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第二章

第49話『一人じゃない』

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 セ、ト……?何でセトがここに!?
だって、セトは『サムヒーロー』のメンバーでしょう……!?
何で『紅蓮の夜叉』の派遣メンバーの中に居るの……!?

 動揺が隠せずにいる私は、元パーティーメンバーであるセトの顔を凝視した。
オールバックにした黒っぽい紺髪に、時々青が混じる琥珀色の瞳。
顔立ちは全体的に彫りが深く、日に焼けた肌も相まって外国人のように見える。
『……やっぱり、セトだ』と再度確信し、私は表情を強ばらせた。
別に何かされた訳じゃないのに、手が震える。

「なん、で……こ、こに……」

「何でって、そんなの決まってるだろ?『サムヒーロー』を抜けて、『紅蓮の夜叉』に加入したからだ」

 冷静に受け答えするセトの姿に、私は戸惑いを覚えた。

 状況から考えて、『紅蓮の夜叉』のギルドメンバーであることは確かだと思うけど……何でセトはそんなに落ち着いていられるの?
あんな形で別れたのに……何も思わないの?

 セトの考えていることが理解出来ず、私は目を白黒させた。
恐怖と不安のあまり、今にも膝から崩れ落ちそうになっていると────誰かにそっと肩を抱き寄せられる。

「ラーちゃん、大丈夫?顔色真っ青だよ?」

「『サムヒーロー』ってことは、ラミエルが元いたパーティーの奴かー。どうするー?置いていこうかー?連れて行ったって、邪魔なだけだしー」

『いや、むしろここで切り捨てるべきじゃないか?』

「はいはい、二人はちょっと黙ってようか~?ラーちゃんが怖がっちゃうでしょ~?まずはラーちゃんを安心させてあげないと~」

「安心?よし!それなら、僕に任せて!────ラミエル、僕なら五秒であいつを殺せるよ!だから、何も心配いらないよ!」

『徳正が言いたいのは、そういう事じゃないと思うぞ……』

「えー?違うのー?」

 私の肩を抱き寄せる徳正さんと、その逆の方向に立つシムナさんとラルカさん。
いつの間にか、私の隣には頼もしいメンバーが並んでいた。
まるで、『一人じゃないよ』とでも言うように。
それがどうしようもなく嬉しくて……ビックリするほど安心した。

 そうだ……私は一人じゃない。徳正さんを始めとする、心強い仲間が居る。

 『だから、大丈夫』と自分に言い聞かせ、私はゆっくりと深呼吸した。
そして、何とか気持ちを落ち着かせると、再度セトに向き直る。
何故かムッとしている様子の彼を見上げ、私は口を開いた。

「リーダーからの命令だから、きちんと地上には連れていく。でも、それ以上関わりを持つつもりはない。もちろん、追放の件を許す気も……」

「……そうか」

 セトはつまらなさそうに返事すると、フイッと視線を逸らした。
言うまでもなく、感じが悪い。
それが助けてもらう者の態度か!と怒鳴りたくなるくらいには……。

 セトって、こんな感じだったっけ?もっと、温厚で優しいイメージを持っていたんだけど……この一ヶ月の間に、何かあったのかな?

 『それとも、もう仲間じゃないから?』と憶測を立てる私の横で、問題児三人組は思い切り不満を露わにする。

「いやいや、それだけ~?もっと言うことあるでしょ~?『ありがとう』とか、ないの~?」

「僕ねー、君は三回くらい死んだ方が良いと思うんだー。どう?一回、死んどく?」

『お礼も言えない奴を守る気はないぞ。というか、一回死ね』

 徳正さんの言い分はまだ良いとして……問題はPK好きのお二人である。
まず、シムナさん……その『一杯飲んでく?』みたいなノリで死刑宣告しないで!
次にラルカさん!貴方はストレート過ぎ!何なの、『一回死ね』って!!
あと、光の当たり具合のせいか着ぐるみの表情(?)が怖くなっているから!!
こんなの子供が見たら、泣いちゃうって!!

「と、とりあえず皆さん落ち着いてください!別に私は気にしてませんから!」

 いや、本当はめちゃくちゃ気にしているけど……でも、今ソレを言ったらシムナさんあたりが本当にセトを殺しそうで怖い。
私は別にセトに死んでほしい訳じゃない。
ただ、ほんの少しだけでもいいから後悔してくれていたら良いな、と……。
反省とか謝罪とか……そういうのは求めていなかった。
もちろん、してもらった方がスッキリするし、気分もいいけど。
でも、そういうのって強制するものじゃないから……今はこれで良い。

 心の底からそう思い、私は不平不満といった感情を割り切る。
そんな私を、徳正さん達はただじっと見つめていた。

「……あ、あの……?」

「ん?あぁ、いや何でもないよ~。それより、さっさと地上に上がろっか~。もうそろそろ、シパクトリが何匹か復活する頃だし~」

「あ、はい!」

 私はヘラリと笑って歩き出す徳正の後ろに続き、おもむろに後ろを振り返った。
そこにはセト率いる派遣メンバーの三人が居る。
また、最後尾にはシムナさんとラルカさんが仲良く並んでいた。

 いつの間に最後尾に……いや、その前にきちんと護衛任務を果たす気あったんだ。ちょっと驚いた。
自由奔放な二人のことだから、好き勝手動くかと思ったのに。

 『二人とも、成長したなぁ』としみじみ思い、私は頬を緩める。
この調子で、常識も身につけてくれることを願いながら。
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