『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第一章

第27話『捜索』

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 そして、私達は周囲によく気を配りながら森を進む。これだけ広ければ、きっと警備役の巡回もあるだろうから。
いつどこで敵と遭遇するか、分からない。
『なんか、脱出系のホラーゲームみたいだな』と思いつつ、私は見慣れない黒い背中を追い掛けた。
────と、ここで右腕にヘビのタトゥーが入ったプレイヤーを発見する。

「ラルカさん!右の茂みに、『サーペント』のメンバーと思しきプレイヤーが!」

『了解』

 コクリと頷くラルカさんはホワイトボードを私に託し、大鎌に手を掛けた。
かと思えば、しっかりと地面を踏みしめ────蹴り上げる。
ヒュンッと風を切る音が耳を掠め、ラルカさんは敵の背後に回っていた。

 着ぐるみ装着で、あれだけのスピードを出せるのか。まさに超人じゃん。

「ひっ……!」

 ゲーム内ディスプレイを弄って仲間に連絡を取っていたのか、空中をタップしていた男の手が止まる。
怯えたような表情でラルカさんを見つめ、カタカタと震えていた。

「た、たすけ……」

 私達の正体を把握しているのか、その男は涙ながらに懇願した。
が、ラルカさんは容赦なく鎌を振り下ろす。
その瞬間、ゴンッと鈍い音が鳴った。

 どうやら、鎌の棒部分で相手を殴って気絶させたらしい。
一瞬PKするんじゃないかとヒヤヒヤしたけど、その心配はいらなかったみたい。

 ホッと胸を撫で下ろす私の前で、ラルカさんは大鎌を背負い直す。
と同時に、気絶した敵の襟を掴んでこちらへ引きずってきた。
『それ、首絞まってない?』と苦笑いする私を他所に、ラルカさんは敵を適当に放り投げる。
そして、私に預けていたホワイトボードを受け取った。

『敵は一人だけだった。とりあえず気絶させたが、これからどうする?』

「そうですね……そこら辺に放置して、アジト捜索を続行するのがベストでしょうけど……せっかくですし、このプレイヤーにアジトの場所を吐かせるのもアリですね」

『それは妙案だな。是非そうしよう。だが、どうやって起こす?殴るか?』

 いや、何で殴るの……。
徳正さんもそうだけど、『虐殺の紅月』のメンバーは直ぐに暴力行為へ走るよね……。

「殴る必要はありません。少し体を揺すれば、起きますよ」

 今回は瀕死という訳でもないため、私はごく一般的な方法を提示した。
すると、ラルカさんは案外素直に応じる。
さっきまで肩をぐるぐる回して、殴る気満々だったのに。
『ガッカリする素振りすら見せないなんて……!』と違う意味で衝撃を受ける中、ラルカさんは敵の横に膝をついた。
かと思えば、ガシッと相手の両肩を掴む。

 あれ?なんだろう……?凄く嫌な予感が……。

「あの、ラルカさ……あっ」

 止めに入る前に、ラルカさんは敵の体を揺さぶり始めた────それはもう全力で。
ブォンブォンと風を切る音が鳴り響く中、ぐっすり眠っていた敵は目を覚ました。

「え?は?クマ?あれ、俺……」

 寝起きのせいで上手く頭が働かないのか、気絶する前の記憶を思い出せないようだ。
さっきまで、ラルカさんを見るなり凄くビビってたのに……。
『あの反応は何だったんだ?』と思案していると、敵は急に口元を押さえる。

「うぷっ……気持ちわりぃ……」

 未だにずっと揺さぶられているせいか、敵は吐き気を覚えたようだ。
早くもえずき出した彼を前に、私は慌てて言葉を紡ぐ。

「ラルカさん、もう揺さぶらなくて良いですよ」

『そうか?意識が完全に覚醒するまで、揺さぶった方が良いんじゃないか?』

「それ、逆効果ですよ。揺さぶり過ぎて、敵さん酔ってますし」

『それはすまない』

 狂ったように敵の体を揺さぶり続けていたラルカさんは、ここでやっと動きを止めた。
敵の肩からパッと手を離し、身を起こす。
と同時に、敵は地面に転がった。
『チーン』と言う効果音が聞こえて来そうなほどの憔悴っぷりである。

 仕方ないな……。

「《キュア》」

 状態異常を無効化する回復魔法をかけると、敵の体は柔らかい光に包み込こまれた。
すると、見る見るうちに顔色は良くなり、えずく素振りもなくなる。
『あれ?』と困惑する彼を前に、ラルカさんは不思議そうに首を傾げた。

『敵なのに、助けるのか?』

「えっ?あぁ、『助ける』とはちょっと違いますね」

『じゃあ、なんだ?何で回復魔法をかけた?』

「何でって、そんなの決まってるじゃないですか……このままじゃ、敵から話を聞き出せないからですよ」

『体調が治った敵に襲われるとは、思わないのか?恩を仇で返す奴だって、居る筈だぞ』

 危機感が足りないことを指摘するラルカさんに、私は思わず笑みを漏らす。

「ふふっ。恩なんて大袈裟ですね。でも、そうですね……私がこんなに無防備でお人好しなのは、きっと────仲間が守ってくれるって、信じているからだと思います」

 そう口にした途端、私達の周囲に変な風が巻き起こった。
私はこの風をよく知っている。

 ────徳正さん、帰ってきたんだ。

「ねぇ────君さ、俺っちの大切なラーちゃんに何しようとしてんの?殺されたいの?」

「ひっ……!!」

 風が止むのと同時に、敵を背後から押さえ込んだ徳正さん。
そして、鎌の内側に私を入れ、敵から守ってくれていたラルカさん。
『どうやら、私を背後から襲おうとしたみたいね』と分析しつつ、私は頬を緩める。
だって、私の言った通りになったから。
『ほら、やっぱり守ってくれた』と考える中、敵はサァーッと青ざめた。
ナイフを持つ手は完全に封じられた上、妖刀マサムネを喉元に宛てがわれた状況……まさに絶体絶命のピンチだ。

「ご、ごめんなさ……」

「何~?謝れば良い話だと思ってるの~?ハハッ!────甘えんなよ、クソガキ」

 普段からは考えられない低い声で威嚇し、徳正さんは怒りを露わにする。
ピリピリとした空気を発する彼の前で、私は慌てて口を開いた。

「徳正さん、守って頂きありがとうございます。でも、敵を痛めつけるのはまだ待ってください。アジトの場所をまだ聞き出せてな……」

「アジトの場所ならもう分かってるから、大丈夫だよ~ん。下調べもバッチリだし~。分かりづらい場所にアジトがあったから、ラーちゃん達を迎えに来たんだけど……そこで、こいつがラーちゃんに襲い掛かろうとしてたからさ~」

「下調べもしてたんですね……そのついでに、No.6さんを救出してくれて構いませんでしたのに」

「いや、俺っちも出来ればそうしたかったけど、色々事情があってね……それより、こいつどうしよっか~」

 ゾッとするほど冷たい目で敵を見下ろし、徳正さんは殺気を放つ。
そんな彼を前に、私は少し考え込んだ。

「いつもみたいに殺して、神殿送り……は無理なので、気絶させてしまいましょう。ついでに神経毒も刺して、麻痺状態にすれば当分の間何も出来ない筈です」

「りょーかーい」

「へぁっ!?ま、待っ……!!」

 私達の物騒な会話に危機感を覚えた敵は、青ざめた表情で『待った』をかける。
だが、しかし……

「ラーちゃんを襲おうとした時点で、君に決定権はないよ~。んじゃ、おやすみー!良い夢を!」

 徳正さんは敵の言い分を跳ね除け、腹に強烈な一発を決めた。
グニュッと彼の拳が、敵の腹にめり込む。
『うわぁ……痛そう』と素で思う私を前に、敵は一瞬で気絶した。
あの威力だと、かなりのダメージを負っていることだろう。まあ、それでも手加減はしたみたいだが。
もし、本気で殴っていたら、気絶だけじゃ済まなかった。
『死なないギリギリのラインを攻めたんだろうなぁ』と思いつつ、私はアイテムボックスから毒針を取り出す。

 アラクネさんに頼んで、麻酔効果なしの神経毒に変えてもらったため、毒の効力が以前より強くなっている。
曰く、常人では指一本も動かせないらしい。で、持続時間は最大六時間。

 『それだけあれば充分』と考えながら、私は敵の首元に毒針を突き刺した。
と同時に、顔を上げる。

「さて────とりあえず、徳正さんを先頭にしてアジトへ向かいましょうか」
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