『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第四章

第190話『謝罪と本音』

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「────という訳で、私達は今、第四十一階層に居ます。質問などはありませんか?」

「説明ありがとう。質問は特にないかな。凄く分かりやすかった」

「いえいえ、これくらいお易い御用ですよ」

 むしろ、感謝するのは私の方だ。
ミラさんが庇ってくれなかったら、最悪死んでいたかもしれないから。

 申し訳なさそうにするミラさんに『気にしないでください』と言い、私はニッコリと微笑む。
すると、少しだけ……本当に少しだけ、彼女は表情を和らげた。

「ねぇー!お話終わったー?もう喋ってもいーいー?」

 そう言って、シムナさんはこちらを振り返った。
弾薬を銃にセットしながら。

「もう喋って頂いて構いませんよ。私達に何か用ですか?」

「えーと、二人にって言うより、ミラに用があるんだよねー」

「そうですか。なら、私は席を外しま……」

 シムナさんの言う『用』に心当たりがある私は、邪魔にならないよう席を外そうとする。
が、ミラさんにガシッと腕を掴まれてしまった。
『助けて!!』『行かないで!!』と必死にアピールしてくる彼女の前で、私はパチパチと瞬きを繰り返す。

 そういえば、ミラさんはまだシムナさんの心境の変化を知らないんだっけ?
なら、彼と二人きりになるのは恐怖でしかないだろう。
病み上がりのミラさんに負担を掛ける訳にはいかないし、今回だけこの場に残ろう。

「席を外そうと思いましたが、ここは戦場ですし、万が一ってこともあるので残りますね」

「おっけー。僕はそれでいいよー」

「わ、私もそれで大丈夫!」

 コクコクと頷いて了承するミラさんに対し、シムナさんは流し目を寄越す。
が、手はきちんと動かしていた。アクリスを倒すために。

「じゃあ、早速本題なんだけどー……あのさ、ミラ────殴ったり、蹴ったり、暴言を吐いたりしてごめんね」

「!?」

「僕、ラミエルを危険に晒した君のことがどうしても許せなくて……被害者でもない僕に君を責める権利なんてないのに、たくさん傷つけた。本当にごめん……ごめ、んなさい……」

 己の罪を悔いるように、シムナさんは少しだけ下を向く。
キュッと唇に力を入れる彼の前で、ミラさんはただただ驚愕していた。

「ぇ、あ……いやっ!謝らないで!私は何をされても、文句が言えないほどのことをしたんだから!勘違いだったとはいえ、ラミエルを殺そうとしたのは事実だし!」

「確かにミラは何をされても文句が言えないほどのことをしたけど、被害者でもない僕が君を責めるのは間違っている。だから、僕の謝罪を受け入れて欲しい。『許せ』とは言わないから」

 自分の行いを心から反省するシムナさんは、ミラさんの示してくれた逃げ道に決して進もうとしなかった。
きちんと自分の罪を受け止めようとする彼の姿に、ミラさんは情けない表情を浮かべる。
まるで、自分の弱さを恥じるように。

「……分かった。その謝罪を受け入れるよ」

「本当!?ありがとー!」

 ぴょーん!とその場で跳ねて大喜びするシムナさんは、ついでと言わんばかりにアクリスに銃弾を撃ち込む。
ダァーン!という銃声が鳴り響く中、私はそっと目を伏せた。

 ミラさんは今、許すとも許さないとも言わなかった。本当にただシムナさんの謝罪を受け入れただけ。
それに深い意味はないのかもしれないが、妙な違和感を感じる。
まるで、自分を許さないためにシムナさんの謝罪に応えようとはしないみたいな……そんな違和感。

「……ミラさん、あの」

「────ねぇ、ラミエル」

 違和感を確かめようとする私に、ミラさんは小さくかぶりを振る。
『追求するな』とでも言うように。
思わず口を噤むと、彼女は申し訳なさそうな……でも、どこか吹っ切れたような笑みを浮かべた。

「私────イーストダンジョン攻略が終わったら、『サムヒーロー』を抜けようと思う」

「……えっ?」

 ミラさんが『サムヒーロー』を抜ける……?私を殺してまで、留まろうとしていたのに!?
一体、どんな風の吹き回し!?
いや、まあ……個人的にはあんなパーティー、さっさと抜けた方がいいと思うけど!

「多分、私は酔っていただけなの……『サムヒーロー』の回復役に選ばれた自分に。有名なパーティーの一員になれて……勇者を職業に持つカイン様の傍に居られて……『自分は他とは違う』という優越感に浸れて……そんな極上のスパイスに執着していただけなの」

 心の奥底に封印していた本音を零すミラさんは、どこまでも弱々しくて……これでもかってくらい、人間味に溢れていた。

「本当はね、カイン様のことを本気で好きだった訳じゃないんだ。私が好きだったのは『サムヒーロー』のパーティーリーダーで、勇者を職業に持つ青年。カイン様自身じゃないの。ただただ、パーティーから追い出されないよう必死に媚びを売っていただけ……」

 自嘲気味に吐き捨て、ミラさんはそっと目を伏せる。

「パーティーもね、カイン様と同じで『サムヒーロー』自体に執着していた訳じゃないの。知名度と実力のあるパーティーという肩書きに、惹かれていただけ。多分、他の有名なパーティーからお誘いがあれば、そっちに行っていたと思う。我ながら、本当に薄情だと思うよ……」

 『あはは……』と乾いた笑いを零すミラさんは、ギュッと手を握り締めた。

「だからね、そんな自分ともおさらばするために『サムヒーロー』を抜けようと思うの。このまま『サムヒーロー』に居座っても、悪い影響しか受けないと思うし……」

「そうですか。私個人の見解としては非常に正しい判断だと思いますが、ミラさんはそれで本当にいいんですか?」

 『迷いはないのか?』と問い掛けると、ミラさんは手元に視線を落とす。

「……正直なところ、まだちょっと迷っている。いや、『サムヒーロー』を抜けるという判断は私も正しいと思っているよ。でも……『サムヒーロー』に残りたいという気持ちが全くない訳じゃない。『サムヒーロー』所属の自分にまだ酔いたいって、正直思っている」

「ミラさん……」

 必ずしも、正しい選択が良い未来を運んでくるとは限らない。
だからと言って、欲望の赴くままに行動すればいずれその報いを受けることになる。

「去るも残るもミラさん次第ですが、これだけは言っておきます。カインが私のことを諦めない限り、我々『虐殺の紅月』は『サムヒーロー』を敵対視します」

「!!」

 遠回しに『またシムナさんを怒らせることになるかも』と告げれば、彼女は自分の体を抱き締めて震え上がった。
謝られたとはいえ、シムナさんへの恐怖心はまだ残っているらしい。

「わ、私!イーストダンジョン攻略が終わったら、『サムヒーロー』から抜ける!絶対に!」

 シムナさんのおかげ(?)で踏ん切りがついたミラさんは、揺るぎない決意を露わにした。
そんな中、アクリスと銃撃戦を繰り広げていたシムナさんが最後の一体を撃ち抜く。
即座に光の粒子と化すアクリスの前で、彼は『ふぅ……』と一息ついた。
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