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第一章

第17話『頼ってください』

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 その後、徳正さんの手によってボロボロにされた三人を路地裏に捨て、私達は旅館へ戻っていた。

 相変わらず、徳正さんは怒ると何するか分からないな……本気で男達をバラバラに解体しようとしたのは何とか止めたけど、あれではしばらく動けないだろう。
結構本気で殴られてたから……。
ダメージ無効区域じゃなかったら、確実に死んでいたね。

「いやぁ、久々に思い切り暴れたよ~!スッキリした~!」

 居間で座椅子を繋げて寝転がる徳正さんは、キラッキラのいい笑顔でそう言った。

 そりゃあ、あれだけタコ殴りにすればスッキリするでしょうね。

「さてさて~、集めた情報をお披露目する前に……ラーちゃん」

 スッと顔から笑みを消し去り、徳正さんは真剣な表情でこちらを見つめる。
何となくだが……彼の言いたいことは、分かった。

 アラクネさんを巻き込んでしまった以上、私が今置かれている立場や状況をきちんと説明しなければならない。
何より、彼女にはソレを聞く権利がある。

 私はセレンディバイトの瞳をしっかりと見つめ返し、一つ頷いた。

「アラクネさん……実はさっきのことで、お話があります」

「お話、ですか……?」

「はい。聞いていただけますか?」

「はい!もちろんです!」

 不安がる私を元気づけるように、アラクネさんは大きく頷いた。
体ごとこちらに向ける彼女の前で、私は一度深呼吸する。

「実は私……以前までは『サムヒーロー』というパーティーに所属していたんです。でも、一ヶ月前そこを追い出されて……『虐殺の紅月』に加入しました」

「『サムヒーロー』って、あの勇者が率いているパーティーですよね……?ま、魔王討伐が目標の……さ、さささささ、最近は魔王幹部に敗れて神殿送りにされることが多かったらしいですが……」

「はい。その『サムヒーロー』が私の元所属していたパーティーで……私を取り戻そうと躍起になっているパーティーでもあるんです」

「そ、そそそそそそ、そういえばさっきの男達が『サムヒーロー』のカインがどうとか言っていましたね」

「はい。どうやら、カインは私を取り戻すために手段を選ばくなったみたいで……FRO専用掲示板に、私の奪還及び保護を目的とした依頼を書き込んでいるみたいなんです。なので、彼らもソレを見て動いたのかと」

 確信を持った声色でそう言い、私は一つ息を吐く。
ここから先のことを話すのは、どうも気が重くて……。

「実は……『サムヒーロー』関連で襲われたのは、今回が初めてじゃないんです。アラクネさんを迎えに行く途中にも、一回襲われています。なので、その……また襲われる可能性は非常に高いです」

 そこで言葉を切ると、私は唇を引き結んだ。
『そのときは力になってください』と軽々しく言っていいものなのか……判断がつかず。
パーティーメンバーとはいえ、助け合いの精神を強要するのは間違っている。
そもそも、私のような危険因子を受け入れるのすら嫌がるかもしれない。
『拒絶されたらどうしよう?』と考える私を前に、徳正さんはそっと眉尻を下げた。

「ラーちゃ……」

「────ラミエルさん!私に出来ることがあれば、何でも仰ってください!必ず力になります!調合師の私にラミエルさんを守ることは出来ませんが、支えることは出来ますから!なので、どうか……私を頼ってください!」

「!?」

 自分の意見を口にするのが苦手そうなアラクネさんから心強い言葉を掛けられ、私は目を剥く。

 頼ってください、か……アラクネさんは本当に優しい人だな。
私と一緒に居たら危険だと分かっていても、救いの手を差し伸べてくれるんだから。

 フッと心が軽くなる感覚を覚えながら、私は表情を和らげた。

「ありがとうございます、アラクネさん。これから、たくさん頼らせて貰いますね!」

「は、はいっ!た、たたたた、たくさん頼ってください!!」

 ふわりと微笑み掛ければ、アラクネさんはボンッと一瞬にして顔を赤くする。
今のどこに恥ずかしがる要素があったのか分からないが、そっとしておこう。追求するのは可哀想だ。

「あーちゃん、俺っちにはその気持ちよく分かるよ~。ラーちゃんって笑うと、超可愛いんだよね~」

「からかわないで下さい。アラクネさんが私の笑顔を見たくらいで、赤面する訳ないでしょう?それより、情報収集はどうだったんです?」

 徳正さんのおふざけを軽く受け流し、私は本題へ入るよう促す。
私達の勝手な行動のせいで短時間しか動けなかったが、徳正さんなら十分もあれば充分だろう。
そのスピードと聴覚を活かして、あらゆるところから情報を盗み聞き……じゃなくて、手に入れられる筈だから。

「ハハッ!相変わらず、ラーちゃんはせっかちだなぁ……でも、そうだね。そろそろ、話しておこうか~。面白いネタも、手に入ったし~」

「面白いネタ?」

 気になって思わず聞き返すと、徳正さんは笑みを深める。

「うん、そう。たとえば────『紅蓮の夜叉』の話題とか、ね」
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