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第四章
第166話『シムナさんの無双劇』
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「もちろん、いいよー!これは元々僕の仕事だしー!それに何より────ラミエルのお願いだからねー!」
二つ返事で了承するシムナさんは、『じゃあ、行ってくるねー』と言って駆け出した。
かと思えば、アイテムボックスから金と銀の斧を取り出す。
薄暗い洞窟内でもキラキラと輝くその二つの斧は、オピオタウロスを完璧に捉えると────一瞬で真っ二つにした。
光の粒子と化すソレを一瞥し、シムナさんは直ぐさま次の魔物へ襲い掛かる。
ケラケラと笑いながら。
さすがは“狂笑の悪魔”……オピオタウロスをあんなにあっさり倒すだなんて……。
『もはや、作業ゲーじゃん』と感心する中、捕食されていたプレイヤー達は事なきを得る。
おかげで、死者は0だ。
「いや、強すぎやろ。指揮官としてのワイの立場がないわ」
「あははは……でも、ファルコさんがあのとき声を張り上げてくれなかったら、私も他の子達も放心状態のままでしたよ。だから、指揮官としての立場がないなんて言わないでください」
「ラミエル……お前さんは、ほんまええ子やな!嫁に貰いたいくらいやわ~!今度、デートでも行かへん?」
照れ隠しのつもりなのか、ファルコさんは少し乱暴に私の頭を撫でる。
────と、ここでシムナさんがこちらを振り返った。
「あーーーー!!ファルコがラミエルをナンパしてるー!」
いや、ナンパって……ただ頭を撫でて貰ってるだけなんだけど。
大体この殺伐とした空気の中、本気でナンパしてくる人なんて居ないでしょ……どんだけ、危機感ないんだ?って話だよ。
『ある意味、勇者じゃん』と呆れる中、シムナはんはプクッと頬を膨らませながらこちらへ駆け寄ってくる。
どうやら、近くに居たオピオタウロスは粗方片付けたらしい。
「ラミエル、酷いよー!僕というものがありながらー!」
「えーと……私の記憶が正しければ、特に付き合いなどはしていませんよね?」
「確かに付き合ってはないけど、僕とラミエルはハグした仲でしょー?」
いや、ハグくらいでそんな偉そうな態度を取られても……。
「シムナって、恋愛に関してはピュアっちゅーか、低レベルなんやなぁ」
「はぁー!?なにそれー!めちゃくちゃ心外なんだけどー!」
「だって、ラミエルとはハグしかした事ないんやろ?」
「お姫様抱っこもしたよー!」
「んー……そういう事じゃないんよな」
ガシガシと頭を掻くファルコさんは、『こら、重症やな』と呟く。
まあ、シムナさんの恋愛観って小学生以下だからね。
性教育をきちんと受けて育ったか、どうかも怪しいし。
「じゃあ、どういう事なのさー!」
「んー……そうやなぁ……あっ!分かった!シムナが好きな女と結ばれたら、教えたるわ!それまではお預け!」
「えー!?なんでー!?」
「何でって、そんなん決まってるやろ?そういうスキンシップは好き同士がやらなあかんからや。一方的な思いと過剰なスキンシップはただの痴漢やで。だから、まずは好きな子と両思いになるところからや!」
「えー!なにそれー!はぐらかされると余計気になるんだけどー!大体さー」
シムナさんはそこで一旦言葉を区切ると、おもむろに金と銀の斧をアイテムボックへ放り込む。
そして────狙撃銃を取り出した。
え?銃?いきなり、何で!?
と驚いている間に、シムナさんは慣れた手つきで安全装置を外し、銃に弾を込める。
そして、スコープを覗くことなく……というか、標的を一度も見ることなく狙いを定めた。
「僕、恋愛なんてしたことないしー!何をどうすればいいのか、分かんないんだよねー」
空いている方の手で前髪を掻き上げ、シムナさんはおもむろに引き金を引く。
と同時に、奥の方で『モォォォオオオ!』というオピオタウロスの絶叫が聞こえた。
反射的に後ろを振り返ると、そこには大量の光の粒子が……。
まさか、オピオタウロスが奥に居ることを察して狙撃を……!?
こんな距離から!?この薄暗さで!?標的を一度も見ずに!?
そんなことって、有り得るの!?
「今はラミエルに猛アタック中なんだけど、徳正とラルカが色々邪魔して来るんだよねー。だから、邪魔者が居ないこのイーストダンジョン攻略で何とか距離を縮めたいんだけど、列の配置的になかなか近づけなくてさー。もう最悪ー」
狙撃銃から発せられる煙を『ふぅ』と吹き消し、シムナさんはやれやれと肩を竦めた。
どこまでもマイペースな彼は自分が今、どれだけ凄いことをしたのか分かっていないようだ。
シムナさんにとってオピオタウロスの狙撃は恋愛トークより、重要度低いのか……やっぱり、この人変わってるな。
「だからさー、僕の配置変えてくれなーい?最後尾にはヴィエラさえ居れば、問題ないしさー。何より、僕が居なかったらあの気持ち悪い魔物に負けていたでしょー?」
「うっ!痛いところ突いてくるなぁ、シムナは~。まあ、でも一理あるなぁ。動機は不純やけどー」
「そうですね。でも、シムナさんを中間地点に配置すれば先頭にも最後尾にも楽々移動出来るので、メリットは大きいかと」
『色んなところへフォローに入れる』と告げると、ファルコさんは少し考え込むような動作を見せた。
「ふむ……確かにそうやな。ほんじゃ、戦闘班の配置をすこぉ~し変えるわ。ラミエルとシムナは怪我人のサポートと治療を頼むわ」
「分かりました」
「バイバイ、ファルコー!」
大きく手を振って走り去るファルコさんを見送り、私とシムナさんは負傷者たちに向き直る。
とりあえず、怪我人の治療は粗方終わったみたいね。
でも、治癒魔法の連続使用と衝撃的な現場に居合わせた精神的ダメージのせいで、相当疲れているな……。
幸い、死者は出なかったから何とか持ち堪えているようだけど、これから先もそうとは限らない。
仲間の死に直面することがあるかもしれないし、自分の力不足のせいで死んでいくプレイヤーも居るかもしれない。
そうなった時、彼らは耐えられるだろうか……。
「覚悟が足りない奴らばかりだねー。あれじゃあ、最後まで持たないんじゃなーい?リタイアさせたらー?」
「……」
リタイア、か……それも一つの手かもしれない。
無理強いする理由はないし、イーストダンジョン攻略はあくまで自由参加だから。
それに……リタイアするチャンスは今しかないもの。
第七階層以降にリタイアするとなれば、そのメンバーのみで中層魔物に立ち向かわなければならない。
それはとても危険なことだし、生き残れる可能性も低かった。
でも、今なら……オピオタウロスを殲滅した第六階層からなら、直ぐに上層へ上がれるため危険も少ない。
ゴブリンと戦える実力さえあれば問題なく、イーストダンジョンを出れるだろう。
ギュッと拳を強く握り締め、私は唇をキツく引き結んだ。
────と、ここで誰かが手を挙げる。
「私はリタイアなんて、しないわよ!最後まで戦い抜くわ!確かにさっきは驚きと恐怖で固まってしまったけれど、今度はちゃんとやる!」
真っ直ぐにこちらを見据え、そう言い切ったのは適性テストで見かけたお嬢様言葉のプレイヤーだった。
『はぁはぁ』と肩で息をしながらも、彼女は一歩も引かない姿勢を見せる。
すると、他の班員達も次々と声を上げた。
「私もリタイアするつもりはありません!」
「ここまで来て、リタイアとかダサいことしないっつーの!」
「今更、置いていくなんてそんな……寂しいこと言わないでください!」
『こっちはもう覚悟を決めているんだから!』と主張する班員達に、私は大きく目を見開いた。
いつの間にこんなに成長したんだろう?と思いながら。
そっか……そうだよね。ここですべきなのは逃げ道を用意することじゃない。
彼女達の勇気と決意に敬意を表すことだ。
「分かりました。リタイアの話は白紙に戻りましょう。なので────イーストダンジョン攻略に最後まで力を貸してください」
「「「はいっ!!」」」
やる気に満ち溢れた表情で首を縦に振り、班員達は真っ直ぐ前を見据えた。
『立ち止まっている暇などない』とでもいあように。
さあ、覚悟は決まった────第七階層へ行こう!
二つ返事で了承するシムナさんは、『じゃあ、行ってくるねー』と言って駆け出した。
かと思えば、アイテムボックスから金と銀の斧を取り出す。
薄暗い洞窟内でもキラキラと輝くその二つの斧は、オピオタウロスを完璧に捉えると────一瞬で真っ二つにした。
光の粒子と化すソレを一瞥し、シムナさんは直ぐさま次の魔物へ襲い掛かる。
ケラケラと笑いながら。
さすがは“狂笑の悪魔”……オピオタウロスをあんなにあっさり倒すだなんて……。
『もはや、作業ゲーじゃん』と感心する中、捕食されていたプレイヤー達は事なきを得る。
おかげで、死者は0だ。
「いや、強すぎやろ。指揮官としてのワイの立場がないわ」
「あははは……でも、ファルコさんがあのとき声を張り上げてくれなかったら、私も他の子達も放心状態のままでしたよ。だから、指揮官としての立場がないなんて言わないでください」
「ラミエル……お前さんは、ほんまええ子やな!嫁に貰いたいくらいやわ~!今度、デートでも行かへん?」
照れ隠しのつもりなのか、ファルコさんは少し乱暴に私の頭を撫でる。
────と、ここでシムナさんがこちらを振り返った。
「あーーーー!!ファルコがラミエルをナンパしてるー!」
いや、ナンパって……ただ頭を撫でて貰ってるだけなんだけど。
大体この殺伐とした空気の中、本気でナンパしてくる人なんて居ないでしょ……どんだけ、危機感ないんだ?って話だよ。
『ある意味、勇者じゃん』と呆れる中、シムナはんはプクッと頬を膨らませながらこちらへ駆け寄ってくる。
どうやら、近くに居たオピオタウロスは粗方片付けたらしい。
「ラミエル、酷いよー!僕というものがありながらー!」
「えーと……私の記憶が正しければ、特に付き合いなどはしていませんよね?」
「確かに付き合ってはないけど、僕とラミエルはハグした仲でしょー?」
いや、ハグくらいでそんな偉そうな態度を取られても……。
「シムナって、恋愛に関してはピュアっちゅーか、低レベルなんやなぁ」
「はぁー!?なにそれー!めちゃくちゃ心外なんだけどー!」
「だって、ラミエルとはハグしかした事ないんやろ?」
「お姫様抱っこもしたよー!」
「んー……そういう事じゃないんよな」
ガシガシと頭を掻くファルコさんは、『こら、重症やな』と呟く。
まあ、シムナさんの恋愛観って小学生以下だからね。
性教育をきちんと受けて育ったか、どうかも怪しいし。
「じゃあ、どういう事なのさー!」
「んー……そうやなぁ……あっ!分かった!シムナが好きな女と結ばれたら、教えたるわ!それまではお預け!」
「えー!?なんでー!?」
「何でって、そんなん決まってるやろ?そういうスキンシップは好き同士がやらなあかんからや。一方的な思いと過剰なスキンシップはただの痴漢やで。だから、まずは好きな子と両思いになるところからや!」
「えー!なにそれー!はぐらかされると余計気になるんだけどー!大体さー」
シムナさんはそこで一旦言葉を区切ると、おもむろに金と銀の斧をアイテムボックへ放り込む。
そして────狙撃銃を取り出した。
え?銃?いきなり、何で!?
と驚いている間に、シムナさんは慣れた手つきで安全装置を外し、銃に弾を込める。
そして、スコープを覗くことなく……というか、標的を一度も見ることなく狙いを定めた。
「僕、恋愛なんてしたことないしー!何をどうすればいいのか、分かんないんだよねー」
空いている方の手で前髪を掻き上げ、シムナさんはおもむろに引き金を引く。
と同時に、奥の方で『モォォォオオオ!』というオピオタウロスの絶叫が聞こえた。
反射的に後ろを振り返ると、そこには大量の光の粒子が……。
まさか、オピオタウロスが奥に居ることを察して狙撃を……!?
こんな距離から!?この薄暗さで!?標的を一度も見ずに!?
そんなことって、有り得るの!?
「今はラミエルに猛アタック中なんだけど、徳正とラルカが色々邪魔して来るんだよねー。だから、邪魔者が居ないこのイーストダンジョン攻略で何とか距離を縮めたいんだけど、列の配置的になかなか近づけなくてさー。もう最悪ー」
狙撃銃から発せられる煙を『ふぅ』と吹き消し、シムナさんはやれやれと肩を竦めた。
どこまでもマイペースな彼は自分が今、どれだけ凄いことをしたのか分かっていないようだ。
シムナさんにとってオピオタウロスの狙撃は恋愛トークより、重要度低いのか……やっぱり、この人変わってるな。
「だからさー、僕の配置変えてくれなーい?最後尾にはヴィエラさえ居れば、問題ないしさー。何より、僕が居なかったらあの気持ち悪い魔物に負けていたでしょー?」
「うっ!痛いところ突いてくるなぁ、シムナは~。まあ、でも一理あるなぁ。動機は不純やけどー」
「そうですね。でも、シムナさんを中間地点に配置すれば先頭にも最後尾にも楽々移動出来るので、メリットは大きいかと」
『色んなところへフォローに入れる』と告げると、ファルコさんは少し考え込むような動作を見せた。
「ふむ……確かにそうやな。ほんじゃ、戦闘班の配置をすこぉ~し変えるわ。ラミエルとシムナは怪我人のサポートと治療を頼むわ」
「分かりました」
「バイバイ、ファルコー!」
大きく手を振って走り去るファルコさんを見送り、私とシムナさんは負傷者たちに向き直る。
とりあえず、怪我人の治療は粗方終わったみたいね。
でも、治癒魔法の連続使用と衝撃的な現場に居合わせた精神的ダメージのせいで、相当疲れているな……。
幸い、死者は出なかったから何とか持ち堪えているようだけど、これから先もそうとは限らない。
仲間の死に直面することがあるかもしれないし、自分の力不足のせいで死んでいくプレイヤーも居るかもしれない。
そうなった時、彼らは耐えられるだろうか……。
「覚悟が足りない奴らばかりだねー。あれじゃあ、最後まで持たないんじゃなーい?リタイアさせたらー?」
「……」
リタイア、か……それも一つの手かもしれない。
無理強いする理由はないし、イーストダンジョン攻略はあくまで自由参加だから。
それに……リタイアするチャンスは今しかないもの。
第七階層以降にリタイアするとなれば、そのメンバーのみで中層魔物に立ち向かわなければならない。
それはとても危険なことだし、生き残れる可能性も低かった。
でも、今なら……オピオタウロスを殲滅した第六階層からなら、直ぐに上層へ上がれるため危険も少ない。
ゴブリンと戦える実力さえあれば問題なく、イーストダンジョンを出れるだろう。
ギュッと拳を強く握り締め、私は唇をキツく引き結んだ。
────と、ここで誰かが手を挙げる。
「私はリタイアなんて、しないわよ!最後まで戦い抜くわ!確かにさっきは驚きと恐怖で固まってしまったけれど、今度はちゃんとやる!」
真っ直ぐにこちらを見据え、そう言い切ったのは適性テストで見かけたお嬢様言葉のプレイヤーだった。
『はぁはぁ』と肩で息をしながらも、彼女は一歩も引かない姿勢を見せる。
すると、他の班員達も次々と声を上げた。
「私もリタイアするつもりはありません!」
「ここまで来て、リタイアとかダサいことしないっつーの!」
「今更、置いていくなんてそんな……寂しいこと言わないでください!」
『こっちはもう覚悟を決めているんだから!』と主張する班員達に、私は大きく目を見開いた。
いつの間にこんなに成長したんだろう?と思いながら。
そっか……そうだよね。ここですべきなのは逃げ道を用意することじゃない。
彼女達の勇気と決意に敬意を表すことだ。
「分かりました。リタイアの話は白紙に戻りましょう。なので────イーストダンジョン攻略に最後まで力を貸してください」
「「「はいっ!!」」」
やる気に満ち溢れた表情で首を縦に振り、班員達は真っ直ぐ前を見据えた。
『立ち止まっている暇などない』とでもいあように。
さあ、覚悟は決まった────第七階層へ行こう!
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