『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第五章

第230話『ナイチンゲールの討伐方法』

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 やることが変わらないとはいえ、この勘違いは相当やばい……もっと早く気づくべきだった!

 ギシッと歯軋りする私は悔しさを噛み締めながら、再び分身……いや、分裂を始めた生き残りのナイチンゲールを見つめる。
一体から二体に、二体から三体に増えていくナイチンゲールは美しい演奏を奏でた。

 ナイチンゲールと対峙してから、約八分が経過している……もう時間が無い。さっきの一斉攻撃をもう一度仕掛けている余裕すらなかった。
これは完全に私の失態だ……仲間に尻拭いを任せるのは気が引けるけど、全員無事に助かるにはこれしか方法がない。
決断を躊躇うな……今は一秒だって、時間が惜しいのだから。

 気持ちを切り替えるため、『ふぅー……』と息を吐き出した私は黒衣の忍びを手招いた。
風と共に即座に駆け付けてくれた徳正さんを前に、私は口を開く。

「もう一刻の猶予もありません────影魔法を使いましょう」

 出来るだけ温存しておく筈だった影魔法の使用を促せば、徳正さんは驚いたように目を見開いた。
でも、このままではやばいと分かっているのか、反論はしない。

「おっけ~。鳥ごときに影魔法を使うのはちょっと癪だけど、仕方ないね~。こんなところで死ぬ訳にはいかないし~」

 影魔法の使用を二つ返事をOKした徳正さんはヘラリと笑い、ナイチンゲールと向き合った。
未だに分裂を続けるナイチンゲールは既に十体にまで増えている。
死の歌を奏でるナイチンゲールを前に、徳正さんは僅かに目を細めた。

「────起きろ、影」

 詠唱ですらないその言葉に徳正さんの影がピクッと反応を示した。
影の目覚めを表すかのように彼の影がゆらりと横に揺れる。

『何用だ?俺の眠りを妨げたんだ、それなりに重要な用事なんだろう?そうでなければ、地獄の底まで叩き落とす!』

 どこからともなく聞こえてきたその声には聞き覚えがある。
心地よい眠りを妨げてしまったことに罪悪感を感じながら、私は声の主である影に話し掛けた。

「申し訳ありません、影さん……私の失態のせいで起こす羽目になってしまって」

『ら、ラミエルさん……!?貴方が謝る必要はありません!貴方のためなら、いつでも起きますので!』

「いや、俺っちの影なんだから、俺っちのために起きてよ!!」

 優しい影さんに思わずツッコミを入れる徳正さんはガンガンと地面を……と言うか、自分の影を蹴りつける。
だが、物理攻撃など全く効かない影さんは平然としていた。

 この二人は相変わらずだなぁ……。
仲が悪い訳ではないと思うけど、なんというか……喧嘩が絶えない。まあ、いつも一方的に徳正さんが怒っているだけだけど。

『そ、それでラミエルさん!俺は何をしたら、いいですか?』

「あ、えっと……あそこに居る鳥を全て倒して欲しいんです。本当は自分達の力で何とかするつもりだったんですが、時間が無くて……お願い出来ませんか?」

 分裂を繰り返し、ついに二十体となったナイチンゲールを指さし、影さんにそうお願いする。
ギュッと両手を握り締め、徳正さんの影をじっと見つめれば、実体化した影がこちらに手を伸ばした。
温度のない真っ黒な手が私の頭をポンポンと撫でる。

『それくらい、お易い御用ですよ。俺に任せて下さい。だから、そんな顔しないで下さい。ラミエルさんには笑顔が一番似合います』

「影さん……」

 鼓膜を揺らす優しい声と頭を撫でる黒い手に励まされ、少しだけ表情を和らげる。
どこまでも紳士的で、優しい影さんにふわりと笑いかけた。

「影さん、ありがとうございま……」

「────ちょーっと、待ったー!何でラーちゃんと影がいい雰囲気になっているの!?ていうか、ラーちゃんを励ますのは俺っちの役割なんだけど!?なに、横取りしてんの!?」

 私の言葉を遮り、大声を上げる徳正さんは『納得いかない!』と言わんばかりに自身の影を指さす。
見事なまでに雰囲気をぶち壊した徳正さんに対し、私と影さんは『はぁ……』と深い溜め息を零した。

 徳正さんって、本当にKYだよね。せっかくの雰囲気が台無しだよ。

「はぁ……徳正さん、騒ぐのもそこら辺にしてください。それから、影さん慰めてくれて、ありがとうございました」

『いえいえ!少しでもラミエルさんを元気づけられたなら、良かったです!』

「ラーちゃんが俺っちに冷たい……」

 穏やかな雰囲気を持つ影さんとは違い、ちょっと怒られただけで直ぐに落ち込む徳正さんはズーンと暗いオーラを放っている。
────だが、ナイチンゲールの演奏が盛り上がりを見せたところで、目の色を変えた。
さすがにこれ以上、討伐を後回しにするのは不味いと判断したのだろう。

 初めて聞く曲だけど、時間的に終盤は近いからね。恐らく、あと一分程度で曲が終わるだろう。

「茶番はここら辺にしておこうか~。もうそろそろ、やばそうだし~」

 自分が茶番を繰り広げた張本人だというのに、徳正さんは他人事のようにそう言うと、ナイチンゲールを指さす。
いつ演奏が終わるか分からない中でも、冷静さを保つ黒衣の忍びはスッと目を細めた。

「影、広がれ」

『承知した』

 徳正さんの命令と共に動き出した影さんは物凄い速さで影を広げていく。
真っ白な空間を黒に染め上げていく様は爽快だった。
そして、たった数秒でボスフロアは真っ黒に染まり、闇に溶ける。
────これでナイチンゲール討伐の準備は整った。

「────影よ、生意気な鳥共を喰らい尽くせ!」

『承知した』

 影さんの声が耳を掠めたかと思えば、天井や壁に張り付く闇から実体化した影が放たれる。
人間の手の形をしたそれは逃げ惑うナイチンゲールの足や翼を掴み────そのまま、ズルズルと引き摺って行く。

 影さんには徳正さんのようなスピードはないが、その分手数が多い。
どんなにナイチンゲールがすばしっこくても、次から次へと放たれる黒い手を全て避けることは出来ない。
全てのナイチンゲールが影に捕まるのも時間の問題だろう。

「分裂されたら厄介だし、全員捕まえてから一度に取り込んでね~」

『こいつら、分裂するのか……。何故こんな雑魚相手に苦戦しているのかと思ったら……そういう理由があったんだな』

 徳正さんの忠告を受けて、取り込むのを後回しにした影さんはナイチンゲールの捕獲に専念する。
逃げることも死ぬことも出来ず、影に拘束されているナイチンゲールはそれでも演奏をやめなかった。
────だが、演奏を終えるより早く全てのナイチンゲールが捕獲される。

『全て捕まえたぞ』

「じゃあ、食べちゃっていいよ~。美味しいかは分かんないけど~。まあ、前のゴブリンよりはマシなんじゃな~い?」

『味など、どうでもいい』

 そう吐き捨てた影さんは捕獲したナイチンゲールを闇に近づけた。
断末魔のような大きな鳴き声が響き渡る中、ズプズプと沼に沈んでいくようにナイチンゲールが影に取り込まれる。
食べられたナイチンゲールを前に、私はホッと息を吐き出した。

 ────もうあの美しい鳴き声はどこからも聞こえない。

「は~い、お疲れ様~。もう戻っていいよ~」

『言われなくても、そうするつもりだ』

 おいでおいでと手招きする徳正さんに影さんは舌打ちをしながら、ボスフロア全体に放った影を呼び戻す。
漆黒の闇を作り出した影さんは徳正さんの足元に収束し、『それでは、ラミエルさん、また今度』と言い残して眠りについた。

 あれだけ苦戦していたのに、一瞬でナイチンゲールを討伐するなんて……やっぱり、影さんは凄い。
凄いからこそ、最後まで温存しておきたかったんだけど……まあ、しょうがない。この失態は後で取り返そう。

「これが“影の疾走者”の真の実力か。やはり、侮れんな」

「影に意思を持たせるなんて、前代未聞だね☆」

「高レベルの魔法使いでも、ここまで強力な範囲魔法は使えない……やっぱり、徳正は凄いな」

「俺、こんな凄い人にあんな態度を取ってたのか……」

 徳正さんの影魔法を初めて見るニールさん、リアムさん、レオンさん、セトの四人は感嘆にも似た声を上げる。
ちょっとやそっとじゃ埋められない力の差に、彼らは力なく笑った。
桁外れの力にどんな反応を示せばいいのか分からないらしい。

 まあ、最初はそうなるよね。私も影魔法を初めて見た時は凄く驚いたし。
ぶっちゃけ、徳正さんの影魔法はクールタイムCTが長いことを除けば、最強の魔法だもん。

「徳正さん、お疲れ様でした。そして、私の尻拭いをさせてしまい、申し訳ありません」

 マジックポーションを飲む徳正さんに、私は小さく頭を下げた。
そっと目を伏せる私を前に、黒衣の忍びはコテンと首を傾げる。

「ラーちゃん、何言ってんの~?尻拭いなんて、全然思ってないよ~。大体、ナイチンゲールの能力を分身だって思い込んでいたのは俺っちも同じだし~。それをラーちゃんの責任にすんのはおかしいでしょ~。あとね────」

 徳正さんはそこで言葉を切ると、私の頭にポンッと手を置いた。
いつものようにヘラリと笑う彼の顔が見える。

「────こういうのは助け合いって言うんだよ~。俺っち達は同じパーティーの仲間なんだから、助け合うのは当たり前。だから、謝んなくていいの~」

 そう言って、セレンディバイトの瞳を細める徳正さんは私の頭を優しく撫でてくれた。
その手つきは影さんとよく似ていて……ちょっとだけ安心する。

 口調や態度は全然違うけど、徳正さんと影さんはよく似ている。
私を気遣う声も、優しい手も全部……。

「徳正さん、ありがとうございます。少し気持ちが軽くなりました」

 そう言って、柔らかい笑みを浮かべれば、徳正さんは僅かに目を見開き────嬉しそうに微笑んだ。
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