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第二章
第39話『ウエストダンジョン』
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「とりあえず、先を急ぎましょう」
そう言って、私はウエストダンジョンの出入口を見上げた。
洞窟のような見た目のソレは薄暗く、ポタポタと水の落ちる音も聞こえる。
鼻腔を擽る土の匂いに目を細め、私は腰に手を当てた。
ダンジョンなんて、久しぶりだなぁ……。
『サムヒーロー』に居た時はカインのワガママで一緒に来ていたけど、最近はずっと徳正さんとPKしてたから。
「魔物爆発が起きた後だから、上層は魔物で溢れ返ってると思ってたけど、意外と少ないね~」
『まあ、通常時より多いのは変わらんがな』
「狩る必要はありそうですね」
「はぁー!面倒くさーい!」
シムナさんは洞窟の中を覗き込むなり、クッと眉間に皺を寄せる。
この表情だけ見れば、彼が“狂笑の悪魔”と思う人は居ないだろう。
シムナさんが興味あるのはPKだけだもんね。
コンピューター……それも雑魚魔物相手にやる気になる訳ない。
さっきみたいに魔物が大量発生すれば、話は別だけど……ここに居るのはせいぜい、三十体程度かな?
これなら、直ぐに倒せそう。
「とりあえず、上層魔物の数を減らしながら進みましょうか」
「りょーかーい。んじゃ、俺っちが先頭行くね~。シムナとラルカは、ラーちゃんの後ろをお願い~」
『承知した』
「言われなくても、分かってるよー」
攻撃特化の彼らは、私を前後に挟んで歩き出した。
見慣れた黒い背中を前に、私も歩を進める。
なんか、私……姫プレイされてるみたいだ。
ちょっと照臭いけど、素直に嬉しい。
『サムヒーロー』では私の傍に大盾使いのセトが居るだけで、いつも最後尾を歩かされていたから……。
こうやって、パーティー全体で守ってもらうことなんてなかった。
別にそれを不満に思ったことはないけど、少しだけ寂しかったのを覚えている。
だって、最後尾だとよく見えるんだもの……笑いながらお喋りしている皆の姿が。
クエストが失敗続きでも、カインが暴君でも仲間は仲間。帰りはさておき、行きは皆イキイキしていた。
だから、話の輪に入れないことが少しだけ……本当に少しだけ寂しかったんだ。
────って、落ち込んでいる場合じゃない!!
今は目の前のことに集中しないと!!まだ上層とは言え、油断は出来ない!
ペチンッ!と両頬を叩き、私は気合いを入れ直した。
すると、徳正さんが弾かれたようにこちらを振り返る。
「……ラーちゃん今すごい音鳴ったけど、大丈夫?」
「はい!大丈夫です!」
「そ、そう~?」
「はい!気合いを入れ直していただけなので!」
「き、気合い~?ラーちゃんって、そんな熱血系の子だったっけ~?」
「熱血系かどうかは知りませんけど、私はいつもこんな感じですよ?」
キョトンとした表現を浮かべる私に対し、徳正さんは訝しむような視線を向ける。
その表情はチベットスナギツネによく似ていた。
「そんなことよりさー、早く魔物を倒しちゃおうよー。僕、さっさと休みたいんだけどー」
「あっ、そうですね。では、早速第一階層の魔物を片付けてしまいましょう。全部は倒さなくて、大丈夫ですよ。どうせ、直ぐに再生してしまいますから」
「はーい」
『承知した』
「りょーかーい!」
私の指示にコクリと頷くと、ラルカさんとシムナさんは散開した。
徳正さんは私の護衛のため、ここに残る。
気遣ってくれるのは嬉しいけど、徳正さんも自由に動いてもらって構わないのに。
本当に過保護だな。
私は布で覆われた徳正さんの横顔を一瞥し、鞘から短剣を引き抜く。
薄暗い洞窟内で、それはキラリと光った。
ラルカさんとシムナさんがもうほとんど倒しちゃってるし、私の出番はないかな?
なら、わざわざ短剣を構える必要なかったかも。
圧倒的力で敵を捩じ伏せていく二人の姿に、私は苦笑を漏らす。
「本当に凄まじい強さですね」
「だね~。ま、俺っちも負けてないけど~」
「はいはい。徳正さんの強さはある程度、分かっているつもりですよ」
『凄い凄い』と囃し立て、私は小さく肩を竦める。
────と、ここでシムナさんが声を上げた。
「あーーーーー!!疲れたぁ!!」
『シムナの場合、『疲れた』のではなく『飽きた』んだろう?』
「あっ、バレたー?」
『バレるも何も、最初から隠す気などないだろ』
「ははっ!ラルカは相変わらず、鋭いね」
『シムナが分かりやすいだけだ』
意外と仲のいい二人は軽口を叩きながら、こっちに戻ってきた。
どうやら、粗方狩り終えたらしい。
まだ十分も経ってないのに……早すぎる。それに仕事も正確だ。
見渡す限り、もう魔物は居ない。まあ、直ぐに復活するだろうけど……でも、彼らは想像以上の成果を上げてくれた。
『二十体くらい狩ってくれれば、充分だったのに』と思いつつ、私は短剣を鞘に収める。
ちらほら復活し始めた魔物を一瞥し、彼らに目を向けた。
「お二人共お疲れ様です。次の階層に行きましょう」
そう言って、私はウエストダンジョンの出入口を見上げた。
洞窟のような見た目のソレは薄暗く、ポタポタと水の落ちる音も聞こえる。
鼻腔を擽る土の匂いに目を細め、私は腰に手を当てた。
ダンジョンなんて、久しぶりだなぁ……。
『サムヒーロー』に居た時はカインのワガママで一緒に来ていたけど、最近はずっと徳正さんとPKしてたから。
「魔物爆発が起きた後だから、上層は魔物で溢れ返ってると思ってたけど、意外と少ないね~」
『まあ、通常時より多いのは変わらんがな』
「狩る必要はありそうですね」
「はぁー!面倒くさーい!」
シムナさんは洞窟の中を覗き込むなり、クッと眉間に皺を寄せる。
この表情だけ見れば、彼が“狂笑の悪魔”と思う人は居ないだろう。
シムナさんが興味あるのはPKだけだもんね。
コンピューター……それも雑魚魔物相手にやる気になる訳ない。
さっきみたいに魔物が大量発生すれば、話は別だけど……ここに居るのはせいぜい、三十体程度かな?
これなら、直ぐに倒せそう。
「とりあえず、上層魔物の数を減らしながら進みましょうか」
「りょーかーい。んじゃ、俺っちが先頭行くね~。シムナとラルカは、ラーちゃんの後ろをお願い~」
『承知した』
「言われなくても、分かってるよー」
攻撃特化の彼らは、私を前後に挟んで歩き出した。
見慣れた黒い背中を前に、私も歩を進める。
なんか、私……姫プレイされてるみたいだ。
ちょっと照臭いけど、素直に嬉しい。
『サムヒーロー』では私の傍に大盾使いのセトが居るだけで、いつも最後尾を歩かされていたから……。
こうやって、パーティー全体で守ってもらうことなんてなかった。
別にそれを不満に思ったことはないけど、少しだけ寂しかったのを覚えている。
だって、最後尾だとよく見えるんだもの……笑いながらお喋りしている皆の姿が。
クエストが失敗続きでも、カインが暴君でも仲間は仲間。帰りはさておき、行きは皆イキイキしていた。
だから、話の輪に入れないことが少しだけ……本当に少しだけ寂しかったんだ。
────って、落ち込んでいる場合じゃない!!
今は目の前のことに集中しないと!!まだ上層とは言え、油断は出来ない!
ペチンッ!と両頬を叩き、私は気合いを入れ直した。
すると、徳正さんが弾かれたようにこちらを振り返る。
「……ラーちゃん今すごい音鳴ったけど、大丈夫?」
「はい!大丈夫です!」
「そ、そう~?」
「はい!気合いを入れ直していただけなので!」
「き、気合い~?ラーちゃんって、そんな熱血系の子だったっけ~?」
「熱血系かどうかは知りませんけど、私はいつもこんな感じですよ?」
キョトンとした表現を浮かべる私に対し、徳正さんは訝しむような視線を向ける。
その表情はチベットスナギツネによく似ていた。
「そんなことよりさー、早く魔物を倒しちゃおうよー。僕、さっさと休みたいんだけどー」
「あっ、そうですね。では、早速第一階層の魔物を片付けてしまいましょう。全部は倒さなくて、大丈夫ですよ。どうせ、直ぐに再生してしまいますから」
「はーい」
『承知した』
「りょーかーい!」
私の指示にコクリと頷くと、ラルカさんとシムナさんは散開した。
徳正さんは私の護衛のため、ここに残る。
気遣ってくれるのは嬉しいけど、徳正さんも自由に動いてもらって構わないのに。
本当に過保護だな。
私は布で覆われた徳正さんの横顔を一瞥し、鞘から短剣を引き抜く。
薄暗い洞窟内で、それはキラリと光った。
ラルカさんとシムナさんがもうほとんど倒しちゃってるし、私の出番はないかな?
なら、わざわざ短剣を構える必要なかったかも。
圧倒的力で敵を捩じ伏せていく二人の姿に、私は苦笑を漏らす。
「本当に凄まじい強さですね」
「だね~。ま、俺っちも負けてないけど~」
「はいはい。徳正さんの強さはある程度、分かっているつもりですよ」
『凄い凄い』と囃し立て、私は小さく肩を竦める。
────と、ここでシムナさんが声を上げた。
「あーーーーー!!疲れたぁ!!」
『シムナの場合、『疲れた』のではなく『飽きた』んだろう?』
「あっ、バレたー?」
『バレるも何も、最初から隠す気などないだろ』
「ははっ!ラルカは相変わらず、鋭いね」
『シムナが分かりやすいだけだ』
意外と仲のいい二人は軽口を叩きながら、こっちに戻ってきた。
どうやら、粗方狩り終えたらしい。
まだ十分も経ってないのに……早すぎる。それに仕事も正確だ。
見渡す限り、もう魔物は居ない。まあ、直ぐに復活するだろうけど……でも、彼らは想像以上の成果を上げてくれた。
『二十体くらい狩ってくれれば、充分だったのに』と思いつつ、私は短剣を鞘に収める。
ちらほら復活し始めた魔物を一瞥し、彼らに目を向けた。
「お二人共お疲れ様です。次の階層に行きましょう」
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