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序章
プロローグ
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嗚呼、霞んでいく……失われていく……元に戻っていく。
地に伏せた状態で、私は仲間に手を伸ばした。
『行かないで』と願うのに淡い光に包まれた仲間達は、次から次へと消えていって……。
嗚呼────また守れなかった。救えなかった。癒しをもたらして、あげられなかった。
私はなんて……無力な存在なんだろう?
◆◇◆◇
私────ラミエルは街中にある大神殿にて、目を覚ました。
ぼやけた視界の中、ゆっくりと辺りを見回せば一足先に神殿送りにされていた仲間達が目に入る。
皆、暗い面持ちで神殿内の壁に寄り掛かり、こちらを見ようともしなかった。
また私達は魔王討伐“クエスト”に失敗してしまったんだ……。
魔王討伐クエストとは、ここ────『Free Rule Online』の重大クエストの一つである。
Free Rule Online、通称“FRO”は最近開発されたばかりのVRMMOゲームの一つ。
ゲーム名の通り特にこれと言ったルールや決まりはなく、みんな自由にゲームを楽しんでいる。
もちろん、チートやグリッチは御法度だ。そこは他のゲームと変わらない。
そして、私はここ────『サムヒーロー』というパーティーに、回復師として所属している。
このパーティーはリーダーの職業が勇者ということもあり、重大クエストの魔王討伐に日々励んでいるのだが……どうも上手くいかない。
いつも四天王と呼ばれる魔王幹部を倒して、魔王城まで辿り着くことは出来るのだが、毎回魔王に敗れている。
それもたったの一撃で……。
なので、毎日のように魔王討伐クエストに挑んでは神殿送りにされるのを繰り返していた。
最初は『また次、頑張ろう!』『次は行けるよ!』と互いに互いを励まし合い、作戦を練ったりしたが……最近は神殿内でたそがれた後、『また明日』とログアウトするのが日常だった。
『頑張ろう!!』と意気込んでいたあの頃が、懐かしい……。
神々を象ったステンドグラスや彫刻が置かれた神殿内を見回し、私は死者の生還が行われる手術台のような場所からそっと降りた。
『また今日もすぐに解散かな……』なんて考えながら仲間の元へ歩み寄ろうとすると、パーティーリーダーであるカインと目が合った。
金髪碧眼の美青年はキツい目付きで私を睨みつけ、淡々と言葉を紡ぐ。
「────ラミエル、お前をパーティーから追放する」
「えっ……?な、何で……!?」
「魔王戦で使いものにならないお前は、いらないんだよ。仲間を癒せない回復師なんて、存在価値ないだろ」
「なっ!?で、でも……!皆を癒せないのは、HPが0になってるからで……」
「あ?お前は俺らの耐久力の無さを指摘したいのか?」
「ち、違っ……!」
私はただ魔王の攻撃力が高いことを言いたかっただけで……!皆の耐久力の高さなんて、言ってないのに……!
カインの言う通り、確かに私は魔王戦じゃ使い物にならない。
私はFRO内で唯一『パーフェクトヒール』を使えるプレイヤーだが、それはHPが最低でも1残っているのが条件。
そのため、魔王の攻撃一つでHP0になってしまう彼らを癒すことは出来なかった。
「た、確かに魔王戦で私は使い物にならないけど……でもっ!四天王戦では……!」
「はっ!四天王戦でも、お前は必要ねぇーよ。お前なんか居なくても、あの程度の敵相手ならポーションで事足りる。それにいざって時は、マヤがハイヒールを使えば良い話だしな」
「っ……!!」
マヤとは『サムヒーロー』専属の魔法使いだ。
FRO内に居る魔法使いの中で頭一つ抜けた存在で、最強の魔法使いと言ってもいい。
彼女は攻撃魔法だけでなく回復魔法も巧みに操り、ついにはパーフェクトヒール以外の回復魔法を覚えたから。
つまり、このパーティー内での私の価値はパーフェクトヒールだけという事になる。
そのパーフェクトヒールにすら、パーティーメンバーやリーダーであるカインが価値を感じなくなれば……私はお払い箱行きだ。
私も何となく分かっていた。いつか、こうなるんじゃないかって。
回復以外、何の取り柄もない私は魔王戦においてお荷物同然だから。
でも、こんな急に言わなくたって……。
「言っておくが、これはメンバー全員の意思だ。俺一人の独断ではない。あと、パーティー追放の手続きはもうしておいた。金輪際、俺達には関わるな────行くぞ、お前ら」
カインは早口で捲し立てるようにそう告げると、私に背を向けて歩き出す。
他の仲間達も、それに続いた。
パタンと閉まる神殿の扉を前に、私は口元を押さえる。
嗚呼────捨てられた。
ペタンとその場に座り込むと、私は赤く光る通知画面を開いた。
すると、そこには『パーティーから、追放されました』と書かれている。
それを一瞥し、私は震える手でチャット欄を開いた。
『グループ『サムヒーロー』のチャットから、退会させられました』
『フレンドリストから『カイン』が削除されました』
『フレンドリストから『マヤ』が削除されました』
リアルタイムでフレンドリストから消えていく元パーティーメンバーを前に、私は唇を噛み締める。
きっと、彼らのことだ。フレンド削除だけじゃなく、ブロックも行っていることだろう。
私から、もう連絡が取れないようにするため……。
そんな事しなくたって、こちらから連絡を取る気はないというのに。
『元』とはいえ、さっきまで一緒のパーティーに居た人達から一方的に別れを告げられるのは辛いな……たとえ、それがネットやゲームの世界であっても。
たかがネット、たかがゲーム……そう割り切れれば、どれだけ良かったか。
私は緑に輝くエメラルドの瞳に涙を浮かべ、顔を両手で覆い隠した。
その際、ポニーテールヘアにした長い茶髪がサラリと揺れる。
悲しい……辛い……苦しい……。
何で私は回復師なんだろう?何で戦闘系職業じゃなかったの……?
パーフェクトヒールなんて、結局何の役に立たないじゃない……!
────FROでは、職業を自分で選べない。
完全ランダム制で、望まぬ職業を与えられる人もしばしば。
でも、私は今の今まで職業が回復師であることに不満を抱いたことはなかった。
皆を癒し、立ち直らせる回復師という職業に誇りを持っていたし、楽しくプレイしていた。
それは『サムヒーロー』という、心の拠り所があったから。
私のFRO人生は、ほぼ全て『サムヒーロー』に捧げたと言ってもいい。
だって、結成当初からずっと在籍していて……苦楽を共にしてきたから。
少数精鋭を掲げるカインに付き合い、仲間を探し、時には妥協するよう説得したりして……今日までやってきた。
ある意味、我が子のように大切に思っている。
だから形だけでも良いから、このパーティーに私を残してほしかった……!
別に有名なパーティーだから抜けたくなかったんじゃない。
サムヒーローという、自分の手で一から育て上げたパーティーを手放したくなかっただけだ。
『でも、もう全部今更だよね……』と零し、私はポロポロと大粒の涙を流す。
悲しみと悔しさを全て吐き出すように。
────これが『サムヒーロー』である私の終わりだった。
地に伏せた状態で、私は仲間に手を伸ばした。
『行かないで』と願うのに淡い光に包まれた仲間達は、次から次へと消えていって……。
嗚呼────また守れなかった。救えなかった。癒しをもたらして、あげられなかった。
私はなんて……無力な存在なんだろう?
◆◇◆◇
私────ラミエルは街中にある大神殿にて、目を覚ました。
ぼやけた視界の中、ゆっくりと辺りを見回せば一足先に神殿送りにされていた仲間達が目に入る。
皆、暗い面持ちで神殿内の壁に寄り掛かり、こちらを見ようともしなかった。
また私達は魔王討伐“クエスト”に失敗してしまったんだ……。
魔王討伐クエストとは、ここ────『Free Rule Online』の重大クエストの一つである。
Free Rule Online、通称“FRO”は最近開発されたばかりのVRMMOゲームの一つ。
ゲーム名の通り特にこれと言ったルールや決まりはなく、みんな自由にゲームを楽しんでいる。
もちろん、チートやグリッチは御法度だ。そこは他のゲームと変わらない。
そして、私はここ────『サムヒーロー』というパーティーに、回復師として所属している。
このパーティーはリーダーの職業が勇者ということもあり、重大クエストの魔王討伐に日々励んでいるのだが……どうも上手くいかない。
いつも四天王と呼ばれる魔王幹部を倒して、魔王城まで辿り着くことは出来るのだが、毎回魔王に敗れている。
それもたったの一撃で……。
なので、毎日のように魔王討伐クエストに挑んでは神殿送りにされるのを繰り返していた。
最初は『また次、頑張ろう!』『次は行けるよ!』と互いに互いを励まし合い、作戦を練ったりしたが……最近は神殿内でたそがれた後、『また明日』とログアウトするのが日常だった。
『頑張ろう!!』と意気込んでいたあの頃が、懐かしい……。
神々を象ったステンドグラスや彫刻が置かれた神殿内を見回し、私は死者の生還が行われる手術台のような場所からそっと降りた。
『また今日もすぐに解散かな……』なんて考えながら仲間の元へ歩み寄ろうとすると、パーティーリーダーであるカインと目が合った。
金髪碧眼の美青年はキツい目付きで私を睨みつけ、淡々と言葉を紡ぐ。
「────ラミエル、お前をパーティーから追放する」
「えっ……?な、何で……!?」
「魔王戦で使いものにならないお前は、いらないんだよ。仲間を癒せない回復師なんて、存在価値ないだろ」
「なっ!?で、でも……!皆を癒せないのは、HPが0になってるからで……」
「あ?お前は俺らの耐久力の無さを指摘したいのか?」
「ち、違っ……!」
私はただ魔王の攻撃力が高いことを言いたかっただけで……!皆の耐久力の高さなんて、言ってないのに……!
カインの言う通り、確かに私は魔王戦じゃ使い物にならない。
私はFRO内で唯一『パーフェクトヒール』を使えるプレイヤーだが、それはHPが最低でも1残っているのが条件。
そのため、魔王の攻撃一つでHP0になってしまう彼らを癒すことは出来なかった。
「た、確かに魔王戦で私は使い物にならないけど……でもっ!四天王戦では……!」
「はっ!四天王戦でも、お前は必要ねぇーよ。お前なんか居なくても、あの程度の敵相手ならポーションで事足りる。それにいざって時は、マヤがハイヒールを使えば良い話だしな」
「っ……!!」
マヤとは『サムヒーロー』専属の魔法使いだ。
FRO内に居る魔法使いの中で頭一つ抜けた存在で、最強の魔法使いと言ってもいい。
彼女は攻撃魔法だけでなく回復魔法も巧みに操り、ついにはパーフェクトヒール以外の回復魔法を覚えたから。
つまり、このパーティー内での私の価値はパーフェクトヒールだけという事になる。
そのパーフェクトヒールにすら、パーティーメンバーやリーダーであるカインが価値を感じなくなれば……私はお払い箱行きだ。
私も何となく分かっていた。いつか、こうなるんじゃないかって。
回復以外、何の取り柄もない私は魔王戦においてお荷物同然だから。
でも、こんな急に言わなくたって……。
「言っておくが、これはメンバー全員の意思だ。俺一人の独断ではない。あと、パーティー追放の手続きはもうしておいた。金輪際、俺達には関わるな────行くぞ、お前ら」
カインは早口で捲し立てるようにそう告げると、私に背を向けて歩き出す。
他の仲間達も、それに続いた。
パタンと閉まる神殿の扉を前に、私は口元を押さえる。
嗚呼────捨てられた。
ペタンとその場に座り込むと、私は赤く光る通知画面を開いた。
すると、そこには『パーティーから、追放されました』と書かれている。
それを一瞥し、私は震える手でチャット欄を開いた。
『グループ『サムヒーロー』のチャットから、退会させられました』
『フレンドリストから『カイン』が削除されました』
『フレンドリストから『マヤ』が削除されました』
リアルタイムでフレンドリストから消えていく元パーティーメンバーを前に、私は唇を噛み締める。
きっと、彼らのことだ。フレンド削除だけじゃなく、ブロックも行っていることだろう。
私から、もう連絡が取れないようにするため……。
そんな事しなくたって、こちらから連絡を取る気はないというのに。
『元』とはいえ、さっきまで一緒のパーティーに居た人達から一方的に別れを告げられるのは辛いな……たとえ、それがネットやゲームの世界であっても。
たかがネット、たかがゲーム……そう割り切れれば、どれだけ良かったか。
私は緑に輝くエメラルドの瞳に涙を浮かべ、顔を両手で覆い隠した。
その際、ポニーテールヘアにした長い茶髪がサラリと揺れる。
悲しい……辛い……苦しい……。
何で私は回復師なんだろう?何で戦闘系職業じゃなかったの……?
パーフェクトヒールなんて、結局何の役に立たないじゃない……!
────FROでは、職業を自分で選べない。
完全ランダム制で、望まぬ職業を与えられる人もしばしば。
でも、私は今の今まで職業が回復師であることに不満を抱いたことはなかった。
皆を癒し、立ち直らせる回復師という職業に誇りを持っていたし、楽しくプレイしていた。
それは『サムヒーロー』という、心の拠り所があったから。
私のFRO人生は、ほぼ全て『サムヒーロー』に捧げたと言ってもいい。
だって、結成当初からずっと在籍していて……苦楽を共にしてきたから。
少数精鋭を掲げるカインに付き合い、仲間を探し、時には妥協するよう説得したりして……今日までやってきた。
ある意味、我が子のように大切に思っている。
だから形だけでも良いから、このパーティーに私を残してほしかった……!
別に有名なパーティーだから抜けたくなかったんじゃない。
サムヒーローという、自分の手で一から育て上げたパーティーを手放したくなかっただけだ。
『でも、もう全部今更だよね……』と零し、私はポロポロと大粒の涙を流す。
悲しみと悔しさを全て吐き出すように。
────これが『サムヒーロー』である私の終わりだった。
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