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第三章
第94話『必要なのは鞭ではなく、鎖』
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それから私達は来た道を引き返し、集合場所である郊外を訪れていた。
月明かりに照らし出されたそこには、もう他のメンバーが揃っている。
連絡してきた徳正さんはもちろん、縄でぐるぐる巻きにされたリアムさんも居た。
「お前は一体、何を考えているんだ!?俺達に何の断りもなく、居なくなるなんて……!!どれだけ俺達に……いや、ラミエル達に迷惑が掛かったと思っているんだ!?無理を言って、同行させてもらったことをもう忘れたのか……!?大体、お前は『紅蓮の夜叉』の幹部候補生である自覚が────」
リアムさんの前に仁王立ちして、レオンさんは目をつり上げる。
『己の軽率な行動を改めろ!』と積極する彼を前に、リアムさんはただ黙っている。
なので、反省しているのかどうかよく分からなかった。
まあ、とりあえずリアムさんを無事に保護出来て良かったよ。見たところ怪我もなさそうだし。
強いて言うなら、髪が少し乱れたくらい?
レオンさんの背中越しにリアムさんを見ていた私は、何の気なしに歩を進める。
「失礼しますね」
私はリアムさんの横に立つと、後ろで緩く結った長い白髪に触れた。
絡まった髪同士を解きながら、私は梳くような動きでそっと撫でる。
うん。これでよしっと。
「いきなり、すみません。乱れた髪が気になってしまって……」
「髪が……?あぁ、そういえば見知らぬプレイヤー達に追いかけ回されていた時、何度か髪を建物に引っ掛けていたな。助かったよ、ラミエル。これでも、僕は身嗜みに気を使っているからね」
整った髪を指先で撫で、リアムさんは嬉しそうに笑った。
『見知らぬプレイヤー達に追いかけ回されていた』という発言は非常に気になるが、世の中には知らない方が幸せなこともある。
なので、私は敢えて言及しなかった。
「お前は身嗜みよりも、まず周りへの迷惑を考えろ!」
「いてっ!」
ゴツンッ!とレオンさんから強烈なゲンコツを食らったリアムさんは、その場に蹲る。
帽子の上からとはいえ、かなり痛そうだ。
「レオンさん、何故僕は叱られないといけないんだい?ましてや、暴力なんて……僕は許された範囲で、行動しただけじゃないか」
「許された範囲?お前、何を言って……」
「レオンさんこそ、何を言っているんだい?ラミエルは僕に『勝手にどこかへ行くな』とは言わなかったよ。だから、僕は何も間違ったことなんてしていない」
「はっ?お前、それ本気で言ってるのか?」
「もちろんさ」
堂々と胸を張って断言するリアムさんに、レオンさんは頭を抱え込んだ。
これでは矯正のしようがない、と。
だって、屁理屈でしかない言い分を本人は正論だと信じ込んでいるのだから。
困ったなぁ……リアムさんって、予想以上に癖が強そう。
こうなったら、一挙手一投足に至るまで細かく指示を出すしかないかな?
でも、いざって時に『指示を貰ってないから』という理由で動けないのは困るし……。
扱いが難しすぎるリアムさんを前に、私は悶々とする。
正直、操り人形は必要ない。でも、勝手に行動するじゃじゃ馬はもっといらない。
ならば、私はこうするしかないだろう。
この赤子にも等しい精神年齢の猛獣に、必要なのは────鞭ではなく、行動を制限するための“鎖”なのだから。
「とりあえず、リアムさんの言い分は分かりました。今回はその言い分を呑みましょう。これ以上説教したところで、私達と同じ常識を持っていない貴方には効果がないでしょうし。それに無駄なことはしたくありませんから」
「なっ!?でも、ラミエル!こいつはお前達に多大な迷惑を……!!」
リアムさんの保護者のような立場にあるレオンさんは、『それじゃ、ダメだ!』と反発する。
謝るどころか、反省すらしていない部下の態度を見て思うところがあるのだろう。
だが、今はその気持ちを仕舞って頂きたい。
レオンさんの気持ちは痛いほどよく分かるし、その言い分は決して間違っていないけど、今必要なのは説教ではない。
私は視線だけでレオンさんを黙らせ、リアムさんに向き直った。
と同時に、片膝をつく。
「リアムさん、一つだけ約束してください。これからは行動する前に必ず私に“やって良いかどうか”確認を取る、と。命に関わるような出来事に関しては独断で動くことを許しますが、そうでない場合は判断を仰いでください。そして、出来れば────私のあやつり人形にはならないでください……って、これでは約束事が二つになってしまいますね。とりあえず、一つ目の約束は必ず守ってください。二つ目は……そうですね、これは約束ではなく、ただの“お願い”です」
抜け道がないよう、慎重に言葉を選びながら約束────という名の命令を口にした。
だって、もしこの条件を呑まなければリアムさんとレオンさんは置いていこうと思っているから。
今回の件はさすがに目に余る。また同じようなことを起こされては、堪らない。
無駄になってしまった時間を振り返り、私はエメラルドの瞳に強い意志を宿す。
『ここは絶対に妥協しない』と決意する私の前で、リアムさんはパチパチと瞬きを繰り返した。
かと思えば、穏やかに微笑む。
「分かった。その約束、必ず守ると誓うよ。他の誰でもないラミエルのためにね」
リアムさんは小指を立ててそう言うと、白い歯を見せて笑った。
月明かりに照らし出されたそこには、もう他のメンバーが揃っている。
連絡してきた徳正さんはもちろん、縄でぐるぐる巻きにされたリアムさんも居た。
「お前は一体、何を考えているんだ!?俺達に何の断りもなく、居なくなるなんて……!!どれだけ俺達に……いや、ラミエル達に迷惑が掛かったと思っているんだ!?無理を言って、同行させてもらったことをもう忘れたのか……!?大体、お前は『紅蓮の夜叉』の幹部候補生である自覚が────」
リアムさんの前に仁王立ちして、レオンさんは目をつり上げる。
『己の軽率な行動を改めろ!』と積極する彼を前に、リアムさんはただ黙っている。
なので、反省しているのかどうかよく分からなかった。
まあ、とりあえずリアムさんを無事に保護出来て良かったよ。見たところ怪我もなさそうだし。
強いて言うなら、髪が少し乱れたくらい?
レオンさんの背中越しにリアムさんを見ていた私は、何の気なしに歩を進める。
「失礼しますね」
私はリアムさんの横に立つと、後ろで緩く結った長い白髪に触れた。
絡まった髪同士を解きながら、私は梳くような動きでそっと撫でる。
うん。これでよしっと。
「いきなり、すみません。乱れた髪が気になってしまって……」
「髪が……?あぁ、そういえば見知らぬプレイヤー達に追いかけ回されていた時、何度か髪を建物に引っ掛けていたな。助かったよ、ラミエル。これでも、僕は身嗜みに気を使っているからね」
整った髪を指先で撫で、リアムさんは嬉しそうに笑った。
『見知らぬプレイヤー達に追いかけ回されていた』という発言は非常に気になるが、世の中には知らない方が幸せなこともある。
なので、私は敢えて言及しなかった。
「お前は身嗜みよりも、まず周りへの迷惑を考えろ!」
「いてっ!」
ゴツンッ!とレオンさんから強烈なゲンコツを食らったリアムさんは、その場に蹲る。
帽子の上からとはいえ、かなり痛そうだ。
「レオンさん、何故僕は叱られないといけないんだい?ましてや、暴力なんて……僕は許された範囲で、行動しただけじゃないか」
「許された範囲?お前、何を言って……」
「レオンさんこそ、何を言っているんだい?ラミエルは僕に『勝手にどこかへ行くな』とは言わなかったよ。だから、僕は何も間違ったことなんてしていない」
「はっ?お前、それ本気で言ってるのか?」
「もちろんさ」
堂々と胸を張って断言するリアムさんに、レオンさんは頭を抱え込んだ。
これでは矯正のしようがない、と。
だって、屁理屈でしかない言い分を本人は正論だと信じ込んでいるのだから。
困ったなぁ……リアムさんって、予想以上に癖が強そう。
こうなったら、一挙手一投足に至るまで細かく指示を出すしかないかな?
でも、いざって時に『指示を貰ってないから』という理由で動けないのは困るし……。
扱いが難しすぎるリアムさんを前に、私は悶々とする。
正直、操り人形は必要ない。でも、勝手に行動するじゃじゃ馬はもっといらない。
ならば、私はこうするしかないだろう。
この赤子にも等しい精神年齢の猛獣に、必要なのは────鞭ではなく、行動を制限するための“鎖”なのだから。
「とりあえず、リアムさんの言い分は分かりました。今回はその言い分を呑みましょう。これ以上説教したところで、私達と同じ常識を持っていない貴方には効果がないでしょうし。それに無駄なことはしたくありませんから」
「なっ!?でも、ラミエル!こいつはお前達に多大な迷惑を……!!」
リアムさんの保護者のような立場にあるレオンさんは、『それじゃ、ダメだ!』と反発する。
謝るどころか、反省すらしていない部下の態度を見て思うところがあるのだろう。
だが、今はその気持ちを仕舞って頂きたい。
レオンさんの気持ちは痛いほどよく分かるし、その言い分は決して間違っていないけど、今必要なのは説教ではない。
私は視線だけでレオンさんを黙らせ、リアムさんに向き直った。
と同時に、片膝をつく。
「リアムさん、一つだけ約束してください。これからは行動する前に必ず私に“やって良いかどうか”確認を取る、と。命に関わるような出来事に関しては独断で動くことを許しますが、そうでない場合は判断を仰いでください。そして、出来れば────私のあやつり人形にはならないでください……って、これでは約束事が二つになってしまいますね。とりあえず、一つ目の約束は必ず守ってください。二つ目は……そうですね、これは約束ではなく、ただの“お願い”です」
抜け道がないよう、慎重に言葉を選びながら約束────という名の命令を口にした。
だって、もしこの条件を呑まなければリアムさんとレオンさんは置いていこうと思っているから。
今回の件はさすがに目に余る。また同じようなことを起こされては、堪らない。
無駄になってしまった時間を振り返り、私はエメラルドの瞳に強い意志を宿す。
『ここは絶対に妥協しない』と決意する私の前で、リアムさんはパチパチと瞬きを繰り返した。
かと思えば、穏やかに微笑む。
「分かった。その約束、必ず守ると誓うよ。他の誰でもないラミエルのためにね」
リアムさんは小指を立ててそう言うと、白い歯を見せて笑った。
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