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第四章
第168話『いざ、ボスフロアへ』
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────その後、第八階層と第九階層を駆け抜けた私達はボスフロアへ繋がる階段を降りていた。
私を含める選抜メンバーが先頭へ回り、本日初めてのボス戦に思いを馳せる。
「ねぇーねぇー、イーストダンジョン第十階層のフロアボスって、何だっけー?」
「確か、ケルベロスだった筈よ。ほら、犬の頭が三つある……」
「ああ!あのワンワンかー!」
いや、ワンワンって……。
『随分と可愛らしい呼び方だな』と苦笑する私の前で、シムナさんはケラケラと笑う。
「それって、ヴィエラが地獄の炎で瞬殺したやつでしょー?」
「地獄の炎……?あぁ、そんなこともあったわね。確かシムナが『寒い。サウナ入りたい』って言ったのがきっかけよね?」
「えー?僕、そんなこと言ったっけー?覚えてないやー」
いやいやいやいや!!ちょっと待って!?
ヴィエラさんはシムナさんが寒がっているからってだけで、地獄の炎を……火炎魔法の最上位に近しい魔法を使ったの!?
贅沢すぎない!?
「まあ、あの時はケルベロスが水魔法、氷結魔法、風魔法を使っていたから体が冷えるのは仕方ないけどね」
「あっ!思い出したー!そうそう、あの時はケルベロスが三頭同時に魔法を使ってきてさー!めちゃくちゃ寒かったんだよねー!」
『凍えるかと思ったー!』とボヤきながら、シムナさんは視線を前に戻す。
と同時に、パッと表情を明るくした。
「おっ?見えてきたねー!」
「そうね。以前来た時と全く変わってないわ」
ボスフロアへ繋がる観音開きの扉を前に、ヴィエラさんはクスリと笑みを漏らす。
これから始まる戦いに意識を集中させる彼女の前で、ファルコさんはスッと目を細めた。
「いやぁ、ここに来るのも久々やなぁ!感慨深いものがあるわ~」
「これからボス戦なのですから、もっと気を引き締めてください」
「アヤさんは相変わらず、手厳しいのです~」
「これくらい、普通です」
ツインテールにした茶髪を手で振り払い、アヤさんはツンツンした態度を取る。
そんな彼女に対し、アスタルテさんは終始笑顔で対応していた。
「とりあえず、茶番はここら辺にして中へ入ろか。ここで時間を無駄にする訳にはいかへんし」
「その意見には賛成です。選抜メンバーは前へ出て来てください」
アヤさんに促されるまま、私達は扉の前で横並びとなる。
正直ちょっと窮屈だが、出遅れたら大問題のため文句は言わない。
「ほな、ワイが合図したら一斉に部屋へ飛び込むんやで?」
「了解です」
「はいなのです~」
「分かりました」
「りょーかーい」
「分かったわ」
右端に居るファルコさんは私達の返事を聞き届けると、左端に居るアヤさんと頷き合う。
「ほな、行くで~。3、」
白い扉に手を掛け、ファルコさんはグイグイと前へ押していく。
アヤさんも同様に扉を開けた。
「2、」
ここでボスフロアへ繋がる扉は、全開になる。
雪のように真っ白な空間を前に、私達は気を引き締めた。
「1────飛び込め!」
その言葉を合図に、私達は一斉にボスフロアへ足を踏み入れる────筈だった。
「はっ!?ちょっ!この女、何やってんのー!?」
「離しなさい!!貴方、自分が何をしたのか分かっているの!?」
後ろの方でシムナさんとヴィエラさんの焦ったような声が聞こえ、私は慌てて振り返る。
すると、そこには─────ミラさんに手首を掴まれている青髪の美少年と茶髪の美女の姿があった。
残念なことに、二人の足は……まだボスフロアに入っていない。
これは……不味い!!不味すぎる……!!
他の誰かならともかく、シムナさんとヴィエラさん抜きでボス戦を挑むことになるなんて……!!
適性テスト以降大人しかったミラさんを思い浮かべ、私は『完全に油断した……!』と焦る。
だって、てっきり反省したのかと思っていたから……まさか、こんな暴挙に出るだなんて予想もしていなかった。
「ラミエル……!!」
「ラミエルちゃん……!!」
ミラさんを適当に蹴散らしたシムナさんとヴィエラさんは、必死の形相でこちらへ駆け寄ってくる。
でも、もう遅かった。
────観音開きの扉は二人の入場を待たずして、閉まる。
「これはちと、不味いかもしれんな……」
「いや、不味いどころの話じゃありませんよ!あの二人が居るから、戦闘要員の数を減らしたのに……!!」
この中で攻撃を仕掛けられるプレイヤーはファルコさんのみ。
だが、しかし……彼はバランス型の戦闘プレイヤー。
シムナさんのような圧倒的パワーもなければ、徳正さんのようなトップスピードもない。
そんな彼がケルベロスを一発KO出来るか?と問われれば、答えは否だ。
サポートメンバー三人と戦闘メンバー一人のチーム構成か……。
ぶっちゃけ、勝つのは厳しいな……でも、何とかしないと────全員死ぬことになる。
絶望しかない状況を前に、私はギシッと奥歯を噛み締めた。
「────皆さん、話は後にするです!ケルベロスが来ますです!」
ボスフロアの中央へ視線を向けるアスタルテさんは、光の塊を指さす。
────と、ここで第十階層のフロアボス ケルベロスが顕現を果たした。
私を含める選抜メンバーが先頭へ回り、本日初めてのボス戦に思いを馳せる。
「ねぇーねぇー、イーストダンジョン第十階層のフロアボスって、何だっけー?」
「確か、ケルベロスだった筈よ。ほら、犬の頭が三つある……」
「ああ!あのワンワンかー!」
いや、ワンワンって……。
『随分と可愛らしい呼び方だな』と苦笑する私の前で、シムナさんはケラケラと笑う。
「それって、ヴィエラが地獄の炎で瞬殺したやつでしょー?」
「地獄の炎……?あぁ、そんなこともあったわね。確かシムナが『寒い。サウナ入りたい』って言ったのがきっかけよね?」
「えー?僕、そんなこと言ったっけー?覚えてないやー」
いやいやいやいや!!ちょっと待って!?
ヴィエラさんはシムナさんが寒がっているからってだけで、地獄の炎を……火炎魔法の最上位に近しい魔法を使ったの!?
贅沢すぎない!?
「まあ、あの時はケルベロスが水魔法、氷結魔法、風魔法を使っていたから体が冷えるのは仕方ないけどね」
「あっ!思い出したー!そうそう、あの時はケルベロスが三頭同時に魔法を使ってきてさー!めちゃくちゃ寒かったんだよねー!」
『凍えるかと思ったー!』とボヤきながら、シムナさんは視線を前に戻す。
と同時に、パッと表情を明るくした。
「おっ?見えてきたねー!」
「そうね。以前来た時と全く変わってないわ」
ボスフロアへ繋がる観音開きの扉を前に、ヴィエラさんはクスリと笑みを漏らす。
これから始まる戦いに意識を集中させる彼女の前で、ファルコさんはスッと目を細めた。
「いやぁ、ここに来るのも久々やなぁ!感慨深いものがあるわ~」
「これからボス戦なのですから、もっと気を引き締めてください」
「アヤさんは相変わらず、手厳しいのです~」
「これくらい、普通です」
ツインテールにした茶髪を手で振り払い、アヤさんはツンツンした態度を取る。
そんな彼女に対し、アスタルテさんは終始笑顔で対応していた。
「とりあえず、茶番はここら辺にして中へ入ろか。ここで時間を無駄にする訳にはいかへんし」
「その意見には賛成です。選抜メンバーは前へ出て来てください」
アヤさんに促されるまま、私達は扉の前で横並びとなる。
正直ちょっと窮屈だが、出遅れたら大問題のため文句は言わない。
「ほな、ワイが合図したら一斉に部屋へ飛び込むんやで?」
「了解です」
「はいなのです~」
「分かりました」
「りょーかーい」
「分かったわ」
右端に居るファルコさんは私達の返事を聞き届けると、左端に居るアヤさんと頷き合う。
「ほな、行くで~。3、」
白い扉に手を掛け、ファルコさんはグイグイと前へ押していく。
アヤさんも同様に扉を開けた。
「2、」
ここでボスフロアへ繋がる扉は、全開になる。
雪のように真っ白な空間を前に、私達は気を引き締めた。
「1────飛び込め!」
その言葉を合図に、私達は一斉にボスフロアへ足を踏み入れる────筈だった。
「はっ!?ちょっ!この女、何やってんのー!?」
「離しなさい!!貴方、自分が何をしたのか分かっているの!?」
後ろの方でシムナさんとヴィエラさんの焦ったような声が聞こえ、私は慌てて振り返る。
すると、そこには─────ミラさんに手首を掴まれている青髪の美少年と茶髪の美女の姿があった。
残念なことに、二人の足は……まだボスフロアに入っていない。
これは……不味い!!不味すぎる……!!
他の誰かならともかく、シムナさんとヴィエラさん抜きでボス戦を挑むことになるなんて……!!
適性テスト以降大人しかったミラさんを思い浮かべ、私は『完全に油断した……!』と焦る。
だって、てっきり反省したのかと思っていたから……まさか、こんな暴挙に出るだなんて予想もしていなかった。
「ラミエル……!!」
「ラミエルちゃん……!!」
ミラさんを適当に蹴散らしたシムナさんとヴィエラさんは、必死の形相でこちらへ駆け寄ってくる。
でも、もう遅かった。
────観音開きの扉は二人の入場を待たずして、閉まる。
「これはちと、不味いかもしれんな……」
「いや、不味いどころの話じゃありませんよ!あの二人が居るから、戦闘要員の数を減らしたのに……!!」
この中で攻撃を仕掛けられるプレイヤーはファルコさんのみ。
だが、しかし……彼はバランス型の戦闘プレイヤー。
シムナさんのような圧倒的パワーもなければ、徳正さんのようなトップスピードもない。
そんな彼がケルベロスを一発KO出来るか?と問われれば、答えは否だ。
サポートメンバー三人と戦闘メンバー一人のチーム構成か……。
ぶっちゃけ、勝つのは厳しいな……でも、何とかしないと────全員死ぬことになる。
絶望しかない状況を前に、私はギシッと奥歯を噛み締めた。
「────皆さん、話は後にするです!ケルベロスが来ますです!」
ボスフロアの中央へ視線を向けるアスタルテさんは、光の塊を指さす。
────と、ここで第十階層のフロアボス ケルベロスが顕現を果たした。
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