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第一章

第18話『報告』

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 えっ……!?あの大型ギルド・・・・・がもう動きを見せたって、言うの!?

 ────紅蓮の夜叉。
攻撃特化のギルドで、戦闘に長けたプレイヤーが多く在籍している。
中でも大注目なのは、やっぱりギルドマスターのヘスティアさん。
彼女は炎帝の二つ名を持つ魔法剣士で、FRO内最強と密かに囁かれているプレイヤーだ。
残念ながら魔法適性は炎しかないらしいが、FRO内最大の火力を持っていると言っても過言ではない。
そんな彼女がギルドマスターを務める『紅蓮の夜叉』は、高い知名度と人気を誇っていた。

 ギルドメンバーが軽く千を超える規模だから、数日は身動きを取れないと思ったのに。
パニック状態の人達をまとめ上げるのは、骨が折れるから。

「まず、『紅蓮の夜叉』の現状を話していこうか~。『紅蓮の夜叉』は幸か不幸か、ギルドマスターと幹部メンバーが全員FRO内に居る。そのおかげもあってか、他のギルドより混乱は小さかった。ヘスティアお姉様炎帝の鶴の一声もあったみたいで、今は凄く安定しているみたい」

 『凄いよね~』と手放しで褒め称える徳正さんに、私は思わず首を縦に振る。
ヘスティアさんには人を惹き付けるカリスマ性と統率力があるのかもしれない、と感心しながら。

「で、『紅蓮の夜叉』の今後の動きについてだけど────多分、ゲーム攻略に向けて大きく動き出すと思うよ~。今、物資調達とギルドメンバーの募集を始めてるみたいだから~。どのクエストの攻略に向けて動き出すのかは分かっていないけど、この大掛かりな準備を見る限り、ダンジョン攻略か魔王討伐クエストあたりかな~?ま、とりあえず『紅蓮の夜叉』の情報については以上だよ~」

 もうゲーム攻略に向けて動き出すなんて……凄いな。

 死んだら終わりのデスゲームの中でも、ただ真っ直ぐ前だけ見据えて動くヘスティアさんは、FROの希望だ。
きっと、彼女の考えに触発されて動き出すギルドやプレイヤーも近いうちに現れる筈だ。
先導する誰かが居るだけで、周囲は『俺も!』『私も!』と沸き立つものだから。

 その勢いに乗って、ゲームクリア……なんてなってくれたら、良いんだけどなぁ……。
現実そう甘くないと分かっていても、願わずにはいられない……。

 他力本願と化す私の前で、徳正さんは『よっ!』と体を起こした。
かと思えば、座椅子の背もたれに寄り掛かる。

「とりあえず、『紅蓮の夜叉』の話は置いといて……次の話題に行こっか~!次はこれ!帰還玉のネタだよ~!」

 そう言って、徳正さんはアイテムボックスから帰還玉『中』を取り出した。
人差し指と親指でソレを挟むと、クルクルと捏ねるようにして回す。

 ん?あれって、確か昨日PKした子達から貰った……いや、奪ったアイテムだよね?

「街に居るプレイヤーの話だと、帰還玉の最大移動距離は100mくらいみたいだね~」

「そ、そそそそそそ、そういえば!No.3さんの転移魔法も100mが限界で、でででででで、でしたよね!」

「なるほど……じゃあ、転移系の魔法やアイテムの最大移動距離は共通して100m前後ってことですね?」

「多分、そう~。プレイヤーの中には、帰還玉を連続で何個も使って逃げてきた奴も居るらしいし~」

 帰還玉を連続で何個も、って……死ぬよりマシだと分かっていても、どうしても勿体なく感じてしまう。
帰還玉って、地味に高いから……。

「あっ、そうだ。今、転移や移動系のアイテムは品薄になっているから、買うなら早めにね~。店によっては、値上げが始まっているし~」

「えっ!?それ、本当ですか!?」

「ほんとほんと~。だから、公式……じゃなくて、大地人がやってる店はほとんどが完売しているよ~」

 公式大地人の運営している店は、それぞれ一日の販売個数が決まっている。
これはゲームバランスを崩さないための措置だ。
公式ばかりに金が入ると、生産系職業のプレイヤーは儲からないから。
まあ、制限をつけたと言っても直ぐに完売するほどの数量じゃないけど。

 なんか、オイルショックでトイレットペーパーが品薄になった時みたいだな。

 などと思いつつ、私はゲーム内ディスプレイを呼び起こす。
そして、アイテム一覧をサッと確認した。

 とりあえず、移動系のアイテムは複数所持しているからいいとして……転移系のアイテムをどう手に入れるか。
今更買いに行ったところで店に置いてあるか分からないし、何より値段を見るのが怖い。
目ん玉が飛び出るほどの値段が、書いてあったらどうしよう……。

 連続使用出来るほど帰還玉を持っていない私は、頭を悩ませる。
────と、ここでガチャン!と突然大きな音が鳴った。

 えっ!?何!?何事!?

 反射的に音のした方へ視線を向けると、そこには目を疑うような光景が……。

「え、えっ……?な、何で帰還玉がこんなに……?」

 両腕に収まりきらないほど帰還玉を持つアラクネさんに驚き、私は瞬きを繰り返す。
一先ず床に落ちた帰還玉を拾い集めようと身を屈める中、彼女は口を開いた。

「あ、あの……えっと……き、ききききき、帰還玉はたくさんあるので、その……材料さえあれば、まだまだ作れますし……だから、その……よ、よよよよよよよ、良ければ貰ってください!!」

 支離滅裂になりながらも必死に言葉を紡ぐアラクネさんに、私は一瞬ポカンとする。
『アラクネさんって、帰還玉も作れるのか』と思案しながら、拾い集めた帰還玉を持ち上げた。
と同時に、ニッコリ微笑む。

「ありがとうございます。では、有り難く頂戴しますね?」

「は、はいっ!!是非!!」

 ブンブンと首を縦に振り、アラクネさんはブルーサファイアの瞳を細めた。

 得をしているのは私の方なのに、アラクネさんの方が嬉しそうだなんて……なんだか不思議。

「あー!あーちゃんばっかり、ラーちゃんとイチャイチャして狡~い。俺っちもまーぜて♪」

「だ、ダメですぅぅううううう!!」

「女子会に混ざろうとしないでください」

「えー!?あーちゃんもラーちゃんも酷い~!俺っち、今日頑張ったじゃん~。ご褒美ちょうだいよ~!」

 再び座椅子の上にゴロンと横になった徳正さんは、バタバタと手足を不規則に動かす。
まるで、『やだやだ』と駄々をこねる子供のように。

 本当……この人は子供なんだか大人なんだか、分からないな。

 ギャーギャーと騒ぐ徳正さんにチョップを食らわせ、私は一つ息を吐いた。
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