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第五章
第235話『レイブンの討伐方法』
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「徳正さん、レイブンの動きを完全に把握することは出来ますか?」
殺気立つ黒衣の忍びにそう問い掛ければ、彼は僅かに雰囲気を和らげる。
感情的になっているものの、理性は失っていないらしい。
まあ、話し掛けた相手が私だからかもしれないが……。
「うん。気配はバッチリ覚えたから、完璧に把握出来るよ」
「では、レイブンは今どちらに?」
「部屋の隅に居るよ。俺っちを警戒しているのか、目立った動きはない」
「なるほど。分かりました」
険しい顔つきで部屋の隅を睨みつける徳正さんに苦笑しつつ、私はそっと目を伏せた。
レイブンを討伐するにあたって、最も厄介なのは奴の持つ『影移動』だ。
奇襲攻撃ももちろん厄介だが、物理攻撃を無効化する仕様も非常に面倒臭い……。捕まえるのだって一苦労だ。
だが、しかし……運営がそんな化け物キャラを何の制限もなしにぶち込むとは思えない。だって、影移動が無限に使えたら、プレイヤーに勝ち目はないもん。
だから────。
「『影移動』には必ず制限がある筈です。それが回数制限なのか時間制限なのかは分かりませんが、私の予想が当たっていれば恐らく────時間制限の方かと」
わざと声に出してそう言えば、徳正さんの視線が左へ動く。
『罠に掛かったな』と一人ほくそ笑みながら、私は言葉を続けた。
「回数制限なら、影の中にずっと留まってやり過ごすことが出来ますから。それでは、戦いにならないでしょう?なので、運営はきっと時間制限にした筈です。だから────」
そこでわざとらしく言葉を切れば、隣に立つ徳正さんがいきなり抜刀した。
足元に視線を落とすと、私の影から姿を現す大きなカラスが目に入る。
「────影移動の制限時間が尽きる前に私達を倒しに掛かる筈です。こんな風に」
金色の瞳と視線が交わり、私はニヤリと口元を歪める。
本能的に危機を察知したレイブンは瞬時にスキルを発動し、ドロドロに溶けた。
────と、ここで徳正さんの刀が液体状になったレイブンを斬り付ける。
だが、液体を切ってもダメージは入らないため、徳正さんの攻撃は不発に終わった。
『チッ!』と大きな舌打ちをする徳正さんに苦笑しつつ、私は前を見すえる。
「なので、私達のやることは大きく分けて二つです。レイブンの奇襲を返り討ちにするか、影移動の制限時間が過ぎてから袋叩きにするか。長期戦に持ち込めれば、確実に私達の勝ちです」
勝ち筋が見えたと語れば、選抜メンバーは大いに沸き上がる。
不安そうにしていたニールさんやセトの表情も和らげた。
安堵する彼らを前に、私は表情を引き締める。
「────とはいえ、レイブンの奇襲攻撃はかなりの脅威です。なので、奇襲されても完璧に対応出来るラルカさんとリーダー以外は徳正さんに守ってもらいます。徳正さんなら、気配探知でレイブンの居場所が常に分かるでしょうから」
「え~?あいつらも守らなきゃいけないの~?ラーちゃんなら、喜んで守るけどさ~」
殺気を仕舞った黒衣の忍びは心底面倒臭そうに溜め息を零す。
まだ機嫌が直っていないのか、眉間に刻まれた深い皺はそのままだった。
恐らく、他のメンバーを守ることより、レイブンの討伐に集中したいのだろう。
徳正さんがここまで不満を露わにすることは珍しいし、妥協してあげたいところだけど……レイブンの居場所を把握出来るのが彼しか居ないため、そうもいかない。
「では、こうしましょう。非常事態を除き、レイブンの討伐は全面的に徳正さんに任せます。ですから、ニールさん達のことも守ってあげて下さい。これは徳正さんにしか出来ない事なんです」
セレンディバイトの瞳を真っ直ぐに見つめ、『お願いします』と言って頭を下げる。
すると、彼は僅かに目を細め、『仕方ないな』とでも言うように苦笑を浮かべた。
「分かったよ。それがラーちゃんのお願いなら、聞いてあげる。俺っちの全てはラーちゃんのためにあるんだから」
そう言って、徳正さんは私の頭を撫で、柔らかい表情を浮かべた。
さっきまでの殺伐とした雰囲気が嘘のように、甘い雰囲気を放っている。
どこかから、ボソッと『これぞ、まさに猛獣使いだな』という呟きが聞こえたが……私の気のせいだろう。
とりあえず、徳正さんの機嫌も直ったし、あとは時間が経つのを待つだけかな。こう言っちゃなんだけど、忙しいのは徳正さんだけで、他の人達は基本ボーッとしているだけでいいから。
我ながら、他力本願な作戦だと思う。でも、効率や安全性を考えるなら、これが一番手っ取り早かった。
「────次はそっちか」
そんな呟きが聞こえたかと思えば、突風が吹き、私の髪を揺らした。
ふわりと舞い上がるスカートを手で押さえつつ、辺りを見渡せば、黒い液体に剣を突きつける徳正さんの姿が目に入る。
その傍には『ひょえっ!?』と変な悲鳴を上げるセトの姿があった。
標的をセトに移したレイブンに気づき、急いで斬りかかったけど、ギリギリ間に合わなかった……ってところかな?
見たところ、セトは無傷みたいだし、護衛の役割はきちんと果たしているみたいね。
────なんて呑気に観察していられるのも今のうちだけだった。
何故なら……徳正さんとレイブンによる、ハイレベルな攻防戦が始まったから。
影移動で奇襲を狙うレイブンと圧倒的スピードでそれを追う徳正さんの戦いは熾烈を極めた。
「oh......これじゃあ、二人の姿が見えないよ」
「まず、風が凄くて目を開けられんねぇ……油断したら、一瞬で乾燥しちまう」
「条件付きとはいえ、テレポートみたいな技を使うレイブンによくついていけますね……」
「さすがは“影の疾走者”としか言いようがないな」
リアムさん、レオンさん、セト、ニールさんの四人は感心半分呆れ半分といった様子でそう呟く。
徳正さんの素早さやスピードが桁違いすぎて、心が追いついて来ないようだ。
対するリーダーとラルカさんは呑気に武器のお手入れを始めている。うちのメンバーは相変わらずマイペースだった。
あの二人は本当にブレないなぁ……っと、それより────レイブンが影移動を使ってから、かれこれ十五分が経過するけど……もうそろそろ、スキルの最大使用時間に達するんじゃないかな?時間制限が設けられたスキルはどれも大体十五分くらいで終わるから。もちろん、例外はあるけど。
でも、あの無敵状態が何時間も続くとは思えない……。
「徳正さん、恐らくレイブンのスキルはもうそろそろ切れます。あともう少しだけ頑張ってください」
「ん。りょーかーい」
目で追えない“影の疾走者”に『ラストスパートだ』とエールを送れば、遠くの方から間延びした返事が返ってくる。
前後左右あらゆる方向から風が吹き付け、必死にスカートを押さえていると────不意に『クギャァァァア!』という奇妙な鳴き声が聞こえた。
それを合図に、あちこちから吹いていた風がピタリと止まる。
『ついに殺ったのか?』と思いつつ、辺りを見回すと────リーダーに首根っこを掴まれたレイブンの姿が見えた。
「────レイブン、さっきはうちの参謀が世話になったな」
殺気立つ黒衣の忍びにそう問い掛ければ、彼は僅かに雰囲気を和らげる。
感情的になっているものの、理性は失っていないらしい。
まあ、話し掛けた相手が私だからかもしれないが……。
「うん。気配はバッチリ覚えたから、完璧に把握出来るよ」
「では、レイブンは今どちらに?」
「部屋の隅に居るよ。俺っちを警戒しているのか、目立った動きはない」
「なるほど。分かりました」
険しい顔つきで部屋の隅を睨みつける徳正さんに苦笑しつつ、私はそっと目を伏せた。
レイブンを討伐するにあたって、最も厄介なのは奴の持つ『影移動』だ。
奇襲攻撃ももちろん厄介だが、物理攻撃を無効化する仕様も非常に面倒臭い……。捕まえるのだって一苦労だ。
だが、しかし……運営がそんな化け物キャラを何の制限もなしにぶち込むとは思えない。だって、影移動が無限に使えたら、プレイヤーに勝ち目はないもん。
だから────。
「『影移動』には必ず制限がある筈です。それが回数制限なのか時間制限なのかは分かりませんが、私の予想が当たっていれば恐らく────時間制限の方かと」
わざと声に出してそう言えば、徳正さんの視線が左へ動く。
『罠に掛かったな』と一人ほくそ笑みながら、私は言葉を続けた。
「回数制限なら、影の中にずっと留まってやり過ごすことが出来ますから。それでは、戦いにならないでしょう?なので、運営はきっと時間制限にした筈です。だから────」
そこでわざとらしく言葉を切れば、隣に立つ徳正さんがいきなり抜刀した。
足元に視線を落とすと、私の影から姿を現す大きなカラスが目に入る。
「────影移動の制限時間が尽きる前に私達を倒しに掛かる筈です。こんな風に」
金色の瞳と視線が交わり、私はニヤリと口元を歪める。
本能的に危機を察知したレイブンは瞬時にスキルを発動し、ドロドロに溶けた。
────と、ここで徳正さんの刀が液体状になったレイブンを斬り付ける。
だが、液体を切ってもダメージは入らないため、徳正さんの攻撃は不発に終わった。
『チッ!』と大きな舌打ちをする徳正さんに苦笑しつつ、私は前を見すえる。
「なので、私達のやることは大きく分けて二つです。レイブンの奇襲を返り討ちにするか、影移動の制限時間が過ぎてから袋叩きにするか。長期戦に持ち込めれば、確実に私達の勝ちです」
勝ち筋が見えたと語れば、選抜メンバーは大いに沸き上がる。
不安そうにしていたニールさんやセトの表情も和らげた。
安堵する彼らを前に、私は表情を引き締める。
「────とはいえ、レイブンの奇襲攻撃はかなりの脅威です。なので、奇襲されても完璧に対応出来るラルカさんとリーダー以外は徳正さんに守ってもらいます。徳正さんなら、気配探知でレイブンの居場所が常に分かるでしょうから」
「え~?あいつらも守らなきゃいけないの~?ラーちゃんなら、喜んで守るけどさ~」
殺気を仕舞った黒衣の忍びは心底面倒臭そうに溜め息を零す。
まだ機嫌が直っていないのか、眉間に刻まれた深い皺はそのままだった。
恐らく、他のメンバーを守ることより、レイブンの討伐に集中したいのだろう。
徳正さんがここまで不満を露わにすることは珍しいし、妥協してあげたいところだけど……レイブンの居場所を把握出来るのが彼しか居ないため、そうもいかない。
「では、こうしましょう。非常事態を除き、レイブンの討伐は全面的に徳正さんに任せます。ですから、ニールさん達のことも守ってあげて下さい。これは徳正さんにしか出来ない事なんです」
セレンディバイトの瞳を真っ直ぐに見つめ、『お願いします』と言って頭を下げる。
すると、彼は僅かに目を細め、『仕方ないな』とでも言うように苦笑を浮かべた。
「分かったよ。それがラーちゃんのお願いなら、聞いてあげる。俺っちの全てはラーちゃんのためにあるんだから」
そう言って、徳正さんは私の頭を撫で、柔らかい表情を浮かべた。
さっきまでの殺伐とした雰囲気が嘘のように、甘い雰囲気を放っている。
どこかから、ボソッと『これぞ、まさに猛獣使いだな』という呟きが聞こえたが……私の気のせいだろう。
とりあえず、徳正さんの機嫌も直ったし、あとは時間が経つのを待つだけかな。こう言っちゃなんだけど、忙しいのは徳正さんだけで、他の人達は基本ボーッとしているだけでいいから。
我ながら、他力本願な作戦だと思う。でも、効率や安全性を考えるなら、これが一番手っ取り早かった。
「────次はそっちか」
そんな呟きが聞こえたかと思えば、突風が吹き、私の髪を揺らした。
ふわりと舞い上がるスカートを手で押さえつつ、辺りを見渡せば、黒い液体に剣を突きつける徳正さんの姿が目に入る。
その傍には『ひょえっ!?』と変な悲鳴を上げるセトの姿があった。
標的をセトに移したレイブンに気づき、急いで斬りかかったけど、ギリギリ間に合わなかった……ってところかな?
見たところ、セトは無傷みたいだし、護衛の役割はきちんと果たしているみたいね。
────なんて呑気に観察していられるのも今のうちだけだった。
何故なら……徳正さんとレイブンによる、ハイレベルな攻防戦が始まったから。
影移動で奇襲を狙うレイブンと圧倒的スピードでそれを追う徳正さんの戦いは熾烈を極めた。
「oh......これじゃあ、二人の姿が見えないよ」
「まず、風が凄くて目を開けられんねぇ……油断したら、一瞬で乾燥しちまう」
「条件付きとはいえ、テレポートみたいな技を使うレイブンによくついていけますね……」
「さすがは“影の疾走者”としか言いようがないな」
リアムさん、レオンさん、セト、ニールさんの四人は感心半分呆れ半分といった様子でそう呟く。
徳正さんの素早さやスピードが桁違いすぎて、心が追いついて来ないようだ。
対するリーダーとラルカさんは呑気に武器のお手入れを始めている。うちのメンバーは相変わらずマイペースだった。
あの二人は本当にブレないなぁ……っと、それより────レイブンが影移動を使ってから、かれこれ十五分が経過するけど……もうそろそろ、スキルの最大使用時間に達するんじゃないかな?時間制限が設けられたスキルはどれも大体十五分くらいで終わるから。もちろん、例外はあるけど。
でも、あの無敵状態が何時間も続くとは思えない……。
「徳正さん、恐らくレイブンのスキルはもうそろそろ切れます。あともう少しだけ頑張ってください」
「ん。りょーかーい」
目で追えない“影の疾走者”に『ラストスパートだ』とエールを送れば、遠くの方から間延びした返事が返ってくる。
前後左右あらゆる方向から風が吹き付け、必死にスカートを押さえていると────不意に『クギャァァァア!』という奇妙な鳴き声が聞こえた。
それを合図に、あちこちから吹いていた風がピタリと止まる。
『ついに殺ったのか?』と思いつつ、辺りを見回すと────リーダーに首根っこを掴まれたレイブンの姿が見えた。
「────レイブン、さっきはうちの参謀が世話になったな」
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