『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第四章

第183話『無関心と底なしの闇』

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「────復讐・・はもう済んでいるからー」

 どこまでも明るい声で放たれた一言に、私は愕然とした。

「ふ、復讐って一体どうやって……?当時、まだ小学生だったんですよね……?」

「んー?あー、それはねー……」

 シムナさんはズリ落ちて来たミラさんを背負い直すと、どこか含みのある笑みを浮かべた。

「トンカチやナイフなんかの武器を使って、担任と両親を襲ったんだよー」

 何でもないように答えたシムナさんは、ケロリとしている。
まるで、罪の意識なんてないみたいに……。
そんな彼の態度が……醸し出すオーラが……私を恐怖させた。

 ゲーム世界ならともかく、現実世界リアルで武器を使って人を襲うだなんて……常識的に考えて、有り得ない。
小学三年生となれば、尚更……でも────シムナさんなら有り得る、と思ってしまう。

「まあ、さすがに子供の力じゃ大人を殺すことは出来なかったけどねー。担任も両親も命は助かったみたいだしー。あっ、ちなみにいじめの主犯格にはグーパン一発で我慢してあげたんだー!僕、優しいでしょー?んふふっ!」

 優しいって……いや、確かに子供同士の喧嘩と考えれば、グーパン一発なんて可愛いものだけど……。
でも、それをシムナさんがやったのかと考えると、冷や汗が止まらない。

「……それでシムナさんは復讐を済ませた後、どうなったんですか?」

「さすがにいつもの日常には、戻れなかったよー。戻る気もなかったしねー。普通に考えれば、僕の犯した罪は傷害罪に当てはまる訳だしー」

「じゃあ、傷害罪で捕まったり……って、子供は少年法で守られているんでしたね。じゃあ、少年院送りにはならなかったんですか?」

「ならなかったよー。ほら、僕の場合暴行に至るまでの経緯が散々だったでしょー?だから、それを考慮されて精神病院に行くことになったんだー。大人達の目には僕が『数々のいじめと大人達の裏切りによって、精神崩壊した可哀想な子供』に見えたみたーい」

 なる、ほど……シムナさんには悪いけど、私も大人達と同じ見解かな。
だって、大人達がきちんと対応していれば……いじめなんて起きなければ……シムナさんの心が壊れることも常識を失うことも、なかったのだから。

「ちなみに担任の先生とシムナさんのご両親は、その後どうなったんですか?」

「うんとねー……確か担任の先生は懲戒免職にされていたよー。学校側もいじめの問題を放置していた罪に問われて、世間から大バッシングを受けたみたーい。両親の方は精神病院に僕を放り込んだ後、母方の実家に全ての対応を任せてトンズラしたっぽーい。僕のことを相当怖がってるみたいだったからー」

 そんな……実の子供なのに酷い────と言いたいところだが、ご両親の気持ちも分からなくはない。
突然、小学三年生の子供が豹変すれば誰だって怖がるし、距離を置きたいと思うだろう。
まあ、元を正せばきちんと対応しなかったご両親のせいなのだが。

 『ある意味、自業自得だよね』と少しばかり腹を立てる中、シムナさんは言葉を続ける。

「基本的に学校側も両親も、世間から冷たい目で見られていたねー。僕を擁護する声の方が、意外と大きかったかなー?あっ!ちなみにいじめに加担していた子供の親は僕が精神病院に送られた後、謝罪の手紙を送ってきたよー。僕の肉体的・精神的ダメージによっては慰謝料も支払うってさー。お金で何でも解決しようとするあたり、クズだよねー」

「一番簡単な誠意の見せ方がお金なので、一概にクズとは言えませんが……謝罪は直接会ってするべきだと思いましたね」

「あははっ!確かにそれは一理あるねー。でも、あんな臆病な奴らが僕の前に姿を現す訳ないよー。慰謝料支払うって言ってきたのだって、僕と綺麗さっぱり縁を切るためだろうしー」

「つまり、慰謝料という名の手切れ金という訳ですか」

「そういうことー!」

 なかなかに胸糞の悪いお金だな……まあ、子を思う親の気持ちを思えば理解出来なくもないけど。
シムナさん視点に立って考えてみると、やはり気に食わない。

 悶々とした気持ちを抱えながら、私はおもむろに視線を上げる。

「ところで、シムナさんはそれから何年くらい精神病院に居たんですか?退院後は母方の実家に?」

「んー?いや、僕はまだ────精神病院の中だよー」

「そうですか、まだ精神病院の中に……って、えっ!?」

 まだ精神病院の中!?まさか、今話してくれたことって結構最近の話……!?
でも、そんなニュース見たことないけど……いや、その前に!シムナさんが小学生だったら、FROの規約に引っ掛かるんじゃ……!?

 『ガッツリ対象年齢から外れている!』と思案する中、シムナさんは小さく肩を竦める。

「なんか色々勘違いしているみたいだから、一つずつ説明していくねー?まず、僕の現在の年齢は十七歳。約八年間、精神病院に入院している」

「えっ……?」

 確かにシムナさんの精神状態は正常とは言い切れないが、日常生活に支障はない筈だ。
ゲーム世界はさておき、現実世界リアルでいきなり暴れ出すことはないと思う。
なのに、何故まだ入院を……?

「母方の実家が僕を引き取りたくなくて、わざと退院を先延ばしにしているんだよー。そのせいで八年間も入院する羽目になっちゃったんだー。まあ、現在進行形で入院生活が続いている訳だから、記録更新中だけどねー」

「き、記録更新中って……」

 悲しいほど淡々としているシムナさんに、私は呆然としてしまう。
何故、自分のことにそんなに無関心なのか?と。

「あっ!ちなみに入院中でもゲームをプレイ出来ているのは、病院側の方針でねー。なんか、VR技術を使って患者の精神ケアを行う取り組みをしているんだってー。精神療養の一つみたいなー?だから、好き勝手にゲームをプレイ出来ているんだー。まあ、そのせいで今FROに閉じ込められている訳だけどー」

「精神病院とはいえ、病院で倒れたなら発見も対応も早そうですね。とりあえず誰にも発見されず、餓死とかはなさそうで安心しました」

 ホッと息を吐き出す私に対し、シムナさんは僅かに目を細める。

「母方の実家からすれば、アンラッキーだったかもしれないけどねー。だって、今ならFRO事件のせいにして僕のことを殺せるんだよー?目の上のたんこぶを取るチャンスじゃん。でも、残念なことに僕は病院の中。少なくとも、現実世界リアルから手を加えて殺すことは出来ない。だから、ひたすらゲーム世界でしくじってくれるよう願っているんじゃないかなー?」

 そ、んな……仮にでも、孫でしょう?

 『何故、そこまで非情になれるのか』と憤慨する中、シムナさんはトンッと水溜まりを飛び越える。

「あははっ!本当、僕の周りってクズばっかりだよねー!」

 『嫌になっちゃう!』と冗談交じりに言いながら、シムナさんはふと前を向いた。

「あっ!第三十八階層に着いたみたいだねー!じゃあ、ちょっとミラの様子を見ていてくれるー?僕は警護に回るからさー!」

 ミラさんを背中から下ろすシムナさんに、私はただ頷くことしか出来ない。
彼の持つ闇が……傷が深すぎて、なんと声を掛ければいいのか分からなかった。
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