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Episode7
捜索
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「僕がもっと強く鳩尾を決めていたら……しっかり気絶させられていたら、こんなことにはならなかった」
『後から薬も飲ませておけば良かった』と反省の弁を述べ、悟史はそっと眉尻を下げる。
油断した自分に腹を立てているのか、どこか思い詰めた様子だ。
いつになく口数の少ない彼の前で、俺はスマホから視線を上げる。
「そのことだが────多分、お前のせいじゃないと思うぞ」
「えっ?」
「どちらかと言うと、俺のせいだな」
ガシガシと頭を掻きながらそう言い、俺は腕を組む。
『どういうこと?』と視線だけで問い掛けてくる悟史を前に、俺は大きく息を吐いた。
「確証はないが、久世彰が突然目を覚ましたのは呪詛のせいだ」
「あぁ、そういえば起きる直前に呪詛の気配を放っていたね。でも、あれって僕に向けたものじゃないの?」
「違う。お前への呪詛はそのあとに展開したやつ。起きる直前に発動したアレは────恐らく、久世彰自身に向けたものだ」
そのときの情景を思い返しながら答えると、悟史は一瞬ポカンと固まる。
あまりにも予想外で、なかなか事情を呑み込めないのだろう。
「……えっ?自分自身を呪ったってこと?」
「ああ、そうだ。詳しい発動条件なんかは分からないが、多分『○月○日まで起きていられなかったら、内臓を潰す』とかそういう系じゃないか?」
「つまり、自分で自分を傷つけることによって……痛みを感じることによって、起きた訳?」
「恐らくな」
『かなり荒療治ではあるが、確実だろ?』と言い、俺は肩を竦める。
久世彰の必死さに半ば呆れる俺の前で、悟史は少し悶々とした。
「あれ?でも、久世彰が寝てから呪詛を発動するまでちょっとタイムラグがあったよね?」
「それは多分、御神木を肌に触れさせていたからだ。強力な魔除けの効果があるアイテムだから、呪詛の発動を阻害していたんだと思う。でも……」
「壱成が御神木を持ち上げて、久世彰の肌から引き離したもんで、呪詛が発動しちゃったんだ。それで目覚めて逃亡、と」
「そういうこと」
『まあ、あくまで俺の予想だけどな』と述べつつ、桔梗からの返信を確認する。
ポチポチとスマホのキーボードを打つ俺の前で、悟史は顎に手を当てた。
「ふーん?じゃあ、本当に壱成のせいじゃん。僕、全然悪くない」
「それはそうなんだが、ここまで手のひら返されるとムカつくな」
『さっきまでのしおらしい態度はどこに行った?』と眉を顰め、俺は悟史の足を軽く蹴った。
と同時に、悟史のスマホから通知音が。
「あっ、久世彰の居場所分かったって。港……それも、漁業とかやっている方に向かったみたい」
「……まさかとは思うが、漁船に乗って海外へ行くつもりか?」
「そのまさかだよ、壱成。よっぽど、僕達に捕まるのが怖いみたい」
『今まさに漁船を盗もうとしているよ』と笑顔で述べる悟史に、俺はどこか遠い目をした。
普通の漁船で海外に渡れる訳ないだろ、と思いながら。
『大体、食料や雑貨などの物資はどうするんだ』と呆れつつ、俺はおもむろに前髪を掻き上げる。
「はぁ……行くか」
その言葉を合図に、俺達はホテルを出て久世彰の居る港へ直行した。
すっかり日も暮れて暗くなった辺りを見回し、船を一隻一隻確認していく。
「漁師の人曰く、ここ数十分の間に海へ出た船はないらしいよ~。だから、まだどこかに身を潜んでいると思う」
「第一、キーがなきゃエンジンを掛けられねぇーだろうからな」
『手漕ぎボートならまだしも』と内心苦笑しながら、俺は久世彰の計画性の無さに頭を振った。
チッ……!しっかり、霊力も散らしてやがる。
これじゃあ、気配を頼りに見つけ出すのは不可能だな。
ったく、往生際の悪いやつだな。
そこかしこから感じる霊力を前に、俺は『さっさと捕まえて引き上げたいんだけどなぁ』と考える。
────と、ここで悟史が不意にバランスを崩した。
が、体幹の強さのおかげか転倒することはない。
ただ、変な体勢になっただけ。
「えっ?何?足引っ張られたんだけど?」
「海の幽霊だ」
そう言うが早いか、俺は海から伸びてきた黒い手を踏みつける。
ここで御札を使うのは勿体ないため、適当に怯ませる程度で対処した。
「あー……そういえば、海ってめちゃくちゃ幽霊居るんだよね?」
「ああ。だから、視える体質の人間にとっては昼夜問わず危ない場所だ」
当初、久世彰の逃亡経路から海を外したのもそのため。
普通の祓い屋なら、船での移動は避けると思って。
「じゃあ、久世彰が御神木を調達したのは海の幽霊や悪霊から身を守るため?」
「そうだ。あれだけ強力な魔除けのアイテムがあれば、海上でも安全だからな」
『入手方法が入手方法なだけにかなり罰当たりだけど』と肩を竦め、俺はふとあることに気づく。
「……幽霊の居ないところを探せば、一発じゃねぇーか?」
「あっ、確かに」
ポンッと手を叩いて納得する悟史は、『じゃあ、早速その方法で行こう』と駆け出した。
いちいち中を確認する必要がないからか、先程より作業スピードは格段に上がる。
そして────
「あっ、この船だけ不自然なくらい幽霊居ない」
────ついに怪しい場所を探し当てた。
『後から薬も飲ませておけば良かった』と反省の弁を述べ、悟史はそっと眉尻を下げる。
油断した自分に腹を立てているのか、どこか思い詰めた様子だ。
いつになく口数の少ない彼の前で、俺はスマホから視線を上げる。
「そのことだが────多分、お前のせいじゃないと思うぞ」
「えっ?」
「どちらかと言うと、俺のせいだな」
ガシガシと頭を掻きながらそう言い、俺は腕を組む。
『どういうこと?』と視線だけで問い掛けてくる悟史を前に、俺は大きく息を吐いた。
「確証はないが、久世彰が突然目を覚ましたのは呪詛のせいだ」
「あぁ、そういえば起きる直前に呪詛の気配を放っていたね。でも、あれって僕に向けたものじゃないの?」
「違う。お前への呪詛はそのあとに展開したやつ。起きる直前に発動したアレは────恐らく、久世彰自身に向けたものだ」
そのときの情景を思い返しながら答えると、悟史は一瞬ポカンと固まる。
あまりにも予想外で、なかなか事情を呑み込めないのだろう。
「……えっ?自分自身を呪ったってこと?」
「ああ、そうだ。詳しい発動条件なんかは分からないが、多分『○月○日まで起きていられなかったら、内臓を潰す』とかそういう系じゃないか?」
「つまり、自分で自分を傷つけることによって……痛みを感じることによって、起きた訳?」
「恐らくな」
『かなり荒療治ではあるが、確実だろ?』と言い、俺は肩を竦める。
久世彰の必死さに半ば呆れる俺の前で、悟史は少し悶々とした。
「あれ?でも、久世彰が寝てから呪詛を発動するまでちょっとタイムラグがあったよね?」
「それは多分、御神木を肌に触れさせていたからだ。強力な魔除けの効果があるアイテムだから、呪詛の発動を阻害していたんだと思う。でも……」
「壱成が御神木を持ち上げて、久世彰の肌から引き離したもんで、呪詛が発動しちゃったんだ。それで目覚めて逃亡、と」
「そういうこと」
『まあ、あくまで俺の予想だけどな』と述べつつ、桔梗からの返信を確認する。
ポチポチとスマホのキーボードを打つ俺の前で、悟史は顎に手を当てた。
「ふーん?じゃあ、本当に壱成のせいじゃん。僕、全然悪くない」
「それはそうなんだが、ここまで手のひら返されるとムカつくな」
『さっきまでのしおらしい態度はどこに行った?』と眉を顰め、俺は悟史の足を軽く蹴った。
と同時に、悟史のスマホから通知音が。
「あっ、久世彰の居場所分かったって。港……それも、漁業とかやっている方に向かったみたい」
「……まさかとは思うが、漁船に乗って海外へ行くつもりか?」
「そのまさかだよ、壱成。よっぽど、僕達に捕まるのが怖いみたい」
『今まさに漁船を盗もうとしているよ』と笑顔で述べる悟史に、俺はどこか遠い目をした。
普通の漁船で海外に渡れる訳ないだろ、と思いながら。
『大体、食料や雑貨などの物資はどうするんだ』と呆れつつ、俺はおもむろに前髪を掻き上げる。
「はぁ……行くか」
その言葉を合図に、俺達はホテルを出て久世彰の居る港へ直行した。
すっかり日も暮れて暗くなった辺りを見回し、船を一隻一隻確認していく。
「漁師の人曰く、ここ数十分の間に海へ出た船はないらしいよ~。だから、まだどこかに身を潜んでいると思う」
「第一、キーがなきゃエンジンを掛けられねぇーだろうからな」
『手漕ぎボートならまだしも』と内心苦笑しながら、俺は久世彰の計画性の無さに頭を振った。
チッ……!しっかり、霊力も散らしてやがる。
これじゃあ、気配を頼りに見つけ出すのは不可能だな。
ったく、往生際の悪いやつだな。
そこかしこから感じる霊力を前に、俺は『さっさと捕まえて引き上げたいんだけどなぁ』と考える。
────と、ここで悟史が不意にバランスを崩した。
が、体幹の強さのおかげか転倒することはない。
ただ、変な体勢になっただけ。
「えっ?何?足引っ張られたんだけど?」
「海の幽霊だ」
そう言うが早いか、俺は海から伸びてきた黒い手を踏みつける。
ここで御札を使うのは勿体ないため、適当に怯ませる程度で対処した。
「あー……そういえば、海ってめちゃくちゃ幽霊居るんだよね?」
「ああ。だから、視える体質の人間にとっては昼夜問わず危ない場所だ」
当初、久世彰の逃亡経路から海を外したのもそのため。
普通の祓い屋なら、船での移動は避けると思って。
「じゃあ、久世彰が御神木を調達したのは海の幽霊や悪霊から身を守るため?」
「そうだ。あれだけ強力な魔除けのアイテムがあれば、海上でも安全だからな」
『入手方法が入手方法なだけにかなり罰当たりだけど』と肩を竦め、俺はふとあることに気づく。
「……幽霊の居ないところを探せば、一発じゃねぇーか?」
「あっ、確かに」
ポンッと手を叩いて納得する悟史は、『じゃあ、早速その方法で行こう』と駆け出した。
いちいち中を確認する必要がないからか、先程より作業スピードは格段に上がる。
そして────
「あっ、この船だけ不自然なくらい幽霊居ない」
────ついに怪しい場所を探し当てた。
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