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第五章
第222話『第二十階層』
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第十二階層から第十九階層まで駆け抜けた私達は第二十階層のボスフロア前まで来ていた。
精鋭メンバーとして選ばれた八人が横一列に並ぶ。
既に開かれたボスフロアの中には真っ白な空間が広がっていた。
「前回と同様、私の合図に合わせてボスフロアへ飛び込んでくれ。では、カウントダウンを始める」
列の左端に佇むニールさんは私達の方をチラッと見てから、真っ直ぐ前を見据える。
第十階層のボス戦で、私達『虐殺の紅月』がただのPK集団じゃないと分かって貰えたようで、今回はしつこく注意されることはなかった。
「3、2、1────飛び込め!」
その言葉を合図に、私達は一斉にボスフロアへと飛び込む。
トンッという、皆の足音が綺麗に重なった。
後ろでパタンッと扉の閉まる音が聞こえる。
とりあえず、今回も出遅れたメンバーは居ないみたいだね。
私達『虐殺の紅月』のメンバーはもちろん、『紅蓮の夜叉』から派遣されたメンバーや『蒼天のソレーユ』のギルドマスターであるニールさんもちゃんと居る。
一人もメンバーが欠けていないことに安堵しながら、辺りを見回すと────部屋の中央に光の粒子の塊が現れた。
その塊は徐々に形を変え、やがてその中からフロアボスが顕現する。
牛ほどの大きさがあるそれは────ポメラニアンと全く同じ姿をしていた。
クリクリのお目目と色素の薄い毛皮を持つフロアボスはぶっちゃけ、魔物とは思えないほど可愛い。
実物のポメラニアンに比べ、サイズはかなり大きいが、それがまた愛らしかった。
「大型のポメラニアン……ありですね」
感慨深い何かを感じながら、顎に手を当ててしみじみとそう呟く。
私は決して犬好きという訳ではないが……可愛いものは普通に好きだった。
「ラーちゃん、言っておくけど、あれは一応フロアボスだからね~?俺っち達の敵なんだよ~?」
『そうだぞ、ラミエル。大体あれの何が可愛いんだ?クマさんの方が数百倍可愛いぞ』
思わずといった感じで、徳正さんとラルカさんが私にツッコミを入れる。
普段なら、私が彼らにツッコミを入れているのだが……今回は完全に立場が逆だった。
だって、仕方ないじゃん!!すっごく可愛いんだもん!あのクリクリのお目目とか、特に!!
第十階層で対峙した半魚人もどきの人魚とは大違いだし!!
あんなヌルヌルベトベトのフロアボスを見た後だからか、あのもふもふボディが輝いて見える!!
『モフ神様!!』と崇めたいほど愛くるしい見た目をしているフロアボスに、私のテンションは最高潮に達していた。
今なら、胸を張って『可愛いは正義!』と言える自信がある。
「リーダー、あの子を連れて帰りましょう!」
ビシッとフロアボスを指さして、リーダーにそうお願いする。
すると、黒衣の忍びが噛みつかんばかりの勢いで横から口を挟んできた。
「いやいや、ラーちゃん!あんな可愛い見た目でも、あいつは立派な魔物だから!」
「魔物でも、可愛いものは可愛いんです!ちゃんとお世話しますから、お願いします!リーダー!」
『なら、僕の世話をするといい。可愛さなら、誰にも負けない自信がある』
「ポメラニアンみたいなもふもふボディになってから、出直してきて下さい」
『もふもふが足りない』と言外に言い捨てれば、ラルカさんはガクッとその場に膝を着いた。
『なん、だと……!?』も書かれたホワイトボードを掲げつつ、ズーンと暗いオーラを放っている。
ポメラニアンに負けたのが相当ショックだったらしい。
もふもふ勝負(?)で、着ぐるみが本物の毛皮に対抗するのは難しいからね。
ラルカさんのもふもふボディも嫌いじゃないけど、ポメラニアンには勝てないかな!
落ち込むクマの着ぐるみを尻目に、私は期待の籠った眼差しで銀髪の美丈夫を見上げる。
キラキラと瞳を輝かせる私に対し、リーダーは『ふぅ……』と息を吐き出した。
「いいか?ラミエル。あいつは第二十階層のフロアボスなんだ。連れて帰ることは出来ない。それに俺達には大事な使命がある。それは何だ?」
「……サウスダンジョンを攻略することです」
「ああ、そうだ。そのためにはあのポメラニアンを倒さないといけない……分かるな?」
「はい……」
あのポメラニアンは連れて帰れないと面と向かって言われ、私はシュンと肩を落とした。
最初から分かりきっていた答えだが、現実を突き付けられるのは少し堪える。
リーダーは悲しみに暮れる私の頭を優しく撫で、僅かに表情を緩めた。
「良い子だ、ラミエル。もし、またポメラニアンに会いたくなったら、俺が付き添おう。だから、あまり落ち込むな」
「はい、リーダー」
リーダーの言葉に頷き、頬を緩めれば、彼は満足そうに微笑んだ。
ボス戦の真っ最中とは思えないほど、穏やかな雰囲気が流れる中、徳正さんが私達の間に割って入ってくる。
「ちょっと、待った!何でいい雰囲気になっちゃってるの!?主君ばっかり、いい格好して狡いんだけど!!俺っちだって、ラーちゃんといい雰囲気になりたいのに~!!」
「そういう下心が透けて見えるから、上手くいかないんじゃないか?」
「はぁ~!?好きな女の子を前に、下心を抱かない男なんて居る訳ないじゃん~!それは仕方なく無い~!?」
ギャーギャーと騒ぎ立てる徳正さんの言動は男子高校生とほとんど変わらなかった。
詳しい年齢は分からないが、社会人だと予想している私は彼に冷ややかな目を向ける。
徳正さんは悪い人じゃないんだけど、こういうところがちょっとね……。
「おい、お前達。茶番はそこら辺にして、戦闘態勢に入ってくれ。もうそろそろ、フロアボスの────“カニス”が動き出しそうだ」
ニールさんの声に促されるまま、ポメラニアン────改め、カニスの方へ目を向ければ、こちらを威嚇するように睨みつけるフロアボスの姿があった。
『グルルル』と低く唸るカニスはダラリと涎を垂らしている。
あの獲物を狙うような目は、完全に私達を餌としてロックオンしたようだ。
第二十階層のフロアボス────カニスは『犬と肉』に出てくる犬だ。
何故、FROの運営が犬種をポメラニアンに指定したのかは分からないが……。
カニスの主な能力は凶暴化で、私達で言う狂戦士化に近い。
そのため、他の魔物より、ずっと本能に忠実で獰猛な一面を持つ。
また、カニスには固有スキルがあり、そのスキルと言うのが……。
「────リアム!避けろ!」
私の思考を遮るようにレオンさんが焦ったようにそう叫んだ。
その声に釣られるまま、ふと顔をあげれば、リアムさんに襲い掛かるカニスの姿が目に入る。
カニスの襲撃に慌てて鞭を手にする白髪アシメの美男子だったが……奴の方が少し早かった。
「いっ……!?」
リアムさんが鞭を奮う前にカニスは彼を押し倒し────肩に噛み付いたのだ。
精鋭メンバーとして選ばれた八人が横一列に並ぶ。
既に開かれたボスフロアの中には真っ白な空間が広がっていた。
「前回と同様、私の合図に合わせてボスフロアへ飛び込んでくれ。では、カウントダウンを始める」
列の左端に佇むニールさんは私達の方をチラッと見てから、真っ直ぐ前を見据える。
第十階層のボス戦で、私達『虐殺の紅月』がただのPK集団じゃないと分かって貰えたようで、今回はしつこく注意されることはなかった。
「3、2、1────飛び込め!」
その言葉を合図に、私達は一斉にボスフロアへと飛び込む。
トンッという、皆の足音が綺麗に重なった。
後ろでパタンッと扉の閉まる音が聞こえる。
とりあえず、今回も出遅れたメンバーは居ないみたいだね。
私達『虐殺の紅月』のメンバーはもちろん、『紅蓮の夜叉』から派遣されたメンバーや『蒼天のソレーユ』のギルドマスターであるニールさんもちゃんと居る。
一人もメンバーが欠けていないことに安堵しながら、辺りを見回すと────部屋の中央に光の粒子の塊が現れた。
その塊は徐々に形を変え、やがてその中からフロアボスが顕現する。
牛ほどの大きさがあるそれは────ポメラニアンと全く同じ姿をしていた。
クリクリのお目目と色素の薄い毛皮を持つフロアボスはぶっちゃけ、魔物とは思えないほど可愛い。
実物のポメラニアンに比べ、サイズはかなり大きいが、それがまた愛らしかった。
「大型のポメラニアン……ありですね」
感慨深い何かを感じながら、顎に手を当ててしみじみとそう呟く。
私は決して犬好きという訳ではないが……可愛いものは普通に好きだった。
「ラーちゃん、言っておくけど、あれは一応フロアボスだからね~?俺っち達の敵なんだよ~?」
『そうだぞ、ラミエル。大体あれの何が可愛いんだ?クマさんの方が数百倍可愛いぞ』
思わずといった感じで、徳正さんとラルカさんが私にツッコミを入れる。
普段なら、私が彼らにツッコミを入れているのだが……今回は完全に立場が逆だった。
だって、仕方ないじゃん!!すっごく可愛いんだもん!あのクリクリのお目目とか、特に!!
第十階層で対峙した半魚人もどきの人魚とは大違いだし!!
あんなヌルヌルベトベトのフロアボスを見た後だからか、あのもふもふボディが輝いて見える!!
『モフ神様!!』と崇めたいほど愛くるしい見た目をしているフロアボスに、私のテンションは最高潮に達していた。
今なら、胸を張って『可愛いは正義!』と言える自信がある。
「リーダー、あの子を連れて帰りましょう!」
ビシッとフロアボスを指さして、リーダーにそうお願いする。
すると、黒衣の忍びが噛みつかんばかりの勢いで横から口を挟んできた。
「いやいや、ラーちゃん!あんな可愛い見た目でも、あいつは立派な魔物だから!」
「魔物でも、可愛いものは可愛いんです!ちゃんとお世話しますから、お願いします!リーダー!」
『なら、僕の世話をするといい。可愛さなら、誰にも負けない自信がある』
「ポメラニアンみたいなもふもふボディになってから、出直してきて下さい」
『もふもふが足りない』と言外に言い捨てれば、ラルカさんはガクッとその場に膝を着いた。
『なん、だと……!?』も書かれたホワイトボードを掲げつつ、ズーンと暗いオーラを放っている。
ポメラニアンに負けたのが相当ショックだったらしい。
もふもふ勝負(?)で、着ぐるみが本物の毛皮に対抗するのは難しいからね。
ラルカさんのもふもふボディも嫌いじゃないけど、ポメラニアンには勝てないかな!
落ち込むクマの着ぐるみを尻目に、私は期待の籠った眼差しで銀髪の美丈夫を見上げる。
キラキラと瞳を輝かせる私に対し、リーダーは『ふぅ……』と息を吐き出した。
「いいか?ラミエル。あいつは第二十階層のフロアボスなんだ。連れて帰ることは出来ない。それに俺達には大事な使命がある。それは何だ?」
「……サウスダンジョンを攻略することです」
「ああ、そうだ。そのためにはあのポメラニアンを倒さないといけない……分かるな?」
「はい……」
あのポメラニアンは連れて帰れないと面と向かって言われ、私はシュンと肩を落とした。
最初から分かりきっていた答えだが、現実を突き付けられるのは少し堪える。
リーダーは悲しみに暮れる私の頭を優しく撫で、僅かに表情を緩めた。
「良い子だ、ラミエル。もし、またポメラニアンに会いたくなったら、俺が付き添おう。だから、あまり落ち込むな」
「はい、リーダー」
リーダーの言葉に頷き、頬を緩めれば、彼は満足そうに微笑んだ。
ボス戦の真っ最中とは思えないほど、穏やかな雰囲気が流れる中、徳正さんが私達の間に割って入ってくる。
「ちょっと、待った!何でいい雰囲気になっちゃってるの!?主君ばっかり、いい格好して狡いんだけど!!俺っちだって、ラーちゃんといい雰囲気になりたいのに~!!」
「そういう下心が透けて見えるから、上手くいかないんじゃないか?」
「はぁ~!?好きな女の子を前に、下心を抱かない男なんて居る訳ないじゃん~!それは仕方なく無い~!?」
ギャーギャーと騒ぎ立てる徳正さんの言動は男子高校生とほとんど変わらなかった。
詳しい年齢は分からないが、社会人だと予想している私は彼に冷ややかな目を向ける。
徳正さんは悪い人じゃないんだけど、こういうところがちょっとね……。
「おい、お前達。茶番はそこら辺にして、戦闘態勢に入ってくれ。もうそろそろ、フロアボスの────“カニス”が動き出しそうだ」
ニールさんの声に促されるまま、ポメラニアン────改め、カニスの方へ目を向ければ、こちらを威嚇するように睨みつけるフロアボスの姿があった。
『グルルル』と低く唸るカニスはダラリと涎を垂らしている。
あの獲物を狙うような目は、完全に私達を餌としてロックオンしたようだ。
第二十階層のフロアボス────カニスは『犬と肉』に出てくる犬だ。
何故、FROの運営が犬種をポメラニアンに指定したのかは分からないが……。
カニスの主な能力は凶暴化で、私達で言う狂戦士化に近い。
そのため、他の魔物より、ずっと本能に忠実で獰猛な一面を持つ。
また、カニスには固有スキルがあり、そのスキルと言うのが……。
「────リアム!避けろ!」
私の思考を遮るようにレオンさんが焦ったようにそう叫んだ。
その声に釣られるまま、ふと顔をあげれば、リアムさんに襲い掛かるカニスの姿が目に入る。
カニスの襲撃に慌てて鞭を手にする白髪アシメの美男子だったが……奴の方が少し早かった。
「いっ……!?」
リアムさんが鞭を奮う前にカニスは彼を押し倒し────肩に噛み付いたのだ。
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