70 / 315
第三章
第69話『襲撃者と三馬鹿』
しおりを挟む
後ろに倒れる敵プレイヤーを咄嗟に支えた徳正さんは、日本刀を素早く鞘に納めた。
「とりあえず気絶したみたいだけど、これどうする~?置いていく~?」
「置いていく一択でしょー。連れて行っても、意味ないしー。その辺に放置しておけば、良くなーい?」
『僕もシムナと同意見だ』
確かにそれが一番かも。下手に連れ回すより、ゴーレムの居ない場所へ置いていった方が安全だし。
とりあえず、怪我だけ治してここを去ろう。
私は徳正さんの手によって、地面に寝かせられた敵プレイヤーへ手をかざす。
「《パーフェクトヒール》」
最上級の治癒魔法を施すと、フワッと柔らかい光が彼の体を包み込んだ。
陽だまりみたいに暖かいソレは、彼の傷を癒していく。
間もなくして発汗や吐血は収まり、呼吸も安定してきた。
とりあえず、これで死ぬ心配はないだろう。
敵の容態を確認し、私はラルカさんの腕をやんわり振りほどいた。
早く、次の街に行かないと……!街巡りが終わったら、目撃者の少ない郊外にも足を運ばないといけないし!
「皆さん、疲れているところ申し訳ありませんが、次の街に移動しま……」
「────アヤっ!?」
『移動しましょう』と続ける筈だった言葉は、やけに耳に残るバリトンボイスに遮られた。
あ、あや?それって、誰!?まさか、私のことじゃないよね!、
混乱しつつも声の主を探すと────敵プレイヤーが目に入る。
「アヤ!アヤだよな!?俺っ!俺だよ!レオン!一ヶ月前まで、付き合っていただろ!?」
「は、はい!?付き合っていた!?私と貴方が、ですか!?」
「そうだ!もう忘れたのか!?」
私と視線が交わるなり、ガバッと勢いよく起き上がった敵プレイヤー────改め、レオンさんは距離を詰めてきた。
そのレモンイエローの瞳からは、焦りがヒシヒシと伝わってくる。
ちょ、ちょっと待って!?私、貴方と初対面なんだけど!?
ていうか、今から一ヶ月前って……『虐殺の紅月』に加入したばかりの頃じゃない!
確実に人違いだって!
『色恋にうつつを抜かせるほど暇じゃない!』と考える中、徳正さん達はショックを受けたような表情を浮かべた。
「えっ!?ラーちゃん、俺っちというものがありながら浮気!?しかも、こんな弱い男と!?」
「ラミエル!悪いことは言わないから、僕にしておきなよ!僕の方が強いし、優しいし、格好いいよ!?」
『二人とも、落ち着け。この男の口振りだと、恐らく今は付き合っていない。元恋人同士ってところだろう。今、僕らのすべきことは復縁を邪魔することだけだ』
「らみえる……?アヤ、名前を変えたのか?」
「……」
徳正さん達のせいで誤解を解くタイミングを見失った私は、嘆息する。
『なんだ?この茶番は……』と思いながら。
「ラーちゃん、こいつにズバッと言ってやって~!ラーちゃんの彼氏は、俺っちだって~!」
「徳正、馬鹿じゃないのー?ラミエルの今の彼氏は、僕なんだけどー?」
『二人とも、落ち着け。現実を見ろ。ラミエルの彼氏は僕だ。ラミエルとは、もうハグもした仲だからな』
「アヤ……お前、俺と別れてから男癖悪くなったか?つーか、男の趣味変わったな……?」
「ねぇ~、ずっと気になってたんだけど、その『あや』ってラーちゃんの本名~?」
「あっ!それ、僕もずっと気になってたー!」
『待て、二人とも。そこは突っ込まないお約束だぞ。ネット仲間に本名を尋ねるのは、タブーだ。ここは適当に流すべきだろう』
「アヤは本名じゃねぇーよ?前、俺と付き合っていた時のネット名だ。今はラミエルに改名したらしいけどな」
ギャーギャーと言い合いを繰り広げるいつもの三人とレオンさんに、私は頭を抱える。
『いい加減にしてくれ……』と辟易しつつ、事態の収拾のため口を開いた。
「私はレオンさんの言う『あや』さんじゃ、ありません。アカウント登録時からずっと、ラミエルです。恐らく、レオンさんは人違いをなさっているかと」
「「『「えっ……?」』」」
別人だと断言した私に、レオンさんを含める四人が動揺を示した。
はっ……?徳正さん達も、私を『あや』だと思い込んでいたの?
別人だと分かった上で、茶番を繰り広げていた訳ではなく?
もしかして皆さん、私の思っている以上に馬鹿だったりする?
『人違いだと気づくタイミングは沢山あっただろうに』と呆れ返り、お馬鹿な三人組を一瞥した。
「私は『虐殺の紅月』に所属する、回復師のラミエルです。とりあえず、手短に説明しますね?こちらも時間がないので……先程も申し上げた通り、私は貴方の言う『あや』さんではありません。そして────」
ゲーム内ディスプレイに表示された時刻を気にしつつ、私は誤解を解くためひたすら弁解した。
「とりあえず気絶したみたいだけど、これどうする~?置いていく~?」
「置いていく一択でしょー。連れて行っても、意味ないしー。その辺に放置しておけば、良くなーい?」
『僕もシムナと同意見だ』
確かにそれが一番かも。下手に連れ回すより、ゴーレムの居ない場所へ置いていった方が安全だし。
とりあえず、怪我だけ治してここを去ろう。
私は徳正さんの手によって、地面に寝かせられた敵プレイヤーへ手をかざす。
「《パーフェクトヒール》」
最上級の治癒魔法を施すと、フワッと柔らかい光が彼の体を包み込んだ。
陽だまりみたいに暖かいソレは、彼の傷を癒していく。
間もなくして発汗や吐血は収まり、呼吸も安定してきた。
とりあえず、これで死ぬ心配はないだろう。
敵の容態を確認し、私はラルカさんの腕をやんわり振りほどいた。
早く、次の街に行かないと……!街巡りが終わったら、目撃者の少ない郊外にも足を運ばないといけないし!
「皆さん、疲れているところ申し訳ありませんが、次の街に移動しま……」
「────アヤっ!?」
『移動しましょう』と続ける筈だった言葉は、やけに耳に残るバリトンボイスに遮られた。
あ、あや?それって、誰!?まさか、私のことじゃないよね!、
混乱しつつも声の主を探すと────敵プレイヤーが目に入る。
「アヤ!アヤだよな!?俺っ!俺だよ!レオン!一ヶ月前まで、付き合っていただろ!?」
「は、はい!?付き合っていた!?私と貴方が、ですか!?」
「そうだ!もう忘れたのか!?」
私と視線が交わるなり、ガバッと勢いよく起き上がった敵プレイヤー────改め、レオンさんは距離を詰めてきた。
そのレモンイエローの瞳からは、焦りがヒシヒシと伝わってくる。
ちょ、ちょっと待って!?私、貴方と初対面なんだけど!?
ていうか、今から一ヶ月前って……『虐殺の紅月』に加入したばかりの頃じゃない!
確実に人違いだって!
『色恋にうつつを抜かせるほど暇じゃない!』と考える中、徳正さん達はショックを受けたような表情を浮かべた。
「えっ!?ラーちゃん、俺っちというものがありながら浮気!?しかも、こんな弱い男と!?」
「ラミエル!悪いことは言わないから、僕にしておきなよ!僕の方が強いし、優しいし、格好いいよ!?」
『二人とも、落ち着け。この男の口振りだと、恐らく今は付き合っていない。元恋人同士ってところだろう。今、僕らのすべきことは復縁を邪魔することだけだ』
「らみえる……?アヤ、名前を変えたのか?」
「……」
徳正さん達のせいで誤解を解くタイミングを見失った私は、嘆息する。
『なんだ?この茶番は……』と思いながら。
「ラーちゃん、こいつにズバッと言ってやって~!ラーちゃんの彼氏は、俺っちだって~!」
「徳正、馬鹿じゃないのー?ラミエルの今の彼氏は、僕なんだけどー?」
『二人とも、落ち着け。現実を見ろ。ラミエルの彼氏は僕だ。ラミエルとは、もうハグもした仲だからな』
「アヤ……お前、俺と別れてから男癖悪くなったか?つーか、男の趣味変わったな……?」
「ねぇ~、ずっと気になってたんだけど、その『あや』ってラーちゃんの本名~?」
「あっ!それ、僕もずっと気になってたー!」
『待て、二人とも。そこは突っ込まないお約束だぞ。ネット仲間に本名を尋ねるのは、タブーだ。ここは適当に流すべきだろう』
「アヤは本名じゃねぇーよ?前、俺と付き合っていた時のネット名だ。今はラミエルに改名したらしいけどな」
ギャーギャーと言い合いを繰り広げるいつもの三人とレオンさんに、私は頭を抱える。
『いい加減にしてくれ……』と辟易しつつ、事態の収拾のため口を開いた。
「私はレオンさんの言う『あや』さんじゃ、ありません。アカウント登録時からずっと、ラミエルです。恐らく、レオンさんは人違いをなさっているかと」
「「『「えっ……?」』」」
別人だと断言した私に、レオンさんを含める四人が動揺を示した。
はっ……?徳正さん達も、私を『あや』だと思い込んでいたの?
別人だと分かった上で、茶番を繰り広げていた訳ではなく?
もしかして皆さん、私の思っている以上に馬鹿だったりする?
『人違いだと気づくタイミングは沢山あっただろうに』と呆れ返り、お馬鹿な三人組を一瞥した。
「私は『虐殺の紅月』に所属する、回復師のラミエルです。とりあえず、手短に説明しますね?こちらも時間がないので……先程も申し上げた通り、私は貴方の言う『あや』さんではありません。そして────」
ゲーム内ディスプレイに表示された時刻を気にしつつ、私は誤解を解くためひたすら弁解した。
3
お気に入りに追加
378
あなたにおすすめの小説
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる