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第五章
第212話『サウスダンジョン攻略開始』
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サウスダンジョンの第一階層へ足を踏み入れた私達は上層魔物であるゴブリンと一戦交えていた。
あちこちから、キンッと硬いものがぶつかる音が聞こえる。
私は意欲的に戦うプレイヤー達の姿を見つめながら、戦況を見守っていた。
『紅蓮の夜叉』が定期的にゴブリンを駆除していたとはいえ、やっぱり数が多い……。
さすがにゴブリンに殺られて倒れる人は居ないけど、何人か手傷を負っているみたい。
治してあげたいところだけど……あの程度の怪我でいちいち治癒魔法を使っていたら、MPが空になっちゃう。悪いけど、軽傷に関してはライフポーションを使ってもらおう。
「今のところ、順調みたいですね」
リーダーが考えた作戦のおかげで士気が高まり、みんな本来の力を出せている。
しかも、攻略メンバーのほとんどが『蒼天のソレーユ』のギルドメンバーのため、連携がきちんと取れていた。
『戦場の支配者』の異名を持つニールさんがわざわざスキルを発動しなくても、ここまで連携出来るのか……『虐殺の紅月』のメンバーとは大違いだ。
うちは集団ソロプレイがモットーだから。
すぐ傍に居るうちのメンバーにチラリと目をやれば、向かってくるゴブリンを片っ端から切り裂いている様子が目に入る。
三角形になるような形で私を囲う最強の男達は退屈そうに剣や鎌を振り回していた。
中層魔物すら、余裕で倒す彼らからすれば、ゴブリン狩りなんて朝飯前か……。わざわざ連携を取る必要なんて、ないみたい。
まあ、魔王討伐クエストに向けて、少しは集団戦闘のやり方を学んで欲しいけど……。
簡単そうにゴブリンの首を跳ね飛ばす彼らの姿を見つめていると、黒衣の忍びが不意にこちらを振り返った。
「……ん?どうしたの、ラーちゃん~。俺っち達のことを見つめたりして~。あっ!もしかして、俺っちが格好良すぎて見惚れちゃった~?」
セレディバイトの瞳を細め、徳正さんは嬉しそうに笑う。
緊張感なんて微塵も感じない彼の飄々とした態度に、私は思わず苦笑を漏らした。
サウスダンジョンの攻略が始まったというのに、徳正さんは本当にブレないなぁ……。
「残念ながら、見惚れていません。ただ、退屈そうにゴブリン狩りをする姿がシュールだったので見つめていただけです」
「え~?何その理由~!そこは嘘でも『徳正さんの戦う姿に見惚れていました♡』って言ってよ~!俺っち、泣いちゃうよ~?」
残念そうに肩を落とし、泣き真似をする徳正さんの元に一体のゴブリンが駆け寄ってくる。
ゴブリンは徳正さんの隙をついたつもりなんだろうが、気配探知に長けた彼に奇襲なんて通用しなかった。
ザシュッという効果音と共に、徳正さんは背後に迫った敵を瞬時に切り伏せる────下手くそな泣き真似をしながら……。
背後から襲い掛かってきたゴブリンを見もせずに倒す実力は凄いけど、下手くそな泣き真似のせいで全部台無しだ……。
状況がシュール過ぎて、もはや何も言えない……。
『徳正、下手くそな泣き真似はやめろ。見ているこっちが居た堪れない……』
「ちょっ!それ、どういう意味~!?」
私の代わりにツッコミ役を引き受けてくれたラルカさんに、徳正さんは思い切り噛み付いた。
ギャーギャーと言い合いを繰り広げる彼らを他所に、リーダーは黙々とゴブリンを倒していく。
毎度の如く、彼らには協調性というものが一切なかった。
まあ、徳正さん達のマイペースさは今に始まったことじゃないし、今更どうこう言うつもりはないけど……。言っても無駄なのはよく分かっているから。
「大体さ~、俺っちは泣き真似なんてしてないから~!ガチ泣きだから~!ほら、見てよ~。綺麗な涙が流れてるでしょ~?」
自身の目元を指さし、潤んだ目を強調する徳正さんは心外だと言わんばかりにムッとした表情を浮かべる。
それに対し、ラルカさんは本気でドン引きしていた。
『ガチ泣きの方がまずいだろ……。その歳にもなって、大勢の前で泣くなんて恥ずかしいと思わないのか?』
「ラーちゃんの気を引くためなら、男のプライドなんて幾らでも捨てられるよ~。ていうか、周りの目なんて気にしないし~」
肩を竦めてそう答える徳正さんに、クマの着ぐるみは無言で頭を抱えた。
常識が欠落しているラルカさんでも、さすがにやばいと思ったらしい。
徳正さんって、私のことになると途端に馬鹿になるよね……。
「……徳正さん、とりあえず泣き止んで下さい。女々しい男はモテませんよ」
「俺っちは別にモテたい訳じゃないけど、ラーちゃんがそう言うなら泣き止むよ~」
ゴシゴシと目元を擦る黒衣の忍者は拍子抜けするほど、あっさり泣き止んだ。
『やっぱり、泣き真似だったんじゃ……?』と疑ってしまうくらいには……。
私は徳正さんの右手にチラッと目をやり、顎に手を当てる。
「……念のため伺いますが、目薬を使って涙を流した訳じゃありませんよね?」
不自然に握られた徳正さんの右手を凝視しながらそう尋ねると、彼は大袈裟なくらい肩をビクつかせた。
そして、ダラダラと汗を流しながら、そろりと目を逸らす。
怪しい……めちゃくちゃ怪しい!!
「……え、え~?そんな訳ないじゃ~ん!俺っちが嘘泣きなんて、するわけ……」
「じゃあ、その右手に持っているものを見せてください」
論より証拠という言葉に習い、私は握ったままの右手を開くよう要求した。
すると、徳正さんの冷や汗が更に勢いを増す。
もはや、彼が嘘をついていることは明白だった。
またこんな小細工をして……本当に懲りない人だな。
私は『はぁ……』と大きな溜め息を零すと、呆れた表情を浮かべた。
「今、本当のことを言うなら許します。でも、言い訳を続けるなら、罰を与えま……」
「嘘泣きして、ごめんなさい!」
右手に持つ目薬を私に差し出し、徳正さんは慌てて謝罪を口にした。
『こういう時は直ぐに謝った方がいい』ということを理解しているのだろう。
はぁ……全く、ダンジョンに来てまでお説教させないで下さい。
上層とはいえ、ここは危険地帯なんですから。
「今回は大目に見ますが、次はありませんからね。ダンジョン内なんですから、もっと緊張感を持ってください」
「緊張感か~。俺っちはそんなものなくても大丈夫だけど、ラーちゃんの指示なら従うよ~」
少し悩むような仕草を見せたものの、徳正さんは素直に頷いた。
────と、ここで第二階層へ繋がる階段が見えてくる。
攻略メンバー総出でゴブリンを退治したせいか、第一階層にはもうほとんどゴブリンが残っていなかった。
と言っても、直ぐに復活するのだが……。
システム的にゴブリンを全滅させるのは無理だし、さっさと上層を駆け抜けたいところだけど……ニールさんはどう考えているのだろう?
総指揮官として、先陣を斬る青髪の美丈夫は階段の前で足を止めると、不意にこちらを振り返った。
レンズ越しに見えるラピスラズリの瞳がキラリと光る。
「上層で時間と体力を奪われる訳にはいかない。第二階層からは敵を倒すことよりも、前へ進むことを優先してほしい。一気に上層を駆け抜けるぞ」
よく通る声で、ニールさんはそう宣言すると、駆け足程度の速さで走り出した。
その後ろに『蒼天のソレーユ』のギルドメンバーがゾロゾロと続く。
そうなると私達も走らないといけない訳で……初っ端から、ランニングする羽目になった。
確かに効率を考えるなら、駆け足で上層を抜けた方がいいけど……軍隊の行進にしか見えないのは何故だろう?
列順の関係で最後尾に居るため、攻略メンバーの様子が後ろからよく見えるのだが……綺麗に整列して走っているせいか、軍隊の行進にしか見えない……。
ハッキリ言って、超シュールだ。彼らは至って真剣なので、余計に……。
「『蒼天のソレーユ』のギルドメンバーは行進の練習でもしていたのか?そこら辺の軍隊より、列が綺麗だぞ」
「リーダー、そこは敢えて触れないところです」
顎に手を当て、感心したように何度も頷くリーダーに、私は緩く首を振った。
そして、ついに────最後尾を担う我々『虐殺の紅月』も第二階層へ足を踏み入れる。
今まさにサウスダンジョンが本格的に始まろうとしていた。
あちこちから、キンッと硬いものがぶつかる音が聞こえる。
私は意欲的に戦うプレイヤー達の姿を見つめながら、戦況を見守っていた。
『紅蓮の夜叉』が定期的にゴブリンを駆除していたとはいえ、やっぱり数が多い……。
さすがにゴブリンに殺られて倒れる人は居ないけど、何人か手傷を負っているみたい。
治してあげたいところだけど……あの程度の怪我でいちいち治癒魔法を使っていたら、MPが空になっちゃう。悪いけど、軽傷に関してはライフポーションを使ってもらおう。
「今のところ、順調みたいですね」
リーダーが考えた作戦のおかげで士気が高まり、みんな本来の力を出せている。
しかも、攻略メンバーのほとんどが『蒼天のソレーユ』のギルドメンバーのため、連携がきちんと取れていた。
『戦場の支配者』の異名を持つニールさんがわざわざスキルを発動しなくても、ここまで連携出来るのか……『虐殺の紅月』のメンバーとは大違いだ。
うちは集団ソロプレイがモットーだから。
すぐ傍に居るうちのメンバーにチラリと目をやれば、向かってくるゴブリンを片っ端から切り裂いている様子が目に入る。
三角形になるような形で私を囲う最強の男達は退屈そうに剣や鎌を振り回していた。
中層魔物すら、余裕で倒す彼らからすれば、ゴブリン狩りなんて朝飯前か……。わざわざ連携を取る必要なんて、ないみたい。
まあ、魔王討伐クエストに向けて、少しは集団戦闘のやり方を学んで欲しいけど……。
簡単そうにゴブリンの首を跳ね飛ばす彼らの姿を見つめていると、黒衣の忍びが不意にこちらを振り返った。
「……ん?どうしたの、ラーちゃん~。俺っち達のことを見つめたりして~。あっ!もしかして、俺っちが格好良すぎて見惚れちゃった~?」
セレディバイトの瞳を細め、徳正さんは嬉しそうに笑う。
緊張感なんて微塵も感じない彼の飄々とした態度に、私は思わず苦笑を漏らした。
サウスダンジョンの攻略が始まったというのに、徳正さんは本当にブレないなぁ……。
「残念ながら、見惚れていません。ただ、退屈そうにゴブリン狩りをする姿がシュールだったので見つめていただけです」
「え~?何その理由~!そこは嘘でも『徳正さんの戦う姿に見惚れていました♡』って言ってよ~!俺っち、泣いちゃうよ~?」
残念そうに肩を落とし、泣き真似をする徳正さんの元に一体のゴブリンが駆け寄ってくる。
ゴブリンは徳正さんの隙をついたつもりなんだろうが、気配探知に長けた彼に奇襲なんて通用しなかった。
ザシュッという効果音と共に、徳正さんは背後に迫った敵を瞬時に切り伏せる────下手くそな泣き真似をしながら……。
背後から襲い掛かってきたゴブリンを見もせずに倒す実力は凄いけど、下手くそな泣き真似のせいで全部台無しだ……。
状況がシュール過ぎて、もはや何も言えない……。
『徳正、下手くそな泣き真似はやめろ。見ているこっちが居た堪れない……』
「ちょっ!それ、どういう意味~!?」
私の代わりにツッコミ役を引き受けてくれたラルカさんに、徳正さんは思い切り噛み付いた。
ギャーギャーと言い合いを繰り広げる彼らを他所に、リーダーは黙々とゴブリンを倒していく。
毎度の如く、彼らには協調性というものが一切なかった。
まあ、徳正さん達のマイペースさは今に始まったことじゃないし、今更どうこう言うつもりはないけど……。言っても無駄なのはよく分かっているから。
「大体さ~、俺っちは泣き真似なんてしてないから~!ガチ泣きだから~!ほら、見てよ~。綺麗な涙が流れてるでしょ~?」
自身の目元を指さし、潤んだ目を強調する徳正さんは心外だと言わんばかりにムッとした表情を浮かべる。
それに対し、ラルカさんは本気でドン引きしていた。
『ガチ泣きの方がまずいだろ……。その歳にもなって、大勢の前で泣くなんて恥ずかしいと思わないのか?』
「ラーちゃんの気を引くためなら、男のプライドなんて幾らでも捨てられるよ~。ていうか、周りの目なんて気にしないし~」
肩を竦めてそう答える徳正さんに、クマの着ぐるみは無言で頭を抱えた。
常識が欠落しているラルカさんでも、さすがにやばいと思ったらしい。
徳正さんって、私のことになると途端に馬鹿になるよね……。
「……徳正さん、とりあえず泣き止んで下さい。女々しい男はモテませんよ」
「俺っちは別にモテたい訳じゃないけど、ラーちゃんがそう言うなら泣き止むよ~」
ゴシゴシと目元を擦る黒衣の忍者は拍子抜けするほど、あっさり泣き止んだ。
『やっぱり、泣き真似だったんじゃ……?』と疑ってしまうくらいには……。
私は徳正さんの右手にチラッと目をやり、顎に手を当てる。
「……念のため伺いますが、目薬を使って涙を流した訳じゃありませんよね?」
不自然に握られた徳正さんの右手を凝視しながらそう尋ねると、彼は大袈裟なくらい肩をビクつかせた。
そして、ダラダラと汗を流しながら、そろりと目を逸らす。
怪しい……めちゃくちゃ怪しい!!
「……え、え~?そんな訳ないじゃ~ん!俺っちが嘘泣きなんて、するわけ……」
「じゃあ、その右手に持っているものを見せてください」
論より証拠という言葉に習い、私は握ったままの右手を開くよう要求した。
すると、徳正さんの冷や汗が更に勢いを増す。
もはや、彼が嘘をついていることは明白だった。
またこんな小細工をして……本当に懲りない人だな。
私は『はぁ……』と大きな溜め息を零すと、呆れた表情を浮かべた。
「今、本当のことを言うなら許します。でも、言い訳を続けるなら、罰を与えま……」
「嘘泣きして、ごめんなさい!」
右手に持つ目薬を私に差し出し、徳正さんは慌てて謝罪を口にした。
『こういう時は直ぐに謝った方がいい』ということを理解しているのだろう。
はぁ……全く、ダンジョンに来てまでお説教させないで下さい。
上層とはいえ、ここは危険地帯なんですから。
「今回は大目に見ますが、次はありませんからね。ダンジョン内なんですから、もっと緊張感を持ってください」
「緊張感か~。俺っちはそんなものなくても大丈夫だけど、ラーちゃんの指示なら従うよ~」
少し悩むような仕草を見せたものの、徳正さんは素直に頷いた。
────と、ここで第二階層へ繋がる階段が見えてくる。
攻略メンバー総出でゴブリンを退治したせいか、第一階層にはもうほとんどゴブリンが残っていなかった。
と言っても、直ぐに復活するのだが……。
システム的にゴブリンを全滅させるのは無理だし、さっさと上層を駆け抜けたいところだけど……ニールさんはどう考えているのだろう?
総指揮官として、先陣を斬る青髪の美丈夫は階段の前で足を止めると、不意にこちらを振り返った。
レンズ越しに見えるラピスラズリの瞳がキラリと光る。
「上層で時間と体力を奪われる訳にはいかない。第二階層からは敵を倒すことよりも、前へ進むことを優先してほしい。一気に上層を駆け抜けるぞ」
よく通る声で、ニールさんはそう宣言すると、駆け足程度の速さで走り出した。
その後ろに『蒼天のソレーユ』のギルドメンバーがゾロゾロと続く。
そうなると私達も走らないといけない訳で……初っ端から、ランニングする羽目になった。
確かに効率を考えるなら、駆け足で上層を抜けた方がいいけど……軍隊の行進にしか見えないのは何故だろう?
列順の関係で最後尾に居るため、攻略メンバーの様子が後ろからよく見えるのだが……綺麗に整列して走っているせいか、軍隊の行進にしか見えない……。
ハッキリ言って、超シュールだ。彼らは至って真剣なので、余計に……。
「『蒼天のソレーユ』のギルドメンバーは行進の練習でもしていたのか?そこら辺の軍隊より、列が綺麗だぞ」
「リーダー、そこは敢えて触れないところです」
顎に手を当て、感心したように何度も頷くリーダーに、私は緩く首を振った。
そして、ついに────最後尾を担う我々『虐殺の紅月』も第二階層へ足を踏み入れる。
今まさにサウスダンジョンが本格的に始まろうとしていた。
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