『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第四章

第176話『第二十一階層』

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 そこで休憩時間いっぱいお説教を行うと、私は第二十一階層まで降りていた。

 第二十一階層の魔物モンスターは────マンティコア。
赤い体をした四足歩行の魔物モンスターで、サソリのような尻尾を持っている。
また、顔の造りは人間に近く、正直とても不気味だった。
マンティコアの主な攻撃手段は、尻尾の先から出る毒針と口内から発せられる神経ガスの二つ。
物理攻撃はあまりしないが、動きは素早いことで有名だった。

「嗚呼っ!!くそ!!また当たんなかった!!」

「こんのっ……!!ちょこまか、ちょこまかと!!」

「さっさと当たれっつーの!!」

「もぉぉおおおお!!全然当たんなくて、イライラするぅ!!」

 戦闘班とサポート班のメンバーは、マンティコアの軽い身のこなしと素早さに地団駄踏む。

 まあ、気持ちは分かるよ。
毎回、『あともう少し!』ってところで避けられれば腹も立つよね。
でも、その……極力急いでくれると助かる。
あんまり戦いが長引くと、マンティコアの発する神経ガスで身動きを取れなくなるから。

「うへぇー!何この匂い!!めっちゃ臭いんだけどー!」

「それはマンティコアの発する神経ガスですよ。シムナさんも早く、手や布で鼻を覆ってください」

「えー!それじゃあ、息しづらいじゃーん!」

「そこは我慢してください」

 神経ガスに侵されるより、息しづらい方がずっとマシでしょう……。

 手で自身の鼻を覆いつつ、私は呆れ気味に溜め息を零す。

「やだよー!我慢なんて出来なーい!」

「じゃあ、神経ガスに侵されても良いんですか?」

「うーん……」

「この悪臭をずっと嗅ぎ続けたいんですか?」

「えっ?それは嫌ー!」

 あっ、そこは即答なんだね。
まあ、普通は神経ガスのくだりで『嫌だ』と宣言するものなんだけど……。

「なら、手や布で鼻を……」

「それも嫌ー!」

「はい!?」

 イヤイヤ期に突入した子供のような態度に、私は目を剥く。
『どんだけワガママなんだ……』と辟易しながら、目頭を押さえた。

「あのですね、シムナさん。あれも嫌、これも嫌で通るほど、世の中甘くな……」

「だから────僕がマンティコアを全滅させるー!」

 アイテムボックスから金と銀の斧を取り出したシムナさんは、得意げに武器を振り上げた。

「そしたら悪臭を嗅ぎ続けなくて済むし、鼻を覆う必要もなくなるでしょー?」

「は、はあ……?まあ、確かにそうですね」

「でしょー?僕ったら、あったま良いー!」

 ヒュー!と下手くそな口笛を吹き、シムナさんは列から飛び出す。
相変わらず協調性皆無の彼だが、まあ……その考えは別に間違ってなかった。

「ひゃっほーい!接近戦サイコー!やっぱ、戦いはこうでなくっちゃー!」

 マンティコアの群れに飛び込んだシムナさんは、実に生き生きした表情で人面魔物モンスターを倒していく。
“影の疾走者”に負けずとも劣らないスピードを持っているからか、マンティコアの動きに翻弄されることはなかった。

「よーし!行けー!」

「ぶっ飛ばせー!」

「皆殺しにしちまえー!」

 マンティコアの軽い身のこなしと素早さに地団駄踏んでいたメンバーは、シムナさんに声援を送る。
未だかつてない盛り上がりを見せる彼らを他所に、シムナさんは最後の一体を仕留めた。
斧で心臓を抉られて光の粒子に変わるマンティコアを見下ろし、シムナさんは身を起こす。

「ひゃっほーい!俺らの完勝だぜ!!」

「『俺ら』じゃなくて、シムナさんの完勝だけどね」

「でも、あのマンティコアを一掃するなんて凄いです!」

「PK集団の『虐殺の紅月』なんて信用ならねぇと思っていたけど、シムナさんは別だー!」

「マジで最高!!」

 ワーワーと騒ぐ攻略メンバー達に、シムナさんは一瞥もくれず……こちらへ戻ってくる。

「ラミエル、ただいまー!僕の戦い見てたー?」

「おかえりなさい、シムナさん。しっかり見てましたよ。素晴らしい戦いぶりでした」

「えへへー!やっぱりー?」

 ニコニコと機嫌よく笑うシムナさんは、マンティコアの血がべっとり付いた斧をアイテムボックスに仕舞う。
そして、『パーフェクトクリーン』を取り出した。
手帳サイズの紙をちぎり、アイテムの能力を発動させるると、彼は見る見るうちに綺麗になる。

「ラミエルー!僕の頭撫でてもいいよー?」

 そう言って頭を近づけてくるシムナさんに、私は苦笑を漏らす。

 なるほど、『パーフェクトクリーン』を使った目的はそれか。

 『普段は身嗜みなんて気にしないのに』と肩を竦め、私は手を伸ばす。
理由はなんであれ、頑張ってくれたのは事実だから。

「では、頭を撫でさせてもらいますね」

「うん!いいよー!」

 『えっへん!』と胸を張るシムナさんに頷き、私は優しく頭を撫でた。
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