『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第三章

第74話『治療の前に問題発生!?』

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「とりあえず、皆さんの怪我を治療しましょうか。前衛メンバーの捕獲には、まだ少し時間が掛かりそうなので」

 珍しく慎重に動いているシムナさんを一瞥し、私は後衛メンバーに声を掛けた。
彼らも前衛メンバーほどではないにしろ、深手を負っているから。

 前衛メンバーがここに運び込まれたら、そっちの治療を優先しなければならない。
だから、今のうちに後衛メンバーの治療をしておきたかった。

「あの……お気持ちは嬉しいんですが、私達の治療は結構です。前衛メンバーの治療をして頂けるだけで、充分ですから……」

「この程度の傷、日常茶飯事ですし、放っておけば直ぐに治ります!ですので、私達の治療は……」

「────強がらなくても、大丈夫ですよ。本当はもうほとんどHPが残っていないのでしょう?確かにどの傷も大したことありませんが、数が数ですから。嫌でも、HPは減ります。あなた方の様子を見る限り、残りHPは最大HPの1/4以下と言ったところでしょうか?」

「っ……!!」

「そ、それは……」

「我慢はいけませんよ。ほら、早く傷を見せてください」

 ぐうの音も出ない様子の彼らに、私は『ほら、傷を見せてください』と促す。
ここで痩せ我慢しても、いいことは一つもないから。
でも、彼らはまだ迷いを捨て切れないのか……視線を右往左往させていた。

「遠慮なんて、必要ないよ~。なんてったって、ウチの回復師ヒーラーは職業別ランキング一位の子だからね~。君らの怪我を治した程度で、バテる訳ないじゃん~。負担なんて大して掛かんないよ~」

 徳正さんは敢えて私の肩書きを明かし、『頼っても全然大丈夫』と太鼓判を押す。
『なるほど、その手があったか』と感心する私に、彼はウィンクしてきた。
────と、ここで思わぬ問題が発生する。

「ねぇ、職業別ランキング一位の回復師ヒーラーって確か……」

「勇者パーティー────『サムヒーロー』に所属していた凄い人だよね!?」

「今は『虐殺の紅月』って言うPK集団に加入しているって聞いたけど……まさか、ラミエルさんがあの“叛逆の堕天使”!?」

「ちょっ!声が大きいって!その二つ名は皮肉の込められたものだから、本人の前で言っちゃダメ!」

「あっ、ごめん……」

「でも、ラミエルさんが本当に職業別ランキング一位の回復師ヒーラーだとしたら、その隣に居る忍者って────“影の疾走者”……?」

 芋づる式に私達の正体がバレ、後衛メンバーは顔を見合わせる。
戸惑いを隠し切れない彼らを前に、私は頭を抱えた。

 警戒心剥き出しだった彼らを変に刺激しないよう、敢えて所属パーティーのことは黙っていたんだけど……その努力は見事泡となって消えた。
まあ、徳正さんも悪気があった訳じゃないと思うから別にいいんだけど。

 『ごめんね』ポーズを取る徳正さんに一つ頷き、私は小さく息を吐いた。

 さて、どうしようか……きっと、彼らは私達のことを警戒するよね。
最悪の場合、『今すぐここから出て行け』と言われるかもしれない。
肉体的にも精神的にも追い込まれている彼らに、『PKをする気は無い』と伝えても馬に念仏だろうし……。

 『いっそ、ポーションだけ渡して立ち去るか?』と思い悩んでいると、金髪碧眼の美女と目が合った。

「あの、二つお聞きしたいことがあります。よろしいですか?」

「は、はい……」

「ラミエルさんとその男性は、『虐殺の紅月』に所属する“叛逆の堕天使”と“影の疾走者”で間違いありませんか?」

「……はい、間違いありません。私と徳正さんは『虐殺の紅月』に所属するプレイヤーキラーです」

 一瞬嘘で誤魔化してしまおうかと思ったが、彼女の真っ直ぐな瞳を見て罪悪感に駆られてしまい……私は正直に認めた。
でも、彼女の反応を見るのが怖くて……下を向く。

 別に後ろめたいことがある訳じゃない。
私達『虐殺の紅月』はFROがデスゲームと化してから、一度もPKを行っていないし、必要以上に戦闘もしていない。
それどころか、人助けのために動いている始末。
だから、ただ真っ直ぐ前を見て堂々としていれば良いのに……私にはそれが出来なかった。
別に『虐殺の紅月』の一員であることを恥じている訳ではない。
私にとって、『虐殺の紅月』は最高のパーティーで、家族みたいな存在だから。
ただ……あんなにも真っ直ぐで、強い優しさと信念を持った人に拒絶されるのが怖かった。

 ギュッと胸元を握り締め不安を誤魔化していると、徳正さんが何も言わずに腰を抱き寄せる。
布越しに伝わってくる温もりは、よく知っているものだった。

「では、もう一つだけ聞かせてください。ラミエルさんは……いえ、『虐殺の紅月』の皆さんは私達を殺す・・ためにここに来たんですか?それとも────助ける・・・ために、ここへ来てくれたんですか?」

「!?」

 まさかの質問にハッとする私は、『色眼鏡を通して見ていたのはこっちだ』と気づく。
と同時に、沈んでいた気持ちが一気に軽くなり、不安も溶けた。
ゆっくりと顔を上げ、私は真っ直ぐに空色の瞳を見つめ返す。

「────助けるために来た、に決まってます」

 迷わず断言すると、金髪碧眼の美女はゆるりと口角を上げた。
女神と比喩すべき美しい笑みを振り撒きながら、赤い唇を開く。

「なら、問題ないですね。是非、私達の治療をお願いします。私は弓使いアーチャーのデーリアです。ラミエルさん、徳正さん、よろしくお願いします」

 ここでようやく自分の名を名乗った金髪碧眼の美女────改め、デーリアさんはその場で優雅にお辞儀した。
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