『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
33 / 315
第一章

第32話『変人』

しおりを挟む
 スネークと似た香りを漂わせ、足にどんどん力を加えていくシムナさんに、私は焦りを覚えた。

 駄目だ!どう頑張っても間に合わない……!

 スローモーションのように見える光景を前に、私は大きく息を吸い込む。

「やめてぇぇえええええ!!」

 今のゲーム環境でPKなんかしたら、それはっ……それは────ただの人殺しと同じになる!
私は目の前で誰かが死ぬのなんて嫌だし、パーティーメンバーであるシムナさんに人殺しなんてさせたくない!
だから、お願い!思い留まって……!

 そう願った瞬間、私の横を風が突っ切った。
かと思えば、黒い背中が目に入る。

「────はいは~い、そこまで~。PKは禁止って言われてるでしょ~?」

『そんなにお頭を怒らせたいのか?』

 シムナさんの脇に手を挟み、そのまま持ち上げる徳正さんとシムナさんの太腿を掴むラルカさん。
間一髪のところでPKを防いだらしく、眼鏡の男性は無事だった。
まあ、恐怖のあまり泡を吹いて気絶しているが……。

 い、今の一瞬でシムナさんの動きを止めたって、言うの!?嘘でしょ!?

「くんくん……この匂いは徳正とラルカかー!来てたんだ?ざーんねん!せっかく、PKするチャンスだったのにー!」

「匂いで相手を判断って……シムナは犬なの~?」

「あははは!僕が犬って……似合わない、似合わない!どっちかって言うと、僕は猫でしょ!」

『まあ、確かに……シムナは気まぐれで気分屋だもんな』

 無理やりPKを止められて怒っているかと思えば、シムナさんは意外と落ち着いていた。
普通に会話を交わしている程度には。
まあ、ラルカさんは筆談だから目隠しされているシムナさんと意思疎通は取れていないみたいだが……。

 とりあえず、みんな無事で良かった……。

 ホッと胸を撫で下ろし、私は御三方の元へ駆け寄った。

「とりあえず、目隠しと手錠外してくれない?これじゃあ、僕なんにも見えないよー」

「はいはい、分かってるって~」

『すぐに外してやる』

 徳正さんとラルカさんはシムナさんの要望に頷くと、それぞれ目隠しと手錠に手を掛けた。

 目隠しはさておき、手錠はどうするんだろう?
手錠の鍵って、持っているのかな?

 私はソワソワした様子で、目隠しと手錠の解放を見守る。
本当はお手伝いしたいところだが、初対面の人間にベタベタ触られるのは嫌かと思い、踏み止まっていた。
『目隠しされた状態だったら、警戒するだろうし』と思案する中、目隠しは取れる。
続いて、手錠が外された……いや、『壊された』と言った方がいいだろうか?

 ち、力技で行った……。

「ふぅ……やーっと自由になれたー!」

 シムナさんは『んー!』と大きく伸びをして、はなだ色の短髪をサラリと揺らした。
はすの花にも似たパパラチアサファイアを細め、子供特有のあどけない顔立ちに笑みを浮かべる。

 凄く綺麗な子だな。色白で線が細いし。それに中性的。
正直、『格好いい』よりも『綺麗』という言葉が似合いそうな容姿だ。

 儚げな美少年といったイメージを膨らませる私の前で、シムナさんはこちらを向いた。
と同時に、私の存在を認知する。

「あれっ?この子、だーれ?二人のお友達?それとも────敵?」

 ゾッとするような冷たい声色で問いかけてくるシムナさんは、ゆるりと口角を上げた。
表情は一応笑顔だが、目の奥が全くと言っていいほど笑っていない。

 な、に……?このプレッシャー……。

 重力が普段の何倍にもなってのし掛かってくるような感覚を覚え、私は戦慄した。
今はただただこの少年が怖い。

「あ、ぇ……私は……」

「何?ハッキリ喋ってほしいんだけど?僕、いま虫の居所が悪いんだよね。だから、早くしないと────殺すよ?」

 ガシッと素早く私の首を掴んだシムナさんは、殺気を放つ。
そこら辺のプレイヤーとは比べ物にもならないほどの威圧感に、私はすっかり気圧されてしまった。

 怖い……怖いっ!

 恐怖に支配され一言も話せないでいる私に、シムナさんは眉を顰める。
が、直ぐに笑顔になった。

「ははっ!もう君が敵でも味方でもどうでもいいや。殺せば全部散り散りになって、消えるんだから……」

「────はい、そこまで~。ラーちゃんは俺っち達の味方だよーん」

 そう言って、シムナさんの手首を掴んだ徳正さんはニッコリ笑う。
表情が笑顔なのに対し、シムナさんの腕を掴む力はかなり強かった。
ミシミシと骨の軋む音さえ、する。

 徳正さ、ん……。

 ホッとして肩の力を抜く私の前で、徳正さんは無理やりシムナさんの手を引き剥がした。
おかげで、息苦しさは少し解消される。
少し赤くなった首元に触れ、安堵の息を吐いていると、徳正さんが私の隣に並んだ。
極自然に……当たり前みたいに。

「ほら、ラーちゃん自己紹介~」

「えっ……?あ、はい!先程は失礼しました!『虐殺の紅月』No.7のラミエルです!よろしくお願い致します!」

 徳正さんに促されるまま自己紹介を口にした私は、ペコリと頭を下げた。
その途端────シムナさんはギョッとしたように、たじろぐ。

「え、え~!?君、パーティーメンバーだったの!?ごめんねー!知らなくてさー!」

「あ、いえ!こちらこそ直ぐに名乗ることが出来ず、申し訳ありませんでした」

「いやいや、謝らないで?悪いのは、僕なんだしさ。それより、僕の方こそ自己紹介がまだだったね?僕はシムナ。頭のネジが五本くらい外れてるけど、気にしないでね!んじゃ、よろしくー!」

「よろしくお願いします」

 パーティーメンバーには好意的に接しているのか、シムナさんからはもう殺気を感じない。
また、こちらを威嚇していた瞳もすっかり柔らかいものに変わっていた。

「あっ!ねぇ、徳正ー!さっきのこと……リーダーボスに言う?」

「もっちろん~。シムナがラーちゃんのこと襲ったー!って今、報告したとこ~」

「うわっ!マジで?」

「マジマジ~。主君、めっちゃ怒ってるよ~?これは次会ったら、半殺し確定だね~」

「うぇ……最悪ー!」

 徳正さんと他愛のない会話を交わすシムナさんは、本当に普通の子供のようで……さっき私を殺そうとした人とは思えない。
ぶっちゃけ、ただの子供と大差なかった。

 本当に不思議な人だ。いや、変人とでも言うべきか……。

「ま、とりあえず……ここを出よっか~?長居は無用ってね~」

 シムナさんの奪還も無事済んだため、徳正さんは撤収を呼び掛けた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...