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第五章
第224話『最後の悪足掻きと和解』
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少しずつ光の粒子に変わっていくカニスの胴体はもう崩壊寸前だ。
でも、私に一撃を入れる程度の余力はある。
不味い……!完全に油断していた……!光の粒子になれば、反撃される恐れはないと思い込んでいた!まさか、カニスがここまで足掻くなんて……!
迫り来るカニスの胴体を前に、どう対処すべきか迷っていると────。
「ラミエル、そのまま動くな!────《タンクスイッチ》!」
耳馴染みのある声が再び聞こえ、私の景色が……いや、場所が変わった。
まるで瞬間移動したかのように……。
これが盾使い固有スキルである、場所入れ替えのものだと理解するまで少し時間が掛かった。
スイッチを使える人は今、一人しか居ない……じゃあ、まさか────セトが私の身代わりに!?
やっと状況を呑み込めた私は慌てて扉の方を振り返った。
そこにはカニスに押し倒されるセトの姿があって……酷く動揺する。
何でセトが私を庇ったの……!?あんなに私のことを傷つけて、自分勝手な考えを押し付けてきたのに……!今更、何で……!?
様々な疑問が私の中で渦巻き、思考を混乱させる中、セトをさんざん踏み潰していたカニスの胴体が完全に光の粒子と化す。
紺髪の美丈夫は安全を確認するなり、布団みたいに被っていたガラハドの盾を横へ置いた。
床に寝そべる彼は口端から血を垂れ流しながら、ゆっくりと起き上がる。
特にこれと言って、大きな傷はなかった。
致命傷になるような傷はなさそうだけど、一体何でこんなことを……?いや、それよりもまずはセトの怪我を治療しないと!
フルフルと首を横に振って、思考を切りかえた私はアイテムボックスの中から純白の杖を取り出し、慌ててセトに駆け寄った。
「そのまま、じっとしてて。直ぐに治療するから────《パーフェクトヒール》」
純白の杖をセトの頭に翳し、詠唱を唱えれば、彼の体が白い光に包まれる。
月明かりのように穏やかな光は彼の傷を優しく癒してくれた。
「どう?痛いところはない?」
「ああ、平気だ。その……ありがとう」
ポリポリと頬を掻く紺髪の美丈夫は照れ臭そうにお礼を言った。
その様子にどこか既視感を感じる。
そう言えば、『サムヒーロー』時代もこんな風にお礼を言われたことがあったわね。
あのときはよくセトの相談に乗っていたから。
パーティーメンバーだった頃の記憶を思い出し、懐かしさに目を細める。
以前と変わらないセトの姿に何故だか少しだけホッとしてしまった。
「お礼を言うのは私の方だよ。助けてくれて、ありがとう。でも、どうして私を助けてくれたの?」
純粋な疑問をそのままぶつければ、セトは複雑な表情を浮かべた。
悲しみや後悔が入り交じった表情は彼の気持ちを分かりやすく表している。
『タンクだから』とか『今はチームメンバーだから』とか、そんな理由じゃないのは何となく分かった。
私もいい加減、変な意地を張るのはやめた方がよさそうだね。自分が前に進むためにも。
気持ちを切り替えるため、『ふぅ……』と息を吐き出した私はその場に腰を下ろす。
セトの気持ちと……いや、過去としっかり向き合うため、私は彼の目を真っ直ぐに見つめ返した。
顔に憂いを滲ませた紺髪の美丈夫がおもむろに口を開く。
「その質問に答える前に一つだけ言わせてくれ────今まで本当にすまなかった」
反省と後悔が窺える真剣な声色で謝罪を口にし、セトは深々と……本当に深々と頭を下げた。
土下座と呼ぶべき深い謝罪に、私は眉尻を下げる。
『土下座だから』という訳じゃないが、この謝罪は今までで一番真剣なもので……誠実さが窺えた。
「ラミエルを『サムヒーロー』から追放するのに賛成したのは……いや、賛成したのも俺の身勝手な理由だ。ラミエルが居なくなれば守る奴が居なくなって、俺もたくさん魔物を倒せるんじゃないかと思った。でも、現実は全然違って……俺は『サムヒーロー』を抜けて、『紅蓮の夜叉』に入ったんだ」
「そう……」
セトが吐露した本音に、私は相槌を打つことしか出来ず、そっと目を伏せる。
『そんな理由で……』と悲しむ自分が居るが、昼食会のように怒りが湧き上がってくることはなかった。
それは恐らく────セトが真剣に過去のことを考え、心の底から反省しているから。
「正直ラミエルと再会した時、直ぐに謝ろうと思っていた。でも、仲間と楽しそうに笑うお前が羨ましくて……こっちはお前のことで色々悩んで苦しんでるのにって思っちまって……」
苦しそうに……過去の自分を悔やむように顔を歪めるセトは真横にあるガラハドの盾に触れた。
ところどころ傷があるそれは長年愛用しているものだと一目で分かる。
「ラミエルはもう覚えていないかもしれないが、この盾はお前に勧められて買ったものなんだ。でも、見ての通りボロボロだろ?だから、何度も買い換えようと思ったんだ……でも────この盾を見る度、ラミエルのことを思い出してなかなか踏ん切りがつかなかった。ラミエルが苦労して探し出したガラハドの盾を捨てる勇気が俺にはなかったんだ」
そう言って、セトは盾の表面を撫でた。
辛そうに……でも、どこか懐かしそうに目を細める彼の姿に、私の方が泣きたくなる。
ガラハドの盾を見つめる彼の眼差しはどこまでも優しかった。
何でこの盾をずっと使っているんだろう?と思ったら……そんな理由があったんだ。
きっとこの盾を見る度、セトは罪悪感と後悔に苛まれていたことだろう。それでも、捨てられなかったのは私があちこちの店を探し回って、やっと見つけたものだから。
恐らく、セトはウエストダンジョンで私と再会するまで自責の念に駆られ、精神的に追い詰められて来たのだろう。
そんな時に陽気に笑う私を見れば、『俺はこんなに悩んでいるのに、何でお前は……!』と理不尽な怒りを抱いてもおかしくはない。
まあ、被害者側が納得するかどうかは別の話だけど……。
セトの気持ちは少なからず理解出来る。でも、だからと言って私を傷つけていい理由にはならない。ちょっと素っ気ない態度を取るだけならまだしも、彼は私を殺そうとしたのだから。
「精神的に追い詰められていたとはいえ、俺は超えちゃいけない一線を超えた。それは許されることじゃないし、許してもらおうなんて思っていない。だから────少しでも罪滅ぼしが出来るように、ラミエルを守ろうと思ったんだ。馬鹿な俺にはそれしか出来ないから」
『守る』という言葉がこんなにも重く聞こえたのは初めてだった。
真っ直ぐにこちらを見つめる琥珀色の瞳には信念が宿っており、命を懸けて守る覚悟があるのだろうと結論づける。
真っ直ぐ過ぎるが故にねじ曲がり、極端な選択をしてしまった彼はやはり愚かだった。
このまま有耶無耶にして終わる選択肢だって、あっただろうに……何でセトはわざわざ茨の道へ進むんだろう?
もっと上手に……そして、ずる賢く生きればいいのに。まあ、セトのそういうところが好きだったんだけど。
クスリと笑みを漏らした私は彼の頭へ手を伸ばした。
少し硬い紺色の髪を優しく撫でる。
「セトを許すつもりはないし、許そうとも思わないけど、その気持ちだけは有り難く受け取っておく。でも、私を守るのは徳正さん達の仕事だから、セトは気にしないで」
「そ~そ~!ラーちゃんの安全は俺っちが守るから、セトくんは何もしなくていいよ~。さっきのやつだって、セトくんが何もしなくても俺っちがラーちゃんを守れたんだから~!でしゃばらないでよね~!」
突然横槍を入れてきた徳正さんの横腹をつまみ、『徳正さんは黙っていて下さい』と笑顔で言い聞かせる。
ビクッと肩を震わせた黒衣の忍びは『は、は~い』と素直に頷き、後ろに下がった。
それを見届けてから場の空気を変えるため、コホンッと咳払いする。
「もう昔のような関係にはなれないけど、セトとは普通に接していくつもり。過去はどうであれ、私達は今、同じ志を持つ仲間なんだから。だから、その……改めて、よろしく」
改まって言うのはなんだか気恥ずかしくて、ちょっと照れてしまう。
僅かに頬を赤く染めながら、握手を求めれば、セトは感極まったように泣き始めた。
「っ……!ありがとう!ラミエル!俺からも改めて、よろしく頼む!」
紺髪の美丈夫はボロボロと涙を零しながら、私の手をガシッと掴んだ。
『ありがとう』と繰り返す彼に苦笑を浮かべながら、私は手を握り返す。
とりあえず、これでセトとのわかだまりは解消出来たかな。
まだ納得出来ない部分も多くあるけど、また一から新しい関係を築けたらいいと思っている。
私は子供のように泣きじゃくる紺髪の美丈夫を見つめながら、彼との和解を素直に喜ぶのだった。
でも、私に一撃を入れる程度の余力はある。
不味い……!完全に油断していた……!光の粒子になれば、反撃される恐れはないと思い込んでいた!まさか、カニスがここまで足掻くなんて……!
迫り来るカニスの胴体を前に、どう対処すべきか迷っていると────。
「ラミエル、そのまま動くな!────《タンクスイッチ》!」
耳馴染みのある声が再び聞こえ、私の景色が……いや、場所が変わった。
まるで瞬間移動したかのように……。
これが盾使い固有スキルである、場所入れ替えのものだと理解するまで少し時間が掛かった。
スイッチを使える人は今、一人しか居ない……じゃあ、まさか────セトが私の身代わりに!?
やっと状況を呑み込めた私は慌てて扉の方を振り返った。
そこにはカニスに押し倒されるセトの姿があって……酷く動揺する。
何でセトが私を庇ったの……!?あんなに私のことを傷つけて、自分勝手な考えを押し付けてきたのに……!今更、何で……!?
様々な疑問が私の中で渦巻き、思考を混乱させる中、セトをさんざん踏み潰していたカニスの胴体が完全に光の粒子と化す。
紺髪の美丈夫は安全を確認するなり、布団みたいに被っていたガラハドの盾を横へ置いた。
床に寝そべる彼は口端から血を垂れ流しながら、ゆっくりと起き上がる。
特にこれと言って、大きな傷はなかった。
致命傷になるような傷はなさそうだけど、一体何でこんなことを……?いや、それよりもまずはセトの怪我を治療しないと!
フルフルと首を横に振って、思考を切りかえた私はアイテムボックスの中から純白の杖を取り出し、慌ててセトに駆け寄った。
「そのまま、じっとしてて。直ぐに治療するから────《パーフェクトヒール》」
純白の杖をセトの頭に翳し、詠唱を唱えれば、彼の体が白い光に包まれる。
月明かりのように穏やかな光は彼の傷を優しく癒してくれた。
「どう?痛いところはない?」
「ああ、平気だ。その……ありがとう」
ポリポリと頬を掻く紺髪の美丈夫は照れ臭そうにお礼を言った。
その様子にどこか既視感を感じる。
そう言えば、『サムヒーロー』時代もこんな風にお礼を言われたことがあったわね。
あのときはよくセトの相談に乗っていたから。
パーティーメンバーだった頃の記憶を思い出し、懐かしさに目を細める。
以前と変わらないセトの姿に何故だか少しだけホッとしてしまった。
「お礼を言うのは私の方だよ。助けてくれて、ありがとう。でも、どうして私を助けてくれたの?」
純粋な疑問をそのままぶつければ、セトは複雑な表情を浮かべた。
悲しみや後悔が入り交じった表情は彼の気持ちを分かりやすく表している。
『タンクだから』とか『今はチームメンバーだから』とか、そんな理由じゃないのは何となく分かった。
私もいい加減、変な意地を張るのはやめた方がよさそうだね。自分が前に進むためにも。
気持ちを切り替えるため、『ふぅ……』と息を吐き出した私はその場に腰を下ろす。
セトの気持ちと……いや、過去としっかり向き合うため、私は彼の目を真っ直ぐに見つめ返した。
顔に憂いを滲ませた紺髪の美丈夫がおもむろに口を開く。
「その質問に答える前に一つだけ言わせてくれ────今まで本当にすまなかった」
反省と後悔が窺える真剣な声色で謝罪を口にし、セトは深々と……本当に深々と頭を下げた。
土下座と呼ぶべき深い謝罪に、私は眉尻を下げる。
『土下座だから』という訳じゃないが、この謝罪は今までで一番真剣なもので……誠実さが窺えた。
「ラミエルを『サムヒーロー』から追放するのに賛成したのは……いや、賛成したのも俺の身勝手な理由だ。ラミエルが居なくなれば守る奴が居なくなって、俺もたくさん魔物を倒せるんじゃないかと思った。でも、現実は全然違って……俺は『サムヒーロー』を抜けて、『紅蓮の夜叉』に入ったんだ」
「そう……」
セトが吐露した本音に、私は相槌を打つことしか出来ず、そっと目を伏せる。
『そんな理由で……』と悲しむ自分が居るが、昼食会のように怒りが湧き上がってくることはなかった。
それは恐らく────セトが真剣に過去のことを考え、心の底から反省しているから。
「正直ラミエルと再会した時、直ぐに謝ろうと思っていた。でも、仲間と楽しそうに笑うお前が羨ましくて……こっちはお前のことで色々悩んで苦しんでるのにって思っちまって……」
苦しそうに……過去の自分を悔やむように顔を歪めるセトは真横にあるガラハドの盾に触れた。
ところどころ傷があるそれは長年愛用しているものだと一目で分かる。
「ラミエルはもう覚えていないかもしれないが、この盾はお前に勧められて買ったものなんだ。でも、見ての通りボロボロだろ?だから、何度も買い換えようと思ったんだ……でも────この盾を見る度、ラミエルのことを思い出してなかなか踏ん切りがつかなかった。ラミエルが苦労して探し出したガラハドの盾を捨てる勇気が俺にはなかったんだ」
そう言って、セトは盾の表面を撫でた。
辛そうに……でも、どこか懐かしそうに目を細める彼の姿に、私の方が泣きたくなる。
ガラハドの盾を見つめる彼の眼差しはどこまでも優しかった。
何でこの盾をずっと使っているんだろう?と思ったら……そんな理由があったんだ。
きっとこの盾を見る度、セトは罪悪感と後悔に苛まれていたことだろう。それでも、捨てられなかったのは私があちこちの店を探し回って、やっと見つけたものだから。
恐らく、セトはウエストダンジョンで私と再会するまで自責の念に駆られ、精神的に追い詰められて来たのだろう。
そんな時に陽気に笑う私を見れば、『俺はこんなに悩んでいるのに、何でお前は……!』と理不尽な怒りを抱いてもおかしくはない。
まあ、被害者側が納得するかどうかは別の話だけど……。
セトの気持ちは少なからず理解出来る。でも、だからと言って私を傷つけていい理由にはならない。ちょっと素っ気ない態度を取るだけならまだしも、彼は私を殺そうとしたのだから。
「精神的に追い詰められていたとはいえ、俺は超えちゃいけない一線を超えた。それは許されることじゃないし、許してもらおうなんて思っていない。だから────少しでも罪滅ぼしが出来るように、ラミエルを守ろうと思ったんだ。馬鹿な俺にはそれしか出来ないから」
『守る』という言葉がこんなにも重く聞こえたのは初めてだった。
真っ直ぐにこちらを見つめる琥珀色の瞳には信念が宿っており、命を懸けて守る覚悟があるのだろうと結論づける。
真っ直ぐ過ぎるが故にねじ曲がり、極端な選択をしてしまった彼はやはり愚かだった。
このまま有耶無耶にして終わる選択肢だって、あっただろうに……何でセトはわざわざ茨の道へ進むんだろう?
もっと上手に……そして、ずる賢く生きればいいのに。まあ、セトのそういうところが好きだったんだけど。
クスリと笑みを漏らした私は彼の頭へ手を伸ばした。
少し硬い紺色の髪を優しく撫でる。
「セトを許すつもりはないし、許そうとも思わないけど、その気持ちだけは有り難く受け取っておく。でも、私を守るのは徳正さん達の仕事だから、セトは気にしないで」
「そ~そ~!ラーちゃんの安全は俺っちが守るから、セトくんは何もしなくていいよ~。さっきのやつだって、セトくんが何もしなくても俺っちがラーちゃんを守れたんだから~!でしゃばらないでよね~!」
突然横槍を入れてきた徳正さんの横腹をつまみ、『徳正さんは黙っていて下さい』と笑顔で言い聞かせる。
ビクッと肩を震わせた黒衣の忍びは『は、は~い』と素直に頷き、後ろに下がった。
それを見届けてから場の空気を変えるため、コホンッと咳払いする。
「もう昔のような関係にはなれないけど、セトとは普通に接していくつもり。過去はどうであれ、私達は今、同じ志を持つ仲間なんだから。だから、その……改めて、よろしく」
改まって言うのはなんだか気恥ずかしくて、ちょっと照れてしまう。
僅かに頬を赤く染めながら、握手を求めれば、セトは感極まったように泣き始めた。
「っ……!ありがとう!ラミエル!俺からも改めて、よろしく頼む!」
紺髪の美丈夫はボロボロと涙を零しながら、私の手をガシッと掴んだ。
『ありがとう』と繰り返す彼に苦笑を浮かべながら、私は手を握り返す。
とりあえず、これでセトとのわかだまりは解消出来たかな。
まだ納得出来ない部分も多くあるけど、また一から新しい関係を築けたらいいと思っている。
私は子供のように泣きじゃくる紺髪の美丈夫を見つめながら、彼との和解を素直に喜ぶのだった。
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よろしくお願いします。
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