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第四章
第194話『祈りは届く』
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「嫌っ……!お願い!死なないで……!!私を置いていかないで────シムナさん!」
半ば祈るような気持ちでギュッと目を瞑り、私は両手を組む。
その瞬間、ポロリと一粒の涙が溢れ出てきた。
「────ラミエル、泣かないでー。僕も鳥人間も無事だからさー」
目元に何か触れたかと思えば、聞き覚えのある声が耳を掠める。
私は僅かな期待を滲ませながら、恐る恐る目を開けた。
すると、そこには────いつものようにニッコリ笑うシムナさんと、ボロボロの姿で気絶しているファルコさんの姿が……。
う、そ……?二人とも助かったの……?
「ごめんねー?ラミエル、心配かけてー。でも、もう大丈夫だからー。僕はラミエルを置いていったりしないよ!ねっ?」
シムナさんは壊れ物に触れるみたいに、優しく私の涙を拭った。
その手つきが、眼差しが、言葉が優しすぎて更に涙を零してしまう。
そして、堪らず彼に抱きついた。
シムナさんの存在を……生還をもっとよく実感したくて。
「バカっ!バカバカ!本当に心配したんですからね!」
「それはマジでごめんねー。斧が砕けた事実を受け止め切れなくて、呆然としていたんだよー」
「その気持ちは分かりますが、正気に戻るのが遅すぎます!」
「あははー。それはごめーん」
「もう!次こんなことがあったら、三日間くらい口を聞いてあげませんから!」
「えー?それは困るー」
『僕、死んじゃうよー』と冗談交じりに言うシムナさんに、私はスッと目を細める。
密着していた体をゆっくりと離し、真っ直ぐに彼を見据えた。
大丈夫……シムナさんはここに居る。幻覚を見ている訳じゃない。
「とりあえず、無事で良かったです。怪我を治療するので、じっとしていてくださいね」
「はーい」
ピンと背筋を伸ばして固まるシムナさんに、私はそっと手を翳した。
と同時に、眉尻を下げる。
だって、彼の左肩がパックリ切れているから。
さすがに骨までは届いていないが、かなり痛そうだった。
『バハムートめ……』と恨めしく思いながら、私は小さく深呼吸。
「《パーフェクトヒール》」
そう呪文を唱えると、真っ白な光の粒子がシムナさんの肩を包み込み、癒していく。
おかげで、あっという間に治った。
「シムナさん、痛むところはありませんか?」
「ないよー!バッチリ完治しているー!」
「なら、良かったです」
ホッと胸を撫で下ろした私は後回しにしていたファルコさんの治療を行うため、彼に手を翳した。
ファルコさんの怪我はそこまで酷くないし、『パーフェクトヒール』を使う必要はないかな。
「《ハイヒール》」
治癒の上級魔法をファルコさんに掛ければ、彼は真っ白な光に包まれた。
と同時に、背中を強打した影響で出来た痣や擦り傷が消えていく。
「とりあえず、これで治療は完了しました。あとはファルコさんを叩き起して、再度バハムート討伐に挑むだけです」
「りょーかーい!じゃあ、僕が叩き起こすねー」
軽いノリで仕事を引き受けたシムナさんは、眠っているファルコさんの顔面目掛けて手を振り上げる。
あっ、この人文字通りファルコさんを叩き起こすつもりだ……。
「ちょ、ちょっと待ってくださいなのです!パンチはダメなのですよ~!」
そう言って、シムナさんの振り上げた拳に抱きついたのは可愛らしい幼女……じゃなくて、アスタルテさんだった。
小柄な彼女は懸命に背伸びをして、腕にしがみついている。
その姿は実に愛らしいが、今はそれどころではなかった。
「そ、そうですよ!シムナさん!パンチで起こすのは、ちょっと……いや、かなり危ないと思います!」
「えー?でも、ラミエルが『叩き起こして』って言ったんじゃーん」
「そ、それは言葉のあやです!!本気でファルコさんを叩き起こしてほしいとは、思っていません!」
「えー?そうなのー?」
「はい!」
「ちぇー!久々にプレイヤーを思いっきり殴れると思ったのにー」
拗ねたように唇を尖らせるシムナさんは振り上げた拳を下ろすと、ファルコさんの肩を掴んだ。
『まさか、今度は肩を握り潰す気!?』と焦る私達の前で、彼はファルコさんの肩を揺さぶる。
「おーい!寝てないで、早く起きてー。ドラゴン狩りの時間だよー。いつまで寝てる気ー?」
「……」
「ねぇー、早く起きてよー。熟睡とか、勘弁してー」
「……」
「はぁ……ドラゴンもファルコの起床をずっと待っているよー」
「……」
「あはははっ!!ねぇーねぇー、ラミエルー!こいつ、殴っていーい?」
『寝たフリをしているのでは?』と疑いたくなるほど無反応のファルコさんに、シムナさんは痺れを切らす。
「揺すっても声を掛けても起きないし、もう殴っちゃおうよー!ははっ!」
ギュッと拳を握り締め、シムナさんは額に青筋を浮かべた。
────と、ここである人物が立ち上がる。
「皆さん、少し避けてください。私がこの方を叩き起こします。このままじゃ、埒が明きませんから」
そう言って、何故か靴を履き替えているアヤさん。
それを見て、何となく見当がついてしまった……彼女のしようとしていることに。
うわぁ……アヤさん、容赦ないなぁ。
まあ、でも……シムナさんのパンチよりマシか。
「暴力を振るうなら、僕にやらせてよー!僕なら、一瞬でファルコを起こせる自信あるよー!」
「シムナさんのパンチやキックだと、ファルコさんが永眠するかもしれないので手を出さないでください。それに────私だって、ファルコさんを一瞬で起こせる自信ありますから」
元々履いていた靴をアイテムボックスの中に放り込み、アヤさんは不敵な笑みを浮かべる。
ピンヒールという名の凶器を振り上げながら。
「ファルコさん、お目覚めの時間ですよ!眠り姫のように寝こけるのは、おやめください!」
そう言うが早いか、アヤさんは────ピンヒールでファルコさんの“アレ”を思い切り踏み潰した。
と同時に、
「ぎゃぁぁぁぁあああああ!!!!!」
と、悲鳴が上がる。
無論、声の主はファルコさんで……踏まれた股間を両手で押さえていた。
「うわぁ……ファルコ、かわいそー」
同じ男として通じるものがあるのか、シムナさんは珍しく同情する素振りを見せる。
手で口元を覆う彼を他所に、ファルコさんは飛び起きた。
「いった!いってぇぇぇええええ!!ほんまにめっちゃ痛いんやけど!?ワイのジュニアが死にかけやわ!!ほんま、何すんねん!!」
涙目で抗議するファルコさんに対し、アヤさんはニッコリと微笑む。
「起きたようで、安心しました。戦場で気持ち良さそうに眠っていたので、もう起きないかと思いましたよ」
「えっ?はっ……?ん!?」
眠っている時の記憶がないファルコさんは、困惑気味に瞬きを繰り返す。
────と、ここでバハムートが笑い声を零した。
『なかなか、面白い茶番だったぞ。横槍を入れずに見守っておいて、正解だった。だが────それも、ここまでだ。ここから先は、俺様と普通に戦ってもらう』
そう言って身を起こすと、バハムートはバサッと翼を広げる。
『もう手加減はしない故、心して掛かるといい』
遠回しに『本気で行く』と宣言したバハムートはドンッ!と地面を蹴り上げ、宙に浮く。
翼を動かす度に巻き起こる強風を前に、私は気を引き締めた。
「こちらも本気で行きましょう。魔力の残留量に余裕がある方は、どんどんスキルや魔法を使ってください」
「「「了解!!」」」
私達は完全に気持ちを切り替え、今一度バハムート討伐に思いを馳せた。
と同時に、バハムートが再度ブレスを放つ。
頬が焦げてしまいそうなほど強い熱気を前に、私達は歯を食いしばった。
半ば祈るような気持ちでギュッと目を瞑り、私は両手を組む。
その瞬間、ポロリと一粒の涙が溢れ出てきた。
「────ラミエル、泣かないでー。僕も鳥人間も無事だからさー」
目元に何か触れたかと思えば、聞き覚えのある声が耳を掠める。
私は僅かな期待を滲ませながら、恐る恐る目を開けた。
すると、そこには────いつものようにニッコリ笑うシムナさんと、ボロボロの姿で気絶しているファルコさんの姿が……。
う、そ……?二人とも助かったの……?
「ごめんねー?ラミエル、心配かけてー。でも、もう大丈夫だからー。僕はラミエルを置いていったりしないよ!ねっ?」
シムナさんは壊れ物に触れるみたいに、優しく私の涙を拭った。
その手つきが、眼差しが、言葉が優しすぎて更に涙を零してしまう。
そして、堪らず彼に抱きついた。
シムナさんの存在を……生還をもっとよく実感したくて。
「バカっ!バカバカ!本当に心配したんですからね!」
「それはマジでごめんねー。斧が砕けた事実を受け止め切れなくて、呆然としていたんだよー」
「その気持ちは分かりますが、正気に戻るのが遅すぎます!」
「あははー。それはごめーん」
「もう!次こんなことがあったら、三日間くらい口を聞いてあげませんから!」
「えー?それは困るー」
『僕、死んじゃうよー』と冗談交じりに言うシムナさんに、私はスッと目を細める。
密着していた体をゆっくりと離し、真っ直ぐに彼を見据えた。
大丈夫……シムナさんはここに居る。幻覚を見ている訳じゃない。
「とりあえず、無事で良かったです。怪我を治療するので、じっとしていてくださいね」
「はーい」
ピンと背筋を伸ばして固まるシムナさんに、私はそっと手を翳した。
と同時に、眉尻を下げる。
だって、彼の左肩がパックリ切れているから。
さすがに骨までは届いていないが、かなり痛そうだった。
『バハムートめ……』と恨めしく思いながら、私は小さく深呼吸。
「《パーフェクトヒール》」
そう呪文を唱えると、真っ白な光の粒子がシムナさんの肩を包み込み、癒していく。
おかげで、あっという間に治った。
「シムナさん、痛むところはありませんか?」
「ないよー!バッチリ完治しているー!」
「なら、良かったです」
ホッと胸を撫で下ろした私は後回しにしていたファルコさんの治療を行うため、彼に手を翳した。
ファルコさんの怪我はそこまで酷くないし、『パーフェクトヒール』を使う必要はないかな。
「《ハイヒール》」
治癒の上級魔法をファルコさんに掛ければ、彼は真っ白な光に包まれた。
と同時に、背中を強打した影響で出来た痣や擦り傷が消えていく。
「とりあえず、これで治療は完了しました。あとはファルコさんを叩き起して、再度バハムート討伐に挑むだけです」
「りょーかーい!じゃあ、僕が叩き起こすねー」
軽いノリで仕事を引き受けたシムナさんは、眠っているファルコさんの顔面目掛けて手を振り上げる。
あっ、この人文字通りファルコさんを叩き起こすつもりだ……。
「ちょ、ちょっと待ってくださいなのです!パンチはダメなのですよ~!」
そう言って、シムナさんの振り上げた拳に抱きついたのは可愛らしい幼女……じゃなくて、アスタルテさんだった。
小柄な彼女は懸命に背伸びをして、腕にしがみついている。
その姿は実に愛らしいが、今はそれどころではなかった。
「そ、そうですよ!シムナさん!パンチで起こすのは、ちょっと……いや、かなり危ないと思います!」
「えー?でも、ラミエルが『叩き起こして』って言ったんじゃーん」
「そ、それは言葉のあやです!!本気でファルコさんを叩き起こしてほしいとは、思っていません!」
「えー?そうなのー?」
「はい!」
「ちぇー!久々にプレイヤーを思いっきり殴れると思ったのにー」
拗ねたように唇を尖らせるシムナさんは振り上げた拳を下ろすと、ファルコさんの肩を掴んだ。
『まさか、今度は肩を握り潰す気!?』と焦る私達の前で、彼はファルコさんの肩を揺さぶる。
「おーい!寝てないで、早く起きてー。ドラゴン狩りの時間だよー。いつまで寝てる気ー?」
「……」
「ねぇー、早く起きてよー。熟睡とか、勘弁してー」
「……」
「はぁ……ドラゴンもファルコの起床をずっと待っているよー」
「……」
「あはははっ!!ねぇーねぇー、ラミエルー!こいつ、殴っていーい?」
『寝たフリをしているのでは?』と疑いたくなるほど無反応のファルコさんに、シムナさんは痺れを切らす。
「揺すっても声を掛けても起きないし、もう殴っちゃおうよー!ははっ!」
ギュッと拳を握り締め、シムナさんは額に青筋を浮かべた。
────と、ここである人物が立ち上がる。
「皆さん、少し避けてください。私がこの方を叩き起こします。このままじゃ、埒が明きませんから」
そう言って、何故か靴を履き替えているアヤさん。
それを見て、何となく見当がついてしまった……彼女のしようとしていることに。
うわぁ……アヤさん、容赦ないなぁ。
まあ、でも……シムナさんのパンチよりマシか。
「暴力を振るうなら、僕にやらせてよー!僕なら、一瞬でファルコを起こせる自信あるよー!」
「シムナさんのパンチやキックだと、ファルコさんが永眠するかもしれないので手を出さないでください。それに────私だって、ファルコさんを一瞬で起こせる自信ありますから」
元々履いていた靴をアイテムボックスの中に放り込み、アヤさんは不敵な笑みを浮かべる。
ピンヒールという名の凶器を振り上げながら。
「ファルコさん、お目覚めの時間ですよ!眠り姫のように寝こけるのは、おやめください!」
そう言うが早いか、アヤさんは────ピンヒールでファルコさんの“アレ”を思い切り踏み潰した。
と同時に、
「ぎゃぁぁぁぁあああああ!!!!!」
と、悲鳴が上がる。
無論、声の主はファルコさんで……踏まれた股間を両手で押さえていた。
「うわぁ……ファルコ、かわいそー」
同じ男として通じるものがあるのか、シムナさんは珍しく同情する素振りを見せる。
手で口元を覆う彼を他所に、ファルコさんは飛び起きた。
「いった!いってぇぇぇええええ!!ほんまにめっちゃ痛いんやけど!?ワイのジュニアが死にかけやわ!!ほんま、何すんねん!!」
涙目で抗議するファルコさんに対し、アヤさんはニッコリと微笑む。
「起きたようで、安心しました。戦場で気持ち良さそうに眠っていたので、もう起きないかと思いましたよ」
「えっ?はっ……?ん!?」
眠っている時の記憶がないファルコさんは、困惑気味に瞬きを繰り返す。
────と、ここでバハムートが笑い声を零した。
『なかなか、面白い茶番だったぞ。横槍を入れずに見守っておいて、正解だった。だが────それも、ここまでだ。ここから先は、俺様と普通に戦ってもらう』
そう言って身を起こすと、バハムートはバサッと翼を広げる。
『もう手加減はしない故、心して掛かるといい』
遠回しに『本気で行く』と宣言したバハムートはドンッ!と地面を蹴り上げ、宙に浮く。
翼を動かす度に巻き起こる強風を前に、私は気を引き締めた。
「こちらも本気で行きましょう。魔力の残留量に余裕がある方は、どんどんスキルや魔法を使ってください」
「「「了解!!」」」
私達は完全に気持ちを切り替え、今一度バハムート討伐に思いを馳せた。
と同時に、バハムートが再度ブレスを放つ。
頬が焦げてしまいそうなほど強い熱気を前に、私達は歯を食いしばった。
応援ありがとうございます!
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