『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
225 / 315
第五章

第224話『最後の悪足掻きと和解』

しおりを挟む
 少しずつ光の粒子に変わっていくカニスの胴体はもう崩壊寸前だ。
でも、私に一撃を入れる程度の余力はある。

 不味い……!完全に油断していた……!光の粒子になれば、反撃される恐れはないと思い込んでいた!まさか、カニスがここまで足掻くなんて……!

 迫り来るカニスの胴体を前に、どう対処すべきか迷っていると────。

「ラミエル、そのまま動くな!────《タンクスイッチ》!」

 耳馴染みのある声が再び聞こえ、私の景色が……いや、場所が変わった。
まるで瞬間移動したかのように……。
これが盾使い固有スキルである、場所入れ替えのものだと理解するまで少し時間が掛かった。

 スイッチを使える人は今、一人しか居ない……じゃあ、まさか────セトが私の身代わりに!?

 やっと状況を呑み込めた私は慌てて扉の方を振り返った。
そこにはカニスに押し倒されるセトの姿があって……酷く動揺する。

 何でセトが私を庇ったの……!?あんなに私のことを傷つけて、自分勝手な考えを押し付けてきたのに……!今更、何で……!?

 様々な疑問が私の中で渦巻き、思考を混乱させる中、セトをさんざん踏み潰していたカニスの胴体が完全に光の粒子と化す。
紺髪の美丈夫は安全を確認するなり、布団みたいに被っていたガラハドの盾を横へ置いた。
床に寝そべる彼は口端から血を垂れ流しながら、ゆっくりと起き上がる。
特にこれと言って、大きな傷はなかった。

 致命傷になるような傷はなさそうだけど、一体何でこんなことを……?いや、それよりもまずはセトの怪我を治療しないと!

 フルフルと首を横に振って、思考を切りかえた私はアイテムボックスの中から純白の杖を取り出し、慌ててセトに駆け寄った。

「そのまま、じっとしてて。直ぐに治療するから────《パーフェクトヒール》」

 純白の杖をセトの頭に翳し、詠唱を唱えれば、彼の体が白い光に包まれる。
月明かりのように穏やかな光は彼の傷を優しく癒してくれた。

「どう?痛いところはない?」

「ああ、平気だ。その……ありがとう」

 ポリポリと頬を掻く紺髪の美丈夫は照れ臭そうにお礼を言った。
その様子にどこか既視感を感じる。

 そう言えば、『サムヒーロー』時代もこんな風にお礼を言われたことがあったわね。
あのときはよくセトの相談に乗っていたから。

 パーティーメンバーだった頃の記憶を思い出し、懐かしさに目を細める。
以前と変わらないセトの姿に何故だか少しだけホッとしてしまった。

「お礼を言うのは私の方だよ。助けてくれて、ありがとう。でも、どうして私を助けてくれたの?」

 純粋な疑問をそのままぶつければ、セトは複雑な表情を浮かべた。
悲しみや後悔が入り交じった表情は彼の気持ちを分かりやすく表している。
『タンクだから』とか『今はチームメンバーだから』とか、そんな理由じゃないのは何となく分かった。

 私もいい加減、変な意地を張るのはやめた方がよさそうだね。自分が前に進むためにも。

 気持ちを切り替えるため、『ふぅ……』と息を吐き出した私はその場に腰を下ろす。
セトの気持ちと……いや、過去・・としっかり向き合うため、私は彼の目を真っ直ぐに見つめ返した。
顔に憂いを滲ませた紺髪の美丈夫がおもむろに口を開く。

「その質問に答える前に一つだけ言わせてくれ────今まで本当にすまなかった」

 反省と後悔が窺える真剣な声色で謝罪を口にし、セトは深々と……本当に深々と頭を下げた。
土下座と呼ぶべき深い謝罪に、私は眉尻を下げる。
『土下座だから』という訳じゃないが、この謝罪は今までで一番真剣なもので……誠実さが窺えた。

「ラミエルを『サムヒーロー』から追放するのに賛成したのは……いや、賛成したの俺の身勝手な理由だ。ラミエルが居なくなれば守る奴が居なくなって、俺もたくさん魔物モンスターを倒せるんじゃないかと思った。でも、現実は全然違って……俺は『サムヒーロー』を抜けて、『紅蓮の夜叉』に入ったんだ」

「そう……」

 セトが吐露した本音に、私は相槌を打つことしか出来ず、そっと目を伏せる。
『そんな理由で……』と悲しむ自分が居るが、昼食会のように怒りが湧き上がってくることはなかった。
それは恐らく────セトが真剣に過去のことを考え、心の底から反省しているから。

「正直ラミエルと再会した時、直ぐに謝ろうと思っていた。でも、仲間と楽しそうに笑うお前が羨ましくて……こっちはお前のことで色々悩んで苦しんでるのにって思っちまって……」

 苦しそうに……過去の自分を悔やむように顔を歪めるセトは真横にあるガラハドの盾に触れた。
ところどころ傷があるそれは長年愛用しているものだと一目で分かる。

「ラミエルはもう覚えていないかもしれないが、この盾はお前に勧められて買ったものなんだ。でも、見ての通りボロボロだろ?だから、何度も買い換えようと思ったんだ……でも────この盾を見る度、ラミエルのことを思い出してなかなか踏ん切りがつかなかった。ラミエルが苦労して探し出したガラハドの盾を捨てる勇気が俺にはなかったんだ」

 そう言って、セトは盾の表面を撫でた。
辛そうに……でも、どこか懐かしそうに目を細める彼の姿に、私の方が泣きたくなる。
ガラハドの盾を見つめる彼の眼差しはどこまでも優しかった。

 何でこの盾をずっと使っているんだろう?と思ったら……そんな理由があったんだ。
きっとこの盾を見る度、セトは罪悪感と後悔に苛まれていたことだろう。それでも、捨てられなかったのは私があちこちの店を探し回って、やっと見つけたものだから。

 恐らく、セトはウエストダンジョンで私と再会するまで自責の念に駆られ、精神的に追い詰められて来たのだろう。
そんな時に陽気に笑う私を見れば、『俺はこんなに悩んでいるのに、何でお前は……!』と理不尽な怒りを抱いてもおかしくはない。
まあ、被害者側が納得するかどうかは別の話だけど……。

 セトの気持ちは少なからず理解出来る。でも、だからと言って私を傷つけていい理由にはならない。ちょっと素っ気ない態度を取るだけならまだしも、彼は私を殺そうとしたのだから。

「精神的に追い詰められていたとはいえ、俺は超えちゃいけない一線を超えた。それは許されることじゃないし、許してもらおうなんて思っていない。だから────少しでも罪滅ぼしが出来るように、ラミエルを守ろうと思ったんだ。馬鹿な俺にはそれしか出来ないから」

 『守る』という言葉がこんなにも重く聞こえたのは初めてだった。
真っ直ぐにこちらを見つめる琥珀色の瞳には信念が宿っており、命を懸けて守る覚悟があるのだろうと結論づける。
真っ直ぐ過ぎるが故にねじ曲がり、極端な選択をしてしまった彼はやはり愚かだった。

 このまま有耶無耶にして終わる選択肢だって、あっただろうに……何でセトはわざわざ茨の道へ進むんだろう?
もっと上手に……そして、ずる賢く生きればいいのに。まあ、セトのそういうところが好きだったんだけど。

 クスリと笑みを漏らした私は彼の頭へ手を伸ばした。
少し硬い紺色の髪を優しく撫でる。

「セトを許すつもりはないし、許そうとも思わないけど、その気持ちだけは有り難く受け取っておく。でも、私を守るのは徳正さん達の仕事だから、セトは気にしないで」

「そ~そ~!ラーちゃんの安全は俺っちが守るから、セトくんは何もしなくていいよ~。さっきのやつだって、セトくんが何もしなくても俺っちがラーちゃんを守れたんだから~!でしゃばらないでよね~!」

 突然横槍を入れてきた徳正さんの横腹をつまみ、『徳正さんは黙っていて下さい』と笑顔で言い聞かせる。
ビクッと肩を震わせた黒衣の忍びは『は、は~い』と素直に頷き、後ろに下がった。
それを見届けてから場の空気を変えるため、コホンッと咳払いする。

「もう昔のような関係にはなれないけど、セトとは普通に接していくつもり。過去はどうであれ、私達は今、同じ志を持つ仲間なんだから。だから、その……改めて、よろしく」

 改まって言うのはなんだか気恥ずかしくて、ちょっと照れてしまう。
僅かに頬を赤く染めながら、握手を求めれば、セトは感極まったように泣き始めた。

「っ……!ありがとう!ラミエル!俺からも改めて、よろしく頼む!」

 紺髪の美丈夫はボロボロと涙を零しながら、私の手をガシッと掴んだ。
『ありがとう』と繰り返す彼に苦笑を浮かべながら、私は手を握り返す。

 とりあえず、これでセトとのわかだまりは解消出来たかな。
まだ納得出来ない部分も多くあるけど、また一から新しい関係を築けたらいいと思っている。

 私は子供のように泣きじゃくる紺髪の美丈夫を見つめながら、彼との和解を素直に喜ぶのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...