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第二章

第53話『目覚め』

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 なんか……ふわふわする。それに凄く暖かい。
誰かに抱き締められているような感じもして……心地いい。
ずっと、このままでいい……かも。

 漠然とそう考えたとき────フッと意識が浮上する。

「……あ、れ?ここ……」

 いつもより高い目線。見慣れない天井。薄暗い空間。土が湿った匂い。耳鳴りすらする静寂。
普段と違う環境を前に、私はパチパチと瞬きを繰り返した。

 私、確か……ミノタウロスの群れに押し込まれて……それで確か……頭を殴られて気絶したような……?

「あっ!ラーちゃん、目が覚めた~?体の調子はどう~?どこか痛いところはない~?一応、ポーションは飲ませたんだけど~」

 いつもより身近に聞こえる徳正さんの声に、私は内心首を傾げる。
が、まだ寝起きでぼんやりしているため特に深く考えることなく、声のした方へ視線を向けた。

 あれ……?徳正さんの顔、近くない……?それに背中と膝裏に圧迫感が……って、まさか!

 ここに来てようやく状況を理解した私は、カッと目を見開く。
寝起きでぼんやりしていた頭が一気に覚醒し、徳正さんを凝視した。

「なっ、何でお姫様抱っこなんですか!!」

「ん?おんぶの方が良かった~?」

「そ、そういう問題じゃなくて……!!何で私、徳正さんにお姫様抱っこされてるんですか!?」

「ん~……?ラーちゃんが気絶してたから?さすがに気絶したラーちゃんを放置する訳には、いかないでしょ~?」

 うっ!それは……そうだけど……。

 さすがに『放置してもらって、良かった!』とは言えず……私は口を噤んだ。
複雑な表情を浮かべる私を前に、徳正さんはセレンディバイトの瞳をスッと細める。

「とりあえず、体調は平気そう~?」

「あっ、はい!もう大丈夫です!むしろ、眠ったおかげで元気いっぱいです!」

「ははっ。それは良かった」

 徳正さんは満足そうに微笑みながら、私を地面に降ろしてくれた。
『疲れたら言ってね』と心配する彼に、私はコクリと頷き辺りを見回す。

 あれ?私と徳正さん以外、誰も居ない……?

 『やけに静かだったのは、このせいか』と納得しつつ、私はセレンディバイトの瞳を見つめた。

「あの、他の皆さんはどこに……?それに魔物モンスターの姿も見えませんが……」

「他の皆はもう少し奥に居るよ~。俺っち達が戦わなくて済むよう、魅惑の香を焚いて魔物モンスターを片っ端から潰してるよ~ん。ちなみにここは第二階層~」

 えっ!?魅惑の香を焚いているの!?わざわざ!?

 魅惑の香とは、魔物モンスターを引き寄せるお香のことである。
恐らく、今回使用した香りは一番効力の強い沈丁花じんちょうげだろう。
見渡す限り、魔物モンスターの姿は一つもないから。
『魅惑の香は結構値が張るのになぁ』と思いつつ、私は顔を上げる。

「あの、魅惑の香は一体誰が……?」

「あぁ、それはね────セトくん・・・・だよ~」

「えっ……?セトが!?」

 確かにセトは戦闘訓練と題して、ダンジョンで魅惑の香をよく焚いていたけど……私を突き飛ばした張本人が、こんな高価な代物を使うなんて思えない。
もしかして、ラルカさん達がセトを脅して使わせた……とか?いや、それは有り得ないだろう。
アイテムボックスの中身はプレイヤー本人にしか分からないし、まずラルカさん達が魅惑の香の存在を知っているかどうかも怪しかった。
じゃあ……セト自らの意思で、魅惑の香を使ったの?

 これでもかというほど動揺を露わにする私の前で、徳正さんはクスリと笑みを漏らした。

「まあ、ラーちゃんが戸惑う気持ちも分かるよ~?でも、セトくん結構反省してるみたい~。今回のことに関しては、やり過ぎたと思ってるんじゃない~?まあ、だからって許されることじゃないと思うけどね~」

「そう、ですか……」

 あの頑固で意地っ張りなセトが反省、ねぇ……。
まあ、今回は冗談抜きでかなり危なかったし、反省して貰わないと困るけど……。
これだけのことをしておいて、平然としていたらセトの人間性を疑うよ。

 『一応、人の心は持っていたんだね』と心の中で呟く中、徳正さんはどこか遠い目をする。

「いやぁ、でも大変だったよ~。ラーちゃんを救出した後、シムナが秒でキレちゃってさ~。セトくん死んじゃうところだったよ~。ラルカが止めに入らなかったら、確実に~。ははっ!」

「いや、『ははっ!』じゃないですよ!!全然笑えませんって!」

 ケラケラと陽気に笑う徳正さんを肘で小突き、私は深い溜め息を零した。

「とりあえず、誰も死ななくて良かったです。私達も先を急ぎましょう」

「は~い」

 先行して魔物モンスターを倒しまくっているシムナさん達に追いつくため、私は徳正さんを連れて歩き出す。

 あっ、そうだ。シムナさん達に私が起きたこと、伝えなくちゃ。

 『報連相は基本中の基本!』と自分に言い聞かせ、私はフレンドチャットを開いた。
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