『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
234 / 315
第五章

第233話『第三十九階層』

しおりを挟む
 第三十三階層から第三十八階層まで駆け抜けた私達は第四十階層ボスフロア一歩手前の第三十九階層まで来ていた。
目前に迫ったボス戦を前に、逸る思いを抑えつつ、私はゲーム内ディスプレイを凝視する。
情報の更新を今か今かと待ち望んでいれば、最新情報の欄が更新された。
慌ててそこをタップし、画面を切り替える。
表示された第三十九階層の情報に目を通しつつ、私は口を開いた。

「第三十九階層の魔物モンスターはアイスウルフです!『狼と七匹の子山羊』の童話に出てくる狼で、常に空腹状態だそうです。主な攻撃手段は噛みつきや突進などの物理攻撃と氷結魔法。生き物を一瞬で凍らせるほどの力はないようですが、アイススピアなどを使って攻撃を……」

 出来るだけ内容を噛み砕いて説明を行う私だったが、説明の途中で攻略メンバーがアイスウルフの前に飛び出した。
未到達階層に下りても、今までと変わらず順調に進めているせいか、少し気が緩んでいるようだ。
『待ってください!』と制止の声を上げる私に対し、彼らは得意げに笑う。

「氷結魔法に気をつけろってことだろ?なら、問題ねぇ!」

「そうよ!いちいち、そこまで説明しなくても分かるわ!もう大体分かったから!」

「僕らの手に掛かれば、こんなの朝飯前だよ!」

 完全に調子に乗っている彼らはそれぞれ武器を持って、アイスウルフに勇敢に立ち向かう。
ただ、攻略メンバー全員が調子に乗っている訳ではないようで、あちこちから仲間を呼び止める声が聞こえた。
それでも、先行したメンバーの勢いは止まらない。

 どうやら、暴走しているのは攻略メンバーの中でも前衛を担う戦闘メンバーだけみたいね。
後方支援を担当する魔法使いや回復師ヒーラーは必死に仲間を呼び戻している……。
調子づくのは勝手だけど、独断専行は頂けないかな。うちのメンバーですら、そんなことしないのに……。

 自分勝手な行動に走る一部のプレイヤーを見つめ、『はぁ……』と深い溜め息を零す。
『そう言えば、カインもよく独断専行していたなぁ』と思い返す私の傍で、徳正さん達は苦笑を浮かべていた。

「いくら何でもあれはないよね~。うちのシムナですら、ラーちゃんの話は最後まで聞くのに~」

『ダンジョン攻略が思いのほか上手くいっているから、調子に乗っているのだろう。まあ、それでも人の話は最後まで聞くべきだと思うが……』

「出発前はあんなにビクビクしていたのにな」

 各々好きな感想を述べる徳正さん達は呆れたように肩を竦めている。
彼らの行動がアホすぎて、怒る気にもなれないのだろう。

 うちのメンバーを呆れさせる人なんて、なかなか居ないよ……まあ、彼らの行いはそれくらいヤバいことなんだけど。

 未だに独断専行を続ける一部のプレイヤーに呆れ返り、私は口を閉ざした。
なんだか、彼らのために声を張り上げるのが馬鹿らしくなって来たのだ。

「強制的に引き戻すのは簡単ですが、また同じことをされても面倒ですし、一度痛い目に遭って貰いましょうか」

 己の力を過信する愚か者共に罰を与えると宣言すれば、徳正さんが『ヒュー』と口笛を吹いた。

「いいね~。面白そ~」

『異論はない』

「ラミエルの好きにしろ」

 反対する気がさらさらない彼らを前に、私はニヤリと口元を歪める。
意地の悪い笑みを浮かべながら、ゲーム内ディスプレイに表示された説明文に視線を落とした。
アイスウルフについて綴られた文章を指先で撫でる。
 無知であることがどれほど愚かなことなのか……彼らにはそれを知ってもらおう。

「徳正さん達はいつでもフォローに入れるように準備してください」

 そう指示を出せば、徳正さん達は私の言葉を疑いもせず、即座に頷く。
そして、剣や刀をそれぞれ手に取った。
 万が一の事態を想定し、純白の杖を構える中、暴走中のメンバーが残り八体となったアイスウルフに飛び掛かる。
軽やかな身のこなしでアイスウルフの足を切り落とす彼らは自信に満ち溢れていた。

 もうそろそろ、あれ・・が始まるかな?

 集団リンチに遭った一体のアイスウルフが光の粒子と化し、アイスウルフの残党はついに七体となる。
己の力を誇るように一部の攻略メンバーが武器を構え直す中、それは突然始まった。

「な、なっ……!?」

「何よ、これ……!?」

「えっ?何がどうなって……?」

 動揺、困惑、恐怖……様々な感情が声に乗って広がる中、私はただ一言『始まりましたか』と呟く。
私達の目の前では────七体のアイスウルフが共食いを始めていた。

 『狼と七匹の子山羊』に出てくる狼はとにかく腹ぺこで、大食らいだ。
だから、第三十九階層に存在する狼の数が七匹以下になったとき共食いを始める。
その結果────同族の力を全て吸収した最強の個体が出来上がるのだ。

 童話にこんな描写はなかったが、ゲームを面白くするため運営が勝手にそういう設定を盛り込んだのだろう。
そのせいでこれから彼らが苦しむ羽目になるのだが……。

「────話は最後まで聞くべきですよ」

 そう呟くのと同時に六体のアイスウルフを喰らった最後の一体が顔を上げた。
口元を真っ赤に汚した奴はググググッと身長が伸びていき、爪や牙も生え変わる。
そして、小山サイズまで大きくなったアイスウルフは真っ白な毛並みを揺らし、『グルルル』と低く唸った。
その姿はまるで伝説に出てくるフェンリルのようだ。

 共食いしたアイスウルフは全体的にステータスが底上げされていて、氷結魔法もより強力なものになっている。
本来であれば、こうなる前に仕留める筈だったのだが……彼らが勝手に討伐を始めたのだからしょうがない。
それに私は一応止めたからね!一応!

 なんて言い訳をしている間にアイスウルフが先行したメンバーに攻撃を仕掛けた。
氷結魔法で彼らの足元を凍らせ、身動きを封じたタイミングで蹴り飛ばす。
先程までとは比べ物にならない強さに、彼らは為す術なく地面に倒れた。
血を垂れ流す彼らをサポートメンバーが急いで回収し、治療を施す。
幸いなことに、傷はあまり深くないので私の出番はないだろう。

「うぅ……こんな強さ聞いてねぇーよ……」

「共食いするなら、最初に言ってよ……」

「何で教えてくれなかったんだよ……」

 この期に及んで文句を言い始める先行メンバーに誰もが呆れ返る中────ついにあの人がキレた。
額に青筋を浮かべ、眉間に深い皺を作る青髪の美丈夫は鬼のような形相で彼らを睨みつける。

「話も聞かずに飛び出したのは貴様らだろう!我々は何度も『待て!』と声をかけた!それなのにお前らと来たら、どうだ?勝手に戦闘を始めた挙句、アイスウルフの共食いも止められず、結局殺られた……それなのに、『何で教えてくれなかったの?』だと?ふざけるのも大概にしろ!」

 『蒼天のソレーユ』のギルドマスターとして、そしてサウスダンジョン攻略の最高責任者としてニールさんは彼らを怒鳴りつける。
ラピスラズリの瞳には激しい怒りが宿っており、少し恐ろしい。
青髪の美丈夫に激怒された先行メンバーは固く口を噤み、今にも泣き出しそうな顔をした。
ようやく、自分達のしたことがどれほど愚かだったのか理解出来たらしい。

 本来であれば、アイスウルフが共食いを始めた時点で分かることなんだけど……まあ、いいか。結果的に分かって貰えたんだし。

「徳正さん、あのアイスウルフはもう用済みなので倒しちゃって下さい」

「りょーかーい!俺っちに任せといて~!」

 気合い十分といった様子で頷く徳正さんはトンッと軽く地面を蹴り上げ、アイスウルフのところまでジャンプする。
巨大化したアイスウルフを前にしても微動だにしない黒衣の忍びは風を切る音と共に消えた。
目にも留まらぬ速さで地面を駆け抜ける彼は手始めに奴の前足を切り落とす。
アイスウルフが『キャウンッ』という可愛らしい鳴き声を上げ、前へ倒れると、徳正さんは一瞬で奴の首を撥ねた。
ゴトッと音を立てて奴の胴体が横に倒れる。反撃する隙すら与えられず切り捨てられたアイスウルフは光の粒子に包まれた。

 よし!事後処理完了っと!
かなり荒っぽい方法だったけど、死人は出なかったんだし、別にいいよね!独断専行を押し進めた彼らにはいい薬になっただろうし!

 『ごめんなさい』と謝りながら涙ぐむ先行メンバーを見つめ、私は僅かに頬を緩める。
和解する『蒼天のソレーユ』のメンバーを見守っていれば、突風と共に黒衣の忍びが戻ってきた。

「ラーちゃん、ただいま~!俺っち、頑張ったよ~!だから、ご褒美にハグして~!」

 満面の笑みを浮かべ、私に抱き着こうとする徳正さんを横へ避ける。
空気を抱き締める羽目になった彼は『ラーちゃんは相変わらず、つれないな~』と言って、口先を尖らせた。
あからさまに『拗ねてます』アピールをする徳正さんに苦笑を漏らしつつ、彼の頭に手を伸ばす。

 今回は私のワガママに付き合ってもらった訳だし、これくらいのご褒美があっても良いでしょう。

「徳正さん、アイスウルフの討伐お疲れ様でした」

 そう言って、彼の頭を優しく撫でれば、セレンディバイトの瞳が大きく見開かれる。
驚きを隠せない様子の徳正さんは数秒フリーズしたあと────幸せそうに微笑んだ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...