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第一章

第3話『運営から届いたメール』

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『FRO内のプレイヤーの皆様、どうもこんばんは!
ハッカーチーム『箱庭』です。単刀直入に申し上げます。
私達チーム『箱庭』がFROのサーバー、システム、運営全てを乗っ取りました~!いぇーい!
そして、もう既に気づいている人も居ると思いますが、私達はFRO内からログアウトボタンを削除致しました。
まあ、早い話皆さんはゲームFRO内に閉じ込められたって訳です。
ワクワクしますよね!?私達もワクワクしてます!

FRO内から脱する方法はただ一つ。
このゲームを誰か一人でもいいから、クリアすること。ただそれだけです。
その条件を満たしていただければ、直ぐさまログアウトボタンを復活させます。

ただ、四つほど注意点があります。
一つ、外部からの接触や救助は見込めません。
私達チーム『箱庭』が責任を持って外部からの接触を拒みますので、皆さんは淡い期待など抱かずゲームクリアに専念してください。

二つ、もし仮に現実世界リアルでFROと意識を繋ぐ機械を取り外された場合、そのプレイヤーは脳死という形で死に至ります。
もし、そうなったら……まあ、ドンマイです!ご冥福をお祈りします!

三つ、FROから生き返りシステムを削除致しました。
なので、クエスト中に死んだりPKされたりしたら即あの世逝きです。
あっ、ゲーム内でって意味じゃないですよ?本当に死にます。
まあ、死なないよう頑張ってください。

四つ、転移系の魔法やアイテムに制限をかけました。これは後で各自確認してみてください。

注意事項は以上となります。
それでは、皆さんゲームクリアに向けて頑張ってください。
私達は皆さんの頑張りを期待しています』

 これが運営から送られてきたメールの内容だ。

 敬語を使い慣れていない小中学生が、書いたような文章ね。
まあ、やっていることはただの犯罪だけど。たとえ、子供であろうと許されない。
だって、ここに書かれていることが本当なら……彼らは遊び感覚で、私達プレイヤーの命をもてあそんでいることになるから。
これほど腹立たしいことはないだろう。

 ギシッと奥歯を噛み締める私は、ゲーム内ディスプレイに拳を叩きつける。
と同時に、目を潤ませた。

「人の命を何だと思ってるの……!」

 最近はVRゲームの普及で死への恐怖や危機感が薄くなっているとはいえ、ここまで酷いのは初めて見る。
この人達は犯罪を……殺人を犯している自覚は、ないんだろうか。

「まあまあ、ラーちゃん落ち着いてよ~。イライラしても、しょうがないって~。過ぎたことは、どうしようもないし~。とりあえず、主君の判断を待とう~?」

 私の肩をポンポンと叩き、徳正さんはいつものようにニッコリ笑っている。
さっきまでの不機嫌オーラはもうなく、ただただ私を安心させるように普段通り振る舞っている。
そのおかげか、少しだけ冷静になれた。

 そうだよね……徳正さんの言う通りだ。
今はただ静かにリーダーの判断を待とう。

「すみません、徳正さん……冷静さを失っていました」

「いやいや、気にしないで~。この状況で落ち着いていられる奴なんて、そうそう居ないんだからさ~。それより、ちょっと話そうか~?主君の判断を待つ間暇だし、状況整理でもしよ~?」

「分かりました」

 リーダーより待機命令が出ている私達は、先ほど身を潜めていた草むらに腰を下ろした。
向かい合うように体勢を調え、私達は互いの目をじっと見つめる。

「さて、さっきも言った通り状況を整理しようか。まず、このメールの信憑性についてだけど……俺っちは全部本当だと思ってる。だって、実際ログアウトボタンが消えている訳だし。メールアドレスも運営と同じことから、乗っ取りはほぼ確実なんじゃないかな?」

「そう、ですね……じゃあ、脳死とかについては、どう思いますか?可能だと思います?」

「うん。俺っちは可能だと思うよ~。最初にも言った通り、俺っちはこのメール内容が全部真実だと思っている。だって、ここまでする奴らが嘘をつくとは思えないからさ~。何より、ゲーム機器────ギアを遠隔操作して、人を殺すことは理論上可能なんだよね~」

 えっ!?そうなんですか!?ギアは安心安全のマシンだって、聞きましたけど!

 困惑を顔に出す私に対し、徳正さんは目を伏せる。

「じゃあ、ラーちゃんに問題。ゲーム世界FROと俺っち達プレイヤーの意識を繋ぐものは、何だと思う?もちろん、ギア以外の回答でね~」

 『もっと具体的に答えて』と述べる徳正さんに、私はそっと眉尻を下げる。
だって、機械系にはめっぽう弱いから。
とはいえ、素人じゃ答えられない問題を徳正さんが出してくるとは思えない。
『そこまで意地悪な人じゃないし……』と思いつつ、私は顎に手を当てて考え込む。
────と、こごである単語が脳裏に浮かび上がった。

「────電気、でしょうか?」

「大きい括りで言うと、そうだね~」

 『概ね正解』と告げ、徳正さんは頭の後ろで手を組んだ。

「俺っち達はゲーム世界FROと電気を通して、繋がっているんだ。簡単に言うと、電気は俺っち達プレイヤーの意識とゲーム世界FROを繋ぐ通り道みたいなもの」

「通り道……」

「そっ!通り道~!で、まあ……俺っち達の脳には、多少なりともギアから電流が送られてきているって訳」

「えっ?それじゃあ、まさか……!!」

「そう───|俺っち達はギアから送られてきた電流で、死ぬかもしれないんだよ~」

 徳正さんはパチンッと指を鳴らし、格好よく答えを述べた。
が、今はそれに構っている余裕なんてなかった。

 なるほど。だから、徳正さんは脳死や現実リアルの死を否定しなかったのか。
もしもギアを外そうとしたり、ゲーム内で死んだりしたら即高圧電流が流れるようプログラムしてあるかもしれないから。
だとしたら、このクレイジーハッカー集団の言葉を無視するのはとても危険だ。
FROの運営を乗っ取り、ログアウトボタンを消した奴らだ、その程度のプログラム直ぐに作成出来るだろう。

「まあ、だからこのメール内容を嘘や冗談だと決めつけて無視するのは、オススメしないかな~。ギアの最高電圧がどれくらいなのか分かんないから、確かなことは言えないけどね~。ま、俺っちの意見としてはこんな感じ~。後は主君とラーちゃん個人の判断に任せるよ~」

 ヒラヒラと手を振って話を切り上げる徳正さんは、いつも通り掴みどころがない。
『まるで辺りを漂う蝶のよう』と考える中、リーダーからグルチャ宛にメッセージが届いた。

『────全員、現在位置を教えろ』

 たった一言。たった一文。
用件だけを示した文章に、『虐殺の紅月』のメンバーは即座に反応を返す。
そこに『何で?』『どうして?』といったコメントは、一切なかった。
ただただリーダーの質問に、簡潔且つ丁寧に答えるだけ。
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