上 下
4 / 315
第一章

第3話『運営から届いたメール』

しおりを挟む
『FRO内のプレイヤーの皆様、どうもこんばんは!
ハッカーチーム『箱庭』です。単刀直入に申し上げます。
私達チーム『箱庭』がFROのサーバー、システム、運営全てを乗っ取りました~!いぇーい!
そして、もう既に気づいている人も居ると思いますが、私達はFRO内からログアウトボタンを削除致しました。
まあ、早い話皆さんはゲームFRO内に閉じ込められたって訳です。
ワクワクしますよね!?私達もワクワクしてます!

FRO内から脱する方法はただ一つ。
このゲームを誰か一人でもいいから、クリアすること。ただそれだけです。
その条件を満たしていただければ、直ぐさまログアウトボタンを復活させます。

ただ、四つほど注意点があります。
一つ、外部からの接触や救助は見込めません。
私達チーム『箱庭』が責任を持って外部からの接触を拒みますので、皆さんは淡い期待など抱かずゲームクリアに専念してください。

二つ、もし仮に現実世界リアルでFROと意識を繋ぐ機械を取り外された場合、そのプレイヤーは脳死という形で死に至ります。
もし、そうなったら……まあ、ドンマイです!ご冥福をお祈りします!

三つ、FROから生き返りシステムを削除致しました。
なので、クエスト中に死んだりPKされたりしたら即あの世逝きです。
あっ、ゲーム内でって意味じゃないですよ?本当に死にます。
まあ、死なないよう頑張ってください。

四つ、転移系の魔法やアイテムに制限をかけました。これは後で各自確認してみてください。

注意事項は以上となります。
それでは、皆さんゲームクリアに向けて頑張ってください。
私達は皆さんの頑張りを期待しています』

 これが運営から送られてきたメールの内容だ。

 敬語を使い慣れていない小中学生が、書いたような文章ね。
まあ、やっていることはただの犯罪だけど。たとえ、子供であろうと許されない。
だって、ここに書かれていることが本当なら……彼らは遊び感覚で、私達プレイヤーの命をもてあそんでいることになるから。
これほど腹立たしいことはないだろう。

 ギシッと奥歯を噛み締める私は、ゲーム内ディスプレイに拳を叩きつける。
と同時に、目を潤ませた。

「人の命を何だと思ってるの……!」

 最近はVRゲームの普及で死への恐怖や危機感が薄くなっているとはいえ、ここまで酷いのは初めて見る。
この人達は犯罪を……殺人を犯している自覚は、ないんだろうか。

「まあまあ、ラーちゃん落ち着いてよ~。イライラしても、しょうがないって~。過ぎたことは、どうしようもないし~。とりあえず、主君の判断を待とう~?」

 私の肩をポンポンと叩き、徳正さんはいつものようにニッコリ笑っている。
さっきまでの不機嫌オーラはもうなく、ただただ私を安心させるように普段通り振る舞っている。
そのおかげか、少しだけ冷静になれた。

 そうだよね……徳正さんの言う通りだ。
今はただ静かにリーダーの判断を待とう。

「すみません、徳正さん……冷静さを失っていました」

「いやいや、気にしないで~。この状況で落ち着いていられる奴なんて、そうそう居ないんだからさ~。それより、ちょっと話そうか~?主君の判断を待つ間暇だし、状況整理でもしよ~?」

「分かりました」

 リーダーより待機命令が出ている私達は、先ほど身を潜めていた草むらに腰を下ろした。
向かい合うように体勢を調え、私達は互いの目をじっと見つめる。

「さて、さっきも言った通り状況を整理しようか。まず、このメールの信憑性についてだけど……俺っちは全部本当だと思ってる。だって、実際ログアウトボタンが消えている訳だし。メールアドレスも運営と同じことから、乗っ取りはほぼ確実なんじゃないかな?」

「そう、ですね……じゃあ、脳死とかについては、どう思いますか?可能だと思います?」

「うん。俺っちは可能だと思うよ~。最初にも言った通り、俺っちはこのメール内容が全部真実だと思っている。だって、ここまでする奴らが嘘をつくとは思えないからさ~。何より、ゲーム機器────ギアを遠隔操作して、人を殺すことは理論上可能なんだよね~」

 えっ!?そうなんですか!?ギアは安心安全のマシンだって、聞きましたけど!

 困惑を顔に出す私に対し、徳正さんは目を伏せる。

「じゃあ、ラーちゃんに問題。ゲーム世界FROと俺っち達プレイヤーの意識を繋ぐものは、何だと思う?もちろん、ギア以外の回答でね~」

 『もっと具体的に答えて』と述べる徳正さんに、私はそっと眉尻を下げる。
だって、機械系にはめっぽう弱いから。
とはいえ、素人じゃ答えられない問題を徳正さんが出してくるとは思えない。
『そこまで意地悪な人じゃないし……』と思いつつ、私は顎に手を当てて考え込む。
────と、こごである単語が脳裏に浮かび上がった。

「────電気、でしょうか?」

「大きい括りで言うと、そうだね~」

 『概ね正解』と告げ、徳正さんは頭の後ろで手を組んだ。

「俺っち達はゲーム世界FROと電気を通して、繋がっているんだ。簡単に言うと、電気は俺っち達プレイヤーの意識とゲーム世界FROを繋ぐ通り道みたいなもの」

「通り道……」

「そっ!通り道~!で、まあ……俺っち達の脳には、多少なりともギアから電流が送られてきているって訳」

「えっ?それじゃあ、まさか……!!」

「そう───|俺っち達はギアから送られてきた電流で、死ぬかもしれないんだよ~」

 徳正さんはパチンッと指を鳴らし、格好よく答えを述べた。
が、今はそれに構っている余裕なんてなかった。

 なるほど。だから、徳正さんは脳死や現実リアルの死を否定しなかったのか。
もしもギアを外そうとしたり、ゲーム内で死んだりしたら即高圧電流が流れるようプログラムしてあるかもしれないから。
だとしたら、このクレイジーハッカー集団の言葉を無視するのはとても危険だ。
FROの運営を乗っ取り、ログアウトボタンを消した奴らだ、その程度のプログラム直ぐに作成出来るだろう。

「まあ、だからこのメール内容を嘘や冗談だと決めつけて無視するのは、オススメしないかな~。ギアの最高電圧がどれくらいなのか分かんないから、確かなことは言えないけどね~。ま、俺っちの意見としてはこんな感じ~。後は主君とラーちゃん個人の判断に任せるよ~」

 ヒラヒラと手を振って話を切り上げる徳正さんは、いつも通り掴みどころがない。
『まるで辺りを漂う蝶のよう』と考える中、リーダーからグルチャ宛にメッセージが届いた。

『────全員、現在位置を教えろ』

 たった一言。たった一文。
用件だけを示した文章に、『虐殺の紅月』のメンバーは即座に反応を返す。
そこに『何で?』『どうして?』といったコメントは、一切なかった。
ただただリーダーの質問に、簡潔且つ丁寧に答えるだけ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

処理中です...