『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第四章

第192話『第五十階層』

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 光の粒子で溢れる第四十九階層を他所に、私達は歩を進め────第五十階層の前にやってくる。
全開にした純白の扉の前で、我々選抜メンバーは横一列に並んだ。

「やっと、ここまで来たんやな……」

 思わずといった様子で独り言を零し、ファルコさんは大きく深呼吸する。
もうすぐ最後の戦いが始まるんだと実感し、緊張しているのかもしれない。

 この先に待っているのは、正真正銘ダンジョンの頂点に立つ魔物モンスターだからね。
公式の情報によれば、フロアボスと比べ物にならないくらい強いらしいし。
また、人間に近い知性も持ち合わせているとのこと。
一筋縄じゃ行かないのは明白。

「これからダンジョンボスと一戦交えるだなんて、未だに信じられないです……」

「えっ?そーお?目の前にダンジョンボスの部屋があるんだから、疑う余地なくなーい?」

「シムナ、ラミエルちゃんが言いたいのは多分そういう事じゃないわ」

「ラミエルさんはただ実感が湧かないだけなのですよ~。まあ、かくいう私も同じ気持ちなのですが~」

 第五十階層を前にして、私達は思わず雑談を繰り広げてしまう。
何かしていないと、場の空気に呑み込まれそうで。
一種の現実逃避に走る私達の傍で、総司令官のファルコさんは嫣然と顔を上げる。

「それだけ喋れれば、充分やな!ほな、もうそろそろ行くで!気ぃ引き締めや!」

 えぇ!?もう!?早すぎない!?まだ心の準備が出来ていないのに!

 情け容赦ないファルコさんの言動に内心文句を言いつつ、私はギュッと手を握り締めた。
ざわつく心を必死に落ち着かせながら、しっかり前を見据える。

「ほな、行くでー?せーのっ!」

 もう何度目か分からないファルコさんの号令で、私達は前へ一歩踏み出す。
トンッと皆の足音が揃う中、ボスフロアを仕切る扉は静かに閉まった。
これでもう後戻りは出来ない。

 ここがイーストダンジョンの最下層……ダンジョンボスの部屋。
見た感じ、内装は他のボスフロアと変わらないみたいだけど……なんだろう?この言い表せない違和感と緊張感は。

「なーんか、変な感じするねー」

「空気がやけに重たいわね。胃もたれしそうだわ」

「まだダンジョンボスは現れてへんのに、この緊張感は異常やな……」

「緊張し過ぎて、ストレス性胃腸炎になりそうです……」

「アヤさん、大丈夫なのです~?」

「胃腸炎に治癒魔法が効くかどうか分かりませんが、治療してみましょうか?」

 お腹を抱えて蹲るアヤさんに杖を翳すと、彼女は『大丈夫です』と言って苦笑いする。

 ほ、本当に大丈夫?かなり顔色悪いけど……。
ていうか、アヤさんって意外とストレスに弱いんだね。
いつも、毅然と振る舞っているから気づかなかったよ。

「とりあえず、リラックス効果のあるハーブティーでも飲んで緊張をほぐし……」

「────無駄話は後や!!ダンジョンボスのお出ましやで!!」

 半ば怒鳴るようにして叫ぶファルコさんに、私は驚きながら顔を上げる。
すると、そこには────白い光の中から這い出てきた、“巨大な何か”が居た。

「う、そやろ……?こんなことって……」

「ファンタジー世界なのに全然出て来ないと思ったら、こんな所に居たのね……」

「ラスボスには、持ってこいの魔物モンスターなのです~」

「うぅ……!胃が……」

「わぁー!!すごーい!!本物の────ドラゴン・・・・だー!!」

 巨大な何か────改め、ドラゴンを目の当たりにした私達は唖然とする。
そんな私達を嘲笑うかのように、ドラゴンは光の粒子を体に取り込み、この場に顕現した。
大きな翼を広げ、青い鱗に覆われた体を誇るソレは鋭い爪と牙を持っている。
『あんなの当たったら一溜りもない』と青ざめる中、琥珀色の瞳がこちらを見た。

「わー!目ん玉ギョロギョロしているー!きもーい!」

 圧倒的存在感を放つドラゴンを前にしても、いつも通りのシムナさんはケラケラと笑う。

『────ほう?この俺様を前にしても動じないとは……なかなか肝が据わっておる』

 ……えっ?誰!?この声は何!?

 全く聞き覚えのない声が耳を掠め、私は困惑気味に辺りを見回した。
が、ここにはやはり我々選抜メンバーとドラゴンしか居ない。

「さっきの声は一体……?」

「あら、ラミエルちゃんにも聞こえたの?」

「僕も聞こえたよー!めっちゃ渋い声だったねー!」

「なかなかのイケおじボイスだったのです~」

「突っ込むべきところは、そこじゃないやろ。まずは声の出処を突き止めな」

「この場に私達以外のプレイヤーが居るなら、保護しないといけませんからね……うっぷ」

 体調がどんどん悪化していくアヤさんは、口元を押さえて俯いた。
このままでは、そのうち嘔吐しそうだ。

 アヤさん……そういう時は思い切って吐いた方が楽になるよ。エチケット袋、あげようか?

『貴様らは随分と鈍いようだな。この美しい声の持ち主など、一人に決まっておろう?そう、天空の覇者たるバハムート様だ!』

「「「バハムート……?」」」

 思わずハモってしまう私達は、互いに顔を見合わせる。
考えていることは同じなのか、ゆっくりとドラゴンの方を振り返った。

『ふむ、やっと気づいたか。この俺様が美声の持ち主だと』

 ドラゴンは私達の考えを肯定するかのように、誇らしげに胸を張る。
当たってほしくなかった予想が見事的中し、私達は頭を抱え込む。

「おい!何やねん!あいつ!!ドラゴンっちゅーだけでもヤバいのに、喋るんかいな!?」

「イケおじボイスがドラゴンだなんて、絶対嫌なのです~」

「バハムートって名乗った時点でほぼ確信してましたけど、喋る魔物モンスターって反則じゃないですか!?」

「人間と同じくらいの知性を持ち合わせているとは聞いていたけど、これは完全に予想外だわ」

「あははははっ!!!ドラゴンって、喋れるんだねー!僕、初めて知ったよー!これなら、殺しがいがありそー!」

 動揺しまくる私達を置いて、シムナさんはキラッキラの笑顔を見せる。
『悲鳴や絶叫、聞けるかな?』とワクワクする彼の前で、ドラゴンはスゥーと目を細めた。

『ほう?この俺様を倒すつもりなのか?ふははっ!なかなか面白い奴だな!よし、気に入った!本当は初めての客人だから殺さず、話し相手にしてやろうと思ったが────』

 そこで一度言葉を切ると、ドラゴンは鋭い指先で私達を指さす。

『────お前達の意思を尊重し、一人残さず殺してやる!!』
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