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第三章

第122話『駄々を捏ねる忍者』

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 それから三十分ほどフレンドとやり取りしていると、徳正さんからメッセージが届いた。
どうやら、魔王城の中に入ってこようとするゴーレムは一体も居なかったらしい。
徳正さん曰く、城門近くまで来たゴーレムこそ複数居たものの、中へ入る前に踵を返していたみたいだ。
『まあ、中に入っちゃったらリタイア不可避だもんね』と思いつつ、私は帰還命令を出す。

「徳正さんとシムナさんが、数分以内にこちらへ戻って来ます。どうやら、魔王城の中に入ろうとするゴーレムは居なかったみたいです」

「そっか。それなら、まだイベントクリアの見込みはあるね。でも、魔王城の近くまで来るなら何かしら警戒はしておかないと」

「確かに注意は必要ですね。お互い、気をつけましょう」

「うん、そうだね────っと、もう戻ってきたのか」

 突如巻き起こった強風を前に、リアムさんはゆるりと口角を上げる。
────と、ここで徳正さんとシムナさんが姿を現した。

「やっほー!ただいまー!」

「命令通り、帰還したよ~ん」

「おかえりなさい、二人とも。城門前の見張り、お疲れ様でした」

「随分と早いご帰還だね。そんなにラミエルのことが、恋しかったのかい?」

 無意識に茶化すような発言を繰り出すリアムさんに、シムナさんはビキッと頬を引き攣らせる。

「こいつの言葉、僕らのことを煽ってるようにしか聞こえないんだけどー!まあ、事実だから否定はしないけどさー!」

「シムナ、どうどう。リアムくんに多分悪気はないと思うから、無視しちゃいな~」

「むぅー!でもー!」

 気に食わないと言葉や態度で示すシムナさんに、私は苦笑を浮かべる。
そして軽く頭を撫でて宥めると、不意に顔を上げた。

「帰還そうそう申し訳ありませんが、お二人にも周辺のゴーレムの討伐を命じます。私を中心点とする半径百メートルから出ないよう注意しながら、ゴーレムを狩りまくってください」

「りょーかーい!皆殺しにしてくるねー!」

「え~!俺っちはラーちゃんの護衛がいい~!リアムくんを討伐組に加えれば、いいじゃ~ん」

「ワガママ言わないでください」

 『やだやだ~』と駄々を捏ねる徳正さんに、私は溜め息を零す。

 セトの件が徳正さんの中でトラウマになっているのは分かっているけど、今はそれどころじゃないの!
この状況下で、主戦力である徳正さんを前線から外す訳にはいかない!
何より、シムナさんとリアムさんを組ませたら内輪揉めに繋がりそうだし……!

 『この二人、絶望的に相性悪いんだよ!』と思いつつ、私は胸の前で腕をクロスさせた。

「とにかく、ダメなものはダメです」

「え~!」

「そんなに不安なら、私達の近くに居るゴーレムを中心に狩ればいい話でしょう?大体、徳正さんは心配し過ぎなんです。私の傍にはリアムさんも居ますし、余程のことがなければ怪我をすることはありません」

「ん~……でも~!」

 リアムさんでは実力不足とでも思っているのか、徳正さんはなかなか引き下がろうとしない。
『でも』『だって』と食い下がり、渋る動作を見せる彼の前で、私は目頭を押さえる。

 仕方ない……こうなったら────強硬手段に出よう。

「シムナさん、徳正さんを連れてゴーレム討伐に向かってください。このままじゃ、埒が明きません」

 本当はこんなやり方で徳正さんをゴーレム討伐に向かわせたくなかったけど、背に腹は変えられない……。

 イベント終了まで二十四時間を切っているため、私は苦渋の決断を下した。
『あとは頼みました』と手を合わせる中、シムナさんはおもむろに徳正さんの襟首を掴む。

「分かったー。連れていくー」

「ちょっ、シムナ!!」

「ラミエルの命令は絶対だから、ごめんねー?徳正ー」

「いや、待っ……!!」

 焦った様子で手足をバタバタさせる徳正さんに、シムナさんは満面の笑みを見せた。

「言うこと聞かないと、ボスにチクるよー?徳正がラミエルのことを困らせてましたー、って!」

 実に生き生きとした表情で脅しを掛けてくるシムナさんに、徳正さんは顔を歪めた。

「うっ……主君に報告されるのは、さすがに困る……もう、分かったよ~。行けば、いいんでしょ~?」

「そー!行けばいいのー!てことで、ラミエル行ってくるねー!」

「はっ!?ちょっ!!襟、離し……!?」

 せっかく同意したのに手を離してもらえず……徳正さんは引き摺られるようにして、姿を消す。
『ちょっとぉぉぉおおお!?』と叫ぶ彼の声だけが、この場に残った。
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