『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第四章

第145話『内輪揉め』

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「……回答を拒否する」

 皆の期待を裏切るように、リーダーはそう答えた。
まさかの展開に、同盟メンバーは一瞬固まる。
が、直ぐに正気を取り戻した。

「ちょ、それはねぇーだろ!!」

「情報共有は基本の『キ』だぞ!」

「同じ目標を掲げる仲間同士、互いのことをよく知っておく必要がある」

「現時点で、限界突破オーバーラインを果たしているプレイヤーがお前しか居ないんだ。お前が口を閉ざしたら、何も分からないだろ」

 物凄い勢いで反論し、リーダーを責め立てる彼らは『常識的に考えろ!』と言い募る。
あまりにも酷い言い草に、私は少しばかり眉を顰めた。

 この状況で回答を拒否したリーダーもあれだけど、『答えるのが義務』と言わんばかりに反抗してくるプレイヤー達もなかなか酷いな……。
何でリーダーが同盟メンバーに冷たい態度を取るのか、分かった気がする。
この人達は自分のことばかりで、きちんと相手のことを考えられていない。
自分がパーティーやギルドの代表者であり、その組織の“顔”であることを忘れているようだ。

 『程度が低いな』と内心毒づく中、ヘスティアさんはパンパンッと手を叩く。

「一旦、落ち着け。お前達の意見には一理あるが、決めるのは無名だ。奴には拒否権がある」

「なっ!?それはおかしいだろ!!」

「同盟を組んだなら、情報共有は当たり前だ!」

「ゲーム攻略のヒントになるなら、尚更!」

 すっかり興奮してしまっているようで、彼らはヘスティアさんの言葉にも耳を貸さなかった。
このままでは、収拾がつかない。

 この場を上手く収める上で、一番手っ取り早い方法はリーダーが回答拒否を撤回することだけど……それは難しい。
リーダーって、案外頑固だから。
仕方ない……ここは私が一肌脱ごう。

 『正直、ちょっと彼らにはムカついていたし』と思いつつ、私は席を立つ。
その途端、こちらに注目が集まった。

「皆さんの意見は理解出来ます。情報共有は重要なことでしょう。ですが────限界突破オーバーラインで取得したスキルをこの場で明かす必要性って、本当にあるんでしょうか?」

「はぁ?何を言い出すのかと思えば……」

「そんなのあるに決まってるだろ!」

限界突破オーバーラインの情報はただでさえ少ないんだ。聞いておいて損は……」

「ええ、確かに聞いておいて損はないと思います。でも、逆に────それを聞いて得があるんですか?」

「「「!!」」」

 こちらの切り返しに、文句を並べていたプレイヤー達は僅かに目を見開き────クッと眉間に皺を寄せた。
私の言わんとすることに、大体見当が付いたらしい。

 限界突破オーバーラインで取得したスキルを隠すという行為に、問題はない。
もちろん、明かしてくれた方が助かるけど。
でも、知らないからと言って不利益はなかった。
必要最低限の情報は既に貰っているのだから。

「リーダーは限界突破オーバーラインするための条件を明かしてくれました。狂戦士バーサーカーなんてレア職業を持っている方は少ないと思いますが、必要な情報は明かした。それ以上を求めるのは、野暮というものです。本人が情報の開示を嫌がっているのなら、尚更……」

「だ、だが!限界突破オーバーラインで得られるスキルがどれほどのものなのか、我々も把握しておくべきだろう!」

「そうだ、そうだ!そのレア度によってはゲーム攻略を一旦後回しにして、レベル上げや情報収集に時間を費やすことだって……!」

「とにかく!限界突破オーバーラインで取得したレアスキルは今ここで明かすべきだ!」

 はぁ……ここまで言っても、まだ食い下がるか。
こんなにしつこい人は初めてだよ

 『全く……』と呆れ返る私の余暇で、アスタルテさんが不意に言葉を紡ぐ。

「皆さん、随分と限界突破オーバーラインのレアスキルに興味があるようですが……それは────自分のステータスを全て明かす覚悟があっての事なのですよね~?」

「「「!!」」」

 ハッとして目を見開くプレイヤー達に、アスタルテさんは『んふふっ』と笑う。

「まさか、そんな覚悟もなく無名さんを問い詰めていたのです~?だとしたら、かなり失礼なのですよ~?相手のスキルや職業を始めとするステータスは、ゲーム内での個人情報そのもの。皆さんはそんなプライベート情報を何の見返りも覚悟もなく、聞いていた……いえ、問い詰めていた訳なのですから~」

「え?あ、いや……」

「で、でも!ステータスって言っても、限界突破オーバーラインのレアスキル一つだけだろ?そのスキル名と効果を聞くだけなのに、そんな大それたこと……」

「────あなた方は何も分かっていないのですね~?」

 もはやアホとしか言いようがない発言を繰り出すプレイヤーに、アスタルテさんはニッコリ微笑む。
その際、彼女の本性素顔が垣間見えた。

「現在、不確定要素の多い限界突破オーバーラインに関する情報は相当高い価値があるのです。あなた方は『スキルを一つ教えてもらうだけ』と思っているようですが、それは違うのですよ。少なくとも、あなた方の全ステータスと同等の価値はあるのですから。分かりましたです?」

「あ、う……はい」

「分かり、ました」

「一応……理解した」

 さっきまでの威勢はどこへやら……プレイヤー達は急に静かになった。

 さすが、アスタルテさん。
遠回しに『知りたいなら、まず自分のステータスを公表しろ』って脅しをかけるだなんて、思い付かなかった。
敵に回すと恐ろしいけど、味方だと凄く頼もしいな。

 『ありがとうございます』と口パクでお礼を言い、私はそっと腰を下ろした。
それを合図に、ヘスティアさんは口を開く。

「では、事態の収拾がついたところで限界突破オーバーラインの真偽について決を採ろうと思う。限界突破オーバーラインの存在を認める者は、挙手を」

 そう言ってこちらの反応を窺うヘスティアさんに対し、この場に居る誰もが手を挙げる。
────結果は満場一致で、限界突破オーバーラインの存在を認めることになった。
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