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第三章

第127話『善意』

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「さあ、のんびりしている暇はありませんよ。私は次の患者の元へ行かないといけませんから。さっさと仲間達を起こして、体制を立て直してください」

 『長居は出来ない』と告げると、男性は大きく首を縦に振った。
かと思えば、仲間達を揺り起こし、直ぐさま体制を立て直す。
『もう大丈夫だ!』と述べる彼らに頷き、私はレオンさんと共にこの場を後にした。
向かうは、リアムさんの対応しているもう一方のパーティーのところ。
ゴーレムの股下を何度もくぐり抜け、歩を進める私達はキョロキョロと辺りを見回す。
────と、ここで見覚えのあるシルクハットを発見した。

 あの帽子の持ち主は、リアムさんで間違いない。
しゃあ、向かい側に居るのが気絶した神官の居るパーティーかな?
見たところ、目立った外傷はなさそう。多分、ポーションだけで事足りたんだと思う。
なら、私の出る幕はないね。
念のため、神官の子だけ診て撤収しよう。

 『魔力MP消費を抑えられそうだ』と安堵する中────見知らぬ男女の声が鼓膜を揺らす。

「ポーション8本はいくらなんでも、少な過ぎる!せめて、20本は寄越せよ!」

「そうだよ!一人2本ずつとか、ケチらないでくれる?」

「こっちは初心者揃いの弱小パーティーなんだよ!ちょっとくらい、オマケしてくれたっていいじゃねぇーか!」

「悪いけど、それは出来ないよ。ラミエルが初心者・上級者関係なく平等に配ってって言っていたからね」

「はぁ~!?俺達に死ねって言ってんのか!?」

「初心者にはお情けもないわけ~!?」

 ……この人達は一体、何を言っているの?

 理不尽すぎる相手の言い分に、私は眉を顰める。
フツフツと湧き上がってくる怒りを前に、悶々としていると────ようやく、現場に到着した。

「リアム、待たせたな」

「リアムさん、ポーションの配布お疲れ様でした」

「おお!レオンさんにラミエルじゃないか!随分と早いご帰還だったね☆」

 背後に回った私達を振り返り、リアムさんはニコニコと笑う。
その傍で、ポーションのカツアゲを図ろうとしていたプレイヤー達は一気に不機嫌となった。
仲間が増えて、厄介とでも思っているのだろう。

 見た感じ、本物の初心者っぽいな。だって、有名人のリアムさんを知らないようだから。
知っていたら、あんな言い方はしない筈。
それに装備も安物ばかりだし。

「リアムさん、彼らにポーションは配り終えましたか?」

「もちろんさ☆指示通り、一人2本の計算で8本渡したよ☆」

「了解です。では、ここに用はありませ……」

「────ちょっと待てよ!」

 『ありません』と続ける筈だった言葉は、命知らずの初心者プレイヤーによって遮られた。
どこか反抗的な態度を取ってくる彼らの前で、私はこれ見よがしに溜め息を零す。

「私達に何か用ですか?」

「ああ、アンタに用がある!このシルクハットの男に『ポーションは一人2本ずつ』って、指示したのアンタなんだろ!?なら、その指示を変更する権利はアンタにあるんだよな!?」

「そうですね」

「なら、変更してくれよ!俺達にだけ、ポーションを20本渡すよう言ってくれ!こっちは初心者なんだ!8本なんて、ケチり過ぎだろ!」

「……8本がケチり過ぎ、ですか」

「ああ、そうだ!」

 何故か偉そうに腕を組んで仁王立ちする男性に、私は小さくかぶりを振った。

 初心者だからポーションの価値を理解していないのか、あるいは理解した上でこんな馬鹿な発言をしているのか……。
まあ、どちらにせよ、私のすることは一つ。

「なら────渡したポーション全部返してください」

「……はぁ!?何でだよ!?」

「それはこちらの台詞です。私達は善意で貴方達を救い、善意でポーションを配布しました。その善意に感謝するどころか、踏みにじった貴方達にポーションを受け取る権利はありません」

「なっ!?け、権利とか意味分かんねぇーよ!大体善意って言うなら、可哀想な俺たち初心者にもっと恵んでくれよ!」

「────可哀想?初心者?それがどうしたって、言うんですか?」

「な、なんだと!?」

「ここでは『弱いから』『初心者だから』という理由で、優遇はされません。特に今はみんな自分や仲間のことで、精一杯ですから。本来であれば、貴方達を助ける人も、ポーションを分け与える人も居ない状況です。今一度よく考えて、行動してください。そのポーションは当初の予定通り、差し上げますので」

 相手パーティーのメンバーがそれぞれ手に持つ小瓶を指さし、私はそう述べる。
悔しそうに唇を噛み締める彼らを見つめ、内心肩を竦めた。

 不服そうだけど、本当にポーションを取り上げられたら堪らないから沈黙しているってところか。
まあ、逆ギレに走らなかったことだけは褒めてあげよう。

「リアムさん、レオンさん撤収です。行きますよ」

「了解だよ☆」

「おっし、行くか」

 拳を突き合わせて気合い十分のレオンさんに、私はコクリと頷いた。
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