『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第三章

第91話『良いイメージは一瞬にして、消え去る』

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「そういえば、きちんとした自己紹介がまだでしたね。私は────『虐殺の紅月』に所属する、ラミエルです。以後お見知りおきを」

 『ちなみにシムナさんも同じパーティーです』と説明すると、田中さんは大きく目を見開いて固まった。
予想外と言わんばかりの表情である。

 まあ、驚くのも無理はない。
私もシムナさんも傍から見れば、ちょっと装備が良い一般プレイヤーにしか見えないもの。

 『やっぱり警戒されるかなぁ』と思案する中、田中さんはガタッと勢いよく席を立った。

「お、お前らが『虐殺の紅月』のパーティーメンバー……?じゃあ、お前らは────アラクネ・・・・と仲間ってことか!?」

 僅かに身を乗り出して問い質してくる田中さんに、私とシムナさんは顔を見合わせる。
だって、予想していた反応とは違うから。
『何故、アラクネさんをピンポイントに?』と頭を悩ませていると、田中さんが必死の形相でこちらを見た。

「俺はアラクネの実の兄だ!信じられないなら、色々質問してくれて構わねぇ!全て答える!だから、教えてくれ!あいつは無事なのか……!?」

 若干目を血走らせながら、田中さんはアラクネさんの安否を尋ねてきた。
縋るような眼差しを向けてくる彼に、私はパチパチと瞬きを繰り返す。

 多分、田中さんは嘘を言っていない。
だって、引っ込み思案のアラクネさんが『虐殺の紅月』のメンバーであることを知っている人なんて、そうそう居ないもん。
余程親しい仲でもなければ、教えてもらえないだろう。

 『それに田中さんは嘘をつけるタイプじゃないし』と分析しつつ、口を開く。

「アラクネさんはきちんと生きています。今はゴーレム討伐クエストのため危険な場所へ向かっていますが、魔法使いのヴィエラさんも居るので問題ないでしょう」

 『元気にしている』と伝えると、田中さんは見るからに肩の力を抜いた。
ホッとしたように表情を緩め、半ば倒れるようにして椅子へ腰掛ける。

「……本当に無事で良かった」

 誰に言うでもなくそう呟き、田中さんは大きく息を吐いた。
ちょっと泣きそうなのか、目元を腕で覆い隠している。
大袈裟なくらいの反応を示す彼の前で、私は一つの疑問を抱いた。

「あの……そんなに心配なら、フレンドチャットや通話を使って安否を確認すれば良かったのでは?」

 失礼を承知で直球で疑問を投げ掛ける私に、田中さんは特に気分を悪くするでもなく淡々と答える。

「アラクネとは、フレンド登録をしてなかったんだ。あいつが『ゲーム世界では現実世界リアルのことを忘れて活動したいから、交流は持たない』って言ってな。多少不安はあったが、アラクネの気持ちを優先したんだ。まさか、こんな状況になるとも思ってなかったしな……」

 なるほど、そういう事情があったのか。
アラクネさんは私と同じようにフレンド申請を不可にしているみたいだし、田中さんからコンタクトを取るのは難しいかも。

 田中さんの話を鵜呑みする訳じゃないが、信憑性は充分あると思う。
プレイヤーの一定数はリアルの交友関係をネットに持ち込みたくない、と考えているから。
ちなみに私もその一人。

 あれ?でも、そうなるとまた疑問が……。

「あの、何で田中さんはアラクネさんのプレイヤーネームや所属パーティーを知っているんですか?」

 『プロフィールだけ、互いに教え合ったのか?』と首を傾げる私に、田中さんはこう答える。

「あぁ、それは────俺が独自に調べたからだ」

「……はい!?調べた!?」

「ああ。関わらないとは言ったが、調べないとは言ってないからな。それに万が一のことがあれば、直ぐに駆け付けられるようにしておかねぇーと。FROは数あるゲームソフトの中で、一番治安悪いし」

「……ソウデスカ」

「田中、気持ちわるーい!」

 『うげぇ……!』と顔を顰めてドン引きするシムナさんに、田中さんはキョトンと首を傾げた。
まるで、訳が分からないとでも言うように。

「妹を守るのが、兄の役目だろ?守るために必要な情報を集めて、何が悪い。むしろ、今まで無干渉を貫いてきた俺を褒めてほしいぐらいだ」

「うわぁ……田中、本気でキモイよー?アラクネ、よくこんな気持ち悪い奴が兄弟で平気だよねー?僕だったら、耐えられなーい!」

 『鳥肌立つー!』と言って、シムナさんは両腕を摩った。
もはや言いたい放題の彼を前に、私は額を押さえる。

 シスコンなのは薄々気づいていたけど、まさかここまでとは……。
アラクネさんがフレンド登録を拒否したのも頷ける。
いいお兄さんを持って羨ましい、と思っていた数分前の自分を殴りたい。

 一瞬にして消え去ったいいイメージを前に、私は小さく息を吐いた。

 誰か、この無自覚ストーカーをどうにかして……。
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