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第五章
第223話『カニスの討伐方法』
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愛くるしい見た目とは裏腹に、カニスは物凄いパワーでリアムさんの肩から下を食いちぎる。
押し倒されたリアムさんはろくに身動きも取れないため、ただひたすら痛みを堪えるだけだった。
いくら痛覚が鈍っているとはいえ、肩を食いちぎられれば相当痛い筈……!このまま放置するのは危険だ……!
「徳正さんはリアムさんの救助を!ラルカさんはカニスの牽制をお願いします!他のメンバーはその場で待機!警戒を怠らないで下さい!」
半ば怒鳴りつけるように指示を出せば、黒衣の忍びとクマの着ぐるみが一斉に動き出した。
徳正さんが目にも止まらぬ速さでリアムさんを回収したところで、ラルカさんがカニスの腹を蹴りあげる。
体が宙に浮くカニスだったが、空中で一回転し、何事も無かったかのようにストンッと着地した。
ラルカさんの蹴りを受けても、微動だにしないなんて……これも凶暴化の影響なの?それとも────暴飲暴食のせい?
暴飲暴食とはカニスの固有スキルで、食らった相手のステータスを自分に上乗せするというもの。
今回は肩だけだったので、そこまで能力は上がっていないと思うが……強くなったのは確実だった。
完全に油断していた。まさか、リアムさんに襲い掛かるとは……。
この中で一番弱い私に狙いを定めると思ったのに……野生の本能が発達しているからこそ、強者に囲まれた私を襲うのは危険だと判断したのだろうか?だとしたら、野生の勘も馬鹿にできないな。
「ラーちゃん、リアムくん連れて来たよ~」
回収役を頼んでいた徳正さんは白髪アシメの美男子を小脇に担いで、戻ってきた。
ニコニコと笑いながら、呑気に手を振っている。
いや、彼は一応怪我人なんですから、もう少し持ち方を考えてあげて下さい!その持ち方じゃ、苦しいでしょう!リアムさんは肩を食いちぎられているんですよ!?
「すまない、ラミエル。ちょっと油断していたようだ……ケホケホッ!」
申し訳なさそうな表情を浮かべるリアムさんは咳と共に血を吐き出した。
苦しそうに肩で息をする彼は痛みに顔を顰める。
でも、決して弱音は吐かなかった。
「リアムさん、傷口に響くのであまり喋らないで下さい。直ぐに治しますので────《パーフェクトヒール》」
リアムさんの額に手を当て、詠唱を口にすれば、彼の体が白い光に包まれる。
粉雪のように小さい光の粒が無くなった左肩を補うように寄り添い合い、彼の体を再生した。
失われた筈の左肩が白い光の中から、ひょっこり姿を現す。
よし、これでもう大丈夫。
「リアムさん、体調はどうですか?肩に違和感があったりしませんか?」
「いや、もう大丈夫だよ。ありがとう、猛獣使いの姫君」
手を閉じたり開いたりする白髪アシメの美男子は満足そうに笑う。
完治した彼は徳正さんの腕から下り、自分の足で立って見せた。
元気そうに足踏みするリアムさんの姿を見て、ホッと息を吐き出す。
リアムさんの肩が食いちぎられた時はさすがにビックリしたけど、もう大丈夫そうね。
とりあえず、リアムさんが無事で良かった。
死者が出なかったことに安堵しながら、ラルカさんの方へ視線を向ければ、カニスと対峙する姿が目に入る。
私の指示通り、牽制だけしているのか、下手に手出しはしなかった。
睨み合いを続けるラルカさんの様子に満足げに頷き、カニスのことを観察する。
不意打ちとはいえ、リアムさんの肩を食いちぎったことやラルカさんの蹴りを受けても動じなかったことから、かなり強い魔物だと推測出来る。
ダンジョンボス並とまではいかないけど、純粋な力だけならフロアボス随一と言ってもいい。
問題は凶暴化がどこまでカニスに力を与えるかだけど……そこはあまり気にしなくてもいいかな。
恐らく、どんなに強化しても理性を失ったレオンさんくらいの力しか出ないだろうし。
それくらいなら、徳正さん達で対応出来る。
あとはカニスの固有スキル────暴飲暴食を使わせないようにするだけ。
長期戦に持ち込まれると、ちょっと分が悪い。
だから────。
「────一気に片を付けるのが最善ですね。リーダー、お願い出来ますか?出来れば、一撃で仕留めて頂きたいのですが……」
このメンバーの中でパワー面に一番秀でたリーダーに白羽の矢を立てれば、彼は少しだけ悩むような動作を見せた。
カニスの方へ、チラッと視線を向ける。
「狂戦士化とスキルを使ってもいいなら、一撃で仕留められる」
「それは構いませんが……理性を失ったりしませんよね?さすがにリーダーを私達で抑え込むのは厳しいですよ」
「それなら、心配ない。狂戦士化すると言っても、5%くらいだからな」
「なら、全然オッケーです」
人差し指と親指を使って〇マークを作り、了承の意を示す。
すると、リーダーは背中に背負った大剣を引き抜き、早速戦闘態勢に入った。
剣を構える銀髪の美丈夫を一瞥し、私は視線を前に戻す。
「ラルカさん、牽制はもう大丈夫です。離脱してください」
カニスと睨み合いを続けるクマの着ぐるみにそう言うと、彼はフロアボスに蹴りをお見舞してから離脱した。
戦闘の邪魔にならないよう、壁際まで下がるあたり、実にラルカさんらしい。
彼の配慮に感心しつつ、リーダーの方へ目を向ける。
「リーダー、行けますか?」
「ああ、いつでも行ける」
「では、早速お願いします」
「分かった」
力強く頷く銀髪の美丈夫に頷き返し、私は彼の傍からそっと離れる。
ラルカさんの蹴りを受けてもピンピンしているカニスを前に、リーダーは勢いよく駆け出した。
その横顔に迷いや躊躇いはなく、物怖じする様子もない。
『死屍累々の王』という通り名に相応しい、堂々とした姿だった。
「狂戦士化5%────《狂剣の舞》」
カニスの目の前まで一気に距離を詰めたリーダーは狂戦士化する。
たった5%だけだというのに、リーダーを取り巻く雰囲気が禍々しいものに変わった。
本能的に格上の相手だと悟ったのか、カニスは『くぅーん』と弱々しい鳴き声を発する。
でも、そんなことで止まるリーダーではなく……スキルで強化した大剣で情け容赦なく斬り掛かった。
ヒュンッと風を切る音と共にカニスの首が飛ぶ。中身はただの魔物とはいえ、ポメラニアンの首がはねられる場面はちょっとショックだった。
何も首まで撥ねなくても良かったのに……。リーダーのことだから、これが一番効率的だと考えてやったんだろうけど、ちょっと複雑……。
首と胴体を引き離されたポメラニアン……じゃなくて、カニスは当然ながら一発KOな訳で、光の粒子へと変わっている。
ただ、他の魔物と違って、生存本能が強いのかバタバタと手足を動かし、最後まで足掻いていた。
その様子は包丁で切っても動く魚と少し似ている。
「あれは完全に消えるまで、少し時間が掛かりそうですね」
「だね~。まあ、気長に待とうよ~」
「そうですね。こればっかりは私達でどうこう出来る問題では無いので」
暇そうに鼻歌を歌う徳正さんを尻目に、私はゲーム内ディスプレイを開いた。
第二十一階層の魔物を確認しておこうと公式サイトを開く。
呑気にサウスダンジョンの項目を開く私は────カニスの最後の悪足掻きに気づけなかった。
「────ラミエル!!」
耳馴染みのある声が聞こえ、何の気なしに顔をあげれば────切り離されたカニスの胴体が私の方へ突進してくる様子が目に入った。
押し倒されたリアムさんはろくに身動きも取れないため、ただひたすら痛みを堪えるだけだった。
いくら痛覚が鈍っているとはいえ、肩を食いちぎられれば相当痛い筈……!このまま放置するのは危険だ……!
「徳正さんはリアムさんの救助を!ラルカさんはカニスの牽制をお願いします!他のメンバーはその場で待機!警戒を怠らないで下さい!」
半ば怒鳴りつけるように指示を出せば、黒衣の忍びとクマの着ぐるみが一斉に動き出した。
徳正さんが目にも止まらぬ速さでリアムさんを回収したところで、ラルカさんがカニスの腹を蹴りあげる。
体が宙に浮くカニスだったが、空中で一回転し、何事も無かったかのようにストンッと着地した。
ラルカさんの蹴りを受けても、微動だにしないなんて……これも凶暴化の影響なの?それとも────暴飲暴食のせい?
暴飲暴食とはカニスの固有スキルで、食らった相手のステータスを自分に上乗せするというもの。
今回は肩だけだったので、そこまで能力は上がっていないと思うが……強くなったのは確実だった。
完全に油断していた。まさか、リアムさんに襲い掛かるとは……。
この中で一番弱い私に狙いを定めると思ったのに……野生の本能が発達しているからこそ、強者に囲まれた私を襲うのは危険だと判断したのだろうか?だとしたら、野生の勘も馬鹿にできないな。
「ラーちゃん、リアムくん連れて来たよ~」
回収役を頼んでいた徳正さんは白髪アシメの美男子を小脇に担いで、戻ってきた。
ニコニコと笑いながら、呑気に手を振っている。
いや、彼は一応怪我人なんですから、もう少し持ち方を考えてあげて下さい!その持ち方じゃ、苦しいでしょう!リアムさんは肩を食いちぎられているんですよ!?
「すまない、ラミエル。ちょっと油断していたようだ……ケホケホッ!」
申し訳なさそうな表情を浮かべるリアムさんは咳と共に血を吐き出した。
苦しそうに肩で息をする彼は痛みに顔を顰める。
でも、決して弱音は吐かなかった。
「リアムさん、傷口に響くのであまり喋らないで下さい。直ぐに治しますので────《パーフェクトヒール》」
リアムさんの額に手を当て、詠唱を口にすれば、彼の体が白い光に包まれる。
粉雪のように小さい光の粒が無くなった左肩を補うように寄り添い合い、彼の体を再生した。
失われた筈の左肩が白い光の中から、ひょっこり姿を現す。
よし、これでもう大丈夫。
「リアムさん、体調はどうですか?肩に違和感があったりしませんか?」
「いや、もう大丈夫だよ。ありがとう、猛獣使いの姫君」
手を閉じたり開いたりする白髪アシメの美男子は満足そうに笑う。
完治した彼は徳正さんの腕から下り、自分の足で立って見せた。
元気そうに足踏みするリアムさんの姿を見て、ホッと息を吐き出す。
リアムさんの肩が食いちぎられた時はさすがにビックリしたけど、もう大丈夫そうね。
とりあえず、リアムさんが無事で良かった。
死者が出なかったことに安堵しながら、ラルカさんの方へ視線を向ければ、カニスと対峙する姿が目に入る。
私の指示通り、牽制だけしているのか、下手に手出しはしなかった。
睨み合いを続けるラルカさんの様子に満足げに頷き、カニスのことを観察する。
不意打ちとはいえ、リアムさんの肩を食いちぎったことやラルカさんの蹴りを受けても動じなかったことから、かなり強い魔物だと推測出来る。
ダンジョンボス並とまではいかないけど、純粋な力だけならフロアボス随一と言ってもいい。
問題は凶暴化がどこまでカニスに力を与えるかだけど……そこはあまり気にしなくてもいいかな。
恐らく、どんなに強化しても理性を失ったレオンさんくらいの力しか出ないだろうし。
それくらいなら、徳正さん達で対応出来る。
あとはカニスの固有スキル────暴飲暴食を使わせないようにするだけ。
長期戦に持ち込まれると、ちょっと分が悪い。
だから────。
「────一気に片を付けるのが最善ですね。リーダー、お願い出来ますか?出来れば、一撃で仕留めて頂きたいのですが……」
このメンバーの中でパワー面に一番秀でたリーダーに白羽の矢を立てれば、彼は少しだけ悩むような動作を見せた。
カニスの方へ、チラッと視線を向ける。
「狂戦士化とスキルを使ってもいいなら、一撃で仕留められる」
「それは構いませんが……理性を失ったりしませんよね?さすがにリーダーを私達で抑え込むのは厳しいですよ」
「それなら、心配ない。狂戦士化すると言っても、5%くらいだからな」
「なら、全然オッケーです」
人差し指と親指を使って〇マークを作り、了承の意を示す。
すると、リーダーは背中に背負った大剣を引き抜き、早速戦闘態勢に入った。
剣を構える銀髪の美丈夫を一瞥し、私は視線を前に戻す。
「ラルカさん、牽制はもう大丈夫です。離脱してください」
カニスと睨み合いを続けるクマの着ぐるみにそう言うと、彼はフロアボスに蹴りをお見舞してから離脱した。
戦闘の邪魔にならないよう、壁際まで下がるあたり、実にラルカさんらしい。
彼の配慮に感心しつつ、リーダーの方へ目を向ける。
「リーダー、行けますか?」
「ああ、いつでも行ける」
「では、早速お願いします」
「分かった」
力強く頷く銀髪の美丈夫に頷き返し、私は彼の傍からそっと離れる。
ラルカさんの蹴りを受けてもピンピンしているカニスを前に、リーダーは勢いよく駆け出した。
その横顔に迷いや躊躇いはなく、物怖じする様子もない。
『死屍累々の王』という通り名に相応しい、堂々とした姿だった。
「狂戦士化5%────《狂剣の舞》」
カニスの目の前まで一気に距離を詰めたリーダーは狂戦士化する。
たった5%だけだというのに、リーダーを取り巻く雰囲気が禍々しいものに変わった。
本能的に格上の相手だと悟ったのか、カニスは『くぅーん』と弱々しい鳴き声を発する。
でも、そんなことで止まるリーダーではなく……スキルで強化した大剣で情け容赦なく斬り掛かった。
ヒュンッと風を切る音と共にカニスの首が飛ぶ。中身はただの魔物とはいえ、ポメラニアンの首がはねられる場面はちょっとショックだった。
何も首まで撥ねなくても良かったのに……。リーダーのことだから、これが一番効率的だと考えてやったんだろうけど、ちょっと複雑……。
首と胴体を引き離されたポメラニアン……じゃなくて、カニスは当然ながら一発KOな訳で、光の粒子へと変わっている。
ただ、他の魔物と違って、生存本能が強いのかバタバタと手足を動かし、最後まで足掻いていた。
その様子は包丁で切っても動く魚と少し似ている。
「あれは完全に消えるまで、少し時間が掛かりそうですね」
「だね~。まあ、気長に待とうよ~」
「そうですね。こればっかりは私達でどうこう出来る問題では無いので」
暇そうに鼻歌を歌う徳正さんを尻目に、私はゲーム内ディスプレイを開いた。
第二十一階層の魔物を確認しておこうと公式サイトを開く。
呑気にサウスダンジョンの項目を開く私は────カニスの最後の悪足掻きに気づけなかった。
「────ラミエル!!」
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