『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第四章

第171話『無意味《シムナ side》』

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 少し時間は遡り────ボスフロアの扉が閉まってから、十五分ほど経過した頃。
僕は全ての元凶たるミラという女をボコボコにしていた。

「あははははっ!ねぇーねぇー、苦しい?辛い?痛い?」

「……」

「あははっ!無視とか、やめてよー!つまんないじゃーん!」

「かはっ……!!」

 床に転がるミラのお腹を蹴り上げると、彼女はサッカーボールのようにぴょんぴょん跳ねて転がって行った。

 リアクション薄くて、つまんないなー。
ラミエルの命を危険に晒したんだから、もっと苦しんでほしいのにー。
これじゃあ、殺すに殺せないよー。

「ヴィエラー、このクソ女に治癒魔法掛けてあげてー」

「それは別に構わないけど、程々にしなさいよ?今、優先すべきなのはラミエルちゃんを助けることなんだから」

 ……そのくらい、言われなくても分かってるよ。
でも……この扉には僕の打撃や銃撃も、ヴィエラの魔法攻撃も全然効かなかったじゃんか。

 傷一つ付いていない白い扉を見上げ、僕はクシャリと顔を歪める。

「どうすることも出来ないよ……僕らは確かに強いけど、ゲームの設定には抗えないんだから」

 ギュッと手を握りしめ、僕は己の無力さに思いを馳せる。
『所詮、自分はただのプレイヤーなのだ』と、嫌ってほど思い知らされた気がした。

 嗚呼、イライラする……。

「ふふふっ……はははははっ!」

 『ラミエルを失うかもしれない』という不安とクソ女に対する殺意で、僕はもう限界だった。

 クソ女が僕の手を掴まなければ、ラミエルは僕の手の届く範囲内に居たのに……僕がラミエルを────守れたのに……!

「はは……あははははっ!!そんなこと今更考えたって、意味ないよねー」

 僕は誰に言うでもなく、そう呟くと……ヴィエラの治癒魔法で回復したクソ女の前に立った。
口元に笑みを携えたまま、その場にしゃがみこむ。

「ねぇーねぇー、クソ女ー。どうして、ラミエルを危険に晒したのー?理由を聞かせてよー」

「……」

「あははっ!無視ー?殴られたいのー?Mだねー」

 そう言って、僕はクソ女の恐怖心を煽るようにわざと大きく拳を振り上げる。
すると、

「ひっ……!は、話す!話すから……!!」

 無視を貫いていたクソ女が、ようやく降参した。
どんなに強情な女でも、恐怖には勝てなかったらしい。

「あははっ!やっと喋る気になったんだー?で、どうしてラミエルの命を危険に晒しのー?まさか、『特に理由はない』なーんて言わないよねー?」

「そ、それはない!ちゃんと理由はある……」

「ふーん?そっかぁー」

 まあ、どんな理由があろうと許すつもりはないけどねー。
だって、ラミエルは僕の全てだもーん。
でも、どうしても気になるんだよねぇ……。
このクソ女が……『サムヒーロー』のメンバーがどうしてラミエルの命を危険に晒したのか。
だって、そうでしょー?
『サムヒーロー』はラミエルという優秀な人材を欲しているだけで、別に殺したい訳じゃない。
そんなの本末転倒もいいところだ。

 このクソ女の独断ならまだいいけど、もし『サムヒーロー』そのものがラミエル殺害に動いているなら……こっちも黙ってられない。
今までは寛大な心で『サムヒーロー』の迷惑行為を見逃して来たけど、そうなったら話は別。
PK禁止令を無視してでも、『サムヒーロー』のパーティーメンバーを皆殺しにする。

「じゃあ、もう一回だけ聞いてあげるねー?どうして、君はラミエルの命を危険に晒したのー?」

 コテンと首を傾げニッコリ微笑めば、クソ女は躊躇いがちに口を開いた。

「わ、たしがラミエルを危険に晒した理由は────あの人が『サムヒーロー』に戻って来たら、私の居場所を奪われると思ったから……」

「「……はっ?」」

 予想外と言うべき殺害理由に、僕とヴィエラは素で驚いてしまった。
周りに居る他のメンバーも、『え?何言ってんの?こいつ……』と言わんばかりの表情でクソ女を見下ろしている。
そんな中、クソ女は堰を切ったように話し出した。

「私はっ……!!ラミエルの代替品に過ぎないの!彼女が『サムヒーロー』に戻って来れば、私は当然のようにパーティーから追い出される!だから……!!ラミエルを殺せば、私の居場所を守れると思ったの……!!」

「「……」」

「自分でも馬鹿なことをしたと思っている!でも、私の居場所はここしかないから……だからっ……!!」

 半泣きになりながらこちらを見上げるクソ女に、僕とヴィエラは困惑を隠し切れず……互いに顔を見合せる。

「ちょ、ちょっと待ってくれる?何でラミエルちゃんが『サムヒーロー』に戻る前提で、話を進めているの?」

「ラミエルは『サムヒーロー』の勧誘をきちんと断っている筈だけどー」

 前提条件からして明らかにおかしいクソ女の話に、僕らは目頭を押さえる。
予想の三倍はくだらない殺害理由に、目眩すら覚えた。

「あのね、クソ女ー。ラミエルは『サムヒーロー』に戻る気は一ミリもないよー?むしろ、『サムヒーロー』からの勧誘を煩わしく思っているしー」

「えっ?でも、カイン様は『照れてるだけだ。待っていれば、そのうち戻ってくる』って……」

「はぁ……『サムヒーロー』のパーティーリーダーさんは随分と思い込みが激しいのね?ここまで来ると、もはや病気だわ」

「まあ、その話を素直に信じるクソ女もどうかと思うけどねー」

 怒りを通り越して呆れてしまう僕らに、クソ女は動揺を示す。
パチパチと瞬きを繰り返しながら。

「え、えっ……?じゃあ、ラミエルが『サムヒーロー』に戻ってくることは本当にないの……?」

「うん、そうだよー。僕が保証するー」

「……じゃ、じゃあ、私がやったことの意味って……」

「全て空回り……というか、無意味だったわね」

 やれやれと言わんばかりに肩を竦めるヴィエラは、豊満な胸を揺らして例の扉に向き合う。
その後ろで、クソ女は口元を押さえて震え上がっていた。

「シムナ、ちょっと手伝ってくれるかしら?」

「ん?なーにー?」

「私が貴方に強化魔法を掛けるから、思い切り扉を攻撃してほしいのよ」

「別にいいけど、そんなんでこの扉を壊せるのー?」

「さあ?それは分からないわ。でも、じっとしていられないでしょう?」

 僕の心を見透かしたように笑うヴィエラは、指揮者のように杖を振る。
すると、強化魔法が展開され、僕に力を与えた。
腹の底から湧き上がってくるパワーを前に、僕はギュッと拳を握りしめる。
そして、限りなく望みが薄い可能性に僕は身を委ねた。

「行っくよー!」

 そんな掛け声と共に駆け出し、思い切り扉を蹴り飛ばす。
────その瞬間、固く閉ざされていた白い扉は勢いよく開け放たれた。
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