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第五章

第207話『大激怒』

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「────という事があり、徳正さんとラルカさんはセトに激怒しているんです」

 セトの所業を包み隠さず全て話すと、レオンさんは怒りでプルプル震えていた。
狂戦士バーサーカー特有の禍々しいオーラを放ち、鋭い目付きでセトを睨みつける。

「このっ……!!恩知らずが!!!恩人になんてことをしているんだ!!!そんなの憎まれて当然だ!!!」

「っ……!!す、すみませ……」

「謝る相手は俺じゃないだろ!!ラミエルにちゃんと謝れ!!」

「いっ……!?」

 後頭部を思い切りグーで殴られたセトは、涙目になりながらレオンさんを見上げた。
が、額に青筋を浮かべるレオンさんを見るなり、直ぐさま俯く。
ここまで情けないセトの姿を見るのは、初めだった。

 なんというか……凄く素直だね。
私達には生意気な態度しか取らなかったのに……上司には敵わないってことかな?

「お前には失望したぞ!!やっと俺の後を任せられる奴が現れたと思ったのに!本当にガッカリだ!」

「猛獣使いの姫君に危害を加えるなんて、君も馬鹿なことをしたね。そんなことをすれば、姫君を慕う猛獣たちが怒り狂うだけだというのに……君は自殺願望でもあるのかい?」

「いや、そういう訳では……」

 『紅蓮の夜叉』の幹部と幹部候補に責め立てられ、セトは随分と潮らしくなった。
だが、しかし……決して私に謝ろうとはしない。

 もういっそ謝ってしまえば楽なものを……変なところで意地を張るんだから、困ったものだ。
自分で自分の首を絞めている自覚は、あるんだろうか?

「とにかく!お前は後でたっぷり説教してや……」

「────あ、あの~……もうそろそろ、昼食会が始まりますので会場に移動して頂けませんか……?」

 おずおずといった様子で声を掛けてきたのは、『蒼天のソレーユ』のギルドメンバーだった。
案内役として馳せ参じたであろう彼女を前に、レオンさんは慌てて怒りを鎮める。
おかげで、ピリピリとした空気がようやく緩和された。

 ナイスタイミング、案内役の人!
レオンさんがセトをタコ殴りにする前に来てくれて、良かった!

 『助かった!』と心底安堵していると、リーダーが席を立つ。

「騒がしくして、悪かった。案内を頼む」

 リーダーの鶴の一声により、私達は行動を開始し────昼食会の会場を訪れた。
中は既にサウスダンジョン攻略メンバーのプレイヤーで溢れ返っており、宴会ムードである。
どうやら、今までにない豪華なもてなしに浮かれているようだ。
まあ、約二名ほどこの場の雰囲気に似つかわしくない表情を浮かべているけど……。

「……あれ、大丈夫ですかね?今にも泣き出しそうですが……」

 そう言って、私はある方向を指さす。
そこには────仏頂面のレオンさんと涙目のセトの姿があった。
一応、二人の傍には楽しそうに笑うリアムさんの姿もあるが……マイペースな彼が、二人の仲を取り持つとは思えない。

「ん~?まあ、大丈夫じゃな~い?泣き出して恥をかくのは、本人だけだし~」

「いや、そういう意味ではなくて……」

『まあ、何にせよ、あいつの自業自得だ』

「……そう言われると、何も言えませんね」

 ビクビクと震えているセトを横目に、私は『はぁ……』と深い溜め息を零す。
そんな私を慰めるように、リーダーがポンポンッと頭を撫でてくれた。

「ああなったのは、あいつの責任だ。ラミエルが気に病む必要はない。それより、今は昼食会に集中しろ。もうすぐ、乾杯の挨拶が始まる筈だ」

「はい、分かりました」

 リーダーの言葉に一つ頷き、私は近くのボーイからグラスを一つ受け取る。
赤ワインが入ったソレを手に、ステージを見上げると────タイミングよく、明かりがついた。
それを合図に、賑やかだった会場内は静まり返る。
ステージ上に、『蒼天のソレーユ』のギルドマスターであるニールさんの姿を見つけたからだろう。

 時刻はちょうど十一時半……予定されていた開始時刻、ピッタリだ。

「サウスダンジョン攻略の参加者達、まずは急な誘いにも拘わらずここに集まってくれたこと感謝する。今日の集まりは顔合わせが主な目的だが、あまり難しいことは考えずに楽しんでほしい」

 そう前置きすると、二ールさんは既に持っていたグラスをチラリと見る。

「今夜は無礼講だ。思う存分、酒を飲み、美味しいものを食べ、仲間との絆を深めてくれ。それでは────乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 零れるのも厭わず勢いよくグラスを突き上げ、参加者達は酒を飲み交わした。
────と、ここでウエイトレスが出来たての料理やお酒を運び始める。

「ねぇ~ねぇ~、ラーちゃん。俺っち達も乾杯しよ~?」

「え?あっ、そうですね!すみません!」

 徳正さんの言葉にハッとし、私は慌ててグラスを彼の方へ近づける。
すると、リーダーやラルカさんもグラスを寄せてきた。

「え~!主君とラルカは後で良いんだけど~!俺っちはラーちゃんと二人で乾杯した~い」

『まあ、そう言うな。ここはみんな仲良く乾杯しようじゃないか』

「そうですよ、みんな仲良く乾杯しましょう?」

「ちぇ~。ラーちゃんのケチ~」

 徳正さんは拗ねたように口先を尖らせるものの、それ以上文句を言うことはなかった。
大人しくこちらの指示に従う彼の前で、リーダーは口を開く。

「適当に楽しんで帰るぞ────乾杯」

「「『かんぱーい!』」」

 互いにグラスをぶつけ合い、私達はそれぞれお酒を口に含んだ。

「ん~~~!なかなか美味しいね~。俺っちはどっちかって言うと、ビール派だけどこのワインなら幾らでも飲めそ~」

『市販のものとは比べ物にならないほど、濃厚な味わいだな』

「チーズと合いそうだな。後でつまみを取りに行くか」

 満足顔で一気にワインを飲み干す男性陣は、早速近くのボーイに声を掛けて新しいグラスを取っている。

 これは恐らく……全種類のお酒を飲み比べするつもりだな。
ただでさえ、用意されたお酒は度数が高いって言うのに……まあ、最強な彼らなら酔い潰れることはないだろうけど。

「────『虐殺の紅月』は酒好きが多い、という話は本当だったみたいだな。我がギルド自慢の酒を出して、正解だった」

 そう言って、私達の前に現れたのは────さっきまでステージの上に居たニールさんだった。
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