顔でこちらを振り返った。
でも、私には色々と借りがあるので文句は言わない。
心配しなくても、大丈夫ですよ。ファフニールにはもう抵抗する気力も体力も残っていませんから。仮に攻撃を仕掛けて来たとしても、徳正さん達が何とかしてくれる筈です。お二人を肉壁に使う可能性は0に等しいので、安心してください。
これはあくまで徳正さんを説得するための口実ですから。
「う~ん……完全に安心は出来ないけど、分かったよ。そこまで言うなら、ラーちゃんの指示に従う」
思い悩んだ末に結論を出した徳正さんはまだ不安そうだが、とりあえず納得してくれたらしい。
とことん私に甘い徳正さんは一旦私を下ろすと、『絶対にここから動かないでね』と釘を刺した。
心配性な彼に苦笑を漏らしつつ、『はい』と頷く。
「周りを気遣う必要はないので、思いっきりやっちゃってください。それから、出来るだけ急所を狙ってください。少しでも多くのダメージを与えたいので。最後に、リーダーへの伝達についてですが……それは問題なさそうですね」
ファフニールの皮膚に剣を滑らせる銀髪の美丈夫は『ちゃんと聞いている』とでも言うようにこちらに手を振る。
それに頷きながら、私は黒衣の忍びとクマの着ぐるみを見上げた。
「それでは────早速作戦を開始してください」
「『承知した|(りょーかーい)』」
作戦開始の宣言に応じた二人はそれぞれ愛用の武器を手に持ち、瞬きの間に姿を消した。
ブォンッと強風が吹き荒れる中、私はスカートを押さえて前を見据える。
セト達の間からひょっこり顔を出せば、ファフニールの頭上を舞う徳正さんとラルカさんの姿が目に入った。
「一秒でも早くラーちゃんのところに帰りたいから、サクッと終わらせちゃうね~ん────|《常闇の眠り》」
暗殺系のスキルを発動した徳正さんは妖刀マサムネを構え────落下の衝撃と共にファフニールの脳を突き刺した。
刀を先に着地させた影響で逆立ちのような格好になった徳正さんは更に奥へと刃を進める。
これには、気絶寸前のファフニールも絶叫した。
『どけ、徳正』
と書かれたホワイトボードを徳正さんの頭に投げつけたラルカさんはデスサイズをギュッと握り締める。
見事後頭部にホワイトボードが直撃した徳正さんは『あでっ!?』と声を漏らしつつ、直ぐに撤退した。
きちんとホワイトボードを回収して戻ってきた彼を労いつつ、ラルカさんの動向を見守る。
攻撃系のスキルは所持していないのか、クマの着ぐるみはそのまま攻撃を仕掛けた。
愛用の大鎌を下から上に振り上げるように動かし、ブシャッと血飛沫を上げる。
赤黒い血に濡れるクマの着ぐるみはある意味ホラーだった。
子供には絶対に見せられないな……あんな姿見たら、泣いちゃうよ。
「残るはリーダーだけですね」
────このまま、決めてくれればいいのですが……。
という言葉を呑み込み、大トリを務める銀髪の美丈夫に視線を移した。
役目を終えたラルカさんが戦線から離脱する中、彼は大剣を横に構える。
ピーターサイトの瞳は静かなのに、気迫迫る何かを感じた。
「────狂戦士化50%」
小さいながらもハッキリと聞こえた声に、私は瞠目した。
まさか、50%も力を引き出すつもりなのか?と動揺する中────ドクンッと心臓が大きく鳴る。
禍々しいオーラがこの場を満たし、本能的な恐怖を駆り立てた。
「っ……!!」
悲鳴すら上げられず、その場に蹲る私は『これがリーダーの実力なのか』と震え上がる。
自分に危害を加えることは無いと分かっていても、彼の力を恐れてしまった。
『紅蓮の夜叉』の幹部であるレオンさんですら、20%以上の力は引き出さないから、何となく分かってはいたけど……まさか、ここまでとは。
想像以上の力だわ。狂戦士化50%がこんなに強力なものだったなんて……。
何故、彼が『虐殺の紅月』の長なのか、よく分かった気がする。
徳正さんやシムナさんですら敵わなかったリーダーの実力が垣間見え、私は笑みを漏らした。
本能的な恐怖は変わらないが、それ以上にリーダーの仲間であることが誇らしい。
こんなにも凄い人が私を求め、守り、傍に置いてくれることがただただ嬉しかった。
「やっちゃってください、リーダー」
そういうが早いか、リーダーはまるで瞬間移動のようにファフニールの首元まで移動した。
その際に巻き起こった風が我々の髪や服を揺らす中、彼は『ふぅー』と一つ息を吐く。
「《狂剣斬撃》」
有り余る魔力を贅沢に使い、リーダーはスキルまで発動させる。
身体能力と大剣が更に強化され、攻撃力が跳ね上がる中────彼は剣を縦に振った。
鋭い刃はファフニールの皮膚に食い込み、リーダーの怪力でどんどん奥へ進んでいく。
力技と呼ぶべき光景が広がる中、彼は奴の首下を蹴り上げ────一気に首を切り落とした。
ガタンッと大きな音を立てて、ドラゴンの首が床に落ちる。
────ふと緊張の糸が切れたようにこの場に広がる禍々しいオーラが収まった。
極度の緊張下から解放された私は深呼吸しながら、周囲を見回す。
元の原型すら留めていないファフニールの死体は光の粒子と化し────儚く散った。
淡い光の粒がこの場を満たし、汚染された空気が浄化されていく。生ゴミの腐ったような臭いはもうしなかった。
「────俺達の勝利だ」
ファフニール討伐完了を宣言したリーダーは勝利を誇るかのように左手の拳を突き上げる。
長いようで短かった戦いにようやく終止符が打たれ、私達は手を取り合って喜んだ。
歓喜の声を上げる私達の元へ、ボスフロアの扉を開けた攻略メンバーが雪崩込んでくる。
選抜メンバーの無事を確認し、涙する彼らは良かったと安堵した。
「これでようやく、仲間の元へ帰れますね」
「だね~。さっさと帰って、休も~?俺っち、疲れちゃった~」
どんちゃん騒ぎする他のメンバーを他所に、徳正さんは肩をほぐす。
当たり前のように私の隣に立つ彼は拍子抜けするほど、いつも通りだった。
他のプレイヤーに讃えられるほどの偉業を成し遂げたんだから、もう少し喜んでもいいのに。まあ、そこが徳正さんらしいけど。
「休むのはまだ早いですよ。帰り道も大変なんですから。気を抜かいでくださいね」
「え~!?嘘でしょ~!?」
ゲッ!と顔を顰める徳正さんに、私はクスクスと笑みを漏らす。
────こうして、サウスダンジョン攻略は一人も欠けることなく終わりを迎えた。
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