『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
233 / 315
第五章

第232話『第三十二階層』

しおりを挟む
 それから、特に怪我もなくギスの討伐を終えた私達は第三十二階層まで来ていた。
サウスダンジョンの最高到達階層は第三十一階層だったので、ここから先は完全に未知の領域と化す。
薄暗い洞窟の中で徳正さん達に囲まれる私はゲーム内ディスプレイを開き、公式サイトの画面を食い入るようにじっと見つめていた。
今か今かと情報の更新を待つ私の前で、最新情報と書かれた欄に第三十二階層の情報がアップされる。私は慌ててそれをタップした。

「情報が更新されました!今から読み上げます!」

 そう前置きしてから、私は『すぅ……』と大きく息を吸い込み、表示された文章に目を通した。

「第三十二階層の魔物モンスターはタートル!童話の『ウサギとカメ』をモチーフに作られた魔物モンスターで、防御力に特化しています!ですが、その分スピードが劣っているようで、素早い動きは出来ないみたいです。主な攻撃手段は噛みつきと火炎魔法。炎についてはドラゴンのように口から出るようですね」

 更新された公式情報を大きな声で読み上げ、口を噤む。
私の声に耳を傾けていたメンバーは『防御特化の魔物モンスターか』と零しながら、武器を構えた。
情報不足という不安を取り払えた攻略メンバーは肩から力を抜き、第三十二階層の魔物モンスターであるタートルと向き合う。
 彼らの目の前には自動販売機ほどの大きさがある巨大な亀が居た。
宝石のエメラルドのように美しい緑色の甲羅は見るからに硬そうだ。

 ある意味、タートルはうちの攻略メンバーと……いや、『蒼天のソレーユ』のギルドメンバーと一番相性が悪いかもしれない。
何度も言うように『蒼天のソレーユ』はバランス型のギルドで、連携力を売りにしている。
私達『虐殺の紅月』のような火力はない。
つまり────高火力で削り切らなきゃいけない防御特化のタートルとは根本的に合わないのだ。

 まあ、地道に体力やHPを削っていけば、いずれ勝てるだろうけど、かなり時間が掛かりそう……。ぶっちゃけ、徳正さん達の火力でゴリ押しした方が早い。

「わ~!マジで遅~い!スローモーションみたいなんだけど~!」

 子供のように目を輝かせる徳正さんは『あんなに遅く動ける奴、居たんだ~』と呟いた。
普段の彼なら『遅すぎ~』『のろま~』と馬鹿にしているところだが、ここまで遅いと感心してしまうらしい。

 まあ、タートルの動きは一般プレイヤーの私から見てもかなり遅いからね。“影の疾走者”と呼ばれる徳正さんからすれば、スローモーションにしか見えないだろう。

 タートルの口内から放たれた真っ赤な炎を刀で切り裂く黒衣の忍びは興味深そうに奴を観察している。
珍しく大はしゃぎする徳正さんを一瞥し、ふと後ろを振り向けば────いつぞやの黄色いクマの着ぐるみが目に入った。
『巨大ゴーレム討伐イベント』のときに見た黄色いクマの着ぐるみは何故かデスサイズではなく、避雷針を手に持っている。

 『またこの人は意味不明な格好を……』と呆れ返っていれば、タートルの炎を避雷針で打ち返すクマの着ぐるみが目に映った。
向かい風に煽られた炎はそのまま真っ直ぐ戻っていき、タートルの口内に入っていく。
炎が逆流した巨大な亀は呻き声を上げ、ボンッと爆発した。
光の粒子に戻っていくタートルを見つめながら、『いや、炎耐性ないんかい!』と一人ツッコミを入れる。

 炎を野球ボールみたいに打ち返すラルカさんもラルカさんだけど、自分の魔法で殺られるタートルもタートルだよ!格好悪いことこの上ない!ていうか、炎耐性くらい持っておきなよ!一応、炎系の魔物モンスターでしょう!?

 ツッコミどころ満載の討伐劇に頭を抱えていると、列の先頭に立つニールさんと不意に目が合う。
申し訳なさそうな表情を浮かべる彼はポリポリと頬を掻き、口パクで『頼めるか?』と言ってきた。
さすがのニールさんも、火力の壁を乗り超えることは出来なかったらしい。

 どんなに効率よくダメージを与えても、防御特化のタートル相手じゃ、時間が掛かっちゃうもんね。

 苦笑を浮かべる私はニールさんに『任せて下さい』と口パクで伝え、パーティーメンバーに声を掛けた。

「ニールさんから、応援要請が来ました。バランス型の『蒼天のソレーユ』ではタートルを短時間でちょっと倒すのは難しいようです。なので、我々の火力で一気に片付けましょう」

 出番が回ってきたと伝えれば、彼らは文句を言わずに頷いた。
さすがの彼らも『これは効率が悪い』と思っているらしい。

「役割分担はどうするの~?短時間で討伐するなら、俺っちが出るけど~」

『なら、僕はラミエルの護衛に回ろう』

「じゃあ、俺と徳正が前線か」

「では、そうしましょうか」

 こちらが指示する前に役割分担を終えた彼らはそれぞれ武器を構える。
まあ、一人だけ武器が避雷針なのだが……。

「んじゃ、行ってくるよ~。ラーちゃんはそこで待っててね~」

「ラルカ、ラミエルのことを頼むぞ」

 ヒラヒラと手を振る徳正さんと無表情で背を向けるリーダーに、『あとはお願いします』と声をかける。
前線組の二人は軽い跳躍で攻略メンバーの上空を飛び越えると、それぞれ左右に散っていった。
圧倒的火力を誇る精鋭達が目にも止まらぬ速さでタートルを光の粒子に変えていく。
ただでさえ、動きが鈍いタートルは彼らの姿を目視することも出来ないようだ。
 私の近くに居るタートルから片付けているせいか、こちらに奴の攻撃が飛んでくることはない。

『どうやら、僕の出番はなさそうだな』

「そうみたいですね。まあ、用心するに越したことはありませんが」

 カニスの悪足掻きで痛い目に遭ったので、ラルカさんは素直に頷く。
我々の視線の先では、気持ちいいほどの快進撃を繰り広げる徳正さんとリーダーが居た。
彼らの実力を目の当たりにした攻略メンバーは畏怖を覚えると共に感銘を受けているようだ。

 そう言えば、ニールさん以外の『蒼天のソレーユ』のメンバーは私達の戦いぶりをあんまり見たことがなかったもんね。
我々『虐殺の紅月』はボス戦以外、全然前線に出ないから……。

 多くのプレイヤーから尊敬の眼差しを向けられる黒衣の忍びと銀髪の美丈夫は最後の一体に刃を向ける。
剣と刀を構える彼らはほぼ同時に攻撃を仕掛け、タートルの甲羅と首を斬り落とした。
圧倒的硬さを誇る甲羅を意図も容易く真っ二つにしたリーダーと、確実に仕留めるため首を撥ねた徳正さんは軽い跳躍と共にこちらへ戻ってくる。
息一つ乱さず、中層魔物モンスターを片付けた彼らにあちこちから賞賛の声が上がった。

「凄い……!傷をつけるので精一杯だった甲羅をあんな風に切り捨てるなんて!」

「火炎魔法を恐れもせず、首を撥ねに行くなんて、すげぇ!!」

 ライブ会場のように沸き立つ攻略メンバーだったが……当の本人たちには『凄いことをした』という自覚がない。
剣を鞘に収めるリーダーと徳正さんは詰まらなさそうに欠伸をした。

「止まっている魔物モンスターを倒しているみたいで詰まんなかった~」

「ほとんど作業ゲーだったな。まあ、あの甲羅はまあまあ硬かったが……」

 各々好きな感想を述べる彼らは自然な動作で、私の周りを固める。
まるで、それが当たり前かのように……。

「お二人共、お疲れ様でした。素晴らしい戦いぶりでしたよ」

 労いの言葉と共に賞賛の言葉を添えれば、徳正さんは嬉しそうに微笑み、リーダーは僅かに頬を緩める。
普段と変わらない穏やかな雰囲気が流れる中、ニールさんの号令と共に私達は行進を再開するのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...