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第五章

第218話『マーメード討伐完了』

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「……あの方法が一番確実ですね」

 意味深にそう呟くと、私は後ろに控えていた黒衣の忍びを手招いた。
嬉々として、近寄ってくる彼にある事を耳打ちする。

「ふむふむ……なるほどね~。それなら、俺っちに任せといて~!」

「はい、よろしくお願いします」

 楽しそうに笑う徳正さんは張り切った様子で、トンッと軽く地面を蹴りあげる。
ブォン!という風の音と共に宙へ舞い上がった彼の手にはクナイが握られていた。

 徳正さんのことだから、二度も粘液まみれ同じ手なる引っ掛かることはないだろう。

「ラミエル、徳正は何をしに行ったんだ?随分と張り切っているようだが……」

 堪らずといった様子で、ニールさんが話しかけて来る。
彼の頭上には巨大な『?』マークが見えた。

「何って────人魚マーメード集団リンチ・・・・・するための下準備に向かっただけですよ」

「はっ……?集団リンチ……?」

 訳が分からないと言わんばかりに眉を顰める青髪の彼に、私は『まあ、見ていて下さい』と言い聞かせた。
私が不敵な笑みを浮かべる中、徳正さんが上空からクナイを投げ下ろす。
それは真っ直ぐに落下していき────人魚マーメードの影に刺さった。
その瞬間、奴の動きがピタリと止まる。
まるで金縛りにでもあったかのように動かなくなった。

「はい、影縫い・・・完了~!」

 徳正さんが意気揚々とそう叫べば、不思議そうに首を傾げていたニールさんがハッとしたように目を見開いた。

「なるほど……その手があったか。完全に盲点だった」

 感心したようにそう呟く青髪の美丈夫は形勢逆転したこの状況に、ホッと息を吐き出した。
ニールさんが安心したように肩の力を抜く中、黒衣の忍びが私の横に降り立つ。

「お疲れ様でした、徳正さん。おかげで人魚マーメードを楽に仕留められそうです」

「これくらい、お安い御用だよ~」

 気取った様子もなく、ケラケラと呑気に笑っている徳正さんに、私は内心苦笑を漏らす。

 『これくらい』って言うけど、一般プレイヤーからすれば、フロアボスの身動きを封じるなんて有り得ないことなんだよね……。
だって、忍者の固有スキル『影縫い』は格下相手にしか通じないから。
チームを組んでやっと倒せるボスに、『影縫い』が出来るのは恐らく徳正さんだけだろう。

 正直、徳正さんの『影縫い』がフロアボスに通じるのか半信半疑だったけど、上手くいって本当に良かった。

 ホッと胸を撫で下ろしつつ、私は粘液まみれになっているリーダー達の方へ視線を向ける。
瞬時に状況を呑み込んだリーダーとラルカさんはへっぴり腰になりながらも、水溜まりの範囲から出て、パーフェクトクリーンを使っていた。
セトはと言うと……まだ現状に頭が追いつかないのか、困惑した様子で人魚マーメードを眺めている。

 はぁ……指示がないと動けないのは以前と変わらないみたいね。
まあ、勝手に動かれるよりはマシか。

「セト、もう盾を構えなくて大丈夫だよ。徳正さんの影縫いで、人魚マーメードの動きを封じているから。水溜まりの範囲から出て、粘液を落としたら、どう?」

「え?あっ、分かった……」

 ガラハドの盾をアイテムボックスの中に収納したセトはリーダー達と同様、へっぴり腰になりながら水溜まりの範囲外へ向かう。
その手にはパーフェクトクリーンが握られており、直ぐにでも粘液を除去出来るようにしていた。

 とりあえず、これで最悪の事態は回避出来た。
あとは一斉攻撃を仕掛けて、人魚マーメードを倒すだけだけど……。

 チラッと徳正さんの方へ目を向ければ、手裏剣を装備する姿が目に入る。
パーフェクトクリーンで身綺麗になったリーダーとラルカさんもそれぞれ短剣や投げナイフを手にしていた。
遠距離攻撃の主体となるリアムさんに関しては、既に弓を構えている。

 総指揮官のニールさんとヘタレなレオンさん、それからタンクのセト以外は皆やる気満々みたいね。あんまり時間もないし、ちゃちゃっと片付けてしまいましょうか。

「リアムさん、徳正さん、ラルカさん、リーダーは横一列に並んで下さい。そして、私が合図したら人魚マーメードに一斉攻撃をお願いします」

「おっけ~」

『承知した』

「分かった」

「了解したよ☆攻撃は任せておくれ」

 私の指示に各々了承の意を示す彼らは人魚マーメードを取り囲むように陣形を整える。
間違っても味方に攻撃を当てないよう、注意してから、私は『ふぅ……』と息を吐き出した。
ようやく終わりが見えてきた戦いに、少しだけ安堵する。
でも、最後まで気を抜かないよう、表情を引き締めた。

「皆さん、準備はいいですね?それでは────一斉攻撃、開始!」

 そう叫ぶと同時に武器を構えた彼らがフロアボス目掛けて、各々攻撃を始めた。
徳正さんの投げた手裏剣が人魚マーメードの目ん玉に刺さり、リーダーの短剣が奴の頭を貫く。そして、ラルカさんの放ったナイフが蛙のような足に突き刺さり、リアムさんの弓が心臓を射抜いた。
 スキルすら使っていない遠距離攻撃だが、心臓を狙ったのが良かったのか、それとも徳正さん達の攻撃力が高すぎたのか────人魚マーメードは一瞬にして、光の粒子と化す。
奴の粘液も体の一部として判断されるのか、地面に撒き散らされた謎の液体も真っ白な光と共に消えていった。

 ホラー映画としか思えない外見のフロアボスが消え、ホッと息を吐き出す。
空気中に漂う生臭さもなくなり、随分と息がしやすくなった。

 ふぅ……徳正さん達が粘液まみれになったときはさすがに焦ったけど、無事に終わって良かった。

「はぁ~!もうあんな気持ち悪い生物との戦いは御免だね~。俺っち、疲れちゃった~。ラーちゃん、癒して~」

「疲れたなら、そこら辺で休んでいて下さい」

「え~!ラーちゃん、冷たい~!俺っち、今回結構頑張ったのに~!ちょっとくらい、癒してくれてもいいじゃん~」

 『ケチ~』と言って、口先を尖らせる徳正さんに、私は白けた目を向ける。
ブーブーと文句を垂れる忍者を前に、私はクマの着ぐるみを呼び寄せた。

「癒しが欲しいなら、ラルカさんに言ってください。私なんかより、癒し効果抜群ですから。ほら、アニマルセラピー(?)って言うでしょう?」

『ん?徳正は癒しを求めているのか?それなら、力になれると思うぞ。クマさんの癒し効果は世界最高レベルだからな』

 よく分からない理論を持ち出す私とラルカさんに、徳正さんは『げっ!』と顔を顰める。
だが、ラルカさんはそんなのお構い無しでガバッと両手を拡げた。
その状態でジリジリと徳正さんに近づいていく。

『癒しなら、任せておけ。クマさん効果で存分に癒されるといい』

「え?ちょっ!?たんま、たんま!俺っちはそんな癒し求めてない!俺っちはただ好きな女の子に癒して貰いたいだけ……って、こっちに来ないでくれる!?」

『大丈夫だ。安心しろ。僕に任せてくれれば、万事解決だ。さあ、一緒に新しい扉を開こう』

「えぇ!?その言い方、なんだか凄く卑猥なんだけど……じゃなくて!マジで無理だから!一旦落ち着こ!?」

 必死の形相で首を左右に振る徳正さんに対し、ラルカさんは全く聞く耳を持たない。
そして、クマさん信者の彼は─────問答無用で、忍者を抱き締めた。
『ぎゃ━━━━!』と断末魔にも似た徳正さんの叫び声がこの場に木霊する。

 さて……あの二人は無視して、扉の向こうに居るメンバーを迎えに行こうか。

 意外と神経が図太い私は徳正さん達のことを放置して、出入口へ向かうのだった。
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