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第五章
第219話『別れた理由』
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外で待機していたメンバーをボスフロアへ招き入れ、私達は束の間の休憩を楽しんでいた。
この真っ白な空間で、みんな思い思いの場所に固まり、水分補給や雑談をしている。
ボス戦を無事終えたからか、攻略メンバーの表情は明るかった。
今のところ死者は0人だし、重傷を負ったプレイヤーも居ない。
滑り出しは順調と言えるだろう。
「この調子で一気にサウスダンジョンを攻略したいですね」
「そうだね~。でも────自分の役目を放棄して、フロアボスに怯えていたクソ雑魚狂戦士姫が居るから、それはちょっと難しいかもね~」
ニタニタと悪い笑みを浮かべる徳正さんはこれみよがしにレオンさんへ流し目を送る。
我々『虐殺の紅月』の近くで休憩していた茶髪の美丈夫は気まずそうに視線を逸らした。
足手まといだった自覚はあるのだろう。
前線メンバーだったのに、人魚戦では全く活躍出来なかった……いや、しなかったもんね。
まあ、人魚の見た目に怯える気持ちは分からないでもないけど……でも、あれが『紅蓮の夜叉』の幹部なのかと思うと、凄く情けない。
なんなら、上司のレオンさんより、部下のリアムさんやセトの方が活躍してたしね……。
「俺っち達は粘液まみれになりながら、必死に戦ったのにクソ雑魚狂戦士姫と来たら、部屋の隅で怯えるだけ!またラルカに守ってもらった方が良いんじゃない~?お姫様抱っこ付きで~」
『おい、僕を巻き込むな。野郎を姫扱いする趣味はない』
レオンさんを全力で揶揄う徳正さんに対し、ラルカさんはホワイトボードを掲げ、全力で抗議する。
その傍で、レオンさんは己の無力さを恥じるように俯いていた。
「本当にすまない。昔から、ああいうのは苦手で……アヤにも『幹部のくせに情けない。さっさと克服しなさい』って言われていたんだが……」
「あっ!そうだ!クソ雑魚狂戦士姫とアヤさんって、元恋人同士なんでしょ~?何で別れたの~?」
レオンさんを揶揄うのに飽きたのか、徳正さんはプライベートな質問を投げかける。
無神経極まりない徳正さんの言葉に、私は思わず言葉を失った。
何でそんなデリケートな話を……いや、恋愛に関する質問は別に構わないけど、元恋人の話はダメでしょう!その手の話は避けるのがマナーです!親しき仲にも礼儀ありって、言葉を今一度学び直してきて下さい!
私は徳正さんの失礼すぎる言動に目眩を覚えつつ、レオンさんに助け船を出した。
「レオンさん、この質問には答えて頂かなくて結構です。うちのメンバーが無神経な発言をしてしまい、申し訳ありません。徳正さんには後で私が言い聞かせて……」
「────いや、別に構わねぇーよ。隠してた訳じゃねぇーし……それに本当に大した話じゃないから、気になるなら教えてやる」
私の言葉を遮るようにそう言い捨てた茶髪の美丈夫はガシガシと頭を搔く。
本当に大した話じゃないのか、レオンさんには躊躇う様子が全くなかった。
「アヤとはたまに二人でクエストやダンジョンに潜るんだが、俺が前に出過ぎてよく叱られるんだ。普段は俺が謝って丸く収まるんだが……その日はちょっとイライラしてて……つい、言い返しちまったんだ。『結局、何ともなかったんだから良いだろ!』って。それでアヤもヒートアップしちまって、気づいたら喧嘩別れみたいになってたんだ」
自分が悪かった自覚があるのか、レオンさんはバツの悪そうな顔をする。
レモンイエローの瞳からは反省と後悔が滲み出ていた。
アヤさんに八つ当たりした事実はいただけないけど、人間誰しも苛立ってしまう時がある。
その結果、恋人と心がすれ違ってしまうこともあるだろう。
それに起きてしまったことはしょうがない。大事なのはこれから、どうするかだ。
「本当に大したことないね~。予想の数倍は詰まらなかったよ~。聞いて、損した~」
そう言って、黒衣の忍びは大袈裟に肩を竦める。
他人事だからと、軽く見ているのだろう。
「徳正さん、質問した立場でその言い方はどうなんですか?それに部外者からすれば詰まらない話でも、当事者からすれば大変な話で……」
「────だってさ~」
私の説教をわざと遮った徳正さんはそこで言葉を切ると、心底詰まらなさそうにこう呟いた。
「────復縁するのは時間の問題じゃん~。アヤさんもクソ雑魚狂戦士姫のこと、まだ好きみたいだったし~。どっちかが復縁を持ち掛ければ、直ぐに解決すると思うけど~」
頭の後ろで腕を組む徳正さんは呆れたように溜め息を零す。
『直ぐにでも復縁できる』と断言した彼に対し、レオンさんは大きく目を見開いた。
驚き過ぎて声も出ないのか、口をパクパクさせている。
「なかなか復縁しないから、『きっと、物凄い別れ方をしたんだろうなぁ』って思ってたんだけど、期待外れだったな~。むしろ、何でまだ復縁していないのか謎だわ~」
やれやれとでも言うように首を左右に振る徳正さんに、私は思わず苦笑を漏らした。
ほんのり赤くなった彼の耳をじっと見つめる。
徳正さんって、意外と不器用ですね。
あんな言い方しなくても、レオンさんに復縁のチャンスはあるって伝えることが出来るのに。
『小学生か!』とツッコミを入れたくなるほど不器用な彼の気遣いに、小さく息を吐いた。
「徳正さんって、意外と照れ屋なんですね」
「あいつが仲間以外の奴を気遣うことなんて、あんまりないからな。普段やらないことをやって、ちょっと恥ずかしいんだろう」
『好きな子ばかりに意地悪をする小学生男子みたいだな』
各々好きな感想を述べる中、地獄耳の徳正さんは羞恥心に耐え切れなくなったのか、ガバッと勢いよくこちらを振り返った。
「ちょっ、そこ!ばっちり聞こえてるからね~!?勝手なこと言わないでくれる~!?」
顔の半分が布で覆われていても分かるほど、顔を真っ赤にした徳正さんがそう叫ぶ。
八つ当たりついでにラルカさんとリーダーの元へ手裏剣を投げつけるが……当然の如く、叩き落とされた。
私に当たらないよう、きちんと配慮しているあたり徳正さんらしいが、休憩時間に武器を投げるのはやめて頂きたい。
他のメンバーに当たったりしたら、大惨事だもの。
まあ、徳正さんに限って、そんなミスをするとは思えないけど。
でも、危ないことに変わりないし、後できっちり説教しておこう。
私がそう決意する中、徳正さんの意図を察したレオンさんが僅かに表情を和らげた。
こちらの様子を見守っていた他のメンバーも微笑ましげに彼らを見つめている。
「徳正、ありがとう。お前のおかげで勇気が出た。サウスダンジョン攻略が終わったら、一度アヤと話し合ってみる」
グッと力強く拳を握り締め、レオンさんは歯を見せて笑った。
裏表のない無邪気な笑顔は太陽のように輝いて見える。
“影の疾走者”はそんな輝きから目を背けるようにプイッと顔を逸らした。
「はぁ……勝手にすれば~?」
これみよがしに溜め息を零し、『どうでもいい』アピールをする徳正さんだったが……僅かに頬が緩んでいる。
なんだかんだ言いながら、レオンさんのことを気に入っているのだろう。
出会いは本当に最悪だったけど、レオンさんは決して悪い人じゃないしね。
私としても、レオンさんとアヤさんには是非とも復縁してほしい。
だって────FROでは、いつ死ぬか分からないから……。
だから、後悔のない生き方をしてほしい。
このデスゲームの危険性を理解しているからこそ、私は強く……本当に強くそう願った。
この真っ白な空間で、みんな思い思いの場所に固まり、水分補給や雑談をしている。
ボス戦を無事終えたからか、攻略メンバーの表情は明るかった。
今のところ死者は0人だし、重傷を負ったプレイヤーも居ない。
滑り出しは順調と言えるだろう。
「この調子で一気にサウスダンジョンを攻略したいですね」
「そうだね~。でも────自分の役目を放棄して、フロアボスに怯えていたクソ雑魚狂戦士姫が居るから、それはちょっと難しいかもね~」
ニタニタと悪い笑みを浮かべる徳正さんはこれみよがしにレオンさんへ流し目を送る。
我々『虐殺の紅月』の近くで休憩していた茶髪の美丈夫は気まずそうに視線を逸らした。
足手まといだった自覚はあるのだろう。
前線メンバーだったのに、人魚戦では全く活躍出来なかった……いや、しなかったもんね。
まあ、人魚の見た目に怯える気持ちは分からないでもないけど……でも、あれが『紅蓮の夜叉』の幹部なのかと思うと、凄く情けない。
なんなら、上司のレオンさんより、部下のリアムさんやセトの方が活躍してたしね……。
「俺っち達は粘液まみれになりながら、必死に戦ったのにクソ雑魚狂戦士姫と来たら、部屋の隅で怯えるだけ!またラルカに守ってもらった方が良いんじゃない~?お姫様抱っこ付きで~」
『おい、僕を巻き込むな。野郎を姫扱いする趣味はない』
レオンさんを全力で揶揄う徳正さんに対し、ラルカさんはホワイトボードを掲げ、全力で抗議する。
その傍で、レオンさんは己の無力さを恥じるように俯いていた。
「本当にすまない。昔から、ああいうのは苦手で……アヤにも『幹部のくせに情けない。さっさと克服しなさい』って言われていたんだが……」
「あっ!そうだ!クソ雑魚狂戦士姫とアヤさんって、元恋人同士なんでしょ~?何で別れたの~?」
レオンさんを揶揄うのに飽きたのか、徳正さんはプライベートな質問を投げかける。
無神経極まりない徳正さんの言葉に、私は思わず言葉を失った。
何でそんなデリケートな話を……いや、恋愛に関する質問は別に構わないけど、元恋人の話はダメでしょう!その手の話は避けるのがマナーです!親しき仲にも礼儀ありって、言葉を今一度学び直してきて下さい!
私は徳正さんの失礼すぎる言動に目眩を覚えつつ、レオンさんに助け船を出した。
「レオンさん、この質問には答えて頂かなくて結構です。うちのメンバーが無神経な発言をしてしまい、申し訳ありません。徳正さんには後で私が言い聞かせて……」
「────いや、別に構わねぇーよ。隠してた訳じゃねぇーし……それに本当に大した話じゃないから、気になるなら教えてやる」
私の言葉を遮るようにそう言い捨てた茶髪の美丈夫はガシガシと頭を搔く。
本当に大した話じゃないのか、レオンさんには躊躇う様子が全くなかった。
「アヤとはたまに二人でクエストやダンジョンに潜るんだが、俺が前に出過ぎてよく叱られるんだ。普段は俺が謝って丸く収まるんだが……その日はちょっとイライラしてて……つい、言い返しちまったんだ。『結局、何ともなかったんだから良いだろ!』って。それでアヤもヒートアップしちまって、気づいたら喧嘩別れみたいになってたんだ」
自分が悪かった自覚があるのか、レオンさんはバツの悪そうな顔をする。
レモンイエローの瞳からは反省と後悔が滲み出ていた。
アヤさんに八つ当たりした事実はいただけないけど、人間誰しも苛立ってしまう時がある。
その結果、恋人と心がすれ違ってしまうこともあるだろう。
それに起きてしまったことはしょうがない。大事なのはこれから、どうするかだ。
「本当に大したことないね~。予想の数倍は詰まらなかったよ~。聞いて、損した~」
そう言って、黒衣の忍びは大袈裟に肩を竦める。
他人事だからと、軽く見ているのだろう。
「徳正さん、質問した立場でその言い方はどうなんですか?それに部外者からすれば詰まらない話でも、当事者からすれば大変な話で……」
「────だってさ~」
私の説教をわざと遮った徳正さんはそこで言葉を切ると、心底詰まらなさそうにこう呟いた。
「────復縁するのは時間の問題じゃん~。アヤさんもクソ雑魚狂戦士姫のこと、まだ好きみたいだったし~。どっちかが復縁を持ち掛ければ、直ぐに解決すると思うけど~」
頭の後ろで腕を組む徳正さんは呆れたように溜め息を零す。
『直ぐにでも復縁できる』と断言した彼に対し、レオンさんは大きく目を見開いた。
驚き過ぎて声も出ないのか、口をパクパクさせている。
「なかなか復縁しないから、『きっと、物凄い別れ方をしたんだろうなぁ』って思ってたんだけど、期待外れだったな~。むしろ、何でまだ復縁していないのか謎だわ~」
やれやれとでも言うように首を左右に振る徳正さんに、私は思わず苦笑を漏らした。
ほんのり赤くなった彼の耳をじっと見つめる。
徳正さんって、意外と不器用ですね。
あんな言い方しなくても、レオンさんに復縁のチャンスはあるって伝えることが出来るのに。
『小学生か!』とツッコミを入れたくなるほど不器用な彼の気遣いに、小さく息を吐いた。
「徳正さんって、意外と照れ屋なんですね」
「あいつが仲間以外の奴を気遣うことなんて、あんまりないからな。普段やらないことをやって、ちょっと恥ずかしいんだろう」
『好きな子ばかりに意地悪をする小学生男子みたいだな』
各々好きな感想を述べる中、地獄耳の徳正さんは羞恥心に耐え切れなくなったのか、ガバッと勢いよくこちらを振り返った。
「ちょっ、そこ!ばっちり聞こえてるからね~!?勝手なこと言わないでくれる~!?」
顔の半分が布で覆われていても分かるほど、顔を真っ赤にした徳正さんがそう叫ぶ。
八つ当たりついでにラルカさんとリーダーの元へ手裏剣を投げつけるが……当然の如く、叩き落とされた。
私に当たらないよう、きちんと配慮しているあたり徳正さんらしいが、休憩時間に武器を投げるのはやめて頂きたい。
他のメンバーに当たったりしたら、大惨事だもの。
まあ、徳正さんに限って、そんなミスをするとは思えないけど。
でも、危ないことに変わりないし、後できっちり説教しておこう。
私がそう決意する中、徳正さんの意図を察したレオンさんが僅かに表情を和らげた。
こちらの様子を見守っていた他のメンバーも微笑ましげに彼らを見つめている。
「徳正、ありがとう。お前のおかげで勇気が出た。サウスダンジョン攻略が終わったら、一度アヤと話し合ってみる」
グッと力強く拳を握り締め、レオンさんは歯を見せて笑った。
裏表のない無邪気な笑顔は太陽のように輝いて見える。
“影の疾走者”はそんな輝きから目を背けるようにプイッと顔を逸らした。
「はぁ……勝手にすれば~?」
これみよがしに溜め息を零し、『どうでもいい』アピールをする徳正さんだったが……僅かに頬が緩んでいる。
なんだかんだ言いながら、レオンさんのことを気に入っているのだろう。
出会いは本当に最悪だったけど、レオンさんは決して悪い人じゃないしね。
私としても、レオンさんとアヤさんには是非とも復縁してほしい。
だって────FROでは、いつ死ぬか分からないから……。
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