『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
190 / 315
第四章

第189話『第四十一階層』

しおりを挟む
 ────例のごとくボスフロアで小休憩を挟んだ私達は、第四十一階層まで降りていた。

 第四十一階層の魔物モンスターは、アクリス。
ヘラジカのような姿をした魔物モンスターで、草木を操ることが出来る。
草食なので人を食べることはないが、気性が荒くよく人を襲っているらしい。
────というのが、公式に記載されていたアクリスの情報だ。

「もぉー!この草、しつこーい!切っても切っても直ぐに再生するから、キリがないんだけどー!」

 斧を振り回しながらプンスカ怒るシムナさんは、伸びてきたツルを細かく切り刻む。
が、ツルは全く死ななくて……バラバラになった破片を集めて退散して行った。

「もうやだ!もう無理!もうげんかーい!草刈りは飽きたよー!大体、何でこの階層だけ植物が生えているのー!?もさもさしてて、嫌だよー!」

 斧を一旦地面に置きガシガシと頭を搔き廻す彼に、私は苦笑を浮かべる。
『肉を切り裂くのが趣味のシムナさんからすれば、苦痛でしかないよね……』と思いながら。

「シムナさん、ミラさんの護衛は私に任せてアクリスを倒してきてください」

「えっ?そんなの出来る訳ないじゃーん!僕が居なくなったら、誰があの植物を処理するわけー!?」

「それは私の方でやります。剣の心得くらいはありますから」

「はぁ!?そんなのダメー!絶対ダメー!」

 胸の前で両手をクロスさせたシムナさんは、大きな✕マークを作る。
頑として首を縦に振ろうとしない彼に、私は溜め息を零した。

「ですが、大元を断たない限りこの植物攻撃が止まることはありません」

「なら、他の奴らにアクリス討伐を頼めばいいでしょー!」

「他の方では、難しいから言っているんです。襲い来る複数の植物を正確に躱しながら、アクリスに近づけるのはシムナさんも含める極小数のメンバーだけです。そして、その極小数のメンバーの中でアクリスを一網打尽に出来るのはシムナさんだけなんですよ」

「……」

 何でもかんでも自分基準で考えてしまうシムナさんに分かりやすく説明すると、彼は難しい顔をして黙り込む。
その表情から察するに、言い返す言葉がなくなって沈黙している訳ではないらしい。
まるで、何かを迷うように……躊躇うように視線をさまよわせ、一つ息を吐いた。
かと思えば、斧を拾い上げる

「ねぇ、ラミエル」

「は、はい。何でしょう?シムナさん」

「一つ聞きたいんだけど、あのシカを倒すことが出来れば何でもいいんだよね?」

「えーっと……周りに被害が及ばない方法なら、何でも構いませんよ」

 いきなり、何でこんな事を聞いてくるんだろう?
何か秘策でもあるんだろうか?

 シムナさんらしくない行動にドギマギしていると、彼はふと顔を上げた。

「ん。分かった。周りに被害が及ばないようにするね」

 そう言うが早いか、シムナさんは手に持った斧を投げる。
『あ、危ない……!』と一瞬焦るものの、斧は誰に当たることもなく白い光に包まれ、消えた。
恐らく、アイテムボックスに収納されたのだろう。
『えっ?何で?』と目を剥く中、シムナさんは斧の代わりに────

「それじゃあ、始めよっかー!僕の大嫌いな銃撃戦をー!」

 ────狙撃銃を取り出した。
かと思えば、ダンダンと続けざまに二発弾丸を撃ち込む。
全く同じ方向に打ったからか、二発の弾丸は縦に並んでおり……まず、先頭の弾が伸びてきたツルを撃ち払う。
そして、全ての植物障害を突破したところで力を温存していた後ろの弾が前へ飛び出した。
と同時に、アクリスの脳天をぶち抜く。

「なるほど。前の弾が露払い役で、後ろの弾がトドメを刺す役って訳ですか」

「そういうことー。本当は弾の無駄遣いなんてしたくなかったんだけど、一発だけだとどうしてもシカのところまで辿り着けないからさー」

「撃つ前にそれを見抜くだなんて……シムナさんは本当に凄いですね。私だったら、気づかず撃ってますよ」

 惚れ惚れしてしまうほど鋭い観察眼と狙撃の腕に、私は素直に感心した。
目の前にある小さな背中を見つめ、僅かに頬を緩める。

 大嫌いな銃撃戦を選んだ理由が、私やミラさんを守るためというのも好感が持てるし。
最近のシムナさんは本当に優しくて、気遣い上手で、いい子だなぁ。

「なんか、子供の成長を喜ぶ親の気持ちが分かった気がします」

「えっ?まさかとは思うけど、その『子供』って僕のことー?」

「はい!」

 グッと手を握り締め元気よく返事すると、シムナさんは肩を落とす。

「僕って、いつもどんな風に見られているのー?少なくとも、男としては見られてないよねー?なんか、めっちゃショックなんだけどー」

 『はぁ……』と深い溜め息を零しながら、シムナさんは次々と銃弾を撃つ。
どんなに落ち込んでいても、仕事はきちんとこなしてくれるらしい。

「好きな子に男として見られてないとか、最悪じゃーん。スタートラインにすら立ってなかった、ってことでしょー?」

 不満げに口先を尖らせ、シムナさんはふとこちらを見る。

「てかさー、ぶっちゃけラミエルは僕のことどう思っ……」

「────んっ……んん?」

 シムナさんの声を遮るようにして、声を上げたのは────今の今までずっと眠っていたミラさんだった。
地面に寝転がっていた彼女はゆっくりと目を開き、おもむろに起き上がる。
まだ寝起きで意識がボーッとしているのか、焦点の定まらない目でじっとこちらを見つめていた。

「み、ミラさん、大丈夫ですか?私が誰か分かりますか?」

「……」

「おーい!ちゃんと起きているー?もしかして、目を開けながら寝ている感じー?」

「い、いや、ちゃんと起きている……ただ、現状を上手く呑み込めなくて……」

 そっと額に手を当て、ミラさんは小さくかぶりを振った。
混乱している様子の彼女を前に、私は背筋を伸ばす。

「では、覚えている最後の記憶を教えてもらっていいですか?」

「お、覚えている……?え、えーっと……確か第三十七階層の魔物モンスターから、ラミエルを庇って……それで皆酷い表情かおをしていて……ごめんなさい。ここから先の記憶はないみたい」

「いえ、大丈夫です。それだけ覚えていれば、充分ですから」

 申し訳なさそうに俯くミラさんにニッコリと微笑み、私は腰を折る。
目線を合わせた方が安心するかな?と思って。

「では、ミラさんが気絶した後の出来事を順番に話していきますね。分からないことがあれば、その都度聞いてください」

 そう前置きしてから、私は治療のことなどを話し始めた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...