『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第四章

第172話『合流と謝罪』

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 バンッと勢いよく開け放たれた扉から、青髪の美少年が飛び込んでくる。
動揺を隠し切れない様子の彼は、キョロキョロと辺りを見回し────私を見るなり、パッと表情を明るくした。

「ラミエル!!」

 安堵したように頬を緩める彼は、駆け足で私のところまでやって来る。

「無事で良かった……!!怪我とかしてない?」

「ご心配して頂き、ありがとうございます。無傷なので、安心してください」

「そっか!なら、良かったー!あっ、そういえばフロアボスはどうなったのー?」

 コテンと可愛らしく首を傾げるシムナさんはもう一度辺りを見回し、ケルベロスが居ないことを確認する。
『ワンワン、隠れちゃったのー?』と零す彼に、私は苦笑を漏らした。

「ケルベロスは私達が倒しました。扉が開いたのも、そのためです」

「えっ!?そうなのー!?」

「はい。かなりギリギリの戦いではありましたが……」

 今回の戦いは正直ほとんど賭けだったね。
誰かがミスすれば終わる状況の中、勝利を掴めたのは本当に運が良かった。

「それでも凄いよー!僕ら抜きでフロアボスに勝っちゃうなんてー!でも、ラミエルが危険に晒されるのはもう二度と御免だよー!」

「私もあんな不利な戦いは、もう二度とやりたくありません」

 などと話していると、ボスフロアの外で待機していた攻略メンバーがゾロゾロと中へ入ってくる。
その中には、ヴィエラさんやミラさんの姿もあった。

 捕縛魔法で上半身を縛られているからか、ミラさんめちゃくちゃ目立つな……。
味方を拘束するなんて、普通は有り得ない光景だから……でも、同情する気は全く起きない。

 『今回は冗談抜きで危なかったんだから』と嘆息し、私は腕を組んだ。

 ミラさんには色々と言いたいことがあるけど、まずはどうしてこんなこたをしたの聞きたい。

「まあ、どんな理由があろうと今回の行いは許されたものじゃありませんが……」

 そう小さく呟くと、傍に居たシムナさんはピクッと反応を示した。
先程までの明るい表情を消し去り、ムスッとした表情を浮かべる。

「ラミエルー、あのクソ女の話なんて聞くだけ無駄だよー。本っ当にくだらないからー」

「くだらないって……そんなの聞いてみないと、分からないじゃないですか」

「だーかーらー!僕はクソ女の話を聞いた上で、言ってんのー!」

「えっ?まさか、ミラさんの犯行理由を知っているんですか!?」

「うん、知ってるよー!さっき、聞き出したからねー」

 『えっへん!』と何故か自慢げに胸を逸らすシムナさんに、私はパチパチと瞬きを繰り返す。

 あのシムナさんが……PKしか頭になさそうなシムナさんが……!!ミラさんと話をしたの……!?
てっきり、ミラさんに暴力を振るいまくっているのかと思っていたんだけど……!?

「あのクソ女の犯行理由は『ラミエルが『サムヒーロー』に戻って来たら、自分の居場所がなくなると思ったから』だってー」

「……」

「ね?くだらないでしょー?」

 やれやれとかぶりを振るシムナさんに、私は思わず頷いてしまう。
何をどうしたら、そんな思考回路に行き着くのかと思って。

「私はこの前、確かに勧誘を断った筈ですけど……」

「あー……なんかねー、カイン勘違い野郎が『照れてるだけだ。待っていれば、そのうち戻って来る』ってクソ女に言ったみたーい。で、クソ女はその言葉を信じちゃったって訳ー」

「……もう、なんか……呆れ過ぎて何も言えません……」

「ははっ!だよねー」

 ケラケラと笑うシムナさんはヴィエラさんに連れられるミラさんを指さし、『馬鹿』『アホ』『マヌケ』と口にする。
でも、ミラさんは何も言い返さなかった。
きっと、図星だからだろう。

 ミラさんはきっと、良くも悪くもカインに毒されてきたんだろうなぁ……。
どんなに滅茶苦茶な言い分でも、盲目的に信じてきたんだと思う。
好きな人の考えを否定するのは辛いから……。
でも────今回は少しやりすぎた。
『居場所を失いたくない』という気持ちは分かるし、同情もするけど情状酌量の余地はない。
だって、ミラさんのやったことは殺人未遂と何も変わらないから。

 『ファルコさん達も危険な目に遭わせちゃったし』と思案する中、ミラさんはヴィエラさんに連れられるまま私の前まで来る。
すると、僅かに顔を上げた。
罪の意識があるのか、彼女の表情は暗く後悔の念を感じ取れる。

「シムナさんから、犯行理由を聞きました。私が『サムヒーロー』に戻って来るのを恐れて、今回の犯行に及んだようですね」

「はい……」

「もうシムナさんとヴィエラさんから聞いたかもしれませんが、私は『サムヒーロー』に戻る気は全くありません。ミラさんも薄々気づいているでしょうが、『サムヒーロー』はカインのためだけに作られたパーティーです。私はそんな場所に未練など、ありません」

「はい……」

「なので、『ラミエルが戻ってきたら、用済み』という理由でミラさんが解雇されることは絶対にありません。それだけは断言しておきます」

「は、い……」

 今にも泣き出しそうな表情で返事する彼女は、ギュッと手を握り締める。
と同時に、真っ直ぐこちらを見据えた。

「……ほ、本当にごめんなさい!わ、たし……自分のことしか考えてなかった……!周りのことなんて、全然見えてなかった……!貴方が『サムヒーロー』やカイン様をよく思っていないのは、明白なのに……!私はカイン様の言葉を馬鹿みたいに信じて……!!本当にごめんなさい……!」

 ポロポロと大粒の涙を流すミラさんは、深々と頭を下げる。
今にも罪の意識で押し潰されそうな彼女に、私は少しだけ同情した。
『相手は自分を殺そうとした人なのに、私もまだまだ甘いな』と思いつつ、一つ息を吐く。

「顔を上げてください」

 そう声を掛けると、ミラさんは躊躇いがちに顔を上げた。
『謝り足りない』とばかりにソワソワする彼女を前に、私は口を開く。

「貴方のことを許すつもりはありません。貴方がとった行動は殺人未遂と何ら変わりありませんし、関係ない他の人も巻き込んだ」

「っ……!!」

「罪の重さを自覚し、悔い改めてください。それから、今回の騒動に巻き込んだ方々にもきちんと謝罪をお願いします。私からは以上です」

 半ば強引に話を切り上げると、私はクルリと身を翻す。
後ろで啜り泣く声が聞こえるが、私は決して振り返らなかった。

 ミラさんはこれから先、罪の意識に苛まれながら生きて行くだろう。
それが彼女へ下す、私からの罰だ。
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