『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
41 / 315
第二章

第40話『中層』

しおりを挟む
 それから、私達はゴブリンやオークなどの雑魚魔物モンスターを順調に狩り進め、上層を一通り回った。
『これなら、しばらく大丈夫だろう』と判断し、やっとの思いで第六階層────中層に足を踏み入れる。

 中層からは魔物モンスターの質も、レベルも段違いに上がる。
上層のように数は多くないが、知恵が身についているため狡賢い手を使われる可能性がある。
なので、絶対に油断は出来なかった。

 とりあえず、極力戦闘を避けつつ階段まで行くしかないな。
第十二階層で助けを待っている、『紅蓮の夜叉』のギルドメンバーのためにも。

 『あまり時間を掛けられない』と判断し、私は顔を上げた。

「皆さん、魔物モンスター討伐は後回しにして、階段を……えっ?ラルカさん?」

『どうした?何か問題があったか?』

 コテンと首を傾げて、クマの着ぐるみはこちらを振り返った。
その手には、大きな鎌が握られている。
そこまではいいのだが……ラルカさんは何故か────鎌で、床をギコギコと斬り進めていた。

 ええぇぇぇええ!?何で床を斬っているの!?危ないよ!?近くにミノタウロスの集団が居るのに!!

 驚愕の表情でクマの着ぐるみを見つめる私に、ラルカさんは更に首を傾げる。
あれでは、首がもげそうだ、

『中層からは魔物モンスターを狩る必要がないだろう?』

「そ、そうですね……中層からはフロアごとに、魔物モンスターの個体数が決まってますし……」

『ああ。だから、中層からはわざわざ部屋の奥まで行く必要がない。ここからはどれだけ早く、第十二階層に居るメンバーを保護出来るかが重要になる。そこで僕は思いついた。移動時間や戦闘回避を狙うなら────モンスターホールを作ればいい、と』

「!?」

 なるほどっ!!モンスターホール!!その手があったか!!

 『その手があったか!』と目を剥き、私は目を輝かせた。

「ラルカさん、流石です!!その意見で行きましょう!」

「じゃあ、俺っち達の役割は穴掘りするラルカを守ることだね~」

『別に守って貰わなくても、大丈夫だぞ?ミノタウロス程度なら、回し蹴りで充分倒せる』

「まあまあ、ラルカは黙って守られときなよー!僕達が全力で、姫プするからさー!はははっ!」

『……』

 複雑そうな心境を陥っているだろうラルカさんの姿に、シムナさんは目を細める。
そして、見せつけるように近くのミノタウロスを一匹倒した。それも回し蹴りで……。

 どっからどう見てもラルカさんを煽っているようにしか見えない。
前々から思ってたけど、シムナさんっていい趣味してるよね……。

「ラルカー、大丈夫でしたかー?」

 ら、ラルカ姫……!?シムナさん、それはさすがにラルカさんが怒るんじゃ……!?
これまでの言動から、恐らくラルカさんは男の人だと思うし……おふざけとはいえ、『姫』扱いされるのはヤバいんじゃないか!?

 チラリとラルカさんに目を向ければ、そこにはホワイトボードとペンを強く握り締めるシロクマ・・・・の姿が……って、え!?シロクマ!?
しかも、桜色のワンピースを着ているし!

 あれ?いつの間に着替えを……?ていうか、ラルカさん意外とノリノリ……?

 ────そんな考えが脳裏を過った瞬間、

『誰が姫じゃ我ぇぇぇえええ!?いてこますぞ、ゴラァァァァァァ!!』

 と、書かれたホワイトボードを突きつけられた。

 えええええ!?全然ノリノリじゃなかったぁぁぁああ!?
耳にピンクの可愛らしいリボンまで巻いているくせに、全然ノリノリじゃないんだけどぉぉぉおお!?
めちゃくちゃ口調が怖いしぃぃぃぃいい!!

 『なら、何故着替えた!?』と驚愕する私の前で、ラルカさんは怒りを表すように床を踏みつける。
その効果音は『ダムダム』と可愛らしいのに、床から伝わってくる振動が大き過ぎる……よって、全く可愛くなかった。

「あはははっ!そんなに怒らないでよ、ラルカ姫ー」

 着ぐるみ姿のラルカさんが必死に怒りをアピールしているにも拘わらず、シムナさんは余裕そうである。
ニコニコと機嫌良く笑い、『ラルカ姫』呼びを続行していた。

 ただ空気が読めないだけなのか、それともわざとなのか……シムナさんなら、どっちも有り得そうで怖い。

 『これは後で注意しておいた方がいいのか』と悩む中、シムナさんは軽い足取りでラルカさんの元に歩み寄る。
『えっ!?大丈夫なの、それ!』と驚愕する私を前に、徳正さんが苦笑を漏らした。

「心配しなくても、大丈夫だよ~。あの二人、結構仲良いから~」

「で、でも!ラルカさんが怒って……」

「ああ、それは場を和ますジョークみたいなものだよ~。もしも、ラルカが本気でキレてたら四の五の言わずに相手に斬りかかってるから~」

「き、斬りかかっ……!?」

「ラルカって基本何しても怒んないんだけど、逆に怒らせると超怖いんだよね~。一回気絶させて、強制的に頭を冷やさないと止まらないし~。もう話し合いとか、そんなレベルじゃなくなるんだよ~」

「そ、それは……怖いですね……」

「だよね~。まあ、でもラルカがラーちゃんにぶちギレることは多分ないと思うよ~。ラルカって、女の子には凄く甘いんだよね~。それにラーちゃんの性格上、相手の嫌がることはしないだろうし~」

 そうだといいんだけど……無自覚にやってしまうことは、結構あるんだよね。
そのせいで、何度かカインと口論になったし……。

 不安に駆られる私の前で、徳正さんはクスリと笑みを漏らし、何も言わずにラルカさんの方を指さした。
まるで、『見ていれば分かる』とでも言いたげな行動だ。
とりあえず指示通りラルカさんに視線を向けると、シムナさんに睨みを利かせているクマの着ぐるみが目に入る。

『誰が姫じゃ、ゴラァァァアア!!ワイに似合う訳ないやろ、ボケェェェエエエ!!』

「えー?そんなことないよー?すっごく似合ってる。凄く可愛いよ?ラルカ姫」

『な、な……そんな訳あるか!!からかっているんだろ!?』

「いやいや、まさかー!徳正じゃあるまいしー。僕は本気で可愛いと思ってるよ、ラルカ姫!」

『……あ、ありがとう……』

「ふふふっ!どういたしましてー!」

 照れ臭そうにポリポリと頬を掻くラルカさんと、楽しそうにニッコリ笑うシムナさん。
どういう訳か、彼らの周りだけピンクオーラ全開だった。

 え……ええっ!?そんなことって、ある!?こんな終わり方って、あり!?
ていうか、何でラルカさん満更でもなさそうなの!?
さっきまで方言を使って、めちゃくちゃ怒ってたのに……!

「さてさてー!茶番はここら辺にして、下に降りよっかー!ラルカ、もう終わるでしょー?」

『ああ。茶番中ずっと、斬り進めていたからな』

「二人とも迫真の演技だったね~。面白かったよ~」

 パチパチと呑気に手を叩く徳正さんに、元の着ぐるみへ戻ったラルカさんはグッと親指を立てる。
どうやら、さっきのあれはただの演技だったらしい。

 茶番だったなら、そう言ってよ!
徳正さんがラルカさんがキレたときの話とかするから、身構えちゃったじゃん!
色々考えていた自分が、馬鹿みたいだよ!

「いやぁ、それにしてもラーちゃん良い反応してくれたよね~」

「ねー!超面白かったー!」

『面白かったのは認めるが、本人の前でその話はやめてやれ。あと────穴が開いたぞ』

 ホワイトボードに書いた文章をこちらに向けるや否や、ドゴンッと床が落ちた。
綺麗に丸く切り抜かれた床は、砂埃を上げながら第七階層の床に直撃する。
その拍子に真ん丸に切り抜かれた瓦礫が、清々しいほど一瞬で粉砕された。

 わぁ……せっかく綺麗な丸だったのに……。

 ちょっぴり残念に思う私の隣で、明らかに暗いオーラを放つ人……いや、着ぐるみが。

『せっかく綺麗な丸になったのに……無念』

 ガクッと肩を落とし、ラルカさんは鎌を抱き枕みたいに抱き締めた。
すっかり意気消沈している様子の彼を前に、私は出来たてホカホカのモンスターホールを覗き込む。

 とりあえず、周りに敵は居なさそう。
じゃあ、今のうちに────

「────下に降りましょうか」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...