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第三章
第72話『ご機嫌取りとハグ』
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「急いでください!このままだと、あのパーティーは────全滅してしまいます!」
不安と焦りを前面に出して叫ぶと、徳正さんはグンッとスピードを上げた。
速すぎて首がもげそうなくらいだが、今はそんなことを言っていられる場合じゃない。
あの戦い方は不味い。あまりにも無鉄砲過ぎる……。
連携が取れていないどころか、お互いの状況を把握しようともしない。
皆、好き勝手に戦っているようなイメージだ。
そのせいで同士討ちになったり、サポートが遅れたりしている。
ウチの三馬鹿も自分勝手なプレイが多いけど、仲間を攻撃するような真似はしない。
最低でも、味方の位置くらいは把握していた。
『何をどうしたら、あんな戦い方になるんだ……』と眉を顰める中、肌に纒わり付くような熱気を感じる。
と同時に、目を開けた。
「……酷いですね、これは」
「ある意味、地獄絵図だね~」
『ここまでバラバラだと、いっそ清々しいな』
「僕らでも、ここまで酷くないよー」
「うぷっ……酔った」
極一名慣れないハイスピード移動に吐き気を催しているが、私達は気にせず目の前に広がる光景を眺める。
そこには、炎の壁に真正面から突っ込む者やサポーターからの強化魔法を敵からの攻撃だと思い跳ね返す者などが居た。
後衛はまだいいとして……酷いのは前衛だな。
味方が必死に『一旦下がれ!』と指示を出しているのに……まさかのフル無視。
まず、きちんと話を聞いているのかすら分からない。
自分勝手なプレイを繰り広げるプレイヤー達に嘆息しつつ、私はシムナさんを手招いた。
「ん?何ー?」
直ぐにこちらの合図に気がついたシムナさんは、笑顔で駆け寄ってくる。
『どうしたのー?』と尋ねてくる彼を前に、私は地面へ降りた。
そして、運んでくれた徳正さんにお礼を言うと、シムナさんの方へ手を伸ばした。
今回、シムナさんに与える役割はかなりのストレスになる筈。
手加減なんて、一番苦手な分野だろうから。
なので────まずはシムナさんのやる気を引き出す。
自分と同じくらいの身長のシムナさんを見据え、私はギュッと抱きつく。
すると、彼はこれでもかというほど動揺を露わにした。
「えっ?なっ……はっ……ぅえ!?ら、ラミエル!?」
「ふふふっ。シムナさん、動揺し過ぎです」
「だ、だって!今、ハグ……!!」
「シムナさんが『PKを我慢したご褒美にハグしてほしい』って、言ったからですよ。もしかして、嫌でした?」
「いや、全然!!むしろ、嬉しい!!」
「ふふっ!それは良かったです」
クスクスと笑みを漏らす私に、シムナさんはドギマギしつつ恐る恐る手を回す。
そして、優しく……慎重に抱き締め返してきた。
潰さないようにと気をつける彼の前で、私は頬を緩める。
シムナさんって、意外と可愛いところあるよね。普段は『とりあえず、殺そう!』しか言わないのに。
これがギャップ萌えというやつだろうか?
などと思いつつ、私はゆっくりと体を離した。
と同時に、シムナさんの顔を覗き込むと何故か真っ赤。
それはもう風邪を疑うくらいに。
「や、やわっ……!それに凄くいい匂いが……!僕、もうダメかも……!ラミエルが可愛すぎて、死んじゃう……!」
『青二才のガキに、女性とのハグはまだ早かったか』
「ねぇ~、シムナだけズル~い。俺っちもラーちゃんとハグしたい~」
『徳正は移動の際、毎回ラミエルのことをお姫様抱っこしているから充分だろ』
「え~!ハグとお姫様抱っこは別でしょ~」
相も変わらず、どうでもいい会話を交わす徳正さんとラルカさん。
今回はシムナさんが参戦していないだけマシだが、この緊迫した状況で彼らの呑気な態度は実に目立つ。
『まあ、いきなりハグした私も人のことは言えないけど……』と思いつつ、コホンッと一回咳払いした。
「茶番はこれくらいにして、役割分担の説明に移りましょう。まずレオンさんとラルカさんは街中に居るゴーレムの処理、徳正さんは私の護衛と一般プレイヤーの保護をお願いします。そして、シムナさんは────戦闘中の前衛メンバーを戦線から離脱させ、私の元まで連れて来てください。多少手荒になっても構いません。生きてさえいれば、私の方でどうにかしますので」
一気に役割分担を発表すると、彼らは直ぐさま首を縦に振る。
あの問題児であるシムナさんも、すんなり了承くれた。
『ハグした甲斐があったな』と安堵の息を吐き、私は前を見据える。
「これより、一般プレイヤーの保護及びゴーレムの討伐を開始します。各自、与えられた役割を全うしてください」
不安と焦りを前面に出して叫ぶと、徳正さんはグンッとスピードを上げた。
速すぎて首がもげそうなくらいだが、今はそんなことを言っていられる場合じゃない。
あの戦い方は不味い。あまりにも無鉄砲過ぎる……。
連携が取れていないどころか、お互いの状況を把握しようともしない。
皆、好き勝手に戦っているようなイメージだ。
そのせいで同士討ちになったり、サポートが遅れたりしている。
ウチの三馬鹿も自分勝手なプレイが多いけど、仲間を攻撃するような真似はしない。
最低でも、味方の位置くらいは把握していた。
『何をどうしたら、あんな戦い方になるんだ……』と眉を顰める中、肌に纒わり付くような熱気を感じる。
と同時に、目を開けた。
「……酷いですね、これは」
「ある意味、地獄絵図だね~」
『ここまでバラバラだと、いっそ清々しいな』
「僕らでも、ここまで酷くないよー」
「うぷっ……酔った」
極一名慣れないハイスピード移動に吐き気を催しているが、私達は気にせず目の前に広がる光景を眺める。
そこには、炎の壁に真正面から突っ込む者やサポーターからの強化魔法を敵からの攻撃だと思い跳ね返す者などが居た。
後衛はまだいいとして……酷いのは前衛だな。
味方が必死に『一旦下がれ!』と指示を出しているのに……まさかのフル無視。
まず、きちんと話を聞いているのかすら分からない。
自分勝手なプレイを繰り広げるプレイヤー達に嘆息しつつ、私はシムナさんを手招いた。
「ん?何ー?」
直ぐにこちらの合図に気がついたシムナさんは、笑顔で駆け寄ってくる。
『どうしたのー?』と尋ねてくる彼を前に、私は地面へ降りた。
そして、運んでくれた徳正さんにお礼を言うと、シムナさんの方へ手を伸ばした。
今回、シムナさんに与える役割はかなりのストレスになる筈。
手加減なんて、一番苦手な分野だろうから。
なので────まずはシムナさんのやる気を引き出す。
自分と同じくらいの身長のシムナさんを見据え、私はギュッと抱きつく。
すると、彼はこれでもかというほど動揺を露わにした。
「えっ?なっ……はっ……ぅえ!?ら、ラミエル!?」
「ふふふっ。シムナさん、動揺し過ぎです」
「だ、だって!今、ハグ……!!」
「シムナさんが『PKを我慢したご褒美にハグしてほしい』って、言ったからですよ。もしかして、嫌でした?」
「いや、全然!!むしろ、嬉しい!!」
「ふふっ!それは良かったです」
クスクスと笑みを漏らす私に、シムナさんはドギマギしつつ恐る恐る手を回す。
そして、優しく……慎重に抱き締め返してきた。
潰さないようにと気をつける彼の前で、私は頬を緩める。
シムナさんって、意外と可愛いところあるよね。普段は『とりあえず、殺そう!』しか言わないのに。
これがギャップ萌えというやつだろうか?
などと思いつつ、私はゆっくりと体を離した。
と同時に、シムナさんの顔を覗き込むと何故か真っ赤。
それはもう風邪を疑うくらいに。
「や、やわっ……!それに凄くいい匂いが……!僕、もうダメかも……!ラミエルが可愛すぎて、死んじゃう……!」
『青二才のガキに、女性とのハグはまだ早かったか』
「ねぇ~、シムナだけズル~い。俺っちもラーちゃんとハグしたい~」
『徳正は移動の際、毎回ラミエルのことをお姫様抱っこしているから充分だろ』
「え~!ハグとお姫様抱っこは別でしょ~」
相も変わらず、どうでもいい会話を交わす徳正さんとラルカさん。
今回はシムナさんが参戦していないだけマシだが、この緊迫した状況で彼らの呑気な態度は実に目立つ。
『まあ、いきなりハグした私も人のことは言えないけど……』と思いつつ、コホンッと一回咳払いした。
「茶番はこれくらいにして、役割分担の説明に移りましょう。まずレオンさんとラルカさんは街中に居るゴーレムの処理、徳正さんは私の護衛と一般プレイヤーの保護をお願いします。そして、シムナさんは────戦闘中の前衛メンバーを戦線から離脱させ、私の元まで連れて来てください。多少手荒になっても構いません。生きてさえいれば、私の方でどうにかしますので」
一気に役割分担を発表すると、彼らは直ぐさま首を縦に振る。
あの問題児であるシムナさんも、すんなり了承くれた。
『ハグした甲斐があったな』と安堵の息を吐き、私は前を見据える。
「これより、一般プレイヤーの保護及びゴーレムの討伐を開始します。各自、与えられた役割を全うしてください」
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