『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
237 / 315
第五章

第236話『お願い』

しおりを挟む
「────レイブン、さっきはうちの参謀が世話になったな」

 平坦な声でそう告げるリーダーは氷のように冷え冷えとした眼差しをレイブンに向ける。
表情は相変わらずの無表情だが、彼の放つ雰囲気が少しだけピリピリしていた。

『お頭、お手柄だな』

「たまたまだ。恐らく、徳正にがっちりガードされていたラミエル達は倒せないと思って、俺を狙ったんだろう。格上だと分かっていながら」

「なるほど。一か八かの賭けに出た訳だね☆でも、狙った相手が悪かったようだ」

 えーっと、つまり話を整理すると……影移動の最大使用時間を切りそうになり、焦ったレイブンが護衛対象外のリーダーに襲い掛かったって訳ね。一応、ラルカさんを狙うっていう選択肢もあったけど、近場に居たのがリーダーだったから彼を狙ったのだろう。
まあ、どちらにせよ捕獲されていただろうけど……ラルカさんも相当の手練だからね。

 何とか状況を呑み込んだ私はリーダーの中で『カァーカァー!』と鳴くレイブンを眺める。
翼を動かし、バタバタ暴れるレイブンは逃げ出そうと必死だった。

「どうやら、スキルの最大使用時間は過ぎたみたいですね。さっきみたいに影移動を使って、逃げようとしませんから」

「そうみたいだな」

 無機質な瞳でレイブンを見下ろす銀髪の美丈夫はふと視線をあげる。
彼の視線の先には扉に寄りかかって、こちらの様子を見守る徳正さんの姿があった。

「徳正、これはお前にくれてやる。煮るなり焼くなり好きにしろ」

 そう言って、リーダーはレイブンの首を鷲掴みにしたまま差し出した。

「え?いいの~?」

「ああ」

「やった~!主君、ありがと~!」

 両手を上げ、ぴょんぴょん跳ねる黒衣の忍びは嬉しそうに笑い、リーダーからレイブンを譲り受ける。
銀髪の美丈夫と同じようにレイブンの首を掴んだ徳正さんはニヤリと口角を上げた。
そして、何を思ったのかレイブンの羽根に手をかける。

「俺っちって、とっても親切だからさ────殺す前にちゃんと痛みを教えてあげるね~」

 満面の笑みでそう言い放った徳正さんはブチブチブチブチ!と羽根を豪快に毟った。
そこに罪悪感や後悔といった感情は一切なく、ただただ楽しそうに笑っている。
ある意味シムナさんより残虐性が高い徳正さんは『反対もちゃんとやってあげるからね~』と言って、もう一個の翼に目を向けた。
羽根を毟る度、レイブンの悲痛の叫び声……と言うか鳴き声が響き渡る。

 ダメだ、この人……拷問始めちゃったよ。不機嫌なのは分かっていたけど、普通そこまでする!?スパッと首を撥ねて、終わりだと思っていたのに……。

『お頭、あのまま放置していいのか?』

「構わない。たまにはストレスを発散させないといけないからな。それに今回はラミエルも居るし、直ぐに終わると思うぞ」

『確かにそうだな。ラミエルが一声掛ければ、直ぐに帰って来そうだ』

 大して驚きもせず、呑気に会話を交わすラルカさんとリーダーは傍観を決め込んでいる。
付き合いが長い分、こういうのに慣れているらしい。

 徳正さんが仲間以外に容赦がないのは知っていたけど、魔物モンスター相手にここまでするなんて……普段の彼からは想像もつかない。
────なんだか、徳正さんが知らない人みたいでちょっと怖い……かも。

 初めて見た徳正さんの残虐な一面に不安が膨らみ、ほぼ無意識に手を伸ばす。
彼が本当に私の知っている徳正さんなのか、確認したくて彼の袖口をキュッと掴んだ。
すると、徳正さんが驚いたようにこちらを振り返り、その瞳に私を映した。

「ラーちゃん?どうしたの?何かあった?凄く不安そうな顔してる……」

 死にかけのレイブンを即座に放り出した黒衣の忍びは心配そうに私の顔を覗き込み、私の頬を両手で包み込む。
その眼差しが、手つきが、表情があまりにも優しくて……嗚呼、いつもの徳正さんだと心底安心した。

「徳正さん」

「ん?どうしたの?ラーちゃん」

「一つお願いしてもいいですか?」

 セレンディバイトの瞳を見つめ、不安げにそう尋ねれば────彼はふわりと柔らかい笑みを浮かべた。

「もちろん!ラーちゃんのお願いなら、何でも聞いてあげる!」

 一瞬の躊躇いもなく、そう言い切った黒衣の忍びに迷いは一切感じられなかった。
私にだけ異常なほど甘いこの人は親指の腹で私の頬を撫でる。
それが擽ったくて……でも、嬉しくて自然と笑みが零れた。

「あのですね……レイブンを早く消して欲しいんです。ダメですか?」

「ううん!ぜ~んぜん!直ぐに殺すね!」

 あれほどレイブンの殺し方に拘っていたというのに、徳正さんは驚くほどあっさり頷いた。
そして、床に転がるレイブンを見もせず、愛刀の妖刀マサムネで首を刎ねる。
ただでさえ瀕死状態だったレイブンは即座に光の粒子と化した。
徳正さんを別人みたいに変えてしまったフロアボスが居なくなり、ホッと胸を撫で下ろす。

「お願いを聞いて下さり、ありがとうございます、徳正さん」

「どういたしまして~!お礼はほっぺにチューでいいよ~」

「……徳正さん、叩きますよ」

「ちょっ!冗談だって~!」

 胸の前で手を振り、フルフルと首を振る徳正さんは『あははは~』と乾いた笑みを漏らす。
普段と変わらない彼の姿に溜め息を零しつつ、私は両手を広げた。
そして、ギュッと徳正さんの体に抱きつく。

 こ、今回のお願いは完全に私のワガママだし、これくらいはね!うん!

「お、お礼はこれで我慢してください!」

「えっ……?」

「と、とりあえずお礼はしましたからね!」

 呆然とした表情で固まる徳正さんから、パッと体を離し、真っ赤な頬を隠す。
フイッと視線を逸らす私の前で、黒衣の忍びはハッと正気を取り戻した。

「俺っち、今ハグされた!?ラーちゃんに!?ちょっ、もう一回お願い!!ラーちゃんの柔らかい体をギュッて抱き締めたい!!」

 ガバッと両手を広げ、徳正さんは『ラーちゃん、カモン!』と叫ぶ。
完全に不審者と化した黒衣の忍びはとにかく必死で、変態にしか見えない。
ニールさん達が『大丈夫か?こいつ』という視線を向ける中、私は徳正さんの腕をペシッと叩き落とした。

「徳正さん、次はグーですからね」

「え~!ラーちゃんのケチ~!」

 不満そうに口先を尖らせる徳正さんに、私はクスクスと笑みを漏らす。
いつもと変わらない日常が嬉しくて、ついつい頬が緩んだ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...